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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第一部.幼少チートで優雅な(?)ウハウハ編、どこがウハウハなのですか?
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39.わたしの為にと泣く少女。

ザ・土下座。

お姉様に卒業式に出させて下さいと懇願しました。

「別に邪魔するつもりはないわよ」

「ホントですか!」

「では、帰ります」

ぎぁぁぁ!

そう言ったときの女性陣の怒りは恐ろしく、しぶしぶ午後からと妥協して頂きました。

どうしてこんなに怖いのかな?

ただいま2度目の入浴中です。

そろそろ、日も頂点を越えたのですが…………まだですか。

はい、待ちます。

遅い昼を食べてからやっと出発です。

エルフの長老は見送ってくれて無事に帰れることを祈ってくれました。

「女神の導きがありますように」

温泉に入った者は女神様の効果があるそうです。

魔力回路が綺麗に掃除されたように魔力が凄く活性化しています。

気力と魔力が溢れるようなこの感じのことでしょう。

ドクさん達は以前もそうだったそうです。

1週間(10日)か、それよりもう少し長かったかもしれませんが、2週間はこの効果が持たないそうです。

1週間、十分ですね。

帰りのペースは2割増し増しです。

順調、順調です。

3日ほど過ぎた当たりで妙なことに気が付きます。

22日に午後に出発しました。

30日に卒業式があるので7日半の工程です。

24日の夕げには中間点の手前でないといけないのに、まだ3割程度しか消化していません。

30日の朝に間に合いますよね?

間に合わない。

げぇ~、ドクさんの斥候さんと1日ずれていました。

30日の夕方のつもりだった。

NOぉ~!

おかしいと思ったよ。

12日掛かった行程を7日半で帰れるなんてさ。

魔物討伐で時間は取られていましたが、戦闘はなるべく避けていたし、エルフの里の位置も最初から判っていたのでルートロスも余りないのに4割近くも短縮できるのがおかしいのです。

もっと早く気付くべきだった。

行きと違って帰りは別の時間ロスが発生します。

つまり、食糧の調達ができないのです。

何故なら女神効果で魔物が寄って来ない。

俺達が近づくと逃げてしまうのです。

あぁ、女神様スゴぃ。

という訳で、獲物を探して見つけては遠距離射撃で射るしかないのです。

意外と手間です。

くそぉ、のんびりと飯を食っている場合じゃなかった。

明日から可能な限り早く起き、飯はもう干し肉と黒パンのみで歩いて食事を済まし、夜はぎりぎりまで行軍です。

強行に次ぐ、強行です。

29日の夕暮れ、盆地の湖が見えた。

帰って来た。

と言っても、まだ標高3000mくらいはある峠道です。

ここから下って森を抜け、再び1000m位の峠をもう一度超えると高原に入ります。高原を斜交し、北に向かって山をもう一度超えると城壁市に到着なのです。

「小僧、もう日が暮れる。ここで野宿だ」

「冗談でしょう。行きますよ」

「坊主、無茶を言うな。夜中は魔物がどこから出るか判らないから危ないのは知っているだろう」

ドクさんとベンさんがそう言います。

今から下っていけば、森に入った当たりで日が暮れることになります。

森の中で野宿するのは、夜に行軍するのと同じくらい危険な行為なのです。

が、早朝起きてから間に合うと思えません。

「俺一人でも行きますよ。ここからならドクさん達がいれば、問題もないでしょう」

「馬鹿野郎ぉ」

小突かれました。

森に入って、夜道をライトの魔法で照らして行軍です。

結果をいえば、夜でも魔物が寄ってきません。

ちょっとあぶない夜のハイキングって感じですね。

無茶している割にみんな顔色もいいです。

これも女神効果ですか。

女神様、ありがとう。


夜明け前、懐かしの城壁市です。

川渡しの合図に松明を回します。

これでしばらくすると水門が開いて、渡し船がこちらの岸に来てくれるのです。

です?

です?

こねぇよ。

「こりゃ、完全に寝ているな」

正面の表門と違い、水門は魔物に襲われることが少ないので見張りと船頭の二人しか待機していません。城壁の上で見張っている兵士が船頭に告げて水門を開けます。

しばらく待ってもう一度合図を出します。

う~ん、開きませんね。

山もうっすらと明るくなってきました。

ぷちん!

もういいよ。

船着き場を離れて、迂回して少し上流に上ります。

川の水で少し削られて岸壁のようになっている場所です。

森が切れて土が露わになっています。

杖の魔法石の魔法陣を土に戻し、土を液状化させて丸太のようなモノを作り、そこから水分を飛ばして野焼きをした後のようなモノに変化させます。そこから硬化の魔法を掛けて凝縮します。

硬化魔法を使うと全体が収縮します。その収縮を意図的に制御できるかが問題なのです。

つまり、縦方向に収縮させないことができるか?

成功です。

思っていたよりかなり細くなりましたがいいでしょう。

杖を大地に立です。

『描け リビルド』

目の前の地面に液状化の土魔法が掛かり、ドロドロとした粘土のようになってゆきます。それをゆっくりとスライムが動くように川へ移動するのです。

想い描くのは皇居に掛かる二重橋です。

どう頑張ってもあの美しい石造りの重厚さは再現できません。

もちろん照明などは省きますよ。

俺がイメージした型枠にセメントを流し込むようにどぼどぼと注いでゆくと、アーチ状の橋が生まれてきます。

女神効果が凄いね!

