表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第三部.児童チートで優雅な(?)陰謀編、なにもしないうちから恨み買っています。
187/198

34.人間大砲。

館を出た俺達は昨日の酒場に戻って情報を集め直します。

真新しい情報はなく、逆にステイクから教会都市に急ぎの使者が出たと聞いたくらいです。おそらく、ステイク侯爵が教皇派を離脱したという表明を知らせる使者でしょう。


遅い昼食を終えて酒場を出ると、黒猫が黒い馬車の横で待っていたのです。

俺が近づくと膝を付いて報告します。


「どうかしましたか」

「今朝、教皇からアンニに召喚状が届いた。今日中に教会都市の大聖堂に出頭しない場合は破門に処す」

「まさか、行ってないだろうね」

「売られた喧嘩は買う。アネィサーは凄い鼻息だがトモが止めた」


確かに見習い神官ちゃんと姉さんなら召喚されたその日に殴り込みに行きそうです。

姉友ちゃん、感謝!


「で、引き留めには成功したの?」

「無理、ティナとシェリーが手紙を見て向かったが、神官見習いのアンニが破門を良しとする訳がない」


Oh My God!


そりゃ、そうだ。

お茶会と赤毛のお姉さんらが止めて聞く二人じゃない。


「これは我々が逃げ出した事を考えて、人質を取るつもりですね」

「あぁ、そうだろうね」


俺が大勢の領兵と冒険に襲われて取る手段は2つです。


戦うか。

逃げるか。


普通、大軍に襲われたら逃げますよね。

そう考えた教皇らは、姉さんらを捕えて人質にして、俺を誘き出すつもりなのでしょう。


汚ねいな!


王都まで350km以上あります。

馬を限界まで走らせても4時間以上も掛かります。


ちょっと待て!


「姉さんらに会ってから来たんだよね」

「当然、ティナとシェリーが来たので知らせに来た」


黒猫、時速何kmで走って来たんだよ。


無茶するな!


「義理の姉の命が掛かっている。当然の事」

「ありがとう。感謝する」

「感謝して」


王子は俺が何も言わない内に背中を押してくれます。

変な所が優しい第3王子様です。


「護衛を外れます」

「先に行ってくれ! すぐに馬車で追い駆ける」

「先生、後をお願いします」

「がんばりな」

「はい」


俺と黒猫は城門の方に走ってゆきます。


さて、問題は姉さんだよね。

お茶会と赤毛のお姉さんらで何時間の足止めができるのか?


「ここに来るまでに何刻ほど掛かった」

「3刻」


3時間ですか、姉さんなら限界でしょう。


俺は城門を出た所で道から外れて、林の方に走ってゆくのです。


 ◇◇◇


人間大砲というマジックをご存じでしょうか?


大砲の中に人が入り、時速100km以上の速度で打ち出すサーカスなどの曲芸です。

装着するのはヘルメットとパッドのみで失敗すれば、死亡もあり得る危険な技です。


というか、多くの挑戦者が死んでいます。


俺がそれに挑戦したのはS級の魔物に小公女さんが襲われた時です。

自分の正面に加速陣を5つ発生させて撃ち出した訳です。

蹴り出した速度を考えると、時速何kmで飛び出したのか判りません。


着地に失敗して、大根おろしになる所でした。


人間大砲はそれよりマシという程度で、できれば遣りたくありません。


「俺に命を預ける覚悟はある」

「妻が夫に命を預けるのは当然」

「あれって、王子の命令でしょう」

「そう、妻になれば、沢山の人を救って貰える。打算の産物」


自分で打算って言いますか?

俺の事が好きって訳じゃないんでしょう。


「そんな事を気にする必要はない。許容の範囲、私は幸せ」

「意味判りません」

「アルといるとおもしろい。楽しい。沢山の人が助かる。私は幸せ」

「はい、はい、とにかく、命を預けてくれると」

「うん」


俺は黒猫を両手で抱えます。


「おぉ、これが噂に聞く、お姫様だっこ」

「教会都市の方向を教えて下さい」

「あっち」

「じゃぁ、行きます」

「うん」


目の前に仰角30度の加速陣10枚を出現させます。


ゆっくりと入ると、時速0.72kmが、加速1.44km、加速2.88km、加速5.76km、加速11.52km、加速23.04km、加速46.08km、加速92.16km、加速184.32km、加速368.64km、加速737.28kmと発射されます。


