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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第三部.児童チートで優雅な(?)陰謀編、なにもしないうちから恨み買っています。
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6. キツネとタヌキの化かし合い。

冒険ギルドが用意してくれた冒険パーティと一緒に走り回り、お昼前にもうバテているのはAクラス冒険パーティのペースに付き合わされたからでしょう。しかし、あのAクラス冒険パーティは森を抜けて山岳コースになっても元気一杯です。


先遣隊はあのAクラス冒険パーティにずっと任せましょう。


山岳コースに入る前に蟹の味がある魔物素材は城壁市で小麦を卸して開いた長荷馬車2台に追加で回収しています。反対側の川に近い方が味もいいそうですが、戻って回収という訳にもいきません。


今日は山岳部を抜けて森に入る前の丘の上を宿営地にします。

雨が降りそうな場合は、少し手前の突き出た大岩の下を宿営地にします。


1年中、西風が吹き続ける北の果てと違い、王都周辺は季節によって風向きが大きく変わるのです。

9月・10月・1月は西風が吹き、まだ雨は降りません。

4月・5月・6月は西風と東風が複雑に吹くようになるのです。

しかも、この山岳部を超えると海が近くなる性でしょうか、東風が吹くと雨になりやすいそうです。


幸い、今は東風ではありません。


乱取りはしないのかって?

しませんよ。

大規模に魔物を呼びつけると冒険者の負担が大きいですし、小規模の奴は何度もチマチマ処理する面倒臭さがあります。


お金に困っている訳でもないので、ここで無理をする必要もないのです。


領軍と冒険者がおこずかいを期待していますから、それには期待には応えましょう。

ただ、明日の朝、森に入ってからでいいでしょう。


 ◇◇◇


城壁市に到着し、荷馬車6台分の魔物素材を引き取って貰い、冒険者と領兵におこずかいを渡します。

お茶会のお姉さん、今度は荷馬車をすべてレンタルするなんて無茶はやりません。

街道沿いに魔物素材が放置されていませんからね。


妖しいご令嬢さん、かなりイラついているようです。


旅も中間点を越えて後半に入ります。

ここでまた長荷馬車の2台が小麦を卸して空になりますが、あまり買う物がありません。

困りました。

まぁ、魔物素材を積んで次の城壁市に入れば、少しは金になるでしょう。

この辺りを境に獣系の魔物が混在するようになって行き、次の城壁市を超えると甲殻系が一気に減ります。

そんな悩みを持ちつつも旅団は先へと進んでゆくのです。


 ◇◇◇


次の城壁市に到着し、いつもの小麦を卸し終えるとコンテナを作成し、長荷馬車に乗せてゆきます。そして、いつものように夜鍋(物書き)をしていると、紅蓮さんが入ってきます。


「調子はどう?」

「予定の半分ですね。伯爵と急ぎは終わりました。後は通常の依頼を処理して行くだけです」

「作家みたいね」

「写本士です」


紅蓮さんが入れてくれたお茶を飲みながらちょっと休憩です。

「どうするの?」

「この城壁市も特に荷運びの依頼がありませんから、空の荷馬車に魔物素材を載せるつもりです」

「そういう意味じゃないのよ。でも、荷馬車14台相当の荷物を卸されたら冒険ギルトの査定官が青くなるわよ」

「では、ここで空になった長荷馬車には積まないことにしておきます」


元々の6台の荷馬車に空になった長荷馬車2台分が加わった魔物素材を見た査定官が倉庫に仕舞えないと慌てていた。さらに長荷馬車2台分(4台分)が加わると確かに嫌がらせだ。それに甲殻系と違い、街道沿いに出る獣系の小型魔物素材の引取り価格は非常に安くなる。


荷馬車の台数が増えていても査定額が増えていないのはその為です。


すぐに海岸の村に出発することを考えると、最初から長荷馬車は空の方がいいかもしれません。


「しかし、魚介類を長荷馬車10台分も買って売れるのか」

「儲けるつもりはありません。仕入れ値で卸すつもりです」

「ボランティアか?」

「いいえ、町のみんなに魚がおいしいと知って貰いたいんです。魚を売る為の土壌作り、先行投資です」

「なるほど」


そう言って、紅蓮さんが足を組み替えます。

短いスカートからチラリ、ズボンを履いているので何も見えませんが、どきっとします。


「脇道はもういいでしょう」

「すみません。先生のお蔭で助かっています」

「こっちは一苦労だわ。気が休まる暇がない」

「どこの者か判りましたか」

「無理ね。まるで掴めないわ」

「執事の方は」

「あの子に見張って貰っているけど同じよ。尻尾を出さない。旅団の中にも協力者がいるのでしょう」


旅団に参加する馬車は80台を切り、乗客は150人を切っています。

しかし、すべて客の身元確認をすることはできません。

小公女さんとお茶会のお姉さんは旅団に参加する貴族と親交を温めています。

特に貴族の方はほとんどすべてが小公女さんにあいさつをしました。

友好を温めようと休憩時間も寄ってきます。

況して野営は食事も同じになるので人気者は大変です。

慣れたもので軽くあしらっています。


さて、妖しいお嬢さんはどうしましょうか?


