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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第一部.幼少チートで優雅な(?)ウハウハ編、どこがウハウハなのですか?
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4.談話、それとも拷問。(改)

テメぇ、殺すぞ!


1年間の地獄から解放されてから1週間後にやって来た魔術士に言った一言です。


“は、は、は、判りますよ。私もそうでした。そうでした”


俺は魔術士に笑いを提供したつもりはありません。

エンドレスで42年間の人生を何度も、何度も、何度も、何度も、殺してくれと何度も思ったぞ。


“私も再度訪ねて来た魔法士にそう怒鳴りつけました。悪態を吐きました”


結局、あの悪夢は1年間も続いたのです。

何でも半年で止めると10年くらいで記憶の損失が起こるらしく、結局は1年間も続ける事が合理的と判断されたと弁解じみた説明をしてくれます。


あっ、そう。それがどうした。


魔術士の質問にも乱暴に応え、真面目に答えるつもりもありません。


それだけ、俺の心はやさぐれていた訳です。


 ◇◇◇


人の記憶と言うのは都合よく忘れることで平静を保っているのだと実感しました。

忘れてはいけない思い出と、忘れてしまいたい記憶は心の戸棚にしまっているのです。

そうしないと心が壊れてしまうのでしょう。

俺が壊れなかったのはどこか他人事、あるいは、40年余りの人生経験というフィルターを通して見直していたからなのでしょう。


40年もあれば、酸いも甘いもありました。

若い頃のように単純な正義や超絶な悪がない事も理解しています。

猪突猛進は若さの特権です。

しかし、自暴自棄になる自爆装置を抱えているようなものです。


“どうだい、ちょっとすっきりしたか”


まだ、まだ、罵倒が足りん。


“時間がない。話を進めさせて貰うよ”


仕方ない。赤ん坊の体力には時間の制限があるので腹をくくります。


いいか、大きくなったら1発殴らせろ!


“は、は、は、困りましたな”


はぐらしやがった。


魔術士はマヨネーズのレシピなどを公開しても何の加点にならないといいます。

しかし、まだ発表されていないレシピであれば、加点の対象です。


“ともかく、目新しい事を発表すると、加点が貰え、それに応じて金銭が貰える”


最も毎日の食事の献立を聞いて楽しくないと思うぞ。


“いやいや、意外と重要ですぞ”


何が?


“地方特有のレシピというは、王族の料理人に受けておりまして、意外な料理が加点されますぞ”


魔術士が胡散臭い親父顔の相好を崩してにやりと笑います。


この1年で目が見えるようになりました。

耳も聞こえるようになりました。

まだ、言葉は理解できていないので、念話でないと話せません。


魔術士は思っていたよりかなり若く、白髪の老人などではありませんでした。

親父臭い顔でありますが意外と若そうです。


“誰が親父顔だ”


おまえに決まっている。


1歳になっても巧くしゃべれないのは、魔道具の悪影響です。

ほとんど1年間、しゃべっていないので呂律が回らず、声はウーとか、アーとしか出てきません。

未だに不便です。


俺の名前がアルフィン、アーちゃんと呼ばれています。


母の名前は判らず、母という単語は覚えました。

上の兄がウェアニーで、ウーちゃん。

下の兄がシュタニーで、シーちゃん。

姉がアネィサーで、アーネェちゃん。


“母親の名前を知りたいか”


知りたい。


“母はエミット、父はシュド・パウパーだ”


父はどうでもいいです。

というか、あれ何歳だ?


あれで20歳とか言ったら俺は泣きますよ。


“母親は15歳で”


若っかぁ!


“父親は46歳だったかな”


なんじゃそりゃ!

犯罪だろう。


“この国ではよくある”


魔術士の話では、貧しい者が手に職を付けるには時間が掛かり、店を持てるようになるには早い者で30年、遅い者で40年も掛かるそうです。俺の親父はちょうどその中間の35年程度で店を持ったそうです。そして、店を持った者が一人身なら近所の者が口減らしに娘を嫁に進めてくるらしい。


“どうだ、納得いったか”


それにしても若すぎるでしょう。


“女の子の結婚適齢期は10歳から15歳で、遅くとも20歳までに相手を見つける”


なんていう設定だ。


“何を言っている。中世では寿命が短い。子供の死亡率も高い。戦国時代だって12歳くらいで成人して嫁いでいただろう”


そう言われれば、そうですね。

何を納得してんだ。俺ぇ!


