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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第一部.幼少チートで優雅な(?)ウハウハ編、どこがウハウハなのですか?
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6.母さんの争奪戦。(改)

あぶぶぶぶ~!

母さんを助けると心に誓った俺ですが、具体的に何ができるかと言えば、何もできません。

立つ事も、しゃべる事も、魔法を行使する事もできません。

何もできないのです。


こうなっては悪魔に魂を売ってでも体を鍛えなければなりません。

幸い、姉さんは俺にかまいたくって仕方ないようです。

この際、痛いとか、危ないとか、二の次です。

そして、力尽きて眠気が襲ってきた所で魔力を使い切ります。


たとえ、うめぼし程度であっても使えば、増えてゆくのです。

魔力を意識したなら、それを動かす事を意識し…………。


「ふえぇぇぇぇ、アーたんが動くなくなった」

「あら、あら、疲れちゃったのね」

「ぐずぅ、アーたん、動かない」

「おねむから起きたら、また遊べるわよ」

「ほんと」

「うん、大丈夫」

「やった」


俺は起きるまで、頬をつんつんしながらずっと待っていたなんて知る訳もありません。


 ◇◇◇


魔術士が去ってから5日ほど経ったある日の事です。

変わった制服を着た女性が俺の家を訪ねてきたのです。

彼女はティンク・フォン・リトルス(ミリフォ)男爵夫人と名乗り、役所の魔法課から派遣されてきた俺の記録係と名乗ります。


もちろん、そのときの俺は彼女が何を言っているのか判りません。

この世界の言葉を理解できていなかったからです。

それから学び直し、改めてあいさつをしたのは3ヶ月後になります。


「はじめまして、アルフィン・パウパー君」(നിങ്ങളെ കാണാൻ രസകരമാണ്)


彼女は何かを言って手を出してきたのであいさつだと気づきます。


あぶ、ぶぶぶ。


マジでこの舌が回りません。


「そっか、まだしゃべれないか」(സംസാരിക്കാനാവില്ല)


その日はあいさつだけで帰っていったのですが、翌日から絵本を持って字の勉強をはじめてくれたのです。おもしろがった姉さんと下兄がやってきて、さながら保育園のようになりました。


なんか凄く惨めな気分ですが、言葉を覚えないと始まりません。


一カ月もすると、大体の言葉は理解できるようになりました。


「はい、これは何でしょう?」

「うさぎたん」

「は~い、正解です」

「アーたんも言ってみましょう」

「うばぁぶぶ」

「違うよ。うさぎだよ」

「うばぁぶぶ」

「シュタニー君、これは何ですか?」

「うさぎ」

「はい、よくできました」

「えへへへ」


正しく発音できないのは俺だけです。

言葉は理解できても舌が回りません。

姉さんは純粋に勉強して、それを俺に教えるという遊びを覚えたようです。

下兄さんはどうも文官のお姉さんに興味があるようで、気を引きたいみたいです。


「では、この紙にうさぎさんの絵を書いて下さい。お姉さんはアーたんとお話しがあります」

「「は~い」」


姉さんと下兄さんは絵本を見ながらうさぎの絵を写してゆきます。

面倒見が巧いと言うか、手慣れたモノです。

俺との会話は「Yes、No」(あ~、なぁ~)の二択で会話を進めます。


俺が異世界人の地球人である事を確認し、職業や死んだ年齢、どういう特技があるかなどを聞いてきます。


何でも同じ転生者でも異世界人とこの世界の転生者では待遇が違うそうです。


基本的に転生者は『論文』という前世の記憶を元にした社会情勢や政治体制、歴史、文学などを文章にして提出しなければいけません。つまり。高価な魔道具をタダで使わせてやったからその分の知識として返せという訳です。


ですから、この国の転生者であった場合、元高貴な貴族だったとか、武技や特殊な技能を持っていない者は魔道具を使わせて貰えません。但し、聖騎士や魔法師だった場合は技能として優遇されるのです。


他国の転生者だった場合も異世界人と同等に扱われます。


この国は異世界の文化まで貪欲なまでに取り入れようとするのです。


「ですから、学校でならった教科書の1章程度を論文に直すと銀貨1枚が保障されます。逆に小説などは評価が分かれますので、評価点が貰えない場合があるのです。判りました」

「あ~」

「そうですか、では、次の説明に進みます」


普段、何気なく見ている新聞の記事も論文の評価対象になるそうです。


閣僚名簿みたいなモノも評価する訳ですが、意味があるんでしょうか?


