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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第三部.児童チートで優雅な(?)陰謀編、なにもしないうちから恨み買っています。
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31.間抜けな話です。

昨日、酒場を出て部屋に戻った後に、宿の小間使いが手紙を持って来てくれました。


「最後の符号は中々にナイスな判断でしたよ」


王子がそう言うと手紙を俺に渡してくれます。


「情報屋は教会から頼まれて情報を持ってきたようですね」

「やはり、そうですか」

「ただ、一味という訳ではなさそうで、明日の準備に走り回っているみたいです」

「ご苦労な事です」


明日、ジョルト次期領主が鷹狩りに行くのは間違いありませんが、問題は鷹狩りの『鷹』が誰を差しているのかと言う事です。


情報屋の話で出ていた2~3日予定より早いと聞いた時、ピーンと来ました。


「領軍300名に冒険者が60名を動員した鷹狩りだそうですがどうしますか?」

「南西の森にはどんな凶悪な魔物がいるんでしょう」

「S級の魔物を討伐できるような魔物でしょう」

「王子の予想通りですね。俺が学園都市を抜け出したので追い駆けて来た」


第3王子は俺が皇太子と接触できなければ、何らかの別の手段を講じると読んでいました。


1つは、皇太子の屋敷に忍び込むことです。

1つが、教皇に直接訴えることです。


しかし、どちらも現実的でなく、誰が味方で誰が敵か、判らない状態です。もれなく罠を用意してくれているでしょう。王子自身も皇太子邸で話すことを避けて、病気と偽って皇太子を呼び出して相談したくらいです。


次に、考えられるのは上位の侯爵に仲介を頼む事です。

もちろん、お茶会のお姉さんが考え付かない訳がありません。すでにこの試みは不発に終わっています。


どこかで王都以外の侯爵に助けを求めるしかないのです。


第1候補は髭の侯爵でしょうね。


程よく近くに領地を持ち、王家に対して忠節と信頼を持った人物です。

王都を出た所、あるいは、帰途の道で狙おうと隙を窺っていたのでしょう。

もし、髭の侯爵の領地へ続く道で待ち伏せしていたなら間抜けな話です。


「間抜けかどうかまでは判りませんが、そうでなければA級の冒険者が30名も揃っている理由に説明が付きません」


過剰戦力でしょう。

どれだけ、俺を高評価しているんですか。


「言っておきますが、北でA級の冒険者に一対一で負けたばかりですよ」

「モノには相性というモノがありますからね。しかし、S級の魔物を討伐するのに、A級の冒険者が30名でも足りません。B級の30名はその間に合わせでしょう」


面倒な事になっています。


 ◇◇◇


翌朝と言っても日も昇らない内に城壁市を出て南西の森の手前も丘に向かいます。

アルゴ河沿いに続く東西に延びる街道を進み、湿地帯の手前で林の中を抜ける脇道を南に進むと、西南の森に続く丘が見えてきます。


丘の山頂付近で馬車を止めて、ジョルト次期領主を待つことになります。


朝靄が掛かった朝でしたが、日も昇り出すとすっきりと晴れてきます。


気が付いた事と言えば、南は蛇行した川が丘の縁を流れ、北は湿地地帯が広がるので、南北に逃げ道がありません。


しばらく待つと、馬の蹄の音が林の向こうから聞こえてきます。


林の出口で馬と荷馬車を止めて、ジョルト次期領主も下馬します。

後に続いていたのは、荷馬車ではなく、戦車10台で攻城戦でもするつもりなのか、横一列に並べて、大弓がいつでも発射できる体制を取っています。


「お久しぶりです。ジョルト・アディ・ステイク侯爵様」

「黙れ! 反逆者。そなたの罪状はすでに明らかである。皇太子様を惑わし、王国に寄生する獅子身中の虫め」

「私が何をやったと言うのでしょうか」

「教皇の代理様に恥辱を与え、従弟に王女暗殺の汚名を着せた罪を忘れたと言わさないぞ」

「私は実行犯として処分される従弟殿を、疑惑未遂と助けたハズですが、何か誤解をされていませんか」

「語るに落ちたな! アッキはいつ如何なる時であろうと、王家の者に手を出すような事はしない。自らを襲われたのに、王女が襲われたとすり替えた冤罪はこれにて明らかだ」


一応、状況は聞かれている事が判明しました。

次期領主の言う通りです。

襲われたのは俺で、王女様は襲われた訳でありません。

しかし、しかしですよ。


「王の行列に襲い掛かった悪漢が、「俺は近衛を襲ったんだ」王様を襲った訳じゃないと言って罪を許されますか?」

「…………」

「どうですか! 許されますか?」

「それがお主の手口であろう。だが、二度目は通じんぞ。王女は王都に要る事は確認済みだ。大人しく、成敗されろ!」

「どうしても襲うつもりですか? 今ならまだ話し合いもできますよ」

「問答無用だ」


次期領主が手を上げると、兵士と冒険者が剣を構えます。


「最後のサービスです。今から貴方達に使う技を先にお見せしましょう」


話している間に、俺の後背にレールガン擬きの加速陣を30枚用意していたのです。

S級の魔物を倒したバージョンアップ版です。


瞬間的には20枚が限界ですが、時間に余裕があれば、何枚でもいけますよ。


理論的には30枚なら光速の10分の一くらいの速度になります。


後、4枚増やして、光速を超えた方がよかったかな?


