2.旅は道連れ、世は情け?
韜晦。
早朝に城壁町を出発すると、3時間ほどで第2城壁町に到着します。
第2城壁町で連結が切り放されてゆくように、馬車と多くの荷馬車が隊列を離れます。
200台を超えていた北の旅団が200台を切ります。
オリエントに向かう東の旅団も数を減らしていますが、それでも1000台を超えているのです。その半数が荷馬車というのが特徴です。
先行する東の旅団は俺達が到着すると休憩を終えて主発する所でした。
王都の海産物はオリエントが支えています。
流通に携わる行商が100人以上もいるそうで、1000台近くの荷馬車を抱えているのではないでしょうか。
馬車3台に冒険パーティが1組というのが標準的です。
護衛の相場は冒険者一人当たり小金貨5~10枚程度です。
本格的な護衛なら最低小金貨10枚は用意しないとロクな冒険者を雇えません。
つまり、6人パーティなら金貨4枚(小金貨120枚)です。
旅団の参加費は馬車1台で金貨1枚、つまり、荷馬車3台で金貨3枚と1枚節約できる訳です。
オリエントの首都であるペルシエまで8日の行程ですから金貨4枚が節約できます。
そりゃ、行商人は集って参加する訳です。
乗合馬車も同じで、民は小金貨3枚を払って乗車するのです。
荷馬車の開いたスペースに小金貨1枚程度で乗れますから、どちらがお得かは微妙なのです。
オリエント方面に参加する馬車は500台余り、長蛇の列をなして出て行きます。
北航路は最初の城壁市を除くと疲弊しています。この旅団の馬車もそこで50台ほど減り、150台を切ることになります。
北の物流はエクシティウム川を使った西側がメインなので、荷馬車がどうしても少なくなるのです。
だからと西側経由で王都を目指すと時間が掛かるのです。
どうしてって?
“すべての道はアサに続く”
旅団も物流もすべて西の首都アサを経由するのです。
西の南部領主は旅団を使わずに、自費で海岸部の城壁市に移動してから王都を目指します。つまり、北の領主達はショートカットして王都を目指すことができず、西に大きく遠回りしないといけないのです。
北から王都の行程は12日の20日以上に増え、それだけ旅費も嵩む訳です。
さて、旅団の最低単位である領軍50人と馬車30台ですが、これは普段から領軍が自国領の魔物を討伐しているという前提です。
予算のない寂れた領主が普段から魔物討伐を心掛けるでしょうか?
無理ですね。
最低でも冒険者を50人は確保しないと安全な旅はできません。
その最低数を1ヶ月間の長期クエストとして依頼した訳ですが見事に失敗し、王都で1組、次の城壁市で2組だけです。
相場の半額で引き受けてくれる冒険者が現れる訳もありません。
相場は安いですが、損かと言えばそうでもありません。
護衛中は2食付きで、さらに北で1ヶ月間の1食付き無料宿泊が付いています。
しかし、知名度が低すぎました。
北航路、何とか潰さないようにしたいですね。
「もう、怒ってないから降りてらっしゃい。誰も君を責めないわよ」
馬車上部の扉を開いで小公女さんが声を掛けます。
小公女さんは怒るどころか、続きを書けと急かしている人です。
紅蓮さんは大人ですから仕方ないという感じで問題ありません。
町で出会った彼女もあっさりしたものです。
でも、お姉さんの微妙な視線が痛いのです。
あぁ~、絶えられません。
「ホントに誰も気にしていないからさ」
嘘です。
きっと、軽蔑されています。
もう終わりだ。
実は、巨乳シリーズとハーレムシリーズの出てくる女性がほとんど巨乳なのです。
やはり男性は巨乳が好きなのか?
