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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第三部.児童チートで優雅な(?)陰謀編、なにもしないうちから恨み買っています。
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33. 教皇の謀略。

ステイク家の弱みを握って、教皇と和解する。

これが当初の目的です。

しかし、ステイク侯爵の領主はあっさりと王子に従って趣旨を変更し、教皇派を離脱して皇太子派に鞍替えを表明したのです。


「王子、1つ聞いていいですか?」

「はい、何でしょう」

「教皇との和解はできそうですか?」

「破談が決定的になりました」


ですよね。


教皇派の筆頭と言われたステイク侯爵を教皇から引き抜いて、皇太子派に組み込んだ事になります。


それを実行したのは、第3王子と俺です。


皇太子に組み入れられて教会にとって邪魔な存在になるかもしれないから、実害のある存在にクラスアップです。


もう、全面戦争です。


俺が死ぬか、教皇を屈服させるかの二者択一に選択肢が減っているじゃないですか。


大失策です。


あぁ、どうしよう。


にっこりとした笑顔で仕方ありませんという顔をするなよ。

おまえが発案者だよ。

責任を取りやがれ!


 ◇◇◇


俺の用事が済んだと思ったのか、王子は領主に声を掛けます。


「細かい話はまた後にしましょう。今日、ここの来た理由は、少し問い正したい事があったからです」

「なんなりとお聞き下さい」


王子はそう言いながら奥に歩き領主が座っていた席に腰かけます。

あの空気だったおっさんもバイザーを付けたままで王子に脇に立っているのです。

領主と次期領主も王子の前に移動して、改めて跪きます。


「前皇太子が暗殺された話です」


王子がそう言うと、領主の体が震え出します。


俺の知る王家の歴史では、前皇太子は自らの失政を眩んで毒を自ら飲んで自殺したと聞かされています。


その失政というのが、『メリディオ事件』です。


ティアル・アディ・メリディオ侯爵は、南部の首都である城壁市メリディオの次男として生まれたが、長男の死去に伴って次期当主となった人物と聞かされています。


王国の南部は縦に長く延び、水産物と鉱山資源のみの貧弱な地域と目されていました。

その大きな理由が多種族からくる分裂騒動です。

南方の種族同士がいがみ合い、常に騒乱を起こし、国土が荒廃していたのです。

それらの問題を解決し、貴族間の利害を調整したのが、ティアル侯爵です。

南部の発展は、すべてティアル侯爵の才覚と言って問題ないでしょう。


ティアル侯爵の才覚はさらに中央に延びます。


当時、王家の発展を訴えていたのは発展派と称する貴族がいました。

自己保身を一番とする貴族の中では希少な存在でした。

その筆頭が現国王の孫にあたるサウル皇太子です。

父であるアロム皇太子の意志を継ぎ、王国の発展を考えて、王国の秘蔵技術を公開する事で国力を増そうと考えていたのです。


そのサウル皇太子と結託し、ティアル侯爵は宰相にのしあがり、街道の整備がなされ、飛行船を増産し、王国の国力を引き上げたと歴史の教科書には書かれています。


しかし、ティアル侯爵の野心は潰えず、遂に王家を滅ぼして、自らが王になろうと画策し、事前に暴露された事で一族郎党がすべて処罰されたと悲惨な末路が待っていたのです。


そして、その野心に気づかず、ティアル侯爵を増長させた原因を悔いて、サウル皇太子も自決したという話です。


サウル皇太子が暗殺されたなど書かれていません。


 ◇◇◇


領主は体を震わせ、しばらくの沈黙の後に肯定します。


「仰せの通り、我がステイク家が関与しております」

「ティアル・アディ・メリディオ侯爵の腹心、レド・ポテマの暗殺を命じたのも、ステイク家で相違ないか」

「レド・ポテマは貴族要人を暗殺し、無辜の民を斬殺した罪人として、密かに葬り去りました」


レド・ポテマと言う名に首を捻ります。

横に立っている紅蓮さんが小さな声で説明してくれます。


「あなたが知らないのは当然よ。レド・ポテマはメリディオ侯爵をメリディオ侯爵と足らしめた存在で南部の暴動鎮圧を行った副官と言われているわ。ただ、彼の周りでは都合のいいように人が死ぬのよ」


つまり、討伐に向かうと敵の司令官が勝手に死んでくれる。

指揮官のいない敵は統率も取れなくなり、各個撃破されて800年も続いていた南部の騒乱をわずか3年で終わらせた英雄だそうです。


その手腕は苛烈にして、過激だったそうで、臣従を誓った一族は手厚く擁護し、抵抗する敵は一族ごと根絶やしにしたらしいです。


南部を平定したティアル侯爵が凱旋する頃、長男は病気に掛かり、衰弱してゆくばかり、魔法の治療の甲斐もなく他界して、英雄ティアル侯爵はメリディオ家の当主になったそうです。


