28. お姉さんにいたずらなんてさせると思いますか。
合宿の2週間目のはじまりは、前日に狩ってあった魔物を城壁町の冒険ギルドに届ける所からはじまります。売るのは甲殻系の殻の部分のみ、あるいは、魔物の毛皮や牙などの素材部分のみで中身は昨日の大宴会で消費しました。
冒険ギルドに到着すると、御者3人は若い親方さんと一緒に伐採場へ向かいます。
新しい御者は3人いるハズですが、待っていたのは2人だけです。出発する時間になってようやく到着したようですが、お茶会のお姉さんはばっさりとキャンセルを言い渡すのです。
違約金?
払いませんよ。
遅刻や作業に支障が出る飲酒などをした場合はその場で解雇できると契約書に書いてありまいた。遅れてきた御者は「これくらいは普通だ」と食い下がりますが、お姉さんは一向に受け付けません。
明日から9日間の御者の応募を掛け、1日間はお姉さんが御者をします。
お茶会のお姉さん、戦闘では協力できないのでできることを増やしています。
御者に頼んで何度も練習でやっていました。
それに俺も一緒に手綱を持っていますから問題ありません。
後期の御者3人は全員外れでした。
若い親方さんが連れてきた御者は合格でしたから、とりあえず、5人を確保できたことになります。
慌てることはありません。
◇◇◇
いつかは現れると思っていましたが、お姉さんにいたずらしようとした冒険者がついに現れました。
野郎が多い冒険者の中で可憐な少女が二人歩いていれば、嫌でも目に付きます。
しかも取り巻きは鼻垂れ小僧がうようよいるだけです。
狙いますよね。
何組もの冒険者パーティが声を掛けて撃沈してゆきました。
護衛に雇っている荷物運びの冒険者が俺とガルさんの規格外さを喧伝してくれているので、常駐している冒険者は無理な引き抜きをしようとする馬鹿いません。
それにガルさんの鋭い目つきです。
最初にあった冒険者パーティにこれをします。
初心者と若手はあの殺気と闘気が混じった威圧で萎縮します。
格付けですね。
そのガルさんの厳しい眼光に恐れをなして手を出す奴がいなかった訳ですが、その後光がすべて通じるほど頭のいい冒険者ばかりではありません。
王都に最も近い城壁町を守っている砦は魔物のレベルが低く、初心者を出たくらいのDクラス冒険パーティからそろそろ中堅になるCクラス冒険パーティで構成されています。
高級素材を求める冒険者が北の砦で活躍します。
そういったレベルの高いCクラスの冒険者がふらっと立ち寄るのです。
不思議な事にレベルが上がるほど不逞の輩は多くなるんですよね。
そんな月夜の晩です。
さすがに川沿いでもないと水洗トイレを作れません。
部屋の近くにトイレを作ると臭いますから少し離れた所に穴を掘って、その上にトイレを作っておきました。
急に尿意を催したお姉さんは一人行くのは怖いので無理を言って二人でトイレに向かったのです。
緊急事態を回避して、すっきりした顔でトイレを出た二人に4人の冒険者が取り囲みます。
「お嬢ちゃん、楽しいことしない」
「遠慮します」
「そう連れないこと言わないでよ」
「そう、そう、俺達はかなり優良な冒険者だよ」
「こんな所まで来るくらいだから強くなりたいんでしょう」
「俺達と一緒にいたら強くなれるよ」
「私達は学園の生徒ですから一緒に冒険はできかねますね」
「へぇ~、学園都市の女の子は可愛いね」
「華奢な体が折れそうでいいね」
「俺、一度。楽しんでみたかったんだ」
「眠れないほど、よがらせてやるぜ」
「弱い奴なんて関係ねいな」
「お兄さん、ウチの連中はガキばっかりだけどさ。みんな強いよ」
「は、は、は、ガキの遊びと一緒にするな」
「ねぇ、この兄さんらと遊んでいいかな」
「明日も早いので帰って寝ましょう」
「駄目だって」
「ふざけんな! おまえらの許可なんて関係ねえんだよ」
手を延ばす冒険者にお茶会のお姉さんが半身に躱して手を取ると、そのまま捻って足を払います。
護身術に教えた1つです。
ぐはぁ、背中から倒れた衝撃が貫きます。
これで戦闘不能になってくれませんが、戦闘開始の合図にはなったようです。
赤毛のお姉さんに襲い掛かった奴は懐に入られて肘打ちを喰らいます。
少女と思って油断し過ぎです。
さらに直上げ蹴りのハイキックが顎に直撃します。
白目を晒してノックダウンです。
一方、お茶会のお姉さんが払い退けた後からもう一人が襲ってきます。
お姉さん、振り向き様に手刀で目を切り付けます。
目突きは意外と難しく、向かってくる指は避けられることが多いのです。
それに対して、手刀は視界の横から入ってくるので意外と決まることが多いのです。
しかも突き指とかの心配もありません。
咄嗟に目を閉じるので爪で瞼を切った程度のダメージですが、しばらく戦線離脱を余儀なくされます。
ガルさんに鍛えられているので動きが軽やかです。
かしゃ、リーダー格の男が不利を悟って剣を抜きます。
「丸腰の女の子に剣を抜くなんて最低!」
「恥を知りなさい」
「うるせい、言うことを聞かないとその軟肌を赤く染めることになるぞ」
いい大人が11歳の誕生日を迎えていない少女に剣を向けて言うセリフじゃありません。
ヤバい!
