13.長い先のことだよね。
耕作地の作業が終わり、日もとっぷりと暮れてやっと家に到着です。
すべての日程が終わり、やっと家でごろ寝ができます。
「何言っているんだ」
「ベンさん、おはようございます」
「もう昼前だ。いつまで待っても来ないから迎えにきたぞ」
「なにかありましたっけ」
「寝ぼけているか?」
「…………あっ」
「思い出したか、二次試験の日だ」
そうでした。そうでした。
将来の保冷係、もとい、氷の魔法士を探す日でした。
王都で出会った彼女が17日後と言ったので今日になったんです。
「完全に忘れていたな」
「は、は、は、すみません」
「面倒な事を押し付けやがって」
ベンさんに引き連れられてギルドの訓練場へ向かうのです。
◇◇◇
200人以上いた冒険者も第1次試験で50人が落とされ、経験者のDクラス冒険者30名が即採用を決定されて指導側に回ります。唯一のBクラス冒険パーティ『イカヅチ』の5人も講師として採用されました。
Cクラス冒険パーティは5組29人が応募してくれており、日当小金貨3枚の仮契約をして、旅団に同行、講師、使い物にならない冒険者を振り分けています。
本人が問題なければ、年間契約を結びます。
旅団参加なら小金貨2枚(月小金貨60枚)と報酬に応じてボーナスが支給されます。
冒険者学校は
・校長が小金貨5枚(月小金貨150枚)
・教授が小金貨3枚(月小金貨90枚)
・職員が小金貨1枚(月小金貨30枚)
・講師が銀貨5枚(月小金貨15枚)。
・指導員が小金貨2枚(月小金貨60枚)。
と定めてられています。(月6日の休みあり)
講師は学校の指導のみで冒険実技に出ない人のことで、引退し冒険者や職員などをギルド長や市長が斡旋してくれることになります。
生徒はこの町の子供(5~10歳)であれば誰でも入学でき、冒険実技の他に語学や教養を教え、昼食が付きます。食堂などの賄いも手配して貰えるので助かりますね。
これで教会の慈善事業が滞らないように3歳から無料で子供を集めて学習を教えて貰うようにすると、運営費は伯爵様から寄付することに変わっています。
俺と行政府だけが市民にアピールするのはよくありませんからね。
領主様はすばやく寄付を始め、すでに3歳(2歳の子も混じっています)が教会に通うようになり、お勉強が始まっています。
そして、お昼時になると定型句が祈られるのです。
「今日一日が平和である事を神に感謝を。そして、食事を支給して頂いた伯爵様に感謝を」
「「「神様、ありがとう。伯爵様、ありがとう」」」
市長より先に動くとは、領主様もやりますね。
◇◇◇
冒険学校が始動するのは来年の1月からです。
初期投資の金貨3万枚は俺の持ち出しですが、職員など経費は行政府持ちになり、ベンさんらの身分も行政府の臨時職員待遇になります。
「ぎゃぼぉ」
「どうかしました」
「職員待遇って喜んだら収入が逆に減ったすよ」
「確かにCクラスの冒険者の日当は小金貨3枚くらいになりますからね」
「そうす。酷いす」
「行政府の上級職員でも月に小金貨25枚って聞いたことがあります。それよりは多いですよ」
「そんな!」
「クエストは毎日ある訳じゃないですし、装備品も高級品でなければ、備品として購入できます。安定収入で経費が掛からないと考えれば、そんなに損な額じゃないですよ」
「馬鹿野郎!」
ドクが魔法士さんの頭を殴りつけます。
「この小僧らと知り合う前の収入を思い出してみろ!」
「………………………そう言えば、貧乏していたっすね」
「こいつらと知り合って、収入が安定したからと言って浮かれていると学校から放り出すぞ」
「それは待って欲しいす。一人じゃ、そんなに稼げないすよ」
魔法士さんと話していると、巨乳がぶらぶらして緊張感がなくなります。
因みに、学校を出ても何とかなると思います。
魔法士さんですがドクさんの槍使いの魔法士から槍術を教わっており、接近戦が熟せるようになっていました。いつも森の最奥で狩りをしているから自分の実力が判っていないようです。
「教えるな。知ったら増長するだけだからな」
「みんな、酷いですね」
「あいつの魔力は1発頼みだ。肩書き通りに槍術でB級の魔物を倒せるくらいに上達せんと生き残れん」
確かに、威力によりますが魔法士さんはファイラーボールなら1発くらいしか撃てませんでしたね。それが今ではBクラス冒険者になっています。
魔物討伐数が多くなれば、自然とランクが上がってしまいますからね。
姉さん達もみんな今ではCクラス冒険者に昇格しています。
「何を言ってやがる。小僧はすでにBクラスだろ」
「知らない間になっていました」
「俺と一緒というのが納得いかんぞ」
「ドクさんは単にギルドの貢献ポイントが少なかっただけでしょう」
