主人公
気がついたら私はこの世界にいた。
ここは私が好きだったゲーム「聖ルチリウム学園」というゲームだ。
このゲームはよくある乙女ゲームと呼ばれるもので攻略対象のイケメンと共にすごし、時にはライバルに邪魔されながらも最後にはイケメンの1人と真実の愛で結ばれるというものだ。
ただし、今私がいる時間軸はゲームが始まる少し前の学園に入学する1年前のようだ。ゲームの本編では高等部に入学してからなのだが今の私は中等部だからだ。そして今、私にはとんでもない転機が訪れようとしている。元々貧民の出である私は実は伯爵の隠し子らしく突然伯爵家に連れてこられたところだ。なぜ、急に隠し子が判明したかというとこれはゲームの中でも明かされてはいなかったがどうやら伯爵は体が悪く、息子達は出来が悪いそうで少しでも優秀な跡取り、もしくは跡取りを捕まえられる存在が欲しかったらしい。そこで貧民ながら成績優秀で通っていた私が隠し子だと判明し連れてこられたわけだ。
ここまで言えば私が何者か何となくわかると思う。
私が転生したのは主人公だ。
名前はシエラ・アストラージ、アストラージ伯爵家の隠し子だ。
ゲームの世界に転生なんて本当にあるものだなと思いつつ思慮に耽っていた。
充分に思い悩んだあと私はやることを決めた。
それは、1番人気の王子様を捕まえることではなく、攻略対象全員と結ばれるハーレムエンドを目指すでもなく、ハーレムエンドを見た後にだけ出てくる隠しキャラを攻略するでもない。
このゲームには攻略対象となるキャラそれぞれに主人公と対立するライバルキャラがいる。
基本的な攻略対象は5人、隠しキャラが1人増えて6人攻略対象がいてライバルも6人いる。
私はゲームをしていて常々思っていた。主人公が攻略対象と結ばれた時ライバルキャラは没落したり酷い目にあってばかりだ。そんな彼女達が可哀想でこのゲームにイライラしていた時もあった。
ライバルキャラが全員幸せになる絵がみたい。それが私の決意だった。
主人公でありながら攻略対象と結ばれず、むしろライバルとの仲を応援する立場になる。ただしゲームの主人公補正と言うものが働くと困るのでなにもしない訳には行かない。そう、私はあえてなろうと言うのだ。主人公でありながら悪役令嬢という立場に。
主人公補正を打ち消すような存在になれば攻略対象とライバルキャラがそれぞれ結ばれる幸せな未来が見えると思った。
ただし、ただ悪役令嬢になるだけではなにか間違えれば誰かのルートに入ってしまう可能性も否めない。だから私は出会ってまもない実の父である伯爵にとあるお願いをしたのだった。
それは、できるだけ伯爵の望み通りの役割を果たす代わりに常に私の傍に1人の男の従者をつけて欲しいというものだ。
なぜ女の子ではないのかと言うと、攻略対象との関係も同性でないと調整出来ない部分があると踏んでいるからだ。女性が立ち入り禁止の寮生活では男の協力者が居ないと情報操作が上手くいかないこともあるだろう。
私が悪役令嬢として活躍するためにはどうしても必要な存在だった。
伯爵はなにかを感じとったのかちょうど新しく雇い入れたばかりという同じ歳の男性を従者にあてがってくれた。本当に感謝している、いきなり現れた隠し子のわがままをこんなに簡単に聞いてくれるなんて…もしかして補正が働いた?まあいい、どちらにせよゲーム開始まで1年ある、その間に私はするべき下準備をするだけだ。従者であるハーレイにできる限り私のしようとすることを教えこみ、完璧な共犯者にするのだ。全員が幸せになるためのね。
見てなさい、私は完璧にこなしてみせるわ。
主人公でありながら悪役令嬢をね。