12.魔法具。(改)
痛い目にあった方がよかったのでしょうか?
クエスト、クエスト。
頻繁にクエストに付き合わされるこっちの身になって下さい。
断崖にロープを設置し、それを使ってショートカットするので河の上流、湖周辺の薬草は取り放題ですが、それもいつまで持つのかと疑問に思うのです。
何でも南の街道の安全を図る大規模な討伐クエストを終えた冒険者はゴブリン残党クエストを受けています。
日に日に魔物の数が減り、上流付近まで魔物に出会わないという異常事態です。
いずれはホルンの丘を迂回して上流まで薬草狩りにくる冒険者が出てくるでしょう。
「下兄ぃ、ここの薬草群もすぐに荒らされて使えなくなると思います。東の森を抜けて、さらに東の魔の森に採取場所を変えたいと思います」
「いいね!」
「魔の森の魔物はここより、さらに凶悪です」
「うん、うん」
「クエストの日を減らして、訓練日を増やします」
「嫌だ! クエスト」
「では、帰りはホルンの丘を迂回して戻ります。下兄ぃが一人で魔物を退治できたら減らしません。それでいいですね」
「魔物なんか、俺が一人で倒してやる」
調子よく受けて立ってくれました。
「わぁぁあぁ、アルぅ!」
「下兄ぃ、がんばれ」
大型のねずみ魔物を何とか退治しましたが、猿系の魔物が群れをなして襲ってきたのです。10匹くらいですが………。
姉さんが浮遊盾を巧く利用して、動きが止まった猿を手早く仕留めてゆきますが、下兄ぃは3匹の猿に囲われて悪戦苦闘中です。
殺さない程度にファイラーの弾丸を撃ち込んで援護射撃して上げているんですよ。
でも、手で振っている剣は威嚇にしかならないので、当たっても致命傷にならないんですよね。
そんなことしている内に姉さんが7匹目を仕留めて、下兄ぃの援護に入って形成が逆転し、2匹が逃げて行って戦闘終了です。
下兄ぃをヒールで治療しておきます。
最近、姉さんの方が強くなってないか?
◇◇◇
クエストに行く日は10が付く日と決めました。
肉問題は床下に冷蔵庫を設置することで解決です。
狩ってきた獲物を捌いて、床下冷蔵庫に保管すれば、10日くらいは持ちます。
肉さえあれば、姉さんはクエストに興味がある訳じゃないんですよ。
因みに、10にしたのは単純に1日でも遅い方がよかったからです。
練習にも身が入るようになったことはいいことですが、二人同時がキツいです。
「はい、ここまで」
「えっ~、もっと」
「素振りが基礎だよ」
素振り稽古に戻して、俺は休憩です。
肉体強化でスピード的には余裕があるのですが、武の才能はないのでこの先はどうしましょうか。
二人相手は体力的にキツいです。
まだ4歳ですからね。
1対1に切り替えた方がいいのかもしれませんが、それだと俺の訓練になりません。
しばらくすると、姉の友達がやってきました。
姉さんも「トモ」とか言っていますし、姉さんの友達なので、『姉友ちゃん』としましょう。
以前、姉さんに魔法の練習をして貰う為に集めて貰った女の子の一人です。
魔法の才能があると言われたのが嬉しかったみたいです。
魔法が使えるのと、使えないのじゃ、就職先も変わってきますからね。
なんと、魔力循環をマスターしちゃいましたか!
スゴいな!
