20.旅団、はじめての旅行。
やってきました冬休み。
伯爵には例の本を執筆したいのでパーティーを欠席したいとお願いしました。
おぉ、凄い効果です。
夏に比べて、2割しかパーティーの招待状が来ませんでした。
うん、クエストも執筆も順調です。
パーティ『シスターズ』も貴族のパーティーにデビューです。
お茶会のお姉さんの小さなパーティーでマナーは無礼講です。
よかったです。
でも、貴族のパーティーだから料理は満載です。
ウチの女性陣、甘いモノの虜です。
ベンさんの『黄昏の蜃気楼』方々もご招待されています。
身内が多いと気が楽だね。
「アンタ、いつもあんな美味しいものを食べているの」
「そうです。ズルいです。ズルいです。ズルいです」
「何で? 私より年下で同じ庶民の癖に」
姉、姉友ちゃん、見習い神官ちゃんから責められるの?
解せぬ。
「あれも、これも、太る。どうしよう」
「お姉ちゃん、シェアしよう」
「あのぉ、お菓子を持って帰っていいですか」
姐さんと妹ズは食べるのに忙しそうです。
お皿のお菓子を全部持って帰ろうとするのは止めて!
お茶会のお姉さん、後で包みますと笑顔で言ってくれます。
大人だ。
冬休み前半、クエストで魔物を大量GETです。
大漁、大漁。
でも、姉ら女性陣が不満顔なので北に出掛けます。
北の魔物を調整しないとね。
というのは建前です。
百薬果実でも食べて機嫌を直して下さい。
そう、貴族でも滅多に食べられないモノを俺達は腹一杯食べている。
貴族に負けていない。
一応、機嫌直してくれました。
他の美味しいものがある所に連れて行け。
調べておきますよ。
今日は酒場です。
お酒は飲みませんが、竜のみなさんの驕りでお食事です。
「俺は思うんですけど、女性率が高いのは問題だと思いませんか!」
「おまえはまだいいよ」
俺の苦情を下兄が蹴ります。
「がははは、坊主がいないときは目立つからな」
そうなのです。
昔は姉さん、姉友ちゃんの子供三人で移動してもおり、周りも子供だとほのぼのと受け入れられていました。
しかし、状況は一変します。
乙女の花園から移籍組はみんな美人さんなのです。
見習い神官ちゃんは…………どうでもいいとして。
女6人を侍られて先頭を歩くガキ。
これを好意的に見る冒険者はいません。
「ガキの癖にマセやがって」
「くそぉ、こっち回せ」
「やってしまうか」
嫉妬に狂った冒険者の目が下兄を睨むのです。
「パーティリーダーは辛いね」
「おまえのせいだろ」
並の冒険者より儲かっているのも恨み節に入っているって。
酒のツマミを口に放り込んでジュースを飲んで喉を潤す。
韜晦だ。
ベンさん、また厄介なことを引き受けてきた。
「おまえのせいだよ」
「どうして?」
最近、東の魔物を精力的に狩ったお蔭で大型の危険な魔物が減った。
いい事です。
安全になったので若手の冒険者も安心して狩りに出掛けてことができるようになった。
なお、いい事です。
魔物素材が輸出産業になり、買い取り金額も安定して高くった。
益々、いい事です。
旅団の護衛を依頼しても魔物狩りを優先して誰も受けない。
「どうだ、納得したか」
「だから、どうして俺のせい?」
いや、いや、いや、違うでしょう。
魔物素材を産業にしたのが、お茶会のお姉さん方で俺は関係ない。
便乗して儲けているけどさ。
「ともかく、責任を取れとギルドに言われた」
俺のせいは決定ですか。
月に一度、城壁市を結ぶ交易の為に旅団が組まれます。
交易品が少なければ、馬車も減り、護衛も減ります。
当然の事です。
旅団は城壁市が運営する領軍50名が派遣されますが、馬車や荷馬車が減れば、領軍だけでも運営できるので問題ありません。つまり、先月まで回っていた訳です。
何故、今月は駄目なんだ?
