35.隊長の独断。
アルゴ山地と呼ばれますが、山の東側は丘陵地が広がっています。このゴロゴロと岩しかない丘陵地を北にショートカットして、タメオの大森林の西側に出ようというのが作戦です。
3月8日の早朝。
俺達は第2チームの指揮官に呼ばれます。
「私の独断だが、現時点を持って後方の安全地帯を確保する任務を終了とする。そして、アルゴ生の諸君には、第1チームの安全地帯を横に広げて貰いたい」
それって、ヤバい話ですよね。
「我々はゴーレムを処理するのに特化したチームです。Aクラスの冒険パーティに比べて、戦力が格段に落ちると考えて頂きたい。再度、検討をお願いできますか」
生徒会長が指揮官に意見を述べます。
「それも検討済みだ。タメオの大森林に隣接した時点で第2チームの冒険者と交代して貰う。君達の役目は道を開くまでとする」
「冒険者が騒ぐかもしれませんが、よろしいのでしょうか!」
「その心配は君達がすることではない。責任は私が取る」
「判りました。お引き受けしましょう」
引き受けちゃいました。
断るという選択はないですけどね。
作戦が発布されるのは12日の4日後ですが、先遣隊が山に入るのは9日の明日です。
可能であれば、本日中!
最悪でも10日までにタメオの大森林を見渡せる場所まで進む必要があるのです。
そこで俺達に白羽の矢が飛んできたのです。
1日の6エリアを走破できる速度を求められたのです。
◇◇◇
そりゃ、俺達が先に行くと言えば、冒険者が騒ぎますよ。
騒いでいる冒険者を指揮官に任せて6人が先行します。
第2チームの指揮官が第1チームに変な狼煙が上がるが気にしないようにと伝令を送ってくれました。
3本の煙がエリア制圧です。
2本が2つでタメオの大森林の隣接に到達で未制圧を現します。
完全制圧は3本が2つです。
1時間ほどで3本の煙が上がります。
「どういうことだ」
「おかしいですぜ。いくら何でも早すぎる」
「警戒を密にして進むぞ」
話を聞いていた指揮官も余りの早さにびっくりします。
前半は全員に魔力が温存されていますから、こんなものです。
しかも後続を待たずに次のエリアに進みますから、普段の倍の速度で進行しました。
午前中で4回目の煙が上がり、後続の冒険者が唖然とします。
序でに、第1チームの冒険者と指揮官も驚きを禁じ得ません。
第2チームが自分達より先行していたことを思い知らされるのです。
(いえ、いえ、追い抜いたですよ。)
これで冒険者の心の中に火が灯ったのです。
「こんなチンタラやっている場合じゃねいぞ」
「あっちのチームに負けてられっか」
本来ならお昼をゆっくり取り、それから午後の準備に入る冒険者がお昼を手軽に済ませて、次のエリアに急ぐのです。
ゴーレムがゆっくりと集まってくるのを待って進むなんて悠長なことはできません。
4組が1つの団体となり、ゴーレムを遊撃します。
そして、普段の3分の一の時間で顔面岩の巨大ゴーレムを呼び出すことに成功します。
もちろん、手慣れたもので大型魔法の一撃で倒します。
「魔力に余裕はあるか!」
体力に余裕はあるかとは聞きません。
ゴーレム如きで体力が尽きるならAクラスの冒険者ではありません。
「こっちはいける」
「こっちも大丈夫だ」
「余裕、余裕」
「よし、もう1つ行くぞ」
そう声を上げると、5つ目の狼煙が上がるのです。
追い付いたと思った瞬間に、また先行されたのです。
「野郎ども、追い付くぞ」
「「「「「「「「「「お~う」」」」」」」」」」
第1チームの心が1つにはじめてなったのです。
4つ目を攻略し終えてからお昼を取りながら後続を待ち、打ち合わせをするのです。
「あと1戦、あるいは2戦を終えると、あの高い丘に達します。おそらく、その先にタメオの大森林が見えるでしょう」
王都で出会った彼女が地図を広げて説明します。
コース的には少し右、つまり東に逸れますが高い丘まで上がれば、周囲が見渡すことができるのです。
