25.知らぬは本人ばかりなり。
先日、今更のような気がしたが魔物素材開拓の為に魔法を使えることを告白した。
魔物素材の価格が上がり、冒険者の数が増えた。
しかし、狩り場が限定されると競争が激化して、若い冒険者が危険な狩り場まで出ることになりかねない。
そこで安全な狩り場を増やしつつ、ベテランが稼げる場所を提供する。
そう言った計画の提案です。
城壁市の東にある平原に魔物の仮置き場を作る。仮置き場ができると、そこを拠点に上級の冒険者はより東側の魔物を退治し、草原より西は若い冒険者の練習場とできます。
同時により安定的に素材を回収できるようになります。
お茶会のお姉さん達がこの案を絶賛してくれた。
草原の段取りは6割が終了し、3月末から仮置き場の建設に掛かれると言っておいた。
そして、仮置き場の建設をお茶会の提案にしないかと持ち掛けた訳です。
答えはYESです。
これでお茶会の提案です。
俺じゃないよ。
立案・実行はギルドに任せます。
草案はこっち用意してあげましょう。
でも、計画書にお茶会メンバーの名前が書かれることはありません。
ギルドの提案を役所が許可し、伯爵が黙認すれば、実行されます。
完璧です。
数日、草案をギルドにお茶会のお姉さんが持ってゆきました。
ギルドの仕事は早い。
翌日には、『遺跡利用の仮置き場の建設案』が作成され、役所も簡単に認可を降ろします。
まるで最初から示し合わしたようにね。
お茶会の招待状が送られ、お茶会で伯爵の黙認も確認されました。
予算はすべてギルド持ち、市も領軍も銅貨1枚も出さない。
その癖、完成した仮置き場を領軍の管理下で利用できる。
砦がタダで手に入る話です。
これに乗らないのは馬鹿ですよね。
誰が作ったのか判らない遺跡の再利用です。
魔術士さんに怒られました。
そんな嘘が通じるか!
魔術士さん、怒っている割に止める気はないんですね。
剣術の稽古終了。
俺に為に体力増強メニューを組んでくれたのに、みんなの方が体力をメキメキと付けているのは本末転倒ですよ。
こうして体力のなさを嘆いているのはいつものことですか。
無念。
赤毛のお姉さんが「がんばっているよ」と優しく頭を撫でてくれます。
癒されます。
話の序でに先日の魔術士に怒られたことを言うと。
「昔からそうなんだね。昔、活躍した記事を見せて貰った。カッコよかった」
意味不明です。
何でも赤毛のお姉さんはお茶会にあるスクラップブックも読んだと言うのです。
昔の記事って、何ですか?
お茶会にあるなら、お茶会のお姉さんに頼めばいいか。
なっ、なんと。
貴族新聞、新聞なんて書いていませんよ。
紙は貴重なので回覧紙みたいなものらしく、何部か刷られて回されるそうです。
お茶会のメンバーでバックナンバーまで探してまとめたとか。
貴族のゴシップネタがないので興味のある貴族しか読まないらしいです。
マイナー回覧板だとか。
元ネタは役所の報告書であり、機密指定の付かない書類をかき集めて作られます。
その裏面は市中の噂を集めています。
美味しいケーキ屋さんなど食レポと冒険者情報が紙面を飾るそうです。
“冒険クエスト、最少年歳が記録更新される。驚異の4歳が冒険デビュー”
小さい小さな記事で俺がデビュー。
“おめでとう。薬草採取、連続10回成功者1200回目は子供パーティ”
小さい記事は裏面の下を飾ったそうです。
“脅威! 薬草採取、連続20回成功者800回目、あり得ないぞ。シスターズ”
これは2段目、でも小さい記事です。
“薬草採取、連続30回の最短記録達成、あのシスターズがまたやった”
「これが裏面の初トップですよ。きゃあ!」
確かにデカい、裏面のトップですか!