俺が首を捻ったので聞き返してきます。


「なにか判りませんでしたか?」


(い)(み)(が)(わ)(か)(り)(ま)(せ)(ん)

文字のボードを指差して意図を伝えます。


「あっ、意味が判らないのね」


意味のないように思える閣僚名簿や新聞の三面記事は、時代を検証する手掛かりとされます。


たとえば、自分が大統領と転生者が言った場合、何を手掛かりに本当か、嘘かを証明するのでしょうか?


そうです。


もし、その大統領が自分の事を美化しようと、あること、ないこと、回想録として論文に書いたと場合、その時代で起きた地震や事件の時期を比較して検証するのです。


そんな時、何気ない時系列が手掛かりになるので大切にされます。


私の指示で戦争に勝利したと書いても、複数の誰かが戦争に負けたと記録されていれば、大統領が嘘を言った事が判ります。


つまり、新聞の三面記事でも加点が付き、銀貨1枚が貰えるのです。


些細な事でも集めようとする。


ホント、異世界の文化や技術を取り入れることに貪欲そうです。


文官さん、特に料理のレシピがお得だといいました。


王宮料理人が欲しがっており、たった1枚のレシピが花丸3重の銀貨3枚になることもあるようです。


残念ながら俺には関係ありません。


料理なんてやった事もありませんし、料理本も読んでいません。


こんな事になるなら、読んでおけばよかったです。


 ◇◇◇


文官さんは異世界文学、特に日本文学をこよなく愛する文学少女と自称します。

万葉集や源氏物語や竹取物語などの昔話や近代の竹くらべなどの作品も読んでいるそうです。


「そして、現代文学の最高峰は王宮学園恋愛物語の『マリかの』です。『マリかの』をおいて、他に肩を並べるものはないのです」


俺も読んだ記憶がありますが、そんな高い評価を受けていた作品ではありません。

まぁ、アニメ化されるなど話題になったので、悪い作品でもないと言う程度です。


ただ、一部のファンに熱烈に愛された作品と記憶しています。


「私が人事課を選んだのも、いつか『マリかの』の原文を書ける転生者に出会えるかもしれないと、淡い夢を描いて生きてきたのです」


あ~ぁ、これが熱烈なファンですか。

そんな呆れ顔の俺を文官さんが見ています。


じっ~~~~~~~~と!


肩をがっちりとホールドされて、俺の顔をじっと覗き込むのです。


「今、呆れていましたよね」

「…………」

「もしかして、『マリかの』が書けますよね」

「なぁ~」

「嘘です。絶対に書けます」


勘がいいのか、『マリかの』だけは特別なのか知りませんが、文字を指差して、「字が書けない」と説明します。


「みみずが張ったような字でも構いません。書きましょう。あなたは『マリかの』を書く為に生まれて変わったのです」

「なぁ~」(嫌ですよ)

「紙とペンとインクの全部を私が提供しましょう。時間はいくら掛かっても構いません。やりましょう」


それはおいしい提案です。

もちろん、書くに当たって条件を付けました。


文字を書く時は、姉さん達が邪魔をしないように子守をする。


即答ですか!