ステイク領主はレド・ポテマの罪状を事細かく申し上げます。

勝つ為には手段を選ばないという残忍さが伺えます。


「よく、それだけ調べたな。どうやって調べたのか教えて貰えるか」

「教皇、当時は総大司教でありましたが、教会で保護した子供の中にレド・ポテマの部下だった者が見つかり、その者から聞き出しました」

「転生者だったか」

「はい、私は前当主に相談した後、前教皇を通じて国王に相談して、レド・ポテマを排除するように命を頂いたのです」

「それでレド・ポテマを排除すると、すぐにメリディオ事件が起きたに違いないか」

「違い御座いません」


王子で天井を見上げた後に目を閉じて溜息を付きます。

それが何を意味するかは、俺には判りません。

しかし、王子には思う事があるのでしょう。

目を開けると、おっさんに目で合図を送ります。


『汝、アールパード・アディ・ステイク、今言った事に相違いないか』

「相違ございません」


おっさんが縦に頷きます。

このおっさんが何の為に連れて来られたのか、やっと理解しました。

おっさんは『断罪の目』のスキルを持つ特殊能力者のようです。

このスキルも万能ではなく、本人が強く信じている事は真実と判定されます。

故に、『断罪の目』でも真実を見抜く事はできない事もあるのですが、少なくとも嘘やでまかせを回避する事ができるのです。


つまり、教皇が王様に相談したと言う事実は確認できないのですが、少なくとも彼は王の命令でレド・ポテマを排除したと思っているのです。


「領地を頂いたのは、レド・ポテマを討った報酬であるか」

「いいえ、南方の領地、特に鉱山収益の半分は教会を通じて、王家に入れるように下知を貰い。さらに、残りの半分は虐げられた無辜の民に為に使うように申し付けられました」


つまり、王家と教会が財布を手に入れた訳ですね。

メリディオ侯爵によって虐げられた人達の救済はステイク家が財政的に豊かにならないようにする処置でしょう。


「サウル皇太子の暗殺に関与したとは、それら一連の意味か」

「いいえ、領地を下賜された直後に総大司教はメリディオ侯爵が本気で王国転覆を狙っていたとは信じられないので、よく調べて欲しいと頼まれました」


また、総大司教が絡んでいるんですね。

総大司教、つまり、現教皇は自分でメリディオ侯爵が没落するキッカケである、メリディオ侯爵の腹心レド・ポテマを排除する引き金を引きながら、メリディオ侯爵が国家転覆を図るハズがないと、すべてを知っているような口ぶりです。


「なるほど、調べると証拠が出てきたと」

「はい、1つは、国家転覆を狙うには余りにも準備が疎かであったこと。もう1つはレド・ポテマの部下で王宮の地下を改造した技師の転生者を見つけたことです。その証言の1つとして、レド・ポテマとサウル皇太子が地下で密会を重ねていた事が判明しました。地下を頻繁に利用していたサウル皇太子が地下の大仕掛けに気づかなかったのかと言うのが疑惑でありました」


リディオ侯爵の領地を調べると、まるで用意してあったかのか、転生者が見つかった。

サウル皇太子がメリディオ侯爵を排除する為の謀略があったようなシナリオです。


「それを再び、教皇に委ねたと」

「いいえ、流石に事が事で御座いますから、我が父は教皇を通じて、秘密裡に王との謁見を申し出られ、教皇様、枢機卿様と共に報告書を述べられたので御座います。その後の事は詳しくは存じ上げませんが、王直属の方はやって来られて、もう一度調べられました」

「そして、自決されたと聞いたか」

「はい、父は自らの戒めとして家督を私に譲り、南の幽閉に籠り、一生をそこで終えるつもりのようでございます」


紅蓮さんが小声で付け加えます。

6年前、サウル皇太子が自決すると、教皇と枢機卿も退位して、総大司教が教皇になったそうです。

総大司教がステイク家と当主と親しい理由は、総大司教が元々ステイク大司教を務めていたそうです。当然、現領主のご結婚などと取り仕切っており、懇意にしていても不思議はないようです。

しかし、レド・ポテマの暗殺依頼から足掛け4年で総大司教が教皇にのし上がったことになります。


普通なら総大司教10年、枢機卿10年を経て、20年以上も掛かる階段をわずか5年で上り切ったのです。


これが運でなく、故意であったなら、次は何を狙うのでしょうか。


「私が思うに、教皇は教皇制の世を作ろうと企んでいるのではないですか」

「可能性は御座いますが、私がそれをさせません」

「もし、私が不慮の事故で亡くなっていれば、その要石もなくなっていたと」


王子がそう言うと、ステイク領主がはっとした顔になり、それから握り拳が潰れるくらいに握りしめて、険しい顔で顔を真っ赤に染めるのです。


「王子、すでに教皇は王宮の多くの貴族にその手を広げております。私は外側を潰しに掛かります。どうかお気を付け下さい」

「よろしくお願いします」

「不肖の息子は廃嫡し、次男に継がせようと思いますが、それでよろしいでしょうか」

「その必要はありません。今回の件で懲りたでしょう。これからは私の為に尽くしてくれるでしょう」

「はぁ、身命を賭して、仕えさせて頂きます」


こうして、第3王子は忠実な家臣を二人も手に入れて、さらに、教皇派の情報を聞き出して、予想以上の成果を持って館を後にする事になったのです。


俺の方はどうなるんだ!?

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