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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第三部.児童チートで優雅な(?)陰謀編、なにもしないうちから恨み買っています。
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12.人は見かけによりません。

王都で出会った彼女のご近所の評判はすこぶるいいです。

明るく、気立てもよく、気が利く。

それでいて笑顔が素敵で話し方も気風がよくて楽しい娘さんと噂を聞きます。


「嫌ですよ。奥さん! 奥さんの方が美人ですよ」

「あら、あら、お世辞でも嬉しいわ」

「こっちの洗濯物も一緒にやっておきます」

「いいの? 無理しなくていいわよ」

「こういうのが得意で好きですから」

「じゃあ、お願いしようかしら」


買い物も2・3軒の買い物を手伝ったりします。


「安かったので買ってきました」

「ちょうど欲しかったのよ」

「お役に立てて嬉しいです」


井戸端会議で母さんらの会話でも彼女の話題が持ちきりです。


「いいお嫁さんを見つけてきたわね」

「ホント、気が利く子ね」

「伯爵様のお嬢さんも可愛い子だけど、あの子はお母さん、お母さんと慕ってくれて憎めない子なのよ」

「贅沢な悩みね」

「ホントに」


何という違和感でしょうか?


冒険者の仲間として過ごす時は、無口で無感情なポーカーフェイスを貫いており、何を考えているのか判らない女の子です。


思い起こせば、そうでした。

はじめて出会ったときは、顔の表情がコロコロと変わる普通のお節介焼きの町の娘さんという感じでした。

未だによく判らない女の子です。


 ◇◇◇


彼女には西の森の魔物討伐に代わりに地形の調査を頼んであります。

景色を見ただけでマップが頭の中に書かれてゆくようです。

水路の経路と耕作地の全体図をすべて彼女に任せています。


条件は可能な限り直線を多くするコースであり、周囲より高い場所を通ることです。

彼女が選択したのは、堰上げ水路のような段差を付けて水を流す水路でした。

確かに長方形のフラットな水槽に段差を付けて並べれば、水は自然と上から下へと流れてゆきます。

イメージが簡単なので創る俺をも楽ができます。


ぱこん!

頭を木の棒で殴られました。


「違う。そんな段差を付けたら後が続かない。段差はこれくらいでいい」


指の幅は3cmくらいです。

簡単といいましたが訂正です。


ぱこん!


「こっちの方が下がっている。フラットじゃない」


王都で出会った彼女はシビアで厳しいです。


ぱこん!


「休んでいる暇はない。128kmもある。このペースじゃ、1週間で終わらない」


ひぇ~えぇ、楽勝と思っていた水路作りは滅茶苦茶にハードな土木作業です。特に谷間を通る時はどこから土を調達して谷間を埋めてから水路を作るからもう大変です。


「ここはもっと綺麗なアーチ状がいい。いいよね」

「許可」

「ほら、いいって言っている」


姉さん、仕事を増やさないで下さい。


「トモも何か言いなさいよ」

「私は別にいいよ」

「いい子だ」

「でも、今日の宿営地にはお風呂が欲しいかな」

「賛成、賛成、私も欲しい」


訂正、姉友ちゃんも見習い神官ちゃんも敵でした。

そして、今日の食糧確保に出掛けます。

森の魔物は駆逐したハズですが、まだ少し小型の魔物は残っています。それを駆除しながらイノシシか、鹿などを1頭だけ狩って来てくれます。


 ◇◇◇


俺が水路を一生懸命に制作していた頃、ガルさんとベンさんは新人から中堅の冒険者のスカウトです。帰りも髭の領兵さんらが30人いますが、いつまでも頼っている訳にも行かないのでこちらで50人を揃えておきます。


半分は育ててゆくつもりですからクラスを関係なく募集すると、200人以上も集まってきました。


「ドク、手を貸しに来てやったぞ」

「シン、大歓迎だ。ひよっこ共を鍛えたいから手伝ってくれ」


ドクさんの呑み友達で我が城壁市では数少ないBクラス冒険パーティです。

ギルド長からBクラス以上はドクのパーティのみとお達し頂いているので、連れて行けませんが、ベンさんの補佐役として雇うことになります。

えっ?

ドクさん、里帰りするんですか?

