13.俺は子供好きの冒険者だ。(改)
俺の名前はベン、冒険パーティ『黄昏の蜃気楼』を率いるリーダーだ。
冒険パーティのレベルDクラスだが、Cクラスの戦士が2人、Dクラスの僧侶・魔法士・斥候が3人、Eクラスの戦士と荷物持ちの2人で構成される。
当然、俺はCクラスの戦士だ。
若くして村を飛び出し、冒険者になった俺は自由気儘な生活を続けた。
恋人はいたが結婚などできようもなく、気が付けば一人身でいい年になってしまった。
僧侶以外がすべて新しいメンバーに変わっている。
若い頃は酒場にいけば、女なんていくらでも買えると思っていた。
最近は無性にガキが恋しい。
今のメンバーもそれなりに稼げるようにしてやって、女を囲えるくらいにはしてやりたいと思っている。
Eクラスの二人は俺の息子みたいなものだ。
最近、妙な噂を聞いた。
年端もいかない子供が城外の薬草採取を請け負っていると言う。
馬鹿な!
確かにゴブリン狩りで安全になったが、子供達だけで城壁の外に出るには危険過ぎる。
「そうですね。でも、ゴブリン狩り以前からですよ」
「あり得ない」
「魔物を避けるのが余程上手なのかしら?」
ギルドの受付嬢の話では、3日に1度の割で薬草を採取していたと言う。
俺達が南の街道沿いの駆除をしていた間、あの危険な森の中で薬草採取を続けていた?
若いパーティが勢いに任せて請け負うことはよくある。
せめて合同パーティを組まなければ、命が幾つあって足りない。
合同と言っても同じクエストを受ける訳ではなく、同じ方向のパーティが相互扶助の契約を交わすという意味だ。
ベテランが先行し、安全が確保されれば、薬草採取も捗るというものだ。
代わりに荷物が多いときは荷物補助をして貰う。
ウインウインの関係という奴だ。
ある日、噂の子供達を見てしまった。
子供なんていうレベルじゃない。
マジで幼児だ。
幼児達だけで城外とかあり得ない。
俺達はクエストの依頼を放棄して幼児達を追った。
街道に沿って東に進み、森の中を無邪気に歩いて行く。
まるでハイキングを楽しむようだ。
そして、子供達は森を抜けて平原部を横断する。
このルートは魔の森へ続く道だ。
魔の森の魔物は東の魔物と比べものにならないほど強力で凶悪な魔物が多い。
あぁ、あり得ない。
魔の森で採れる薬草は治療用ではなく、魔力回復剤の原料として重宝される。
薬草の買い取り単価も高い。
だが、高いとか、安いで決めるルートではない。
残念だが草原に入った所で距離を取ることにする。
平原部では身を隠すところがないのだ。
こちらの森から様子を見守ることにする。
危ない。
ホーンラビットの4頭の群れが子供達を襲う。
一番年長者と思われる子供が小さな盾で角の攻撃を躱し、ショートソードで反撃に移る。
中々いい一撃だ。
後ろの女の子は躱しながらナイフですれ違いにホーンラビットを攻撃する。
浅すぎる攻撃はまったくダメージになっていない。
他の2頭の攻撃も子供達の横を通り過ぎたので、ほっと息を吐いた。
否、違う。
後の小さい子を狙ったのだ。
ホーンラビットは弱い敵から攻撃する習性がある。
拙い。
年長者の背中が狙われている。
手負いと言えど、魔物に背を向けるのは自殺行為だ。
否、女の子が年長者の影に入って動きの鈍っているホーンラビットに止めを刺す。
二人が前後を交互にシフトする戦闘スタイルのようだ。
特に女の子が味方の壁にして死角に入る動きが巧い。
中々の連携だ。
なるほど、年長者が正面の攻撃を受け持ち、女の子が側面を守る。
小さい子は逃げ待って時間を稼ぐ。
小さい子は勘と運がいい。
的が小さい為か、2頭の攻撃を何とか躱せている。
2頭のホーンラビットが小さい子を攻撃している間に、年長者と女の子が1頭ずつホーンラビットを倒し、後方に戻ってきた。
数の優位が覆ったのに驚いたのか、動きが鈍ったホーンラビットを年長者と女の子があっという間に止めを刺してしまった。
あれが子供の動きか?
ウチのEクラス、15歳になった新人と大差ない。
15歳でEクラスというのはかなりいい方で、俺が10歳から鍛えてきたからだ。
小さい子は荷物運びか?