「まぁな」
修行の旅で他国を回ってもギルドの貢献ポイントは増えないのです。
他国には他国のポイント制度があり、他国でAクラスに昇進して帰国すれば、暫定Aクラス冒険者と言われるそうです。ドクさんは他国でもCクラスまでしかポイントを稼げなかったといいます。
「別に討伐数が少ない訳じゃないぞ」
「貢献ポイントは0(ゼロ)からしかカウントしないからですよね」
「そういう事だ」
ギルドの貢献ポイントは受けたクエストによってポイントが変わってきます。そして、その過程で倒す魔物の討伐ポイントが加算されるのです。
討伐ポイントは冒険パーティに与えられ、基本は三分の2ルールに乗っ取ってクラスの高い者からポイントを多く取ってゆきます。
つまり、討伐ポイントが120ポイントなら一番高いクラスの者が80ポイントを総取りします。次のクラスが残り40ポイントの三分の2である26ポイント、3番目が9ポイント、4番目が3ポイント、5番目が1ポイント、6番目が1ポイントと分担されるのです。これで上位2人が同じクラスなら、80と26を足して、半分に割られた53ポイントずつになります。
合同のパーティを組んだ場合も同じ条件です。
合同当初のランクは、
ベンさんの冒険パーティ『黄昏の蜃気楼』がCクラスです。
ガルさんの冒険パーティ『竜の咆哮』もCクラスです。
俺達の冒険パーティ『シスターズ』もEクラスです。
つまり、討伐ポイントが120ポイントを稼ぐと、『黄昏の蜃気楼』と『竜の咆哮』が53ポイントずつを分け、『シスターズ』に14ポイントが入っていた訳です。
薬草を回収したクエスト達成ポイントと14ポイントを8人に分割して、それぞれがギルドへの貢献ポイントを稼いで、Dクラス、Cクラスへと昇進していった訳です。
姉さん達がちまちまと貢献ポイントを稼いでいる間、王都に向かった俺は一気に貢献ポイントを荒稼ぎした訳です。
最初の荒稼ぎが旅団の冒険者が集まらないという理由で護衛任務を引き受けた事です。
緊急クエストなので貢献ポイントが10倍になり、討伐した魔物の討伐ポイントも2倍も与えてくれます。さらに荷馬車一杯の魔物の討伐ポイントを一人で受け取れば、相当な貢献ポイントを稼いだ訳です。
そして、ガルゼミの合宿で稼いだカエルの討伐ポイントです。
こちらは冒険パーティ『(仮)ガルゼミ』の7人で稼いだ訳ですが、Cクラスの俺を除いて、他のメンバーが全員Eクラスです。
はい、三分の2ルールが適用されました。
カエルの討伐ポイントの討伐ポイントの三分の2が俺の総取りになります。
まぁ、他のメンバーも全員Dクラスに昇進しましたけどね。
EからDへの昇進ポイントは低いです。
少し後になりますが、王都に戻ると俺の冒険者クラスがAクラスになっていた事が告げられます。その時点で俺の知らなかった訳ですが、皇太子の鶴の一声で異変が起こった訳です。
考えてみて下さい。
遠征では多くのAクラス冒険者が一緒に戦っています。
1万体の魔物を討伐しても三分の2ルールで俺への配当はほとんどないハズでした。
だから、俺も気に掛けてなかったのです。
それより、王国より報奨金の金貨20万枚と魔物素材代の金貨10万枚、合わせて金貨30万枚が手に入ったことで満足していました。
「蒼勲章を与える者は、すべてAクラス冒険者と見なして対応せよ」
これが皇太子の言った天の一声です。
本来、Cクラスの冒険者は王宮に入れなかったんですね。
貴族でもない俺は王宮に入れないので受勲できない。
受賞直前で判った事実です。
でも、特別クエストを受けた者はすべて蒼勲章を与えるって、皇太子が宣言していたので、『さぁ、大変』です。
俺だけ、王宮にいれずに広場で跪かして、代理に階段を降りて来させる。
俺だけ、受勲を別室にて後にする。
俺だけ、メンバーでなかったことにする。
来る途中で病気になった。
不慮の事故で自害して果てた。<なんでやねん>
最初からいなかった。
好き勝手に言われていたようです。
それで皇太子が鶴の一声を言った訳です。
Aクラスの冒険者は準貴族待遇らしく、それで王宮に入れて貰った訳です。
皇太子の一言は討伐ポイントでも同等に扱われました。
つまり、1万体のS・A・B級の魔物討伐ポイントがAクラス冒険者と同等に配分された訳です。
Bクラスになったばかりの俺がわずか一か月でAクラスに昇進するという最短昇格記録を樹立していたなんて知りませんよ。
でも、旅団出発までに統計は終わっていません。
遠征では多くの冒険者が参加していたので計算だけも大変な時間を要しました。
全員分の配分を終えたのが4月20日だったそうです。
討伐は3月でしたので、遡って4月1日付けでAクラス昇進が決定し、夏季の旅団通達で北に伝えられる事になるそうです。