ベンさんと一緒に冒険者学校の指導に当たると思っていました。

俺の知らない所でドンドン決まってゆきます。


学園の旧校舎が使えるようになるのは8月からです。

荷物の運び出しや補修工事で時間が掛かるそうで、それまではギルドの練習場を使って講習会を続けてゆくことになります。


「いいか、ガキども! 今日、合格しなくとも夏と冬に必ず追加の募集を掛ける。落ちても腐るな。この公園で練習を続けている。見て欲しかったら声を掛けろ」

「注目す! なにか、質問はないすか?」

「はい」

「なんすか」

「合格したら銀貨1枚を支給されるのは本当ですか」

「ホントすよ。合格者には寝床と食事と月に銀貨30枚が保障されるす」

「「「やった」」」

「今日は一次試験す。16日後に2次試験が待っているす。でも、1次試験に合格するだけで銀貨16枚が貰えるすからがんばって欲しいす」

「「「「「「おぅ~!」」」」」」

「最初の試験は体力す。ウチの斥候ジュンガさんに付いて走り込みす」

「いいか、無理して付いてゆく必要はない。俺が止めろと言うまで走り続けろ」


ベンさんが新人を選びます。

ドクさんはCクラス以上のベテランを選別します。


 ◇◇◇


「ねぇ、私はいらないよね」

「一人だけ合流とかさせないから」

「ずっと待っていたのに一緒にいられない私の方が不幸ですよ。誰か変わって下さい」

「お嬢様のエスコートをお願いしますね。私一人ではバランスが合いません」


赤毛のお姉さんの言葉に小公女さんが反発し、7女ちゃんが不幸を呪い、お茶会のお姉さんが一人だけ逃がさないと宣言します。

今日のお茶会に誘われて馬車でお出掛け中です。

赤毛のお姉さんは北門の城壁までずっと一緒だったのですが、森の中から晩餐会に出席する日だけ町に戻ることもできず、お留守番組に廻されたのです。


俺と一緒でパーティーとか苦手なんですよ。


況して、お茶会はもっと苦手なのです。

晩餐会の目的は殿方との出会いですが、お茶会の中心は話題や噂など、言葉の駆け引きです。


あわよくば、自分の娘も割り込ませようと企むご夫人達を敵に回さず、それでいて余計なものを引き入れないようにお断りするのが7女ちゃんと小公女さんの役割です。


「王女様、いかがですか」

「大変においしゅうございます」

「お一人では身の世話も大変でしょう。我が娘を侍女に如何でしょうか」

「学生の身なので、それはまたいずれ」

王女の品定めをして、自分が味方と売り込むと娘を差し出してきたり、まだ生まれていない子供の婚約をやんわりと打診したり、定型のやり取りが終わると本題に入ります。


「決闘されたあの御仁ががんばっておられました」

「まだ、諦めていませんか」

「中々に根性がありますわね」

「顔が愛らしい子ですよね」

「あらぁ、乗り換えられますの」

「あの家は落ち目ですもの」

「落ち目と言っても我が町の3倍はありますわよ」

「ほ、ほ、ほ、いつまでの話でしょう」


このご夫人方は怖いよ。

このお茶会の早い段階で噂話に影で暗躍している貴族の名前がぽろりと漏れてきました。

その同行者に断罪官がいることも把握しています。

何を狙っているのかが判れば、対処も簡単です。

領主や市長と対策を練り、先手を打ってゆくので何も起こる訳もありません。

あの方が市長に呼ばれた。

この方の屋敷に伯爵の側近が訪れた。

眼つきの悪い男を雇ったとか。

冒険者と酒場で話していたなど。

そんなスリリングな遣り取りもご夫人にとって暇を潰しの話題となるのです。

マスゲームでも見ている気分なのでしょう。


「わたくしの執事が申しますには暗殺を請け負う一団だそうです」

「厄介ですね」

「昔、取り締まった一味の者が一人紛れていたといいますのぉ」


その1つが見知らぬ一団と接触していたという噂です。

さっそく領主と市長に相談すべき案件が増えました。


「森の西側にある土地をご承知でしょうか」

「岩ばかりの土地でしょう」

「地盤改良すれば、あの山の斜面が畑に替わります」

「ご冗談を」

「冬季にお嬢様の山の斜面を作り変える予定です。どうかご注目して下さい」


西の森を欲しがる貴族は多いでしょう。

ですが、さすがに新参者まで回す余裕もないというのが現状です。

そこに誰も欲しがらない土地の話です。

「随分とリスクが大きそうね」

「無理にとは申しません。それに我が主が申しておりました」

「なにか?」

