19.魔物討伐、メンバー増員。
魔物素材が売られることが決まりました。
しかし、肝心の魔物素材の回収が悪いと決めた方々の面子が潰れますね。
そうならないように少しくらいは協力してあげましょう。
で、もう少しクエストの効率を上げられないかとベンさんと相談したのです。
えっ?
姉が増員メンバーを連れてきた。
「あんたがメンバー増やしたいって言ったじゃない」
言ってないって!
姉が連れてきたのは装備をしっかりした19歳のアーチャーのお姉さん。お姉さんというよりしっかりしているので姐さんかな。
一緒にいるのが素人同然の13歳と12歳の女の子達です。
元々、姉さんはこの町で別の冒険者達を組んでいたそうです。
男4人に女一人。
誰が姐さんのハートを射止めるかと争っていたのでしょう。
冒険者と言えば、遊楽の女性以外とは縁が薄いそうですからね。
女性の冒険者は貴重なのです。
でも、姉さんと姉友ちゃんはまだ6歳ですから女性というより子供です。
えっ、5歳の俺が言うことじゃない。
ごもっとも。
妹は12歳で、この世界の結婚適齢期です。
親が決めた嫌いな彼と結婚させられそうになり、姐さんを頼って逃げてきました。13歳の女の子は妹ちゃんの友達です。彼女も似たような境遇だったので冒険者になると意気込んだ訳です。
無事にこの町に着き、姐さんのパーティに合流できて、冒険者パーティに入れたのですが、女性に飢える冒険者が大人しくする訳もありません。
可愛い女の子に優しくしてくれます。
下心ありです。
優しいお兄さん、優しくされること慣れていない少女と誤解が生まれるのは当然なのです。
男4人に女3人、あぶれるのは1人で早い者勝ちです。
焦っていたのか、頬を赤める少女を見て、男は有頂天になりました。
イケる。
襲い掛かった冒険者は悲鳴を聞きつけて駆けつけてきた姐さんに成敗されます。
まぁ、妹ちゃんを犯そうとした未遂犯らと一緒にクエストなどできませんよね。
という訳で離脱です。
3人は『乙女の花園』というパーティを組み直します。
アーチャー1人に素人2人。
冒険クエストなんてできません。
町の中の生活クエストでは稼ぎが乏しく、すぐに行き詰まってしまったのです。
「明日からどうしよう」
そんな風に嘆いていた彼女らに姉さんが声を掛けたのです。
「どう? 私らと一緒に行かない」
神の思し召し。
女神、否、幼神の降臨です。
こうして、5の付く日のクエストにパーティ『乙女の花園』が合同していたなど知らなかったのです。夏休みの間もクエストでは参加し、ベンさんらの訓練も一緒に受けていたとか。
聞いてないよ。
アーチャーが姐さん、妹が妹さん、妹の友人が妹分でいいよね。
で、そちらのお嬢さんは?
「すみません。すみません。すみません」
姉友ちゃんに付いてきた少女は教会の見習い神官さんです。
姉友ちゃんが教会のお手伝いで怪我をした子供をヒールしたのを見て、見習い神官ちゃんはライバル心を燃やしたとか?
「クエストに出てレベルを上げるのよ。連れて行きなさい」
魔物を倒してレベルが上がるのは俗説です。
でも、人の話を聞かない子です。
仕方ないので連れて行きましょう。
何でも見習い神官ちゃん、3歳から魔法の素質を見込まれて、教会に引き取られたとか。
世話役のシスターのお姉さんから貰った杖は中々に良いモノです。
俺の指輪と同じくらいで小さい魔法陣が10個書けます。
魔法陣はライト(光)、ヒール(血止め)、リポット(毒消し)、キュア(癒し)、リオリジナ(状態回復)、サンクト(除霊)、クリーン(浄化・洗浄)、ヴァイ(探知)、ライトウォール(光の壁)、オラシオ(祝福)である。
魔法陣も興味がそそられる。
見習い神官ちゃんは、残念ながらライトとヒールしか使えない。
使用限度はヒールで2回。
3回使うと目眩がして、気分が悪くなるそうだ。
姉友ちゃん、ヒールが15回もできると聞いて怒り心頭だったそうです。
わずか1年で追い抜かれた訳です。
クエストに行くから抜かれたと思った訳か。
姉友ちゃん、がんばって練習を続けているからね。1年間の成果で魔力循環をほぼマスター、次は肉体強化と魔力制御に移ります。
