34.今更だけど、魔法を説明しよう。
最近、見習い神官ちゃんはかなり好意的です。
「あんたの魔法はホント使い易いわ」
教会のシスターから貰ったという杖の魔法は魔改造していません。でも、光の魔法の効率は同じ魔力で2割ほど良かったので、詠唱を教えて貰って魔法陣を解析してみました。
面白かったよ。
この世界の神様の力を借りると効果もいいようです。
検討していますが、今後の課題です。
俺の魔法は基本的に精霊の力を借りているので汎用的です。
精霊との相性さえよければ誰でも使えます。
没収されてはいけないので、見習い神官ちゃんに貸している魔道具はすべて貸出品としています。
解析くらいはさせてやるよ。
さて、
魔力の起動は円陣と同じで、円陣と共に『我は願う』と詠唱すると魔力が流れて魔法陣が起動するのです。
そして中心のキーワードです。
無属性なら『無なる力よ』。
光属性なら『光の精霊よ』。
闇属性なら『闇の精霊よ』。
火属性なら『火の精霊よ』。
水属性なら『水の精霊よ』。
風属性なら『風の精霊よ』。
土属性なら『大地の精霊よ』。
この言葉と中央の文字絵を浮かべると魔法陣に力が集まり始めるのです。このとき魔力制御と魔力循環によって自らの魔力を魔法陣に集めるイメージを送ると魔力圧力が魔法陣に掛かるのです。
これはオリジナルで、別の異世界で知った魔法技術です。
この異世界とはその異世界は繋がっていないので一般的でないようです。
しかし、魔力制御と魔力循環は存在しており、武闘派の魔法士がよく使っています。
『竜の咆哮』の後衛はすべて肉体強化の魔法が使え、前衛はすべて気功を使えるのです。そう言えば、『黄昏の蜃気楼』のベンさん気功が使えますね。でも、ベンさん以外の仲間は気功も肉体強化も使えません。気功の体得はかなり才能がいるようで、一方、この王国の魔法使いが魔力制御と魔力循環を使うのは成り損ないと偏見があるようです。俺が魔法士に何度も教えてあげようと言っても嫌がるのです。
なのに?
姉友ちゃんと練習してやがったよ。
何々、堂々と女の子と手を繋げる?
何歳、離れていると思っているんだよ。
まだ、22歳だ。
10歳も離れれば、ロリコンだ。
姉友ちゃんにこいつは適当でいいと言っておいた。
魔法陣を構成するのは、五芒星、六芒星が代表的です。
魔法陣は1層、2層、3層と増える毎に消費する魔力が増大し、行使する魔法の威力も桁違いに上がってゆきます。
魔法石という魔道具がない世界では、3層以上の魔法陣は実用的ではありません。
町の防御や実験で使うくらいです。
もし、実践で使おうとするなら50人や100人の魔法士が共同で魔法陣を構築しないと制作時間に問題が起こるのです。
要するに、
魔王と対峙しながら前線に半日ほど頑張って貰って魔法陣が完成する。
普通、魔法陣を書いている間に邪魔が入りますし、その間に戦えない魔法士を守り続けることに意味があるでしょうか?