「南と東はどうすれば、喜ばれるのだろうかと」

「「「まぁ、まぁ、まぁ」」」

「ふ、ふ、ふ、貴方が耳元で囁いているのでしょう」

「どうでしょうか」


海千山千のご夫人を相手にお茶会のお姉さんが奮戦します。

待てば海路の日和あり。

南も東も開発するから慌てなくても取り分はありますよ。

そう暗示させることで過当な競争を興じないように諭しています。

察した夫人もにやりとほほ笑みます。


そんな駆け引きの中で赤毛のお姉さんはお茶を飲むだけの完全な地蔵です。


こんなハイレベルな会話に付いていけないよ。

そんな風にぼやいているのです。


 ◇◇◇


森の中に水路が通る所だけ開けた場所が生まれています。

森の西側が少し高くなっているからです。

平坦に見えた森の意外と起伏が激しかったと実感させられます。

結局、ローマの水道のように壁の上を水路が走るような形になってしまいました。


これじゃ、120kmの壁を作っているのと同じだよ。


これなら山に水路を掘って、適当な所に貯水湖を造った方が楽でした。

それに山からいくつかの小川が流れ、川もいくつかあったんですね。


北の峠を越えるルートはまっすぐに森を縦断してから山沿いに移動します。

森の中を横断したことがなかったので気が付きませんでしたよ。


「水量が少ないから本格的な農地にするには水が足りない。水路は必要」


別にそういう意味じゃありません。

宿営地の周りで罠に掛かった馬鹿がいました。

姉さんらを襲って返り討ちにあった奴もいます。

物騒ですね。


 ◇◇◇


1週間(10日)後、貯水湖の堰を切って水が勢いよく流れ、幅2m、深さ1mの水路に水が走ってゆきます。姉さんらに下流まで問題なく水が通っているのを確認して貰って水路の作成が終わりです。


それが終わると耕作地の作成ですが、母さんのご飯が食べたいから2日はお休みです。


「行程が詰まっている」

「折角、帰って来ているのに母さんのご飯が食べられない方が問題だ」

「まるで子供」

「俺はまだ子供なの」

「仕方ない。1日だけ休む。明日の晩には戻ってくる」

「駄目、明後日の朝」

「判った」


急いで家に帰って母さんに抱き付いた。

至福の時です。


「こらぁ、私らもかまいなさい」


姉さんに抱き付かれた。

姉友ちゃん、小公女さんにも抱き付かれて至福を満喫しました。

夕方には俺が帰って来たのを聞いた7女ちゃんもやって来て楽しい食事をしましたよ。

こういう日々を送りたかったんだよ。


 ◇◇◇


翌々日の早朝に叩き起こされて、最速で湖の北に戻ってきます。

王都で出会った彼女がハードなスケジュールを組んできたよ。

畑を壁と堀で囲って安全を確保すると、宿営地を作らされて、宿営地が終わったら耕作地をフラットに地ならしすると、石などを撤去して地盤改良で耕作に適した適度な柔らかさの土に変えます。


そのセットが1日5セットです。


「もう、暗くなりましたが」

「星明かりで十分見える」

「もう、疲れてきましたが」

「2日も休んで英気を養った」


ひえ~、鬼だ。

王都で出会った彼女さん、無表情だから判りませんが怒っています?

夜は遅く、朝は早い、10日掛かる行程を4日で終えさせられましたよ。

よく、魔力が枯渇しなかったもんだ。


彼女は完成をした耕作地を見ています。

表情は無表情ですが、鼻が少し浮いているような気がします。


「もうして、嬉しかったりしています」

「そう見える?」

「はい」

「正解」


ほぉ、そんな気がしましたが正解ですか!


「ここにもうすぐ黄色い花と白い花で一杯になる」


菜の花とヒマワリは黄色く、胡麻の花は白かったですね。


この地域は雨が少なく、冬の寒さは10月を避ければ寒くないので、1月に種まきをして4月に収穫、5月に種まきをして8月に再び収穫できます。


しかもバイオ肥料を使うと連作障害もないとは便利です。


「花が咲いている時期に帰って来られないのは残念ですね」

「うん、残念」


その他には大豆やコーンも植えられます。


「今度の冬休みは山の斜面を削って葡萄の段々畑を作りたいけど」

「やる」

「では、計画をお願いします」

「うん、任せて」


鼻が少しだけ高くなりました。

こういう計画が本当に好きなようです。

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