この際、どうでもいいでしょう。


腰から取ったのは、魔鋼鉄の短槍です。


以前の反省点は短槍の先が尖っていると突き抜けてしまう事です。

S級の魔物を倒した後に森を引き裂いても意味がないのです。


もし、あの的が心臓でなく、腕だったら、敵の魔物は戦意を失わずに襲って来たかもしれません。


では、どうするか?


旧火縄銃の玉は鉄ではなく、鉛が使われていました。

柔らかい鉛の方が当たった瞬間に潰れて、傷口を広く抉るのです。


光速の10分の一、音速の65万倍もする速度で魔鋼鉄でないと摩擦熱で溶けてしまいます。


という訳で、

まずは魔鋼鉄の先を傘のように広げます。

さらに短槍の本体は中空にして、中に鋼鉄を詰めてあるのです。

ぶつかった瞬間にぐしゃりと潰れ、

物体のエネルギーがすべて伝わるようになるのです。


 ◇◇◇


狙うのは、後ろに聳える山の頂上部です。


傘型の短槍に光の魔法で『光の槍』のような光のエフェクターを付けて、振り向き様に一投します。


投げた瞬間から光の線が伸び、目も追えない速度で頂上に到達し、山の頂上部が一瞬で吹き飛ばれて消えて、音が後から襲ってくるのです。


ずっごごごごごごごぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


返って来た爆風を浴びながら俺は振り返って言うのです。


「さぁ、戦いをはじめましょうか」


そう言い終えると、同時に火山が噴火して、赤い炎を舞い上げるのです。


ずごぉ、ずごぉ、ごごごごぉぉ!


孔雀の羽のように四方に赤い光が飛び、天空には黒い煙を黙々と捲き上げてゆきます。


その火山をバックに目の前に立つ少年は本当に人なのでしょうか?


そんな疑問が兵士の脳裏に過ります。

自分達は決して手に触れていけないモノに触れてしまった。

勝てるという予感がありません。


それより深刻なのは冒険者達です。

Aクラスになったばかりの冒険者を60人の冒険者で袋叩きにする。

そんな簡単な仕事を請け負ったハズでした。


「ちょっと待て! 冗談じゃねいぞ」

「話が違う。あれはAクラスになったばかりとか、そんなレベルじゃない」

「あれが英雄の力か」

「1万の魔物を一人で倒したとかいうのはデマじゃないのか」


冒険者は現実主義であり、神と人をはっきりと区別します。

目の前にいる少年を神などと崇めません。

しかし、同時に冷静に戦力を比較します。


何人、死ぬ。


「あんた、どう思う」

「良くて相打ち。全滅も在りうるな」

「Bクラスが盾替わりに前に出てくれるなら確率も上がるだろうね」

「それはあり得ん。死ぬと判っていて、仕事を請け負うのは冒険者じゃないな」

「まったくさね」


俺が1歩、また、1歩と近づくと、Bクラスの冒険者が逃げ出した。


「やってられるか」

「俺は引くぞ」

「勝手に死んでろ」

「撤退だ」


個人で逃げる者も要れば、パーティのリーダーが指示を出して、一目散に散ってゆきます。林にバラバラで逃げるのが一番と考え、それは見事に蜘蛛の子が散ってゆくように消えてゆきます。


「次期領主の旦那、引くんでしたら殿はさせて貰います」

「誰が引くと言った」

「勝てますか? あの化け物に」

「その為におまえ達を雇ったのだろう」

「いやぁ、責めて100人は用意して貰わないと戦えませんよ」

「それでもAクラスの冒険者か! 何の為に高い金を与えて取り立ててやっていると思っている」

「それは十分に承知しています。ですから、引くんでしたら殿はさせて貰うと言っております」

「できん。この場で討ち取る」

「そうですか、では、長い間、お世話になりました。どうかお命を大切に」


そう言うと、Aクラスの冒険者が一人、また、一人と頭を下げて、悠然に来た道を歩き始めます。


背中を見せていますが、ちゃんと隊列を組んでいます。

Aクラスになると、背中にも目が付いていますからね。


「リーダー、私達が居なくなって大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だろう」

「お嬢ちゃん、俺達が居た方があぶないのさ」

「えっ、それって?」

「あの少年と領軍では実力差があり過ぎる。殺さずに無効化する手立てはいくらでもあるだろう。しかし、俺達がいたのではそれもできない」

「そう言うことさ。これが俺達にできる最後の御奉公って奴さ」

「しかし、これからどうするのさ」

「どうするかね」


俺は彼らと対峙したくないので、ゆっくりと、ゆっくりと進んでゆきます。

それは向こうも察しているのでしょう。

決して、慌てずに去って行くのです。


 ◇◇◇


間抜けな話ですが、レールガン擬きは26枚目から自壊したので、光速の10分の一には達していません。


加速陣も無限に加速できるという訳ではないようです。


それにしても凄い威力です。

びっくりしました。

目が飛び出して、顎が抜けるほど驚きましたよ。


潰した山が活火山とか、想定外です。


動揺する顔を必死に抑えたので、妙に顔が強張りましたよ。


溶岩がアルゴ河の方に流れて、一部が河川に到達するなんて後から聞きました。

湿地地帯も半分が溶岩で埋まり、東西に延びる街道が使えなくなるとか。


河川が狭まった為に水流が抑えられて、ステイク領の西側部がダムのように水位が上がって、穀倉地帯の一部が水没するとか。


火山が定期的に噴火を繰り返し、火山灰で穀倉地帯の作物が全滅するとか。

育てる作物を変える事で、すぐに復活しますが一時的な被害は絶大だったりします。


ステイク領のみなさん、ごめんさない。

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