使えないのです。
しかし、
この世界には魔法石というモノがあり、詠唱を10分くらいをがんばれば、極大魔法が使えるのです。確かに、これなら小賢しい魔法技巧を極めるより、魔法の威力を高めることを追求できますね。
姉友ちゃんや見習い神官ちゃんに使っているのは三芒星。
最も単純で短い詠唱が特徴です。
サークル中心のキーワードの属性に使用する魔法の形を与えます。
キーワードの上下左右の記号がそれを現わします。
詠唱にすると、
光なら、『光の精霊よ。その力をもちて』となり、
氷なら、『水の精霊よ。その力は凍える氷となり』と変化し、
雷なら、『風の精霊よ。閃光の雷となりて』と変化します。
二人に使っている基本魔法が威力を上げる集約です。
虫眼鏡を使った理科の実験で光が集まると燃やす力になると理解させることで、キーワードをクロスで配置された中央に向く三角形が『集約』を意味すると魔力を凝縮する魔法に変換される、詠唱は『つどいあつまりて』です。
これで中央サークルの準備が完了となります。
次に、
三芒星のトップである頂上は魔法の形態です。
魔法は主に、弾→矢→槍→砲と大きさを表現します。
子供に言葉で説明しても判りませんから、
小石を木に投げて、「しゅん」と当たり、
矢を打って、「しゅぱ」と木に刺さり、
槍を投げて、「ぐさー」と木を抉り、
大きな石を投げて、「ずどん」と木を折ってみせます。
これを記号と一緒に詠唱を教えます。
弾は1本の縦線で『必中の鋲』、俺的には鋲でなく、弾丸なんだけど、彼女らは弾丸と言ってもピーンと来ないので鋲にしました。
俺が携帯しているパチンコの玉を見せて、『必中の玉』と叫ぶと、何がツボだったのか、「たまだって、たまだって」、「たまって何よ」、「あのぉ、恥ずかしいです」と姉さんと見習い神官ちゃんに大受けで、姉友ちゃんは恥ずかしがって不採用です。
詠唱中に吹き出して練習になりません。
結局、釘のような鋲で収まりました。
賢者の魔法はイメージが命ですからね。
詠唱にすると、『貫け必中の鋲』って感じですね。
矢は矢のままで採用。槍も槍で採用。砲は姉友ちゃんが砲のままで採用ですが、見習い神官ちゃんは納得いかない。
俺がレーザービームのようなもので神様が持つ神戟のようなものだよと言うと「神戟、かっこいい」というので詠唱名は神戟に決まった。俺がここで「レーザービーム」と言ってしまったから、魔法名も『レーザービーム』に決まったのです。
もうどうでもいいよ。
賢者の魔法は自分の魔力を精霊に対価として与えて、精霊の力を引き出しています。
一方、この世界の魔法は、詠唱に魔力を乗せて精霊に呼びかける。つまり、詠唱とは精霊のコンサートみたいなもので「何、何、何があるの?」とそんな感じて集まってくる精霊に歌を聞かせて、精霊の力を引き出してゆく。
大切なのは、魔力をしっかりと乗せる事と呼吸のタイミングです。精霊を魅了することが魔法の成否に関わってきます。
対価を支払わないので魔法効率がすこぶるいいのです。
ただ、1層の魔法陣の効率など知れています。しかし、三層、四層になると対価に支払われる魔力量がべらぼうに高くなるに対して、こちらの魔法は詠唱が長くなる分だけで済みます。
こちらの魔法は3層以上になると魔力効率が桁違いによくなりますね。
魔法石という魔道具があるゆえに進化です。
魔力量が少なくても極大魔法が使える魔法士と詠唱時間をほとんど必要としない賢者の魔法とどっちが優れているかを比べるのは無駄な話です。
適材適所という奴ですね。
さて、三芒星のトップ、魔法の形態が終わると左下に移ります。
標的の設定です。
自分を絶対的な位置に指定して、xyzからXYZの座標位置を魔力の量で指定するのです。つまり、x(2)y(2)z(2)からX(10)Y(10)Z(10)に撃てと指定すれば、発現する位置と発射される位置も方向も自由自在に操ることができるのです。
詠唱にすると、『ひふみといつむや』となります。
「何それ、あんた馬鹿?」
「うぅ、難しいです」
「何言っているのよ。判るように説明してよ」
姉さんは邪魔だよ。どっか行けば!
姉友ちゃんも見習い神官ちゃんもノックアウト。
諦めました。
どうせ、細かい魔力制御なんて、まだ無理だしね。
とりあえず省略です。
座標は固定にして、胸から手の平方向に進むようにしておきます。
記号は的マーク、詠唱は『はじけろ』です。
姉友ちゃんは両手を添えるように魔法を発現させ、見習い神官ちゃんは半身なって手を真横に突き出します。
どちらも心臓から一直線になります。
魔力の威力もMAXで、より小さく、より固く。
しばらくはそれでいいよね。
俺的には『シナプス』なんですが、「それ何、美味しいの?」という反応に負けました。
二人の詠唱は『我が魔力』です。
『はじけろ、シナプス』の方はカッコいいよね。
くそぉ。
今回は除外しますが、この「はじけろ」を「飛び散れ」、「霧消しろ」などに変換すると、相手を貫く弾丸と目潰し、散弾のような峰打ちの手加減、目つぶしのライトなどに別れるのです。
1つの魔法陣でいくつもの魔法に変換できるのです。
いつかね。
そして、最後の三芒星の右下は撃ち出す威力です。
とにかく、今は「思いっきり魔力を込めろ!」と言っています。
魔力を込めるほど撃ち出す力が大きくなります。
詠唱は『我が敵を薙ぎ払え!』です
姉友ちゃんより見習い神官ちゃんの方がいいですね。
敵を見ると気分が高鳴るのか?