文官さん、役所の仕事が終わると毎日通って、姉さんらの子守をしてくれます。

その間、ミミズが這うような字ですが、『マリかの』を少しずつ写本してゆくのです。

用紙一杯に1行程度の文字しか書かれていない原稿を大切そうに持って帰るのです。


早く巧くならないと申し訳ない。


 ◇◇◇


午前と午後は姉さんと一緒に体力作り、体力が尽きる前に魔力も使い切るという生活を続けます。夕方は文官さんが来てくれて、文字の練習です。


文官さんが買って来てくれる焼き菓子が貴重な栄養源となっています。


上兄が俺の離乳食を食べるから月末になると、数が足りなくなってイモを潰して即席の離乳食に変わります。

どうみても栄養価が足りていません。


俺が離乳食を食べている隣で、朝は蒸かしイモ1個と具のないスープを食べ、夕食は堅そうな黒パンと具が少しだけ入ったスープの二食です。


兄さんと姉さんが痩せているのも頷けます。


腹が減った上兄が離乳食を摘み食いするのも判ります。


「おはか、へって、かけません」


「おはか? あっ、お腹ね。大丈夫、任せて」


そう言うと文官さんは、毎日のようにおみやげを持ってくるようになったのです。


ありがたや、ありがたや!


 ◇◇◇


文官さんが来てから4ヶ月もすれば、少し話すこともできます。

呂律が少しおかしいのは勘弁して下さい。

まだ、手が小さくて指に挟んて文字を書く事はできませんが、スプーンを握るようにペンを持って書いています。

文官さんが子守してくれている間に『マリかの』の写本も順調に進み始めます。


文字が書けるようになったので小遣い稼ぎに『論文』にも挑戦してみようと思っています。

一番確実なのが歴史モノらしく、時代ごとに400字詰めの原稿に100枚で評価が1点の銀貨1枚が貰えます。


芋6個が銅貨10枚で買えます。

銀貨1枚は銅貨100枚ですから、10食分の食費代が手に入る訳です。

銀貨を手に入れて、母さんに喜んで貰う。


ふ、ふ、ふ、目にもの見せるぞ、馬鹿親父。


『マリかの』のような単行本には当たり外れがあるのがあり、査定が難しいそうです。

また、すでに書かれた文学書は評価されず、評価点も付きません。

しかし、その作品を欲しがる人がいると、1冊写本される毎に銀貨3枚の原稿料が加算されるのです。


文官さんの協力もあり、苦節5ヶ月を掛けて『マリかの』の第1巻を終えました。

はじめて『論文』も提出しました。

その評価はできるのは3ヶ月後だそうです。


「これで『マリかの』は卒業ですね」

「何、言っているんですか! 2巻も書きましょう。書くべきです。書かないなら酷い事します」


まったく、どれだけ『マリかの』が好きなんですか?


まさか、全10巻を書けとか言わないですよね。

紙代とおやつの供給を継続することを条件に書くことを承諾します。

何でも紙やインクは評価されないと支給されないそうです。


紙もないのにどうやって『論文』を書けっていうんですか?