“子供の致死率を下げるのに食糧の改善は急がれている。養鶏の知識はあるが、技術はない。もし、持っているなら特許が取れるぞ”


流石にその知識は持っていません。

因みに、じゃがいも6個で銅貨10枚に対して、卵1個が銅貨100枚(銀貨1枚)というのですから卵に如何に貴重かが判ります。


“実はな。儂も昔、マヨネーズを作って叱られた。私は子爵家の子供で生まれたが、銀貨1枚もする調味料を作って、一カ月分のこずかいを取り上げられた。この貧しい家でそんな事をすれば、母親がひっくり返って気絶するぞ”


同じ意味で火縄銃の知識も意味ありません。

王族には拳銃、ミサイル砲、ビームライフルにレールガンなども存在するという?


何故、クエッション。


“単なる噂の範疇だからだ。魔法ライフルまでは見た事がある。チートと言えば、農業はしない方がいい”


この世界では腐葉土などではなく、粉のようなものを捲くバイオ農業が主流らしい。

その粉を捲けば、貧しい土地でも微生物が活性化して作物ができ、連作障害の危険もない。


何、それ?


何でも100年後に生きていた転生者が齎した技術らしい。

タイムパラドックスは起こらんのか?


“そんな技術的な事は知らん。その男は様々な技術を齎したと言われる。どうしてそんな中途半端な言い方になるかと言えば、その男が齎した情報のほとんどが秘匿情報であり、俺達が見る事ができない。バイオ農業の技術を王国が独占していなければ、その男の存在そのものを疑いたい”


毎年、夏と冬に荷袋1つ分の白い粉が送られてきて、農家に配布される訳ですか。

それさえ捲いていれば、肥料要らず、農薬要らず、連作もOK。

遺伝子改造技術より凄い技術です。


“欠点が1つだけある。雑草も成長著しいので雑草刈りに始終追われる”


なるほど、農家が暇になる訳ではないのですね。


 ◇◇◇


技術というのは、必ず進歩している訳ではありません。

中世のヨーロッパには上下水道という認識がなく、コレラや黒死病はわずか数年でヨーロッパの60%との命を奪いました。しかし、それより昔のローマでは広がりません。


何故か?


ローマでは上下水道が整備され、浴場を完備していており、清潔なローマ人には無縁の伝染病だった訳です。


他にも古代ローマのローマン・コンクリートなどの様々な技術がゲルマン民族の侵入で失われてしまい、ルネッサンスが起こる1000年後まで古代以前に後退するのです。


この世界は中世のような暮らしをしているそうです。

人の行き来は馬車を使い、電気などは発達していません。

しかし、魔法があるので大貴族は現代に近い暮らしの者もいるのです。


問題なのは神も悪魔も魔族もいることです。


神様がいるので教皇の権威は王様と同等と考えていいようです。


なんと言っても神様を怒らせれば、国なんて簡単に滅んでしまうと言うのですから冗談じゃありません。


リアル神は怖いですね。


 ◇◇◇


俺が生まれた王国はアルゴ王国といい、王政の国です。

魔法の研究が盛んに行われて、優秀な学生は王都に集められて英才教育を施されます。

具体的に言えば、初等科という小学校みたいな所に入学し、優秀なら王都の高等科に進学するという感じです。


“転生者は全員が国庫で初等科に入学できえる。飯が旨く、食べ放題だ”


それって、俺の家が貧乏という事を指しています。


“もちろん。この家でも年に1度くらいは肉が食べれるだろう。しかし、学校に行けば毎日のように食べられるようになる”


そう思うなら国の支給額を増やしてくれればいいのにね。

まぁ、一役人の意見が上に届くことなどありません。


俺が住む城壁市はこの土地の名前である北の果てという意味で『エクシティウム』と名付けられたそうです。普通は領主の家名を取るらしいのですが、ここの初代領主は変わり者だったらしいです。


人口は約3万人。


この町には300人ほど転生者が住んでいるそうです。


100分の一です。


その中でも異世界転生者は珍しいのですが、

去年は豊作な年で異世界転生者がこの地区で3人もいたと魔術士は答えます。


もちろん、その3人がすべて魔術士の担当です。


“そうじゃない。私はこの地区で転生者100人の観察者している。その中から魔法の才能をある者を探して、育成することが仕事だ。異世界転生者はそのオマケに過ぎない”


オマケですか。


“そう、おまけだ。ただ、嬉しい事に運よく、その三人とも日本人というのは神に感謝したい”


おぉ、何と!