さすがに生身で音速の壁を超える気はありません。


約10秒間で高度250mほど上がり、進行方向に1500m進みます。

そこで次の加速陣を形成して、さらに4回ほど繰り返すと高度1000mまで上昇した所で、仰角20度に変えて20秒置きに加速陣を作ってゆくのです。


平均時速は500kmを越え、40分余りで教会都市に到着するハズです。


なんて便利な魔法でしょう。


でも、消費する魔力も半端ありません。

野球のボールくらいなら、ファイラー1発で5枚くらいの加速陣を作れますが、サッカーボールくらいになるとファイラー1発分くらいを消費します。そして、俺を飛ばすとなると100倍の魔法消費量が掛かるのです。しかも風除けとして、防風の魔法壁を発生させていますから105倍くらいは必要でしょうか?


今の魔法量は13万マジック程度ですから、加速陣1ゲートに付き1050マジックを使用し、教会都市まで120回は繰り返しますから12万6000マジックを消費します。


1時間も飛んでいられない。

割りとカツカツな状態です。


イザとなれば、魔力回復薬のマジックポーション20本があるので何とかなると思います。


 ◇◇◇


腕の中の黒猫が目をキラキラさせています。


「凄い、凄い、飛んでいる。飛んでいる」

「方向を間違わないで下さい。やり直しは利きません」

「大丈夫、任せて」


街道を見ながら進めば、間違いないのでしょうが最短距離になりません。

黒猫だけが頼りです。


何故、グライダーを考えないのかと言えば、グライダーを通す加速陣が大きくなり過ぎて、魔法の消費量が割に合わないからです。


グライダーを作るくらいなら、ハンググライダーを竹か何かで作って、風魔法でコントロールした方がマシなのです。


ただ、ハンググライダーの速度は30~40km程度ですから、馬の方が断然速かったりします。


乗り物としては、中途半端なのです。


 ◇◇◇


黒猫が指差します。


「見えた。あれが教会都市」


翼よ、あれが教会都市だ。


なんて余裕はありません。

魔力的には余裕がありますが、精神的にキツいです。


20秒おきに座標と角度を計算して魔法を発動させる作業は、地味にキツい作業でした。


集中力を切らした時点でアウトです。


最初は楽なルーティーと思っていたんですけど、割と風があってマジにヤバいです。


譬えるなら、針の穴に糸を20秒ごとに通してゆく感じです。


草原の広い場所を探して…………そう、思っていると、黒猫がトンでもない事を言うのです。


「広場にウチの馬車が走っている」

「ウチの馬車って」

「いつも使っている長馬車」


姉さん、早すぎでしょうって言うか、米粒みたいで見えないよ。


エアーコントロール、エアーコントロール、エアーコントロール。


自然落下の最高速度は時速300kmで、地面まで12秒程度です。


「もう少し右、もうちょい」


「行きすぎ」


1000mからのダイビングって生きた心地しないな!


米粒だった建物が急激に近づいて、やり直し無しの一回勝負です。


「今です」


『闇の盾』


地面の手前1mくらいに闇系の重力魔法で作った盾が落下する俺と黒猫の落下速度をゼロにして、俺は華麗に地面に着地するのです。


そう馬車を降り、今、まさに大聖堂に向かおうとする姉さんらの前に颯爽と現れたのです。


決まった!


 ◇◇◇


ストン!


姉さん達が目を丸くして驚いています。


まぁ、突然に上から降ってくれば、そうなりますね。


「馬鹿アル、何やっての?」

「アナマちゃん、ズルぃよ。それはズルぃよ。」

「何、それ?」

「お帰りなさいませ、アル様。でも、ちょっと焼けます」

「いいな、いいな、お姫様だっこいいな!」


突っ込む所はそこ?


黒猫のスタイルはお姫様だっこの上に落ちないように手を首に廻して、しっかりと抱き付いています。


空中で落としたら大変なことになるから仕方ないことです。


仕方ないよね。


「1時間近くずっと抱っこされていた。幸せ」


姉さんと姉友ちゃんと見習い神官ちゃんが滅茶苦茶に怒っています。


「むっきぃ、とにかく降りろ」<怒>

「ズルぃ、ズルぃ、一人だけズルぃ」<怒>

「あんた、見せつける為に帰ってきたのぉ」<怒>


姉さん、耳をひっぱらないで痛いよ、痛い。

姉友ちゃんの胸のドンドンは痛くないけど、気まずいんですけど。

見習い神官ちゃん、杖で叩くのは無しで、洒落にならないから。


黒猫、さらっと逃げてないで説明してくれ!


厄日だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