「普通の転生者は5歳になると学校にいきます。学校に通うようになると紙が支給されるので『論文』も書き放題になります」

「いっさいで ろんぶん、めずらしい」

「はい、1歳の論文提出は貴族以外では珍しいです。私がいてよかったでしょう」


まぁ、ラッキーと言えば、ラッキーのようです。

1枚銅貨10枚もする高価な紙を無尽蔵に練習するなんてできません。

楽しそうにらくがきしている姉さんを見て、母さんが紙の値段を聞いたのです。


「すみません。いつも子守みたいな事をして頂いて」

「気にしないで下さい」

「ところで、これおいくらですか?」

「たったの銅貨10枚です」

「じゅっ、銅貨10枚も! これ1枚でじゃがいもが6個っ」


たくさん散らばっている紙を見て母さんはひっくり返ります。


文官さん、割と太っ腹です。


「マリかのの為でしたら、身を削っても協力します」


単に馬鹿なだけかもしれません。

俺が執筆するとお菓子がたくさん貰えると知ったらしく、姉さんが代筆中に邪魔をしなくなったのは大きいです。


人間、学習する事は大切です。


 ◇◇◇


最初の提出から3ヶ月、あと2ヶ月で2歳になると言うのに、俺の体はまだヨタヨタ歩きでできるようになった程度で嫌になります。

今日も夕方になると、俺に『マリかの』の執筆をさせる為に文官さんがやって来ました。


「アル君、アル君、論文の報告書が届きました。お祝いにクッキーを持ってきました」

「「「ヤッタ」」」


姉さん、上兄さん、下兄さんがクッキーを聞いて飛び跳ねます。


上兄さんは夕方になるとやって来て、お菓子だけ食べるとどこにか消えます。

下兄さんはちゃんばらが好きで上兄や近所の子供とよく遊んでいますが、夕方前になると戻って来て、文官さんにがんばってアプローチを続けています。

姉さんは俺にかまうのが好きですが、最近は外で遊ぶことを多くなってきました。

でも、絵を描くのも好きみたいで、もうすぐ絵本の写本が完成しそうです。


文官さん、毎日が保育士ですね。

でも、今日の文官さんは姉さんらを放置して報告書を俺に渡します。


「さぁ、さぁ、早く開けて下さい」


この顔は結果を知っている顔でする。

俺がはじめて出した論文は、歴史資料本の一部抜粋した2作品と文学の短編10作品です。封筒を開くと歴史物2、短編10、長編1と書かれています。


長編なんて出した覚えはありません?


歴史資料は評価1点が2つ、短編の1作品は評価1点が1つで、保留が3作品、残りは6作品が無評価です。


文学作品は効率が悪いと聞いていましたが本当です。


問題は長編作品です。

文官さん、俺は書いたミミズの這った文字を清書して、『マリかの』も提出してくれたようです。そして、その評価が問題です。


花丸3重の『よくできました』の評価3点です。


頑張った論文が評価3点で銀貨3枚、タダのノベラー小説も評価3点で銀貨3枚とは?


「みました、みました、みました、みました」

「はい」

「マリかの、最高評価を貰いました。感動です。感謝です。感激です」


文官さんがハイテンションな理由がよく判りました。

そして、奨励金の銀貨6枚が入った袋を俺に渡してくれたのです。

それを母さんに渡します。


「銀貨が6枚も」

「母さんにあげる」

「アル、アル、アル、ありがとう」


母さんが感動の余り抱き付きます。

そして、キスの嵐です。

あぁ~、幸せです。


 ◇◇◇


この幸せを文官さんは割り込んで邪魔をするのです。


「さらに凄いお知らせです。なんと『マリかの』ファンの10名の貴族様から予約も入りました」


おぉ、確か小説の印税は銀貨3枚と言っていましたから銀貨30枚ですか!


「ぎんか30まい」

「違います。貴族様の買い方と言えば、観賞用・保存用・布教用で三つが基本です」


どこのオタク用語ですか!

元ネタはイギリスの書籍収集家リチャード・ヒーバーであり、ヒーバー曰く「紳士たる者、書籍は3部所持するものだ。1部を見て、1部を使い、1部は貸し出すのである」と言ったとか言わなかったとか。


まぁ、いいでしょう。

ともかく、銀貨で90枚、30冊も売れるのは超ラッキーです。

写本士の数が足りないので月に10冊ずつ進めるらしいです。

つまり、3ヶ月間、銀貨30枚が安定収入で入ってきます。

もしかして、父に勝ったかも?

今度、調べてみましょう。


「さらに、その中の貴族様が全巻を全国の図書館に寄贈するとか言い出していますから、3000か所に配布する事になるかもです。これが実現すれば、全国の『マリかの』ファンがもっと増えますよ。なんて感動的な話でしょう」


おい、おい、おい、ちょっと待て!

全巻って、この『マリかの』って、全10巻ですよ。

1冊銀貨3枚が3000冊で銀貨9000枚、さらに10巻で銀貨9万枚です。

銀貨10枚で小金貨1枚で、

小金貨30枚で金貨1枚で、

金貨300枚になるって事ですか?


異世界人は馬鹿ばっかだ!

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