ナバーロルート
気が動転している様子を装い私はナバーロが開けようとしている扉へ近づく。
ハーレイの手によって物が挟まれているので開くはずのない扉を協力して開けようと力を込めた際に扉に力を込めた手が離れてしまい、バランスを崩しナバーロの上から覆い被さるような形で倒れ込んでしまった。
紳士的な行動を心掛けているおかげかナバーロは瞬時に私を抱え込み自らの背中から地面に叩きつけられるように倒れ込む。
傍から見るとナバーロに抱き抱えられているシエラと言う構図なのだがそんな事を考えるまでもなく私はすぐに起き上がった。
「申し訳ございません、手が滑ってしまいまして。ナバーロ様、ご無事ですか?」
倒れ込むナバーロのすぐ横で両膝を付き汚れることを気にもとめない様子で心配する姿を見せる。
「僕は大丈夫、君みたいな素敵な女性を守れたなら男としてこんなに嬉しいことは無いよ。」
余裕の態度を見せながら起き上がり私に向かって手を差し出す。
その手を取り私も立ち上がり少しの間見つめ合う。
「しかし、ここから出られないとなるとどうしよう?僕達がいないことを誰かが気づいて探しに来てくれるのを期待するしかないかな。授業も終わってしまったからもしかしたら明日まで気が付かれないかもしれないけど…あれ?」
もう一度扉が開かないか手を掛け扉が開かないか試してみるとまるで最初から空いていたかのようにすんなり扉が開いた。
何が起こっているのかよく分からないと言った様子を見せるナバーロに合わせて首を傾げる私を見て笑顔を見せる。
「実は少し噂を聞いていたのですがやはり噂は噂でしかありませんね、こんな素晴らしい女性とわかって良かったです。またお会いしましょう。」
丁寧にお辞儀をして教室から出ていくナバーロを手を振り見送った。
「…」
ナバーロの姿が完全に見えなくなったあたりで隅に隠れていたハーレイが不機嫌な様子で現れる。
「そんな顔したらせっかくのいい男が台無しよ。協力してくれてありがとう。」
ハーレイに感謝しながら2人で空き教室から離れて行く。
今回の件はほぼゲーム通りの展開だった。
ナバーロのルートに入っていないと起きないイベントをハーレイを使って無理やり起こしたのだが想像以上に上手くいき心の中でガッツポーズを取っている。
ゲーム通りに進めるところ、ゲームの展開から外れるところを頭の中で再確認をしながら帰路へつく。
この先で必要なのは主人公である私のバッドエンドが各ヒロインと攻略対象にとってのハッピーエンドとなるのだ。
ただし、このゲームの怖いところは各ルートのバッドエンドはシエラの死亡が必ず絡む事になっている。
主人公であるシエラが悪役令嬢の立場となり断罪や暗殺などされることでエンドとなる。
私の目指すところは全員にとっての悪役令嬢となりシエラ自身が死ぬことなく各攻略対象とヒロインが結ばれるというゲームの根幹を崩すルートなのだ。
何か間違えれば攻略対象と結ばれたり、私自身が死亡する恐れのある細い糸の上を綱渡りするかのような世界に目眩しそうになるがやると決めたからには必ずやり遂げなければ全てが無意味になってしまう。
更に、本来のゲームキャラではないハーレイを協力者にしてしまったからには彼も幸せにするつもりだ。
最後に私がどうなろうとも…
「お嬢様、私は何があってもお嬢様の傍にいます。」
私の心を読まれたのかと急にそんな事を言われたのでドキッとしてしまうがすぐに平静を装う。
私の考えを彼に知られるときっと反対されるので絶対に悟られてはいけない。
彼の目をじっと見つめお休みの挨拶をして私は広間から部屋に戻った。
「貴方は何時でも私の心を揺さぶりますね。」
何かを決意するかのように拳をぎゅっと握りしめてハーレイも自分の部屋に戻るのだった。