22.そして、月日が流れ。
時の流れるものは早いもので、思い起こせば入学式、まだ何も知らぬ私は…………、
学年代表になった俺は、壇上で希望を新たにする新入生を迎え入れます。
何もかも懐かしい。
嘘だよ。
確かに5歳になった子供たちを俺が迎え入れています。
本来なら新入生代表は伯爵の孫か、一族の貴族様がすることです。
確か5回生に7女の伯爵の子がいるとか?
伯爵様は3男7女、がんばるね!
大貴族なら普通。
そうですかぁ!
迎えられる新入生代表は次期当主の長男です。
こっちは選ぶ余地がない。
やはり在校生代表は6回生の最上級生が迎えるべきだよ。
この学園にも生徒会はあったんだね。
6回生で構成する最上級生44人から投票で5人の生徒会役員が選抜されます。
生徒会長はいません。
お茶会のお姉さんと剣術の赤毛のお姉さん、あと伯爵の一族の一人が選抜されました。
学年のナンバー1とナンバー2が選ばれるのは当然として、その他の男性の票が分散します。一方、女性票が手堅く、無難な同性の立候補者に集まる訳です。
3対2
在校生代表は2回生、6歳の俺が選ばれました。
ぱち、ぱち、ぱち。
俺のあいさつに拍手が起こります。
早くも新入生の中に俺の武勇伝が語られています。
止めてくれ!
普通に在校生代表は貴族から出そうよ。
ノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)って奴があるでしょう。
庶民から選抜されたのは50年ぶりとか言っていましたよ。
その50年前も貴族じゃないけど、将軍の息子とか。
靴屋の息子は学園発足以来の快挙だよ。
魔術士さん、目立つなと言っただろうと渋い顔しています。
別に伯爵に組してませんよ。
伯爵の3男が凄い顔で俺を睨んでいます。
クラスが違ってよかった。
冬休み、伯爵のパーティーに招待されなかった俺の株は下がって、その他のパーティーの招待状が届かなくなった。
勝手に魔物素材の売買を決めたことで伯爵の怒りを買った。
そんな噂が流れたとか!
お茶会のお姉さんから謝られました。
違います。
俺が断ったんですよ。
事情は話せないけど。
お茶会のお姉さんは子爵家のご令嬢であり、彼女の父は市の職員でも上位の役職についているらしい。
不利なことが起こるようなら全力に擁護させて貰うと頭を下げてくれました。
たぶん、何も起こりません。
気にしないように言っておきました。
で、旅団の護衛から帰ってくると、
伯爵の長男が王都に帰る前にささやかなパーティーの招待状が届けられた。
この異世界には飛行船があり、4・5月、9・10月のみ飛行します。
大貴族専用の乗り物です。
これを使うと12日掛かる帰路が4日に短縮されます。
主な主要城壁市しか寄らないらしいです。
多くの貴族は帰路についているので、このパーティーに呼ばれるのは伯爵家に親しい者のみとか。
つまり、いずれ俺は伯爵の一族の娘を嫁に貰って一族になると勝手な噂が立つ訳です。
というか、
それくらいの情報力がなければ、貴族をやっていけない。
子爵の坊ちゃんが言い切ります。
実のところは、冬休みに執筆した本の納品にいっただけですよ。
金貨10枚、5冊で50枚の大取引です。
俺に絵心があれば、漫画というネタが無限に残されているのですが絵心はありません。
書けたのとしても面倒なのでやりませんよ。
漫画の文章化も面倒臭いです。
書けるものと言えば、ゲームがノベル化された作品だけです。
しかし、巨乳シリーズとか、エロ魔王の冒険シリーズが多くあるのでしばらくはお得意様としていてくれそうです。
ありがたい。
運搬を文官さんに頼んでもいいのですが、頻繁に頼むと怪しまれます。
俺が伯爵の家に通うのも駄目です。
という訳で、密会はパーティーとお茶会でカモフラージュすることが決まったのです。
来年から2ヶ月に1度くらいの割でお茶会に参加してくれます。
毎度あり。
そんな事情を知らない生徒達が勝手に色々と噂していますよ。
3男の1組に帰属する貴族の5人が2組を支持すると表明しました。
徒党は組まないよ。
2組の伯爵派と男爵長男派が結託して俺に何かと頼んでくる。
クラス代表になんてならないぞ。
俺はどちらにも協力しないので、二人が結託して俺に迫ってきます。
困ったものだ。
クラス対抗の競技会の代表に俺の名前を出すな!
えっ、全員参加が義務、一致団結して勝ち上がりましょうって?
勝つと大変でしょう。
1組に勝って学年代表になる気満々だよ。
去年は良かった。
三男の顔を立てて、やんわりと勝ちを譲ろうとする伯爵派が半分いたからね。
伯爵であろうと正々堂々と戦うべきだと正論派の男爵長男と対立していた。
俺を御旗に立てて関羽と張飛になろうとしているよ。
自分が立てよ。
剣術の授業は6回生が卒業して、新6回生が最高位に繰り上がります。
去年、相手を務めてくれた先輩方が平謝り?
「すみません。許して下さい」
「恨まないでほしい。別に他意はない。ちょっと羨ましかっただけです」
「もうしません」
えっ、えっ、えっ?
去年、必死に俺を殺そうと攻撃して来た先輩方。
女をはべらせて羨ましいぞ。
死ね、死ね、死んでしまえ。
自分で白状しました。
恨まれて仕返しされる前に謝っておこうと思ったらしい。
彼らはしがない貴族の2男、3男達です。
進学できない場合は領軍の予備校に入るしかない。
いずれは城兵という未来の方々です。
伯爵一族に恨みを買って生きていける訳もない。
手の平を返してきた訳ですか。
どうでもいいけどね。
もっと真剣に掛かってこいよ。
手加減されたら練習にならないよ。
何かもう当たり前になった昼のお食事です。
「ちょっと席を替わって貰ってもいいかしら」
誰?
さらさらの金髪、青い目、くりくりとしら瞳、どこか気品がる態度。
「はじめまして、というのもおかしいわね。パーティーでお目に掛かっているかしら」
伯爵の7女さんでした。
5回生です。
成績は可もなく不可もなく、普通に優秀な生徒だと説明してくれるお茶会のお姉さん。
「どうしてまた?」
「おかしいかしら、もしかすると私の旦那様になるかもしれないのよ。急に知らない人を紹介されても困るでしょう」
おもしろそうにころころと表情を変えながらそう語ります。
小悪魔タイプ、付き合うとトラブルに合う奴です。
と言って追い返す理由もありません。
さらに、お茶学の授業を取ってきました。
お茶会にも参加です。
ここの学生だから来るなとも言えませんし、伯爵令嬢を追い返せます?
無理ですね。