「明日、我々は次の城壁市で旅団を離れることをみなさんに告げましょう」

「そんなことをすれば」

「ボロを出してくれるかもしれませんよ」

「大丈夫なのかしら」

「俺を信じて下さい」


朝、旅団が出発する前に次の城壁市で別れて魚を買い付けに行くことを告げます。

もちろん、妖しいお嬢さんも付いて行きたいといいましたが断ります。


「どうしても駄目でしょうか」

「旅団を離れると安全が確保できません。お判り下さい」

「私が構いません」

「私は責任を持てません。諦めて下さい」

「判りました。無茶なことを言ったことを謝罪させて頂きます」

「申し訳ありません」


予想していた以上にあっさりと引いてくれたのです。

もっとしつこく縋ってくると予想していたので呆気に取られます。

俺が離れた後は、髭の領兵の隊長さんに任せておきます。


 ◇◇◇


「どうか、最後くらいは私に届けさせて頂けませんか」

「判りました。どうぞ」

「ありがとうございます」


野営の食事、トレーを紅蓮さんから受け取っ妖しいご令嬢が料理を届けてくれます。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「冷めない内にお食べ下さい」

「そうですね」


トレーに乗っているのはパンと肉スープです。

いつもと違うのは、俺が警戒心を少し下げていることです。

それは彼女も承知です。

俺が誘っていることを妖しいご令嬢も承知で近づいているのです。


狐と狸の化かし合い。


俺は木のスプーンを取ってスープを一口すすります。


にたぁ!


わずかに笑いましたね。

妖しいご令嬢、やはり何か仕掛けたようです。


「ちょっと、ちょっと、何を無警戒で呑んでいるのぁ」


横目で見ていた小公女さんが走って来て、俺のスープのお椀に自分専用の銀の匙を入れます。

あ~やっぱりね。

その匙が少し黒ずんでいます。


「毒ね」

「何の事でしょうか?」

「毒をこのスープに仕込んだのでしょう」

「私がどうすれば、毒を仕込めるというのですか」

「でも、こうして」

「私は料理に触れさせて頂けません。お椀もこちらの先生が用意したものです」


そう!

