21.魔道士という存在。
俺の名は、ドレイク・フォン・クラスライ。
王都周辺に小さな所領を持つ子爵家の6男で皆は俺をドク(毒)と言う。
子爵家の面汚し、我が家系で初等科を卒業できなかったのは俺だけだ。
勉強など他でやればいい。
子爵領などというが、高々1000人の小さな田舎町。
領軍も50人のみ。
魔物の多い地域なら一飲みにされる存在だ。
冒険ギルドなどという洒落たものはなく、仲間を募って森に狩りいったものだ。
お目付け役は元隊長の剣士だ。
5歳になると初等科に入れられ、隣町の城壁市で寮生活。
町で好き勝手に生きていたら初等科も卒業できず、11歳で冒険者登録をした。
みんなドラゴンバスターに憧れる仲間達だ。
城塞市を拠点に暴れ回った。
怖いモノなし、敵もなし、この城塞市ですることは終わった。
新たな旅立ちになった所でお目付け役の元隊長が暇乞いを願った。元隊長は元冒険者で腕を見込んで曾祖父が引き抜いた。
冒険者としての知識の宝庫だった。
仲間には剣や弓や薬の調合などを教えてくれた。
俺達の冒険パーティ『竜の咆哮』は登録初期から快進撃を続けたのは師匠のおかげである。
技を極める為に城壁市を転々と南に下り、ドラゴンを求めて西の大陸に出たこともある。
仲間の半分が帰町しても俺達は旅を続けた。
そして、魔物が多いという北に付いたときはCランクの冒険者になっていた。
北にはエルフやドワーフが住む隠れ里があるという。
みんな真面目な城壁市だ。
だが、気にいった。
若くて活きがいい奴が多く意気投合。
弓士が嫁さんを貰って薬屋を始めやがる。
根なし草に根が生えてしまった。
結婚なんて冒険者がすることじゃねえ。
明日はコロっと行ってしまう職業だ。
町に着いたら適当の女を見繕って囲えば、町を出るときは手切れ金を渡して“さよなら”だ、冒険者はそれでいい。
「いいか、ドラゴンの噂を聞いたら遠出するぞ」
「何度目だ。酔っているのか。判っているよ、ドク」
「まったく、気がしれねえ」
「ドクも子供がいるだろう」
「俺の子供かどうかも怪しぞ」
「は、は、は、確かに彼女は恋人が多いからな。だか、あの子の顔をちゃんと見たか。おまえそっくりだ」
「しらねぇよ」
この町も長くなった。
他の奴らも女を4・5人囲っている。
気の向いたときに気にいった女の元に訪れればいい。女は小遣いで小物店や菓子屋など好き勝手やっている。俺達に依存するような女は必要ない。
「あれはベンの小僧じゃないか」
「最近、羽振りよさそうだな」
ベンはこの町にやって来たときに最初に会った奴だ。
駆け出しでDクラスになったばかりの若者だった。
筋がいいので何かと教えてやったら懐かれた。
「ドクさん、ドクさんと可愛かったな」
「今じゃいい親父だ」
親父は可哀そうだ。親父顔だがベンは28歳。
「Bランクになった祝いだそうだ」
「馬鹿な、ラビットハンターのベンが?」
俺達みたいな大物狙いは週に1度の割合で遠征に出掛ける。ベンは近場でコツコツと魔物を退治する。
冒険ギルドの職員は大物一匹より小物10匹を好む。
ウルフ100匹でCランクに昇進できないが、ラビット1000匹なら昇進できる。
実際はそんなことないが、貢献ポイントならそういうことだ。
腕は悪くない。
俺が仕込んだ奴だ。
「確か。メンバーが辞めて、パーティランクを下げたと言ってなったか」
「それで間違っていない」
「どういうことだ」
「また、上がったのだろう。腕も良かった」
「いい奴だが度胸がない」
ベンはどこまで行っても仲間の命を大切にする。
小物ばかりだから金にならない。
仲間と対立して、別れた奴は拠点を移した。
ベンは若手や幸の薄そうな奴を集めてパーティを組み直した。
相変わらずのお人良しだと思った。
それがBランク。
くそぉ、キチンと立て直すあたりは大した者だ。
翌月、俺は遠征から帰ってきて目を疑った。
「グイベルだと」
あのベンがドラゴンバスターの称号を得た。
へっぴり腰にドラゴンが倒せるか?
