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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第三部.児童チートで優雅な(?)陰謀編、なにもしないうちから恨み買っています。
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22. (休話)ミルラルド教授の優雅な休日。〔後篇〕

魔法三大理論を否定した直後、ミルラルドの反応を見ます。

怖い顔をしてミルラルドを見つめる魔導師達の視線が襲います。


きゃぁ、やっぱり止せばよかった。

滅茶苦茶、怖いよ。


魔導師以外の反応は斑網用という感じです。

真剣に聞き入ってくれるのは少数ですが、大半がぽかんとした表情です。

偉大な魔導師が残してくれた魔導の根幹を完全否定する私に呆れているという感じです。

その中でやっぱり怖いのは魔導師達の鋭い視線です。


きゃぁ、やっぱり絶えられません。

もう、過程は切っていいよね。


「時間も迫っておりますので結論のみ申し上げます。三大理論の何は間違っていたのか。それはイメージです。このイメージが魔法に左右するのです。イメージこそ、最後の鍵なのです。私はイメージを入れた四大理論で成り立っていることを提唱いたします。以上が私の論文発表の成果でございます。質問も無ければこれで終わりとさせて貰います」


ミルラルドは会場の方に頭を下げておじぎをします。


静まり返る会場が少しずつ精気を取り戻し、突拍子もない事を言うミルラルドに対する非難の声が上がり始めます。


「ねぇちゃん、それで終わりか。女神像よりストリップをした方が受けるんじゃねいか」

「何の為に出てきたんだ」

「お遊戯が見せたかったのか」

「頭は大丈夫か」


は、は、は、批判は覚悟していたが、流石にストリップはないだろうと思います。

この反応の悪さに冷や汗がでます。

師匠をはじめ魔導師が怖い顔で睨みつけたままでぶつぶつと呟いています。


あぁぁぁぁ、やってしまった?


何か拙かったのでしょうか。

実はもう公然の事実であって、絶対に公表してはいけない発表だったとか。


「偉大な大魔導師の先輩を愚弄する小娘を除名するべきだ」

「そうだ、そうだ、魔法の何たるかも知らん。赤に何が判るか!」

「魔法協会を愚弄した者に死を」

「ひっこめ」

「何を考えているんだ」


きゃぁ、やっぱりそうでしたか。

もしかして、ヤバい?


非難の声を上げているのは少数です。

大抵は呆れている感じです。

中にミルラルドを擁護して、「この偉大な発見が判らないのか」とか言う声を聞こえますが、「なら、説明しろ」と言われて絶句している人もいます。


ミルラルドが心の中でそう叫んでいると魔導師の一人が大声を張り上げたのです。


『黙れ、下郎』


そう会場中に響く大声を張り上げたのは重鎮のジェイムズ魔導師です。

席から離れて会場に出てくると、罵倒を上げた一人一人に指差して行きます。


「この世紀の大発見をお主らは愚弄するか」

「おまえ」

「そこおまえ」

「おまえも」

「これの大発見を理解できんと言うならピンを外して会場から出てゆけ」


ジェイムズ魔導師がすぐ横に立って穏やかに顔で言うのです。


「お嬢さん、論文の続きを聞かせて貰えんか」

「は、はい」


ミルラルドはこの1ヶ月の研究の過程で思った疑問や問題点を上げてゆきます。


「まず同じ弟子の中で同じ魔法を教えてもまったく異なる魔法になります。その一方で弟子は師匠に似た魔法になりやすいという事をご経験しているハズです。その傾向は学生などに顕著に現れます。同じような魔力量、同じ魔法陣、同じ詠唱を唱えても多彩な結果となります」


それは個人の持つ資質や精霊の相性の為に様々な結果に繋がると信じられていたのです。それゆえに様々な魔法士は創意工夫を重ねて魔法陣や詠唱を変えることで思いの魔法を作り出してきたのです。


そうです。


ここにいる魔法師の多くは師匠と同じ魔法を再現に成功した事で魔法師と認められた人達なのです。しかし、ミルラルドの発表がそれを全否定する論文であることに気が付いていなかったのです。