仲間が口にする者は俺が作った物か、仲間が作った物しか口にさせません。

妖しいご令嬢が作った料理などを仲間に食べさせる訳がありません。

妖しいご令嬢は毒を仕込ませるタイミングなんてないのです。


「どうすれば、私が毒を仕込めるのでしょうか?」

「それは」

「こちらの先生がずっとわたしを監視していましたわよ」

「簡単ですよ」


ご令嬢と小公女さんの話に俺が口を挟み、バキィと木の匙を折るのです。


「そうか、木の匙に毒を塗って交換したのね」

「そういうことです」

「判っていて、どうしてそれで食べちゃうのよ」

「彼女の反応を見たかったからです」

「く、く、く、交換したという証拠はありません」

「そこに置いてある木の匙を折ってみて下さい。そうすれば、判ります」


木をモデリングする魔法は完成していません。

悪戦苦闘中です。

木の素体は細胞です。

この細胞を壊すことなく、切断して再構成する。

それがモデリングで基本魔法ですが、その基本魔法が完成していないのです。

土を魔力で盛り上げて土壁を作る従来の魔法を基本ベースに、木に応用したのがこの木の匙です。

この小さな木の匙を変形される為に使用した魔力が1000ポイント、ファイラー100発分の魔力が必要なのです。

折角、作った匙ですから硬化魔法を掛けて耐久力テストの真っ最中なのです。


つまり、普通の匙のように簡単に折れないのです。


ご令嬢はその匙を取って折ろうとして折れないことに気づきます。


「それでも私が交換した証拠になりませんわ」

「先生が渡した時点では俺達の木の匙です。交換できるのは一人しかいません」

「知りながら食べて頂いたと」

「はい、あなたの反応を見たかったので」

「く、く、く、やはり子供ね。解毒剤でも先に飲んでいたのかしら」

「そんな所です」


そう聞いて小公女さんが、ほっと息を付きます。


「く、く、く、その毒は遅行性で1時間ほど経たない効果が立たないのよ」

「無味無臭、遅行性の毒という事は、『ヒ素』か何かですか」

「ええ、但し、特別性。解毒剤も解毒魔法も利かない奴よ」


小公女さん、顔から血の気が引いて俺にしがみ付きます。


「大丈夫、痛くない」

「大丈夫です。それにヒ素の毒は痛いとかないと思いますよ。悪心、嘔吐、腹痛、下痢がはじまって、体が巧く動かなくなるだけですよ」

「意外と詳しいのね。でも、安心していいわよ。効果が出てから30分くらいで楽になれるから」

「解毒が利かないかどうかは、後で考えましょう」


俺がそう言った瞬間、野営地の各所で煙玉が炸裂します。

執事が放ったようですね。

それと同時に妖しいご令嬢が後ろに飛びます。

俺が逃がす訳がないでしょう。

ちょっと痛いけれど我慢して下さい。


アイススピアー×4。


殺しませ…………なっ、何をする。

超接近で発現するアイススピアーはご令嬢の肩と足を捉えて発射された瞬間、あの馬鹿がそれを切り払うのです。

さらに逃げるご令嬢、打ち出すアイススピアーを馬鹿が叩き落とし、俺は追撃を諦めます。

「どういうつもりだ」

「それは俺のセリフだ。か弱い令嬢に魔法の刃を向けるとは許せん」

「彼女は間者だ。俺の命を狙った」

「間者であろうとなかろうと、可憐な女性に刃を向ける非道な奴め」

「そうか! では、彼女が作ってくれたこのスープを飲め。飲めたら許してやろう」

「許して貰う必要などない。正義は我にあり。だが、ご令嬢が作ったというなら頂こう」

「お待ち下さい」


横から飛び出してきたのは目付の神官です。


「ホントにこの馬鹿が申し訳ありません」

「気にしていません。彼女がくれた毒入りのスープを彼に進呈しようと思っただけです」

「お待ち下さい」


神官が何やら術式を唱え、スープを鑑定しているようです。

おぉ、『アナライズ』の魔法か!


「もしかして、アナライズですか」

「はい、私は階位低いのであらゆるモノを見ることはできませんが、毒などの鑑定ならば十分にできます」


世界の理にアクセスして、知らないモノを知る魔法、この魔法はまだ手掛かりも掴めていない魔法ですよ。


「くぅ、申し訳ございません」


目付神官が涙を出して俺に謝ります。

「おいちゃん、どうしたんだ」

「馬鹿者、これは超猛毒が入ったスープだ。解毒魔法も利かない最悪の毒です」

「マジか」

「一口でも食べれば、おまえは死ぬ」

「おまえ、俺を殺す気か!」

「俺は今、逃がされた彼女に殺され掛けているんだが」

「ぐぅ、マジか」

「おまえが逃がした彼女に」

「そのぉ、すまん」

「申し訳ございません。このような不祥事を起こし」

「それは構いません。治療したのですが、本当に利いているか確認して頂けますか、1時間も待つのは面倒なので」

「しかし、解毒の魔法は…………」

「解毒の魔法ではありません。すべての状態異常を治す魔法ですよ」


「まぁ、まさか! 全治再生(オール・リゼクション) を」


「おっちゃん、お~りって、何だ」

「死者すら再生する第1級の神の奇跡だ」

「奇跡などではなく、ただの光魔法ですよ。鑑定をお願いできますか」


目付の神官の鑑定で正常と出ます。


「聞いていたから止めなかったけど、無茶するわね」

「ホントです。見ていて心配でした。心臓に悪いです」

「もうだよ。もう2度としないで」

「えっ、えっ、みんな知っていたの?」

「先輩に話すとバレそうなので言いませんでした」

「酷いよ」


グゥの音も出ない状況で捕まえ、俺が死ぬと思わせてある程度の情報を引き出すつもりだったのですが大失敗です。


いやぁ、中国の故事にならって俺が死んだ事にして棺を運ばせますか?


意味がありません。

逃げた令嬢の動向を把握していませんし、その他の出方を見る情報網もありません。

死んだという芝居をいつもでも続ける訳もいきません。

しかし、生きていると判れば、また命を狙ってくるのでしょう。

ずっと警戒し続けることになります。

あぁ~、面倒臭いな!

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