指揮官も依存はないようです。
町娘のような娘の意見に頷く指揮官を見ながら、横で眺めている冒険者のリーダー達が怖い顔で睨んでいます。
「指揮官、冒険者の皆さんにはこのまま直進して貰えるようにお願いできないでしょうか」
「まだ、この先に3つの危険地帯があるということか」
「その可能性が高いと思います」
「いいだろう。引き受けてやる。構わねいな」
「おう」
「坊主やお嬢ちゃんだけを働かせるのは気が引けるしな」
「はっきり言ってやれ! 全部、俺達に寄越せって」
「では、我々は直接に丘を目指します。冒険者のみなさまは直進して頂けますか」
「あぁ、それがいい」
「早い者、勝ちだな!」
「はい」
生徒会長、巧い。
◇◇◇
冒険者にエリア討伐を押し付けて俺達は丘に向かうつもりだったのですが、そうは巧くいかないようです。
東側は別エリアになっていたらしく、5回戦が始まります。
俺がゴーレムの出現率の多い方で進んで行き、顔面岩を見つけると大きく迂回して魔法攻撃を開始します。
モリモリ君、魔力が尽きているので剣を持って盾役に徹します。
小公女さんは1発だけ撃って、俺と交代します。
近場のゴーレムは紅蓮さんのファイラーアローとファイラーボールで粉砕して行き、生徒会長の業火爆風で根こそぎ消去し、生き残っている奴から俺がアイススピアーの連射で狙い撃ちです。
あくまで生徒会長のフォローに徹します。
詠唱時間を除けば、生徒会長の魔力はまだまだ余力がありそうです。
巨人ゴーレムを仕留めて、魔石を回収すると丘を目指して再出発です。
もう、作業ですね。
◇◇◇
丘の上、タメオの大森林が望めます。
丘を下ると芝生が生え、その先に森が山の淵まで広がっています。
ゴーレムが俺達を襲ってきますが、エリアマスターはいないようです。
エリアマスターがいないのは楽ですが、いつまでもダラダラとゴーレムが襲ってくるのも面倒臭いのです。
生徒会長が2本2組の狼煙を上げます。
「冒険者は来てくれそうですか?」
「すぐには無理ですね」
王都で出会った彼女が指差します。
視力を上げて覗き込むと、現在、第2チームの冒険者は巨人ゴーレムと闘っている最中です。さらにその奥で第1チームが戦っています。
丘陵部と森の間が少し盛り上がっている感じがあり、その手前でエリア戦が行われているのです。
おっと!
この丘を降りた所に貴重な薬草を発見しました。
「済みません。少し離れます」
そう言うと俺は丘を駆け下ります。
希少な図鑑で見たことのある薬草や珍しい草木もあるじゃないですか!
おぉ、ニクズクの実もあるじゃないですか!
ラン科バニラ属の蔓性植物に似ています。
この黒色の種子から甘い匂いがするのでアイスクリームが作れますか。
どうだろ、どうだろ。
ぎゃぉ!
「煩い、忙しんです」
アイススピアー3点バーストの3連射で黙らせておきます。
おぉ、熊っぽいですね。
今夜は熊肉でシチューを作りましょう。
浮遊で熊を浮かせ、薬草などを袋一杯に持って帰ると呆れられました。
「君って、ホント凄いね」
「なんの事です」
エクストリームベアーという5mもある凶悪な魔物らしいです。
熊の癖に猫のような俊敏な動きでデストロイヤーの異名を持つそうです。
その爪は魔鋼鉄も簡単に引き裂き。爪だけでも金貨数枚で引き取ってくれるレア素材です。知恵がある為に魔法障壁も使える為に魔法攻撃も耐える厄介な魔物だそうです。
あぁ~~ぁ~!
3点バーストはわずかな時差を付けて同時に撃つ技です。
ほぼ同じ所に3点の集中攻撃です。
あれは魔法障壁を無効化しますからね。
それも3発連続です。
◇◇◇
交代の冒険者が来てくれません。
到着したことに感涙を流しているのか知りませんが、雑魚ゴーレム狩りを続けているそうです。
来てくれたのが第2チームの指揮官とその部下6人だけです。
他は冒険者のフォローで残っているそうです。
来るのは明日っぽいです。
とりあえず、壁でも作って泊まる所を作りましょう。