2回に分けないとだけと思っていた作業が1度に済みそうです。

ベンさんらとドクさんらの口が開いたままですよ。

文字通りの茫然、いやぁ、ぼぉ~ぜん!

イメージ通り?

う~ん、二重橋のように馬車が悠々と走れる橋が掛かってしまいました。できるような気がしましたが、自分でスゴイな~と感心します。

スゴいのは女神効果ですよ。

完成ではありません。

これは土から水を抜いただけの泥橋です。人が歩けは底が抜け、時間が経てば水に流れてしまいます。

ここから一気に硬化の魔法で橋を固めます。

『分子と分子を結び付け。コンソーリデァント』

この圧縮の魔法で橋が小さくなって岸から離れては意味がないので、縦伸縮しない特別仕様に改変した魔法です。

普段の圧縮率は2割ほどですが、これも女神効果でしょうか?

馬車がゆうゆうと通れた橋が5分の一に、人が通れるほどにささやかな橋になってしまいます。

最初からこんな感じの橋を作るつもりでしたから問題ないですよね?

忘れよう。

リーン、リーン!

ベンさんがテストように作った土の棒2本を互いに叩いて音を何度も確かめています。備長炭のような音ですね。

いい備長炭は風鈴の代わりになるといいますから合格でしょう。

「これ、貰っていいか」

どうぞ、どうぞ。

あくまでテスト用です。お好きな用に!

歩こうとして体が揺れます。

おっと危ない。

軽い頭痛と全身の気だるさ、魔力がほとんど枯渇したようです。


ドカっと俺も寝たい。

表門の通用口を開けて貰い、自宅に帰った下兄と姉は荷物を置いて、装備を外すとそのままベッドに倒れ込みました。

女神効果で疲れや怠さを感じませんが、7日半の強行と夜間歩行で疲れていたのでしょう。部屋に入ると下兄と姉は2段ベッドに倒れるように寝付いてしまいました。

俺も寝たいよ。

俺の寝床は2段ベッドの上ですよ。

昔、姉も上を使っていましたが上兄が弟子入りしていなくなったので下を使うようになったのです。

空しい。

井戸で汗を流し、温めるだけ食べられる朝食を大目に作っておきましょう。起きてくれば食べるでしょうし、姐さんらも来襲するでしょう。

おっと、父さんと母さんが起きてきました。

今日は三人で朝食です。

肉がないのでパンと肉なしのシチューです。

「うん、うまい」

「おいしいわよ」

「ありがとうございます」

「旅は、楽しかったか」

「楽しいとまではいませんが、中々に良いものでした」

「そうか、よかった」

お父さんって、こんなに穏やかな顔をする人だったのですね。

食事を終えると職場に入ります。

俺はどうして毛嫌いしていたのでしょうか?

う~ん、判りません。

最後の制服に袖を通し、少し早い登校です。

メイン通りから外れた裏道、毎日通った道も今日は何か違う気がします。

大聖堂へ続く大通りを横切ると商業区が見えてきます。

大聖堂のある区画を中央区と呼び、大使館邸や宿、公民館、図書館、公園、食堂もある中心街です。父が入っている商業ギルドや冒険ギルドもこの区画です。

食堂はありますが、酒場はありません。

食堂は貴族用でべらぼうに高い店ばかりで、庶民は歓楽区に行けということです。

商業区は朝早くでも活気があります。

大きな店構えを持つ商人や工房が軒を連ね、ウチの上兄もこの2番通りにある靴工房で修行をしています。上兄を入れて10人が働く工房で領主伯爵様などの多くの貴族の靴を作っています。

商業区を過ぎると立木林が並び、ここからは一般人がみだりに立ち入っていけない禁則区、貴族区となります。大きな家と小さな家が優雅に並んでおり、文官さんの家もこの一角にあります。

大貴族ほど奥の区画に大きな家を持つのです。

ちっさいと言っても大きな家ですね。

ここを左に曲がって林に沿って走る並木道をずっと歩いてゆくと港区になります。先ほど通れなかった水門がある区画です。

もちろん、港区までは行きません。その手前を曲がるのです。

曲がると学習院の初等科が見えてきます。

その大きな道は馬車が何台も通っても問題ない広さを用意しています。

おや、こんな朝早くから馬車が正門前で止まっています。

正門に近づくと馬車のドアが開き、少女が降りて走ってきます。

「よかった」

7女ちゃんが俺の胸に飛び込んできます。

否、胸で抱きしめられました。

「もう、来ないかもと思って心配しておりました」

泣かないで、泣かないで、ごめんなさい。

7女ちゃんにも心配かけました。

本当にごめんなさい。

「わたしの為に留年しようなど思わないで下さい」

えっ、何それ?

「王都からの召集を理由もなく、断るなど反逆罪とされてもおかしくありません。お願いです。二度とこんなことをしないと誓って下さい」

反逆罪ですか!

帰って来てよかった。

「来年、必ず私から王都に赴きます」

「うん」

よかったと言って、7女ちゃんは俺の頭で泣き続けました。

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