何かある。食い下がって、食い下がって、食い下がった。
とある魔法使いの協力があって討伐できたと吐きやがった。
吐かせる条件に合同パーティを組むこと。
見たことは口外しないこと。
構わねぇ。
ドラゴンを倒せる秘訣が判るなら。
奴が連れてきたのは可愛い子供達だ。
何だこりゃ。
そうか、読めた。
この子供らの中に貴族が混ざっているのか。
そのお目付け役が優れた魔法使いで人知れず、影からこの子らを守る。
「がははは、よろしく頼む」
俺の仕事はこの子らの護衛というところか。
未来のドラゴンバスターよ。
期待するぜ。
あっ、唖然。
一番ちっこいガキが魔法士か!
魔物を呼ぶ魔法だと。
小型と中型。
恐るるに足らんが数が多い。
「おい、手伝うぞ」
「大丈夫です」
もっと唖然。
凶悪そうな魔物だけ間引きされた。
何をやったのか判らんが、ガキから光の玉が出て魔物が次々と倒れてゆく。
ベンらもガキ達も大した者だ。
違うな!
何か透明な盾があいつらを守ってやがる。
正面以外の魔物を、ちっこいガキが片付けて行きやがる。
背中に嫌な汗がどっぷりと流れやがる。
戦闘が終わった。
「じゃあ、2回戦いきます」
3回目の唖然。
3回続けて、午前の討伐が終わった。
入れ食いだ。
道理でデカイ背負子を用意するハズだ。
城門の仮り置き場に置かせて貰い。
午後から東の奥で討伐クエストをする。
「今度は大物もいますから一緒に参加して貰います」
ガキが仕切ってやがる。
草原の東。
確かに大物がいるが俺達の敵じゃない。
ちょっと待て!
「あの数は何だ」
「そういう魔法ですから」
大物ばかりが50頭ほど群れをなして来ているぞ。
午後の魔法はヤバい魔物だけ呼ぶ魔法らしい。
「ちょっと減らしておきます」
そういうとまた火の弾を撃って半分に削る。
俺ら『竜の咆哮』が10頭、ベンら『黄昏の蜃気楼』が10頭。ガキらが5頭。
「死ぬ気で掛かれ!」
6人が一団になって1頭ずつ片付けてゆく。
やっと片付けて周囲を見ると、ベンの方も終わっているようだ。
ガキの方も1頭も残っているが、あの3人だけで片付けさせるつもりのようだ。
「正面から行かない」
「牽制したら下がる」
「ちゃんと間合い取って」
なるほど、あのちっこい奴が頭なのか。
よく見れば、大型と中型の中間位で急所を突けば、一撃で倒せる奴だ。
踏み込みが甘い。
目に見えない盾が子供らを守っているので怪我もない。
恐怖に打ち勝てば、倒せなくもないだろう。
スパルタだな。
懐かしい師匠の言葉がよぎる。
「坊ちゃん、本気でドラゴンに挑むなら魔道士を手にいれなさい。奴らがいないとドラゴンに立ち向かえない」
魔道士か!
話では聞いていた。
国軍や領軍は大したことはない。
だが、奴らは魔道士を抱えている。
あいつらは化け物だ。
偶然、王宮のパーティと肩を並べた冒険者が酒場でそう言っていた。
「SクラスやAクラスの冒険者なんてただの屑だ。あいつらは別世界だ」
怯えるように酒を飲んでいた。
化け物。
確かにそうだ。
あの腰抜けがグイベルに立ち向かおうとする。
あの見えざる盾があれば、グイベルも怖くないってか!
遂にガキの剣が魔物の喉元を捉えた。
倒しやがった。
嬉しそうな顔で笑ってやがる。
俺も昔はそうだった。
元隊長のあいつがいたから最後の1歩が踏み出せた。
あのガキは強くなる。
それはいい。
あのちっこいのは何者だ。
帰って酒場にベンを連れてゆく。
結局、ベンもよく知らないらしい。
あの3人が兄姉弟。他が仲間らしい。
兄が剣士、下の姉がナイフ使い、弟が魔法士。その友達が魔法士見習いと見習い神官か。
弟の使っている魔法は主に3つで炎と盾と索敵だけらしい。
「あれが炎だと」
「ウチの魔法士も驚いている。圧縮して小さくすると威力は増すらしいが原理が判らん」
「意味不明なことを言う餓鬼です」
「信じられん」
「現実ですよ」
俺は酒の力を借りて何とも言えない気持ちをは吐き出した。
あれが魔道士か!