これって相性?
神官の方が攻撃的でいいのかな?
戦闘狂。
さて、繋げてみましょう。
魔力を周囲から集めるマジックブーストの魔法で一時的に魔力を高めます。
『水の精霊よ。つどいあつまりて、凍える氷となり、貫け必中の槍。はじけろ我が魔力、我が敵を薙ぎ払え!』
『光の精霊よ。つどいあつまりて、その力をもちて、貫け必中の神戟。はじけろ我が魔力、我が敵を薙ぎ払え!』
これが二人の最大火力魔法です。
『つどいあつまりて』が何故、ひらながかというと、漢字では『集い集まりて』となり、感じが悪いからです。
言葉にすれば、判らんって、ごもっとも。
まぁ、こっちの世界は漢字ないけどね。
「ねぇ、我が敵を薙ぎ払えより、撲滅とか、粉砕せよの方がカッコいいわよ」
怖いわ。
この世界の魔法は魔法陣と詠唱が対になっており、魔法のイメージは関係ない。
正しい呼吸で歌を歌えば、精霊が踊り出てやってくる。
歌につられて奇跡を起こしてくれるのだ。
見習い神官ちゃんが持っているヒールの詠唱はこんな感じだ。
“るるり、るるり、わたしの小さな花たちよ。
わたしの願いを聞いておくれ。
ちぃちゃな花におっきな花。
めぐりめぐってどこにゆく。
小さな祠に命の水を与えましょう。
るるり、るるり、わたしの小さな花たちよ。
おまえたちはどこからくるのぉ?
わたしの願いを聞いておくれ。
るるり、るるり、わたしの小さな花たちよ。
わたしの願いを聞いておくれ。
ちいさなふすまにあるかみどおし。
扉を開いて、みてごらん。
小さな祠に命の水があるでしょう。
るるり、るるり、わたしの小さな花たちよ。
それをとってきておくれ。
わたしの願いを聞いておくれ。
るるり、るるり、わたしの小さな花たちよ。
わたしの願いを聞いておくれ。
ちぃちゃな花におっきな花。
めぐりめぐってどこにゆく。
小さな祠に命の水を与えましょう。
るるり、るるり、わたしの小さな花たちよ。
ほぁ、かわいい小人が目をひらく。
わたしの願いを聞いておくれ。”
見習い神官ちゃんはいい声だね。
これを高速詠唱という声を出さないで唇だけ動かす詠唱すると10秒とか。
ゆっくり詠って貰うと、「いたいのいたいのとんでゆけ」のようなおぼえ歌みたいです。
「何ぃ? その“いたいのいたいのとんでゆけ”って」
「子守歌のようなものさ」
「子守歌?」
『ねんんねん、ころりや、おころりや…………』
魔力を乗せて歌ってみました。
姉さんと見習い神官ちゃんがすぐにうとうとします。
おぉ、効果抜群。
「えっ、何? 何? いまの?」
「嘘ぉ、すごく眠くなった」
完全に「ラリホー(ねむり)」の呪法です。
魔法陣を考えたら使えるかも?
ヤラナイよ。
この世界の魔法は歌に魔力を言葉に乗せると、精霊がやってきて自主的で精霊の力、奇跡の一片を起こすというものです。
魔法士はこれを秘匿し、親から子、師匠から弟子に伝える訳です。
まぁ、賢者の魔法のイメージを魔力という対価で支払うのと対称的ですね。
因みに、
精霊は人間と違って高速に詠唱して変化はありません。
「私、できるわよ」
見習い神官ちゃん、詠唱早ぁ!
カセットテープを早回ししたような声が微かに漏れます。
精霊には10速の詠唱も同じように聞こえ、下唇だけを動かし、声にならない声で歌ってもOKなのです。
見習い神官ちゃん、シスターの10分の一くらいで詠唱できているよ。
意外な才能もあったもんだ。