「すでにお気づきと思いますが、私は入門した弟子に最初に渡す杖しか装備しておりません。疑問があるのでしたら確かめに壇上に上がって頂いてかまいません」


誰もセクハラするチャンスと降りてくる人はいないようです。

誰も降りて来ないことを確認すると、ミルラルドは息を吸ってから一気に結論まで進めます。


「先ほども言いましたが私は使用した魔法陣は1つ。魔力量も同じ、詠唱もそのリズムを同じです。魔法三大理論のすべて同じであったに関わらず、4つの魔法はすべて異なります。より具体的イメージを描くことが発現する魔法の最も重要な部分だったのです。この重要な部分を理解していない為に様々が誤解が生じていたと結論付けました」


ざわざわざわざわざわざわざわ、会場中にざわめきが起こります。

その結論に同意する者。

異議を申し立てる者

口々に意見を言い合っているのです。

しかし、その大半は関心を示しません。


それがどうした。


丸い水球を女神像に変える程度の研究発表に感動が起きないのです。

寧ろ、初級魔法を見せられて感動しろという方が無理だろうと思っていたのです。

しかし、そんな中で11人の魔導師は難しい顔をして無言で座っているのです。

そして、壇上に降りていたジェイムズ魔導師は握りこぶしを作って何かに堪えようとした後に、そのこぶしを降ろすと叫んだのです。


『素晴らし~い!』


へぇ、感涙にむせぶといいますが、本当に大粒の涙を漏らし、鼻水を垂らして叫ばれても引きますよ。


「儂は今、20年の失敗に次ぐ失敗の儂自身に腸が煮え返るほど怒りを覚え、そして、新天地の扉を開けてくれたお嬢ちゃんに感動しておる。」


ぎゃあぁぁぁ!

抱き付かれた。

鼻水、鼻水がついちゃいます。

助けて!


「儂はこのお嬢ちゃんに『紫冠の魔術師』の称号を贈りたい。如何か!」


魔導師11人、魔術師13人、魔法師20人が賛同の挙手を上げるのです。


意外な結果に会場が驚きを覚えます。

多くの魔法師の衝撃は最も偉大な魔導師全員が挙手を上げていることです。

逆に大半の魔法師が理解できていない事にジェイムズ魔導師は顔を曇らせます。


魔法師の反応など関係なく、魔導師12人が賛同しているのでミルラルドの魔術師への昇進は決定ですが、ジェイムズ魔導師は不満そうな顔をするのです。


「なんじゃ! 全員一致ではないのか。何故、この貴重な発表に賛同しない。貴様達の目は節穴か」


『その通りだ。この世紀の発表に挙手しない』


会場で立ち上って叫んだのは、ウラガスゼミの卒業生でミルラルドとも学園で何度か顔を会わせた事がある魔術師です。


『長く弟子を取ろうとしなかったウラガスゼミ教授は、最近になって初めての弟子を取った』


それがどうしたと言う反応です。

そりゃ、弟子を取ったくらいで驚く人はいません。


『その弟子は初等科で何の実績も冒険者上がりの魔法士であり、入学当時の魔力測定でも魔術士に届くどうかというレベルの低い魔法士であった。然るに、その少年は3月の遠征でS級の魔物を2体討伐して蒼勲章を頂いたという。これをどうみる』


今度は会場がざわつきます。

S級の魔物は魔道士以上でないと討伐できないというのが常識なのです。

その話にジェイムズ魔導師が声を上げて言います。


「それはこの理論が実用段階に入ったという証拠である。これを見よ」


おぉぅぅぅぅぅぅ!

ジェイムズ魔導師の超高速詠唱で発現した精霊イフリートが水槽の上空に現れます。

その炎を纏う神々しさに皆が声を上げるのです。

ジェイムズ魔導師も「やはりな」と呟いてにやりと笑うのです。


「これは儂が以前に貴族の懇願から初級魔法ファイラーに改造を加えた簡単な魔法だ。もちろん、これほど神々しいイフリートを造り出すことはできなかった。お嬢ちゃんの理論が儂の魔法を進化させたのだ。この意味が判るか!」