光の魔法を使えるようになってきたので、俺が使っていたネックレスを譲渡しました。魔法石の魔法陣は1つを書きかえて、ライトとヒールに変更し、元々持っていた杖の魔法をウォーターから殺傷能力の高いアイスに変えました。
ヒールにしろ、アイスにしろ、15発くらい使えるから戦力になりますね。
ライバルと言えば、ベンさんのところの魔法士さんです。
「ぎゃぼ、追い付かれてきたす。どうしてくれるすかぁ?」
知らないよ。
魔法士さん、勝手に苦情を言ってきます。
教えて上げようかと言っやのに嫌がったのはそっちですからね。
回復メンバーが増えるのは助かるとベンは喜んでいます。
因みに、
姉友ちゃんの戦闘スタイルが変わってきました。
最初には後ろから牽制のウォーターのみでしたが、今でもナイフを腰に差し、左手に小型のクロスボウを装備します。
矢の長さが15cmほどで殺傷能力は皆無ですが、弦をひっぱると次の矢が自動的に装填され、10発ほどの矢を連続で放つことができるのです。
飛んできた小矢を魔物が気にしている間に下兄か、姉さんが魔物に止めを刺します。
中々巧い連携です。
しかも姉友ちゃんはアイスが打てるようになったので二人が魔物を仕留め損なった場合に備えています。
一日15発限定ですから、基本的に魔法は温存という姿勢なのです。
来年はどうなっているのやら?
毎日欠かさずに魔法を使ってきた見習い神官ちゃん。
魔力循環を一年間みっちり仕込んだ姉友ちゃん。
見習い神官ちゃんに魔力循環を教えて成長が伸びるようなら、魔力量をたくさん使うより、魔力循環で長く魔法を使用した方が成長するという仮説が成り立ちます。
教えてみようか?
そうそう、遂に姉さんも魔法に目覚めました。
姉友ちゃんが使えるようになってから悔しかったのか、毎日、寝る前の魔力循環に付き合わされたんですよ。
才能はなさそうですが、肉体強化できるようにがんばって貰いましょう。
うん、未来が楽しみだ。
「おい、いつまでここにいる気だ」
話込んでいると下兄が怒った。
集合場所に移動すると、さらにメンバーが増えています。
「がははは、よろしく頼む」
Cクラス冒険パーティ『竜の咆哮』のみなさんです。
ベンさん達の先輩格です。
いつかドラゴンバスターになる夢を描いて、日々修練をする武闘派の6人で、前衛は斥候1人に戦士2人、後衛は弓士1人に魔法士2人とバランス型です。ただ、魔法士の一人は回復系を得意とし、杖を丈のように扱って戦えるのでアークプリーストというべき存在です。もちろんアークプリーストという職業はないので僧侶ですね。もう一人の魔法士は炎の魔法を得意とし、腰に魔法剣を装着しているので魔法剣士です。
この二人、魔法士なのに前衛もイケるのは凄いですね。
弓士は薬剤に詳しく、自分で薬を自作できるそうです。パーティの生死を決める縁の下の力持ちでみんなのお母さん、グランドマザーと呼ばれるようです。
「女顔だけど、女じゃないよ」
グランドマスター、略してグラマザさんは妻子持ちで、この町で薬屋を営んでいます。
自分で採取して店で売る。
利益率が良さそうだな!
今度、教えて貰おう。
竜の咆哮のみなさん、ベンさんが小ドラゴンを退治したと言うので倒せた秘密を知ろうと猛チャージ。
先輩で世話になった人で黙っているのも辛いらしい。
ベンさんの話では先輩達は口も堅いし、信用でできるのでいいでしょう。
背負子が10人増えたと思えばいい。
森に入ってしばらく歩くと周りがいないのを確認して、ベンさんが言います。
「じゃあ、そろそろパレードいきますか」
最近、みんなパレードといい、リインフォースと言ってくれない。
何故だ?
はじめのて方は後方に置いて見学して貰う。
集まってくる魔物を見て、竜の咆哮のみなさんは呆れ顔、女の子達が本気で怖がった。
近場で使う『リインフォース』は魔物が全部集まってくる粗悪魔法の方です。
女の子達が怖がっていますね。
大丈夫、大丈夫、慣れですよ。
今日の目的は魔物の素材回収です。
今は草原部を超えた近くの薬草地帯までしか遠出はしません。
冒険パーティ『シスターズ』は薬草採取しかやっていないことになっているのですから。
さぁ、城壁の仮置き場に獲物を置いたら、2回戦から竜の咆哮のみなさんにも参加して貰おう。
うん、効率的です。