おもしろくでずっと遊んでいたと、魔力量がかなり上がっているので発動量を満たしているようです。
賢者の記憶が俺を突き動かすのでしょうか、これは教えたくなりますね。
簡単な詠唱を教えてみました。
魔法陣の図形を地面に描いて、意味と詠唱とイメージを教えます。
後は何度も練習しておくように言っておきました。
「はい、アル先生」
先生は止めて下さい。
◇◇◇
家の窯から灰を集め、魔力をたっぷりと吸わせて俺の血を加えて秘薬を作ります。
翌日、筆で地面に魔法陣を書き込みます。
もちろん、賢者の魔法陣です。
姉の友達だから姉友ちゃん、魔法陣を踏まないように中央に立って貰い。
俺の血を吸わせた小杖を握らせて詠唱をして貰います。
光、闇、火、風、水、土と繰り返すこと6回です。
姉友ちゃんは水に相性が良く、光も少し使えそうですね。
今度はウォーターの魔法陣に書き直して詠唱をして貰います。
本格的な詠唱ではなく、練習用の水の魔法の詠唱文です。
「きよきむねさとし、はやきこしめし、すめるかみによりてねがう、
いろいろのみたま、ひろひたのみたま、みまもりのみたま、
ねがいかなえためえ、ひろいたまえ、みよきみよためえ。ウォーター」
実はこれ、子供用の詠唱で何となく雰囲気のある言葉を並べているだけです。
水のイメージを強く持って、魔力を杖に巧く流せると、魔法陣が反応して水を発生させるだけのものです。
詠唱は雰囲気、なくても発動する一番単純な魔法陣なんですよ。
もちろん、発動しません。
読んでいるだけで「水よ来い」と心がコモっていません。
心がコモっても魔力を小杖に流すのは忘れれば、やはり魔法陣は発動しません。
心と流す魔力が巧くかみ合わないと成功しないのです。
できるまで何度も繰り返すように言って、こちらは剣術の訓練を再開です。
姉友ちゃん、頑張りますね。
日が暮れはじめ、最後の1回と言って詠唱を始めさせます。
もう何十回も詠唱したので読まされている感じが消え、疲れから肩の力も抜けて自然に魔力が小杖へと流れてゆきます。
「ウォーター」
杖に水の精霊が集まり、握り拳くらいの水が1mほど前に飛んで、ぽちゃりと落ちたのです。
下兄と姉さんが茫然とし、姉友ちゃんは信じられないという感じで固まってしまいます。
そして、しばらくしてから「やった!」と飛び上がったのです。
はじめての魔法です。
姉友ちゃん、それからもう毎日、毎日、少しの時間ですが練習に付き合うようになります。
あれぇ、子守が増えていない?
◇◇◇
かなり上達してきたので思い切って魔道具を買うことに決めました。
冒険ギルド紹介の魔道具屋さんです。
高級な品は置いていないけど、良い品が揃っているそうです。
魔道具屋に入って最初に喰いついたのは下兄です。
「アル、これ買ってくれ!」
「なんですか」
なんと魔剣です。
金貨300枚、買えるか!
薬草クエストの達成金と魔物の買い取り金を合計しても、一人頭で小金貨1枚とちょっとしか溜まっていません。
魔道具屋においてある商品はすべて小金貨以上の表示額です。
今日は下兄と姉さんもモノを買う予定はないんですよ。
俺の資金はマリアさんの依頼発注の達成金です。
冒険ギルドの口座に振り込んで欲しいと文官さんにお願いしていたので、『マリして』1巻とその他の達成金を足して、金貨7枚とちょっとです。
今日の目的は姉友ちゃんの最少魔法陣が書き込める練習用の杖です。
一番安い魔法の杖でも小金貨10枚ですって!