すべて日本人ですか。

会ってみたいですね。


魔術士はこの市を含めて3つ市を担当し、10日ごとに巡っているそうです。

10日と言えば、この世界の1ヶ月は30日だそうです。


世界の暦は創造神アニミーの名をとってアニミー歴と王国歴もあり、今年はアニミー歴(新生歴)5139年、アルゴ王国歴1839年だそうです。

1年は300日。

1月は30日。

1週間が10日。

1日は12刻で区切られます。

10月の最終日は2年に1回の割で大年寄という調整日が1日加算されます。

よく判りません。


“地球と比べようとするから頭が混乱する。地球は地球、アルゴはアルゴだ”


考察はまたいつかにしましょう。

まだ、このおっさん以外は意思疎通ができないんですよね。

慌てても仕方ありません。


 ◇◇◇


同郷という事で良くしてくれているのか?

日本語を介しての会話が楽しいのか?

魔術士はよく雑談に付き合ってくれます。


しかし、魔術士の仕事は転生者に魔法を伝えるのが仕事であり、仕事もせずに帰る訳にいかないのです。まずは魔力の存在という事を説明してくれました。


“何となく、理解できたかな。転生者が300日間も魔道具に接していた為に魔抵抗というスキルを得ている。これは魔力を枯渇するまで使いきると昏睡して危険な状態になるのを防いでくれるありがたいスキルだ”


魔抵抗って、魔法攻撃に強くなるとかじゃないんですか?


“確かに精神攻撃、あるいは、純粋な魔力で攻撃した場合はそうなるが、大抵は精霊に干渉して炎や水、氷、風などの半物理攻撃が主となる。そのような攻撃に対して魔抵抗はまったく関係ない”


確かにアンデッドの精神攻撃以外は関係ないわな。


“その中2病的な感覚はこの世界で強い武器になる。魔法というのは結局の所、思い込みの力だ。あると信じれば存在し、ないと思っている限りは発言しない。魔力があると信じて、手に集めるイメージを強く持って欲しい。一度発現すれば、転生者は魔力を枯渇するまで使えるというのは少ないメリットだ。がんばってくれたまえ”


要するに俺が魔力を発現するまで、あんたの仕事はない訳か。


“は、は、は、そういう事さ”


給料泥棒だね。


“そういう事を言っていいと思っているのかな”


散々、酷い目にあったんだ。

これくらいは当然でしょう。


“ふ、ふ、ふ、私が体験した本当の地獄を教えて上げましょう”


何だよ。

やるか!


「お母さん、何か臭いますよ」(അമ്മ、ഗന്ധം)


何か、母と言ったような気がします。


「あら、あら、ホントですね」(ശരി)

「もう、おはなしおわった」(അവസാനം)

「ええ、終わりましたよ」(അവസാനം)

「やった」(ഓ)


母さんとちっちゃい姉さんが駆け寄ってきます。


「さぁ、綺麗にしまようね」(ക്ലീൻ)

「ちれい、ちれい」(ക്ലീൻ、ക്ലീൻ)


ちょっと待て!

魔術士が何を言ったのかすぐに判りました。

排○です。

う○ちです。

お尻がむずむずしていましたから間違いありません。

赤ん坊の体は自分の意志ではどうにもならないんですよ。


“うん、綺麗なお母さんを持ってよかったね”


糞ぉ、知っていて言ってやがる。

性格悪いぞ。


オムツを外されて、湿らせた布で何度も綺麗に拭かれます。

紙オムツなんてありません。

ウェットティッシュなんて便利道具もありません。


きゃあぁぁぁぁぁ!

許して下さい。


「おもちろい、おもりろい、アーたんのおかおがまっかか」(രസകരം、ചുവപ്പ്)

「ホント、顔が真っ赤ね」(ചുവപ്പ്)


SAN値ピンチ、SAN値ピンチです。

2・3度と綺麗に拭き終えると…………止めて!


ぱっくん。


きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

止めて、それは駄目えぇ。


「おもちろい、おもりろい、あたちもやる」(രസകരം、

「アーネちゃんはもう少し大きくなってからね」(ഓ、വളരുക)

「やる~」(ഓ)


ぱっくん。


止めて、絶対に止めて、倫理的に持ちません。


“君のお母さんは綺麗だし、幸せだろう”


そんな訳あるか、恥ずかしくて死にそうだ。


“は、は、は、恥ずかしがることはない。日本のように便利グッズと石鹸が発達している地域では奨励されないが、東南アジアでは口で綺麗にするのは今で続いているそうだ。”


きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


お願いします。

どうか、どうか、母さんにやめて、とめて、やらないように言って下さい。


“は、は、は、私もそう嘆いたよ。でも、楽しいから嫌だ”


この鬼、悪魔、呪ってやる。

絶対に石鹸を開発してやる。


“石鹸ならすでに出回ているよ。油が高いので流通できないだけだ”


そういう重要なことは先に言え!


“は、は、は、ではな”


そう言うとドアを開けて去ってゆく、魔術士を見送りながら俺は叫びます。

糞ぉ、いつか仕返ししてやるからな!

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