それにしてもお茶会のお姉さん、今日はテンション高いな。
下兄がクエスト、クエストと煩かった頃だね。
薬草採取にランクがあったんだね。評価A以上が成功でB評価が準成功となり、連続成功から除外される。しかも1ヶ月以上、薬草採取を停止するとカウントが止まる。連続20回を超えると急激に成功者が減って、1年間で30回を超えたのは俺達だけとか。
別に驚くことじゃない。
普通はランクが上がって討伐クエストに手を出すんだよ。
薬草を持ち帰るより魔物を持ち帰った方が高いからさ。
でも、俺達は持って帰る体力がない。
それだけことなんだよ。
おぉ、年を越して連続回数が歴代ベスト10に入っている記事もある。そして、『遂に途切れる』も記事かい。ベンさんと合同するようになって、俺が参加しないクエストが増えてやっと途切れたみたいです。
問題は1月号です。
“期待の新人冒険者、公立初等科に入学。庶民の期待の星”
2段目で程々に大きい。
記事の中で期待の星は転生者、異世界リストの発案者、万能魔法士の得意は炎って書いてあるよ。
どこからのリークだよ。
「ここにほとんど無傷の素材が素晴らしいと書いてあります。おそらく、冒険ギルドの素材鑑定士ではないでしょうか?」
なるほど、冒険ギルドですか。
剣で切る下兄。
ナイフで裂く姉。
少しコゲある無傷の素材は俺しかないわ。
そして、止めはあの事件だ。
4月号。
事件は3月、夏休み前だ。
“ドラゴンバスター現る。冒険者パーティ『黄昏の蜃気楼』、白き竜、グイベルを討伐”
「こっちの記事は表面のトップです。私のお気に入りは裏の講評です」
何々。
“ギルド戦略担当課の課長が語る。グイベルの知られざる生態”
“グイベルがほとんど無傷で討伐されたことは脅威だ。冒険者ベンは眠っているグイベルの口に一撃を討って葬り去ったと言う。しかし、監視に向かったギルド職員の証言では、辺りは酷く荒廃し、グイベルが地面に落下したような酷い惨状であった。とても最初からグイベルが眠っていたとは思われない。
課長が語る。
グイベル討伐の成否は背中の羽をもぎ取って、如何にして地上に落とすかに懸かっている。しかし、今回のグイベルは羽が健在で討伐されている。考えられるのは、通常の討伐方法と違う手法を取っていることだ。おそらく、精神系か、麻痺系の魔法でグイベルを落下させたのではないだろうか。竜にそんな魔法を試す馬鹿はいない。しかし、グイベルは竜ではなく、竜の派生に過ぎない。今後、グイベルに精神系か、麻痺系の魔法討伐が主流に変わるかもしれない。
討伐者のベンは討伐方法を秘匿し、一切を語ろうとしない。
しかし、『黄昏の蜃気楼』に精神系・麻痺系の魔法を所持する者はいない。随行者には期待の新人『シスターズ』が加わっている。期待の星は万能系の魔法士だ。
グイベルを地に落としたのは誰か?
我々は期待の星を追い続けることを誓おう”
なんじゃこりゃ!
名前こそ書いてないけど、グイベルの討伐の半分は俺だと書いているよね。
お茶会のお姉さんが目をキラキラさせているよ。
否定するべきだよな。
誤魔化すのはいいけど、嘘はつきたくない。
でも、精神系・麻痺系というのは否定しておこう。
「秘密だよ。あれは精神系の魔法じゃない。俺が使ったのは闇系の重力魔法だよ。突っ込んできたグイベルの軌道を変えて地面に叩き落としてやったんだ」
「なるほど、急降下してくるグイベルをそのまま地面に叩き落として、自重で気絶させた訳ですね。流石です」
そういうことにしておこう。
「あの、そのお茶会のメンバーだけでも」
「絶対に他に漏らさないでね」
「はい、約束させます」
この記事、ギルド戦略担当課の課長って書いてあったな。
ギルドもそう思っているということか。
はぁ、目の前が暗くなった。