ホーンラビットを小さい子の籠に入れてゆく。
子供達は平原部から再び森に入っていった。
俺達は急いで平原部を抜けて子供達を追い駆ける。
◇◇◇
うぉ~ん、ギガウルフの鳴き声が響く。
ヤバい。
「急ぐ、おまえらはここに残れ!」
「「ベンさん、付いていきますよ」」
「俺は行きたくないすが、一人だけで残るのも嫌っす」
「だそうだ」
「嘘だろ? 死ぬぞ」
「構いません。子供を見捨てたとあっては冒険者なんてできません」
「馬鹿野郎」
「いいじゃないですか。全員で行けば、何とかなるかもしれませんよ」
「無茶だ」
「やれ、やれ、なら、私もここまでですか。仕方ありません」
「大丈夫、自分の身は自分で守ります」
「僕も巧く逃げます」
「へへっへ、行きましょう」
「俺達は今日で終わりす」
「ベンは子供らを、俺がみんなを見よう」
「判った。いいか、死ぬな」
「「「はい」」」
「うすぅ」
ギガウルフの鳴き声が聞こえるということは、群れが獲物を取り囲んだ合図である。
鳴き声を聞けば、同士を見捨てても撤退が鉄則だ。
だが、子供達を見捨てる訳に行かない。
俺達は決死の想いで走った。
唖然。
あり得ない光景。
10頭、いや14頭のギガウルフが横たわっている。
すべて一撃。
細い槍で突き刺したように傷がわずかに残っているだけである。
ギガウルフは最低でも20頭で群れを成すので、残りは逃げていったということだろう。
「おい、これどうする?」
「どうするって、どうしまします。これ」
「これは大金す。大金持ちす」
「子供達を…………」
「なぁ、これを倒したのは、あの子らだよな。護衛の必要はあるか」
「これでお腹一杯になれるすよ」
ギガウルフの毛皮は丈夫で高く売れる。
森の魔物の討伐クエストもこれで完了し、ペナルティーもない。
ギガウルフなら5頭も持ち帰れば、金貨が転がり込む。
それもほとんど無傷の毛皮だ。
この毛皮は高く売れる。
俺はこのまま追いかけたかったが、さすがにみんなの首を横に振られた。
(ギガウルフを退ける子供に護衛はいらない)
仕方ない。
◇◇◇
もう子供達を追う必要もない。
だが、今はどうだ。
子供達の正体を知りたいという好奇心に駆られていないか?
「よう、ベル」
同期の冒険者に声を掛けられた。
「最近、羽振りいいらしいな」
「どうだかな」
「誤魔化しやがって」
俺達のパーティのランクがCに上がった。
森の魔物削除に貢献しているからだと言う。
否、俺達は倒された魔物を持ち帰っているだけだ。
子供達は10の付く日にクエストに行く。
小型の魔物は持ち帰るが、中型以上の魔物は放置する。
放置された魔物に危険な魔物が混じっている。
それを持ち帰るだけで俺達の貢献ポイントが跳ね上がる。
討伐数も予定数の倍以上になり、評価がSになる。
これじゃ追剥だ。
そう思いながらも正体を知りたいという衝動を抑えられない。
仲間達はこんなおいしい商売はないと反対する声も上がらない。
これでいいのか?
気が付くと、子供が増殖していた。
魔法士タイプだ。
可愛い女の子だと!
やはり、見過ごせない。
追い駆けた。
ブラッディベアも一撃だと!
Bクラスのパーティでも半数の犠牲が出すと言われる凶悪な魔物だ。
こいつの凶悪な所は分厚い毛皮であり、どんな剣も通らない。
それこそ聖騎士が持つ聖剣か、Aクラス冒険者が持つ魔剣でないと倒せない。
こいつを持ち帰るとギルドはどう思うだろうか?
「持ち帰るよな」
「宝の山だぜ」
「金貨10枚は固いすよ」
報償金と素材売却で金貨10枚は下らない。
ほとんど無傷だからそれ以上だろう。
持ち帰ってしまった。
疑われたよ。
それでも「パーティの秘密だ」と言い逃れた。
もうこうなると恥も外聞もない。
ただ一つ。
あの子らが危険なら命を投げ出しても助ける。
それくらいは思わないと情けない。
時が流れ、装備も新調し、武器も魔剣などを揃えるようになった。
誰も俺達を怪しまない。
そんなとき、ギルドであの小さな男の子が俺の前に立った。
「一緒に合同パーティを組みませんか?」
断われないよな。