まぁ、この時点では俺も知らされていないので知らなかった訳ですよ。
◇◇◇
今日の試験科目は実践です。
「いいか、勝ち負けは合否に関係ない。思いっきり当たれ」
姉さんや下兄、姐さんの妹と妹分も参戦して、新人君の相手をしています。
普段、相手をしている冒険者と一戦した後に、同い年か、年下の姉さんらを当たるのは卑怯ですね。
ベテランの冒険者に負けるのは仕方ないとしても、年下に負けるのは堪えるでしょう。
おぉ、姉友ちゃんと見習い神官ちゃんも魔法なしで参戦です。
二人とも肉体強化魔法が使えるから見かけ以上に強敵ですよ。
「ふん、戦士の癖に見習い神官にも勝てないなんて、全然駄目ね」
負けた戦士の子が肩を落として戻ってゆきます。
姉友ちゃんに負けた奴が立ち上る所で手を取って貰って、その手を見ながらにたにたと戻ってゆきます。
うん、こいつは落とそう。
「おい、声に出ているぞぉ」
えっ、声に出ていました。
「嫌ですね。冗談ですよ」
「そうか、実力が足りないから落としても構わんぞ。来年の冒険者学校で鍛え直して貰えばいい」
「そうですね」
今回の選抜は旅団の護衛冒険者確保の為の私塾です。
将来が有望そうな者と1年くらいで使えそうな者を選んでいるのです。
来年、冒険者学校に通いながらも日に銀貨1枚が支給されますから特待生のようなモノです。
「お嬢ちゃんと姫さんは将来の家臣候補だから、性格重視で残してくれって言っていたな」
そういう考え方もあるんですね。
この話がどこで漏れたのか知りませんが、来年の冒険者学校の新入生の中に初等科の学園生が兼任に登録する事態になるんですよね。
何でも、冒険学校に入学し、特待生になれると俺の直臣になれて、果ては城壁市初の小領主の直臣になれるかもしれない。
そんな栄誉を求めて、貴族の子弟が入学するとは思いませんでしたよ。
特待生になれると、俺が作る冒険者会社の社員にはなれて旅団の護衛兵になれるだけだよ。
もちろん、社員の中から7女ちゃんと小公女さんが家臣を選ぶかもしれないけど、別に保障している訳じゃないからね。
人柄と根性はベンさんとドクさんらがすでに厳選しています。
魔法の才能があるなしは魔力循環を感じることができるかどうかですが、姉友ちゃんと見習い神官ちゃんが午前にチェック済みです。
残った20人は全員雇用です。
その中でも水の魔法に精通する子だけ特別に鍛えて貰う予定なのです。
「はい、俺がまず魔力循環をしますから、俺が終わったら続けて自分で魔力循環を行って下さい」
「はぁ、は~ひぃ」
手を握っただけで顔を真っ赤にして可愛い子です。
俺がやっているのは、水の精霊を呼ぶだけの魔法陣の上で魔力循環をするだけです。
水に相性のいい魔法使いが魔法を使うと水の精霊が騒いでサークルが輝くのです。
それだけです。
俺が魔力を流すとサークルが輝きます。
そこで俺が魔力を止めて、生徒と交代するのです。
生徒の力で魔力循環を維持できるか、静まるか?
維持する輝きや継続時間で水の相性が判るのです。
5歳から15歳の生徒を一通り行ってテストは終了です。
「あの子と、その子と、あの子」
「女の子だ」
「女の子ですね」
「女の子よ」
…………無視です。
「それと、この子とこの子と……」
「やっぱり女ですね」
「うん、女だ」
めちゃ、やり難いです。
水に相性がいい子が女の子なのは偶然、偶然です。
「最後にあっちの子です」
「年下です」
「「「「「「…………」」」」」」
姉さん、姉友ちゃん、見習い神官ちゃん、お茶会のお姉さん、赤毛のお姉さん、小公女さん、7女ちゃんがスクラムを組みます。
「年下ははじめてね」
「心配です」
「スケベだわ」
「やっぱり年下がいいでしょうか」
「気にしたら負けだよ」
「あの子が成人した頃には私はオバサンです」
「どぉ、どうしましょう」
俺の聞き耳が拾っています。
スクラムに参加していませんが、紅蓮さんと王都で出会った彼女が呆れた顔で俺を見ていますね。
違いますよ。
狙っていません。
偶然です。
どうして俺が年下の女の子を狙うんですか!
40歳を超えた独身貴族だった記憶を持つ俺としては、20歳後半から30歳後半がストライクゾーンですが言わない方がいいでしょうね。
言ったら別の意味で怖い気がします。
えっ、何故って?
そりゃ、シスターをやっぱり狙っているのかと問い詰められそうで怖いです。
こっちの子は早熟過ぎて付いていけません。
みんな可愛いので保護欲がそそられますが無理ですよ。
俺、まだ7歳ですよ。
7・5・3です。
小学生1年です。
この体じゃ何もできません。
15歳で成人する頃には少しはマシになるでしょうけど……。
はぁ、8年も先の話ですよ。