俺の好みも巨乳ではないかという疑惑が出て、微妙な視線になっていたなんて知る訳もありません。
美乳も貧乳モノも読んでいますって。
言えるか!<無理でしょう>
◇◇◇
最初の城壁市まで王都に駐留する軍が演習を行っているので領軍の必要がありません。
安全なモノです。
先頭に行政官と護衛の6人です。その次に乗合馬車、荷馬車、護衛を乗せた馬車などが続き、その後ろに旅団参加の馬車が付いてきます。
付け足しの我々は最後尾に付くハズでした。
何故か、先頭集団に属しているのです。
勇猛果敢で規律に厳しい髭侯爵の領兵30人がいると聞くと、行政官が自分達のすぐ後ろに付けて欲しいと願ったからです。
安全と言われていても、やはり兵がいて欲しいと思うのが人情です。
しかし、荒くれ者の冒険者をすぐ後ろに置くのは、背中を撃たれるようで怖い訳です。
はっきり言いましょう。
王都から城壁市の護衛なんて詰まらない仕事をする冒険者にロクな奴はいません。
馬車代わりに乗っているような日銭を惜しむような奴です。
そんな奴は最後尾に置いておく方が安全です。
馬の休憩を終えて、城壁町を出ると街道が二つに割れます。
右は東街道で、左が北街道です。
当然、北に進んで行きます。
しばらくすると、車輪軸が折れて立ち往生する馬車を発見したのです。
馬車2台が辛うじて交差できる程度の道幅です。
「止まれ!」
先導の行政官が停止の合図を送り、停止を確認すると様子を覗いに向かいます。
馬車には小領主の御令嬢が乗っており、祖母が病と聞き付けて向かう途中だったそうです。急いでいた為か、車軸が折れて立ち往生、転倒して怪我がなかっただけ儲けものです。
行政官が戻って来ると、そう説明してくます。
何故、俺に説明するのか?
簡単です。
彼女は馬車を放棄するといいますが、街道の真ん中に放置できないので俺達に移動して欲しいと願いに来たのです。
俺が許可を出すと髭の兵士さん達が全員で馬車を担いで街道の外に移動します。
いずれ、業者が回収に来るでしょう。
「お願いです。馬車に乗せて頂けないでしょうか?」
どうして俺に頼むんですか。
ここは行政官に頼む所でしょう。
「安心しろ! 美しいお嬢様を放置などできないよな」
誰?
「今回、雇用したAクラス冒険パーティにリーダーです」
「おい、女性が困っているんだ、嫌とは言わないよな」
「そりゃ、いいませんが」
「ありがとうございます」
「よかったね。お嬢さん」
「ありがとうござます。戦士様」
Aクラス冒険パーティ『アレフロト』、ロトの勇者の末裔であり、多くの英雄を輩出する村から修行の旅に出ているらしい。
まずは、魔王領に近い北の果てを見に行く為に参加してくれた。
この旅団、唯一のAクラス冒険者です。
そもそも、護衛の仕事にAクラス冒険者は付かないだろう。
「それは私が説明しましょう」
「あなたは」
「このパーティの目付です。村長から子守も申し受けられました」
「それはご愁傷様です」
どう見ても、ノリと勢いで突っ走るタイプです。
他の子供達も実力はあるそうですが馬鹿が揃っており、地道に仕事をすることができないそうです。
2ヶ月前の依頼で失敗し、治療代で路銀も底を尽いているのに、急に北を視察に行くとか言い出し、路銀がないと言うと、「見ろ、このクエストならタダで北まで行けるぞ」と勝手にこのクエストを引き受けて来たそうです。
Aクラス冒険者なら1ヶ月もあれば、路銀なんて稼げます。
あるいは、商業ギルドに逆クエストを依頼すれば、北の向かう行商がもっと高い報酬を提示してくれるに違いありません。
ペルシエ経由になると思いますが……。
「ご心中お察します」
「ご同行の主人が理解ある方でよかった」
そういう馬鹿がいたね。
仕事を取ってくれば、不良物件で、
大手の取引先の社長に罵倒を吐いて、契約を駄目にして、
挙句に妻がいるのに女子高生と不倫して孕ます馬鹿とか。
一人でこける分にいいが、盛大に周りを捲き込むから迷惑だ。
おい、おい、俺を捲き込むなよ。
「悪りな! この馬車に乗せてくれないか?」
馬鹿が馬車のドアを開けてそう言うのです。
旅は道連れ、世は情けなんていいますが違うよね。