「肝心なことを忘れているぞ。旅団は城壁市が交互に出し合っている。9月は東が先で10月はウチが先だ」
10月はウチから旅団を出発して王都に帰国する貴族を護衛してきます。
貴族が王都の帰るのに都合よく旅団が組まれている訳ですね。
行きは貴族を護衛する為に大所帯ですが、帰りの荷物が少ないので護衛の仕事にありつけません。
「今年はオリエント方面から荷物が少ない。領軍だけでも足りる」
9月はオリエント方面の冒険者がウチに出稼ぎができます。
ここは魔物が取り放題で買い付け価格が高いのですから文句はありません。
東の冒険者達はウチで魔物狩りをして一儲けしてから帰っていきました。
しかし、向こうに行っても仕事はありません。
魔物の買い取り価格も安くなります。
帰りの仕事もない。
出稼ぎもできない。
そりゃ、誰も行きたがらない訳です。
「坊主、責任を取れ」
俺のせいじゃないですよね。
あっ、都合がよかったようです。
姉さん達が上機嫌です。
はじめての旅行にワクワクです。
「お魚が美味しいですって」
「楽しみ!」
「お刺身って食べたことないのよ」
城塞市にお刺身はないよ。
海辺の町まで移動しないとね。
そう言えば、旅行なんてしたことなかったな。
野営もしたことがない。
お姉さん、姉友ちゃんと見習い神官ちゃんと一緒に寝着を買いに行きました。
判っていますか、仕事ですよ。
姐さんと妹ズも東に行ったことはないそうです。
そう、そう。
川脇のバラック小屋から家の裏の長屋に引っ越して来ました。
毎日、夕食を漁りに来ています。
薬草の買い取り金額とベンさんから受け取っている荷物運び料で生活費?を出しています。
仕送りをするとカツカツらしいのです。
食費を削って倒れても困るので夕食に誘いました。
クエストの肉を冷凍して保存しているのでタダですしね。
実は、
とった魔物素材は頭割り、全員で分割しているのです。
稼ぎ頭の俺が等分分配でいいと言っているのですから、ベンさん達が反対する理由もありません。
実力もないのに大金を持ってもロクなことになりません。
ギルドの個人口座には大金が振り込まれているのは秘密なのです。
姐さんだけに教えてもいいんですが、バレそうなので黙っています。
「すいません。今日もいいですか」
「遠慮しないで入ってらっしゃい」
母さん、この妹ズのどちらかが上兄さんの嫁になるかもと期待しているようです。
二人とも美人ですからね。
上兄さんが帰って来る日は、絶対に早く帰ってくるように念を押されています。
知らないよ。
旅団、平和でしたよ。
ウチには、『黄昏の蜃気楼』と『竜の咆哮』がいますからやることがありません。
貴族へのお茶汲み、それが『シスターズ』のお仕事です。
野営地で桶に水を張って、火の魔法でお湯を沸かしてお風呂のサービスが付きます。
シーツで幕をして仮設風呂の完成です。
姐さんと妹ズがご接待、エッチはないよ。
ふ、ふ、ふ、Sランクの評価を頂きました。
雨が少ないのでテントなしです。
貴族も庶民も差別なし。
毛布に包まって星の天井を眺めます。
のんびりと天体観測。
遠くから聞こえる音は無視します。
ベンさんらが帰ってきて不満顔です。
「ちょっとは手伝え」
「そうだ、そうだ」
「配置が違うでしょう」
Bクラス・Cクラスのベンさんとドクさんは魔物退治で、Dクラスの俺らは貴族の護衛です。
旅団の隊長さんが決めました。
「おまえの実力はDクラスじゃないだろ」
「配置ミスだぜ」
隊長さんに言って下さい。
見張りがあるから仮眠だよ。
おやすみなさい。
平和が一番だよ。




