挨拶
学園には制服が決められており皆一様に着こなしている。
聖ルチリウム学院の制服は男女共に格式のある制服で誰が来ても素晴らしい紳士淑女に見えてしまう。
そんな服を私はあえて着崩している。
少し間違えればまるでふしだらな女と見られてもおかしくないくらいなのだが、私の着崩し方は格式高い貴族であり自分を最高によく見せるような着こなしだ。
何故そんな着こなし方をするのかと言えば本来ならば主人公はとても穏やかでお淑やかな淑女の鏡のようでありながら言いたいことははっきりと伝える芯の強さを持った少女なのだ。
そんな主人公なのだから制服だってもちろん普通に着るのだが今回の私が目指しているのは悪役令嬢の立場なのだ。
良くも悪くも目立つ動きをすればそれがゲームの強制力を超える1つのきっかけになるかもとあえての格好なのだ。
更にこんな目立つ格好の新入生がいればすぐに学園内で噂になり本来ならフラグを立てないと知り合えない相手にも早めに接触することができるかもと言う考えもあった。
そんな目立つ格好をしている私相手に周りはヒソヒソ話をしている。
これに関してはゲームの開始時も同じ状況になるから特に問題は無いのだが本来ならば急に貴族の娘になった世間知らずの平民が入学したと言うことがヒソヒソ話の主な部分なのだが、周りから聞こえる声に耳を傾けるとどうやらこの着こなしを褒めるような話が半分、この着こなしをはしたないと言っているのが半分と言った感じでその中でついでに平民上がりの世間知らずお嬢様の話が混ざっているようだった。
早速ゲームと違う状況になっていることに内心喜びながらも外面は何も気にしていないと言った感じで歩みを進める。
その斜め後ろをハーレイが静かについて来ているので、あのイケメンはなんだっと言う声も多少聞こえてきている。
やっぱり誰が見てもイケメンなのだと悔しい想いを胸に進んでいると早速お目当ての人に出会えた。
「急なご挨拶失礼いたしますシエラ・アストラージ様。わたくしはアメリア・ロイスハートと申しましす。」
そう言いながら綺麗な作法で挨拶をしてくれる目の前の女性。
遂にあのゲームの登場人物に出会えた私は態度に現れそうなほど興奮していた。
アメリアはブロンドの髪を蝶の形をしたバレッタで止めポニーテールのような可愛らしい髪型をしている。
顔は可愛い系と言った感じでその瞳は赤く見つめられると心が奪われてしまう程の綺麗さだった。
体つきも程よい肉の付き方をしており誰しも憧れるようなそんな女性だ。
私は目の前にいる本物のアメリアに興奮が収まらず飛びかかってしまいそうになるも、
「お嬢様」
と静かに呼ぶハーレイの声でふと我に帰った。
流石、私の従者である。
ハーレイは私が飛びかかりそうな雰囲気を感じとって声をかけたのだろう、内心でハーレイにサムズアップをしながらよくやったと褒める。
瞬時に気持ちを落ち着かせ目の前にいるアメリアに私も挨拶をすることにする。
まずは第一印象と言うのは何事に置いても大事だ。
ここではゲームではオートで進む場所なので特に選択肢などないのだか、今の私はゲームをしている訳では無い。
これから出会う人達を幸せのルートに案内しなければならないのだ。
そんな決意を胸に秘めアメリアに言葉をかける。
「これはこれは、挨拶ありがとうございますわ。アメリアさんでしたかしら?私ほどではないけれどとても綺麗な方ね。これからどうぞよろしくお願いしますわ。」
もちろん本来はこんな台詞は出てこない。
普通にありがとうございます、よろしくお願いしますで返すのだ。
しかし、これからの動きをするに当たってこの挨拶は必要なのだ。
1つはアメリアがシエラに対していい印象を抱かないようにする事。
もう1つはアメリアに対して侮辱するような態度を取ったことを周りの生徒が知るという事でありこれが何よりも重要なのだった。
「行きますわよ、ハーレイ。」
「…はい、お嬢様。」
想像以上に心苦しいのだがこれ以上特に会話することなくアメリアと別れる。
「大丈夫ですか?」
誰も居なくなったくらい移動したところでハーレイが心配して声をかけハンカチを渡してくる。
泣いてはいないからハンカチは受け取らなかったけれど、ハーレイの優しさに心が救われた私は心新たに次の準備を進めるのだった。