お姉さんも顔を強張りますが、俺が後ろから手を振るのに気が付いてくれたようです。
「いいでしょう。私を切り刻むことができるならやってみなさい」
「脅しじゃねいぞ」
「どうぞ」
お茶会のお姉さん、リーダー格に近づいてゆきます。
女の子を斬るのを躊躇ったのか、すぐには斬り掛かりません。しかし、目の前まで来たので覚悟を決めます。
「てめえが悪いんだからな」
責任転換です。
がぎん!
当然、斬らせません。
浮遊盾がお姉さんを守っています。
「馬鹿な!」
がん、がん、がん、がん、がん、まるで鐘でも鳴らすように剣を振り降ろすのですが、お姉さんには傷1つ付きません。
「糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ、糞ぉ~おぉぉぉぉ」
頭の悪い奴は周りが見えなくなるのでしょうか?
すでに領兵や他の冒険者が寄って来ているのに気が付いていないようです。
はぁ、はぁ、はぁ、体力の限りに剣を振り続けたリーダー格の馬鹿はやっと剣を振るのを諦めたのです。
仕上げです。
復帰している他の3人と一緒に浮遊の魔法を発動します。
一度、試してみようと思った限界高度に挑戦です。
ドンドンと高度を上げてゆく4人をみんなが見上げます。
「助けてくれ! 俺は悪かった」
「すみません」
「許して下さい」
「お母ちゃん」
目視で200mぐらいですかね。
そこから一気に急降下です。
ぎゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!
命綱なしのバンジージャンプです。
近づいてくる地面に心の底から4人の男が悲鳴を上げるのです。
風の魔法でちょっと落下地点を微調整です。
黒い靄、闇系の魔法で作った盾なんて目に入らないでしょう。
地面にぶつかる瞬間、闇の盾を通過して落下速度が0に戻されます。
ぼてぇ、痛みもなく、地面に到着です。
じゅぁと失禁でズボンが濡れてゆきます。
「どうもこんばんは」
「…………」
「答える気力もないですか。まぁいいでしょう」
そう言うと四人の足元の地面を液状化させて首から上を残して地面に埋めて置きます。
その内、正気に戻るでしょう。
「お騒がせしました」
さぁ、寝ましょう。
領兵も冒険者も何事もなかったかのように去ってゆきます。
翌朝、お茶会のお姉さんも凄い魔法使いだという噂が立ち。
あの子らに絶対に手を出すな!
そんな禁止令が密かに領軍に出されたそうです。
常駐の冒険者らはみんなお姉さんに頭を下げてあいさつするようになったそうです。
絶対に怒らせるな!
そんな声が後から聞こえます。
気が付いた4人が助けを求めます。
でも、
馬鹿な4人を助ける冒険者はいません。
完全に放置です。
無視です。
あっ、水くらいは上げましたよ。
それに3日後の帰る前にちゃんと解放して上げました。
地面の中でずっと圧迫されていた筋肉組織は崩壊寸前であり、動かすのも苦痛みたいです。
宇宙から帰還した宇宙飛行みたいですね。
立ち上れそうもなかったので放置しました。
まぁ、いいでしょう。
殺されなかっただけでも感謝して下さい。