その問い掛けに会場が三度ざわつきます。

このざわつきは誹謗や中傷の混じったモノではなく、純粋な魔法議論の推測です。

会場の一人、ジェイムズ魔導師の弟子が立ち上って言うのです。


「老師、同じ魔法であっても途轍もなく威力のある魔法に進化すると言うのですか」

「そうだ。魔法士は魔術士並の魔法が使え、魔術士なら魔法師に匹敵する魔法が使える。このお嬢ちゃんの弟子が証明しているではないか」


つまり、魔法師である自分達なら師匠である魔導師と同じ魔法が再現できるようになる。

核爆弾並の衝撃です。

最後にジェイムズ魔導師がもう一度問います。


「儂はこのお嬢ちゃんに『紫冠の魔術師』の称号を贈りたい。如何か!」


今度は会場の全員が挙手してミルラルドの『紫冠の魔術師』の昇進が決定してのです。

ジェイムズ魔導師も満足そうです。


そこに会場に降りてきたザラ魔導師が降りてきて、ミルラルドを抱きしめます。

師弟の美しいシーンです。


「私は無理ヤリあなたを魔法師にしたけれど、その重圧があなたを苦しめているのではないのかとずっと気に掛けて来ました。腐ることなく、地味な研究を続けて、このような偉大な研究に辿り着いた事を師匠として誇りに思いますよ」

「まったくだ。世紀の大魔導師と呼ばれたいと現役にしがみ付いている儂にすれば、新世代の魔道の扉を開いた弟子を持ったおまえに嫉妬の嵐で腸が煮えくり返るわ」

「悪いわな。ジェイムズ」

「ふん、まぁいい。その扉が開かれた瞬間に立ち会えた事がいつか誇りとなるだろう。お嬢ちゃん、ありがとうよ」


えっ、何の話ですか。

私、やってしまった?


 ◇◇◇


この後の同窓会、そして、ゲストで呼ばれた旅団を送り出す歓送パーティーでもミルラルドの話題で独占です。伝書罰鳩と魔法通信でその情報は王都に届けられ、アルゴ学園でも臨時執行会議が招集されました。


翌日、学園の掲示板に教授に対して事務所に顔を出すようにいう通知が張り出されます。ミルラルドを毛嫌いしているイザベル教授も掲示板を見て事務所に赴いたのです。


「イザベル教授、わざわざご足労様です」

「通達事項は何でしょうか?」

「はい、月末の席替えが決まりましたので事前にお知らせしております」

「あっ、そう」


そう言って用紙を受け取ります。

4月の定例会は夏休み期間という事でありません。

2ヶ月ぶりに行われる時に席替えはめずらしくないのです。

見ると自分の席が1つ下がっています。

ちっ、イザベル教授が舌打ちをしたのは、誰かに抜かれた事を察したからです。

そして、最後尾の列に目を通してにやり笑うのです。

ミルラルドの名前が下から見てもどこにもないのです。


「ミルラルド教授の名前が見当たらないのだけれども、お辞めになったのかしら」

「いいえ、そんなことはないですよ。確か~ぁ」

「おい、昨日の臨時執行会議を呼んでないのか」

「あぁ、すみません」


事務局長が事務員を叱ります。

「すみません。事務員まで夏休みボケしやがって」

「いえ、いえ、それよりミルラルド教授がどうかされたのですか」

「はい、昨日の臨時執行会議で執行委員会補に任命されました。席順は4番目に替わります」


はぁ?

イザベル教授は用紙の上を見て、ぐしゃぐしゃと用紙を潰します。


「これはどういう事ですか?」


普段の社交的な顔を潰して事務局長を睨みつけて聞くのですが、般若のような顔に顔を引き付けるのです。


「は、は、は、この度、ミルラルド教授は『紫冠の魔術師』の称号を得られました。今後の学園を支える人物になると判断されて、昨日の臨時執行会議で決まったそうです」

「あり得ないでしょう。魔法協会の総会の決定は保留期間があり、称号が取り消されることがあることもよくあります。昨日今日に決まった称号がすぐに反映するのはおかしいでしょう」

「はぁ、確かに通例ではそうなのですが、今回は12人の魔導師、28人の魔術師、104人の魔法師が全会一致で決定したことなので覆らないだろうという判断だそうです」

「そぉ、そんなことあり得ないわ。あの、落ちこぼれのミルラルドですよ」


イザベル教授の叫びにうんうんと賛同する職員もいたようです。

なんと言っても給与がなくなって、学校に前借りを頼みにくる教授はミルラルドだけであり、ある意味で事務員の間で有名な教授です。

でも、そんな叫びは空しく。

この決定が覆ることはありませんでした。

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