16.夏休み。
教会に夏休みはありません。
年中無休、いつでもお祈りに来て下さい。
当然、学校も休みません。
通学しない日は事前に申し出て下さい。
教会ごとに1クラスのみです。
定員はないので10人のクラスもあれば、100人のクラスもあります。
年齢は5歳から10歳であれば、誰でも通えます。
8歳くらいで奉公に出されるので最年長者はいません。
言い忘れましたが、夏休みは4月と5月です。
長いですね。
4月で8歳になった上兄さんが修行の丁稚奉公に出されました。
親父の師匠は靴屋の大店です。
弟子は師匠と衣食を共にします。
帰ってくるのは月に1度です。
考えてみると、上兄さんは手間が掛からない良いお兄さんでした。
「おい、クエスト行くぞ」
面倒臭い。
公立の学校は4・5月が夏休みで、9・10月が冬休みなのです。
1年の半分近くが休みというのはどうなのでしょう?
もちろん、理由はあります。
以前にも言いましたが、この城壁市から王都まで12日間も掛かります。
もっと遠い城塞市は30日近く掛かる所もあるのです。
2ヶ月もある夏休みですが、王国の端の市では1ヶ月近く掛けて戻り、3日ほど自宅でゆっくりすると、すぐに王都に戻るという訳です。
2ヶ月が決して長い訳ではないのです。
地方の学校も王都の暦に合わせて休みになります。
学園の教授の中には、他の城壁市から派遣されている方もいます。2ヶ月は必要なインターバルなのです。
俺は自由だ。夏休み、万歳……などとなる訳もありません。
王都から帰還した高等科の生徒を労うパーティーや高等科の生徒を招いての競技大会や講義、王都軍の高級軍人を招いての合同演習等々、催しが山積みだとか。
不参加でいいよね。
暑さを忘れて涼みに高原へと出掛けます。
忘れていました。
盆地の方が暑いんだね。
この地域は一年中西風が吹いています。
西側には高い山々が連なり、フェーン現象を起こして気温を押し上げているようですね。
冬でもそれほど寒くならないのか。
雨が降るのは決まって東南風が吹いたときだけです。
この盆地はさらに雨が降らないようですね。
でも、水は豊富なので緑豊かな場所です。
北に行くことにしたのか?
姉さんと姉友ちゃんが「「百薬果実食べてない。食べたい」」と声を揃えて駄々捏ねたからだよ。
以前、食べそこねたからね。
あぁぁぁぁ、マジで百薬果実が美味しいです。
生き返りました。
俺らが背負い籠一杯の百薬果実、ベルさんらは背負子一杯の魔物を背負って帰城しました。
一籠だけご近所と姉友ちゃんの自宅に配りました。
ご近所付き合いも大切にしないとね。
王都から旅団で帰省の団体さんが帰ってきました。
えっ、行政府主催のパーティー、グイベルの英雄に特別招待状ってなんなのさ!
ベンさんも招待されているけど、あっちは報酬付きですか。
クソぉ、こっちは無償だよ。
おいしいものでも食べて取り返さないと割が合わないよ。
「坊主、その歳でパーティーに呼んで貰えるとはスゴイな」
「どこが凄いんですか?」
「貴族様のお抱えになれるかもしれないからさ」
「いい事でもあるんですか」
「食うに困らない。娘を宛がってくれる。一流の装備品が貴族持ちだ」
娘というのは貴族本人の娘とは限りませんが、一族の誰かで十分だそうです。
貴族の末席に座れるのだから大出世だそうです。
活躍すると一代限りの準男爵か、爵の地位が貰え、自分も貴族様になれるとか。
「そう嫌がるな! 確かに貴族になっていい事なんてないさ。だがな、爵位を貰うと侯爵であろうが、伯爵であろうが、勝手に俺らを裁くことができなくなる。これがデカい」
貴族の坊ちゃんを引き入れている冒険者パーティの理由はそれですか。
1ランク上のパーティと見なされる訳です。
お抱えになると装備品の旨みが桁違いになるそうです。
囲うということは、その貴族にふさわしい装備品でないと品格が問われます。
それこそ、金貨1万枚を使って最高の装備品を揃えてくれます。
量産の魔剣ではなく、至高の魔剣や聖剣を装備し、白銀か、ドラゴンの鱗を使った鎧が着れるというのは確かに凄いですね。
「まぁ、娘が可愛いなら掛け値なしで考えてみるがな」
ウインクしながら、ベンさんが意地悪く言いいます。
そんな気もないのだろうが…………一人身だからどうだ怪しいかな?
まぁ、可愛い娘は金貨1万枚に相当するってことですか。
俺には関係ない。
夏休みが2ヶ月もあると高を括ったことは間違いです。
午前中に執筆するだけで普段の3倍はいけますと余裕ぶり、掻き入れ時と大量の依頼発注を受けてしまっていましたのがいけなかった。
帰省するのは学生だけじゃないのです。
あのパーティーにも参加していましたが、王都に行っている貴族も帰省します。
俺は伯爵主催の帰省した貴族を労うパーティーに呼ばれました。
例の本の追加発注もありましたからね。
そんな裏事情など知らない貴族が招待状を送ってくるようになったのです。
どうして私のパーティーには来て下さらないの?
何か必死です。
断るに断れないので出ましたよ。
すると、また招待状が送られてくるのです。
意味判らないよ。
俺を呼ぶのが、今年の流行ですか?
どんな罰ゲームだよ。
誰か一人がパーティーを開くと、その返礼でパーティーを催す。ライバルも負けずに、パーティーを開催する。
1つ参加すると芋づる方式で招待状が届くとか。
パーティーであったクラスメイトの子爵の坊ちゃんが教えてくれました。
どうやら領主伯爵様は俺を気にいったらしい。
領主伯爵様のお気に入りに唾を付けておこうだとか。
ぶざけるな!
と言って要らぬ恨みなんて買いたくないです。
次は思いついたような競技会に魔物狩りですか!
冒険者が吊り出した魔物を矢や魔法で止めを刺す。
も~う、帰っていいよね。
クラス対抗戦、がんばりましょう。
と、男爵長男と子爵の坊ちゃん。
王都に帰る旅団が出る前の最後のイベントだから活躍してアピールしたいらしい。
嫌だよ。
俺はさっさと負けて明日は休みにしたい。
まだ、依頼発注も伯爵の依頼も手付かずなんだよ。
あっ、マリアさんからの催促キタぁ!
残り12日間、下兄と姉さんらに宣言します。
「12日間は執筆活動に命を掛けます」
溜まりに溜まった執筆活動、夏休みの最終に溜まった宿題を慌ててやる小学生のように気分で机に向かいます。
あぁ~、忙しいよ。
◇◇◇
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作者:牛一/冬星明