姉友ちゃん、首を横にふりふりしています。
冒険ギルドでも、さすがに魔法の杖の貸し出しはしてくれないから、こっちで用意しないと駄目なんですね。
「叔父さん、ちょっと試していい」
「坊主、ちゃんと使えるのか」
魔法の杖に練習用の魔法陣円を描いてゆきます。
「ほぉ、大したものだ。こっちの奴を試してみろ!」
親父さん、中古の練習用杖を寄越します。
中古ですが、使われている魔法石の純度はかなり高い奴です。
魔法石は純度が高いほど発現時間が短くなり、使いがってがかなりいい奴です。
「いくら?」
「中古だから、10枚で負けておいてやる」
買いましたよ。
「はい、どうぞ」
「小金貨10枚ですよね」
「はい」
「無理です」
「プレゼントです」
「でも・・・・・・・・・・・・」
「トモ、貰っておきなよ」
「いいのかな?」
「いいの、いいの、アル。次は私ね」
「それは今度」
「えっ~~~! 私のも買って」
「魔法を覚えたら買って上げます」
「なぁ、この魔剣」
「下兄ぃ、自分で買って下さい」
さて、後は俺の分です。
◇◇◇
指輪と同じタイプの魔法石を使っている杖を見せて貰います。
10個の魔法陣が使える魔法石が入った杖は金貨10枚くらいです
魔術師はこの指輪を金貨10枚の品だと言っていましたが、この指輪に使われている魔法石の純度は10枚では利きません。
同じくらいの品は20枚、あるいは30枚しています。
さらに大きい中型の魔法陣が書けるタイプは「0」が1つ増えます。
魔道具、めちゃくちゃ高いです。
予算が足りません。
魔法陣が1つか、2つのタイプを探します。
店の奥で純度も高いが値段も高い奴はパスです。
店先に並んでいる奴で、できるだけ純度の高い奴を探します。
おっ、この店の親父は中々意地悪ですね。
見た目が地味だがいい品と見た目がいいが中身が粗雑な品を混ぜて置いてあります。
まず騙され易いのが美しい純度を見せる魔法石です。魔法石の純度は水晶体の純度と違い、澄んでいるだけで純度が高い訳ではないのです。
澄んでいるように見えるのは水晶が混じっている為で見た目より粗悪な魔法石なのです。もちろん、水晶が混じっていないで澄んでいる魔法石が最高ですが、見た目で判る奴は棚の奥に並べています。
俺が買ったのは、金貨5枚と金貨1枚の表示がされていた奴です。
金貨5枚、鎖が付いているだけの単純なネックレスです。
濁って見えるのは表面と内部の純度が異なる為で、中側はしっかりしています。
魔法石は小型の魔法陣が2つ組める奴です。
もう1つの金貨1枚は、短い杖で1組のみ魔法陣が組み込める魔法石が入っている奴です。
魔法石がほとんど杖に覆われて見えないので、実際に魔力を通して確認しないと判らないのです。
「こりゃ、参った。これを買われたらウチは赤字だよ」
最高の賛辞です。
◇◇◇
さぁ、家に帰って魔法の実験です。
結果だけ言えば失敗です。
異なる魔法石では合成魔法は使えないようです。
仕方なのでネックレスには2種類の治療のヒールの魔法と毒消しの魔法を移します。
短い杖には土魔法の土塁魔法を組み込むことにします。
基本は土魔法ですが、必要に応じてその場で書き換えて使うつもりなのです。
開いたエリアに風魔法を復活します。
風の魔法は火の魔法のような殺傷能力はありませんが、多様性が秘めています。
たとえば、
風の魔法で酸素を集めて、火の魔法で点火すれば、瞬間的な火力が増して『ファイヤーボール』擬きが完成します。
あるいは、風(酸素)の渦を作って、炎を合成すると『陽炎』擬きが完成します。『陽炎』は中級魔法の『業炎』には遥か及ばない小威力の魔法ですが、竜巻のように移動させれば、かなり広範囲に被害を及ぼせるのです。
初級魔法を2つ合成して、初級魔法の上位の魔法を作り出し、運用で中級魔法と同じ威力を発揮せる事ができます。
これが風の魔法の運用性の広さなのです。
火の魔法の威力を極限まで弱め、風の魔法から雷を作り、夜空を火の祭典で埋め尽くす『花火』という威嚇魔法もありますよ。
マジで工夫すれば、普通の花火に応用ができそうです。
賢者が魔力の低い人ように作った合成魔法に感謝です。
しかも、この世界では魔法陣が2つ同時に使えますから、合成魔法用の特殊な魔法陣なして発動できるのは、やっぱりチートですよね。
◇◇◇
姉友ちゃんは魔法の杖で『水球』を作れるようになりました。
今度は魔力循環と同時に魔力コントロールを習得するように言っています。
魔力コントロールができるようになると、水球でも殺傷性が生まれます。
うん、うん、努力あるのみ。
えっ、クエストに付いて来ると言い出しましたよ。
姉さん、ここはがつんと断って下さい。
「一緒に行きたいの? 嬉しい、一緒に行こう」
「いいの?」
「いいに決まっているでしょう」
とりあえず、姉さんと半日一緒に走れるようになったら連れて行って上げると約束しました。
姉友ちゃん、妙に真面目だからきっとできるようになりますよ。
あ~ぁ、やっぱり子守が増えた。




