27. 入れ食いだ。
ガルゼミの生徒は肉体強化のトレーニングとスリーマンセルを仕上げる為にガルさんが徹底的に鍛え直します。
赤毛のお姉さんの装備が剣から長槍に変わりました。
護衛は剣ですが、魔物相手に剣は体力的に無理です。
今、使っているのはガルさんの練習用の槍です。
刃先が緋緋色金を使った特注品であり、固い甲殻系の魔物も一撃で突き刺すことができるワザ物です。
アイリッシュ君も槍を貸して貰い、こちらは魔鉱石で作られたどっしりとした長槍です。タッパがあるので本格的な槍士に仕上げるつもりようです。
ガルさん、最初は盾役に育てるつもりだったようですが、盾役は根性が命です。気弱なアイリッシュ君は訓練でも改善されそうにないので、遠間で敵を討つスタイルに変更したようです。
1週間の訓練を終えて、砦の第2回の合宿が始まります。
砦に入ると、前回の領軍と同じ順番に巡ってきたようで大歓迎を受けました。
「また、来てくれたか!」
「我々は君達を歓迎するぞ」
「君が作ってくれた風呂には重宝している」
今度は小屋を少し作りたいというと簡単に許可がおります。
メイド服(薬)の教授も当然のように付いて来ています。
男は俺、ガルさん、アイリッシュ君、家臣の4人です。
女はお茶会のお姉さん、赤毛のお姉さん、メイド服(薬)の教授です。
御者の3人と荷馬車の護衛に雇ったCクラスの冒険パーティの6人です。
合計19人の大所帯ですから4人部屋の小屋を5つ建てておきます。
他の台所、食堂は50人くらいが使える大きい建物にします。
屋根が落ちてこないように柱は大きめにする方がいいですかね。
外に予備のテーブルと椅子を作っておきます。
そうです。
馬車小屋も作るのを忘れないようにしましょう。
「おい、あれはなんだ」
「私達の住む所と食堂じゃない」
「あの完成速度はどう説明する」
「完成速度より、あの精密な造りが脅威なのよ。よく見て」
そう言うと、メイド服(薬)の教授が高速詠唱で高さ1mほどの土の壁を作ります。
「判った?」
「土の壁でできたことは判る」
「これでも戦闘のとき、身を隠せるから便利な魔法なのよ。でも、これにどうやれば、窓を付けて、テーブルや椅子、台所の器具の形に変形できるのよ。教えてよ」
「俺が知るか」
「極め付けは地下水を上げるポンプね」
「よく見かける手動式のポンプだな」
「あの複雑な構造をどうすれば、土魔法で作り上げることができるのよ」
「俺は知るか。聞いてくれば、いいだろう」
「そうするわ」
そんな感じで聞きにきます。
教えて上げますよ。
土の液状化して型枠に流し込み、最後に硬化魔法で強度を上げる。
「3つの魔法を連続で使用しているっていうの?」
「はい」
「無茶言わないでよ」
「型枠は別に魔法で作る必要はありません。液状化を一歩手前で止めて、粘土状態で形を手で作ってから硬化するのでも問題ありません」
「なるほど、それならできないこともないわね」
メイド服(薬)の教授、粘土から置物や壺を造って、硬化魔法で固めるのを繰り返します。
なんかツボに嵌ったようです。
◇◇◇
造っていいと言った隊長さんも出来た建物を見て呆れます。
魔物を狩ってきた料理を振る舞って、領軍のみなさんを労っておきましょう。
翌日から合宿がはじまりますが、まずは朝飯前のカエル狩りです。
『リインフォース』
お馴染みになった魔物を呼び寄せる魔法を掛けると、土に埋まったカエルがもこもこと起き上がり、100匹くらいのカエルが襲い掛かってくるのです。
アイリッシュ君をはじめ、家臣の4人と御者に馬車護衛の冒険者が大慌てです。
魔物のパレードです。
死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!
逃げ出そうとする人を横目に俺はアイスピラーの魔法を機関銃のように撃ち出します。
アイスピラーは10本同時が限界ですが、発射間隔は0.5秒ですから100匹程度なら5秒で瞬殺です。
「なんだ、これ!」
「アイスピラーですが」
「まさか、ゴーレム戦も本気なら瞬殺だったのか」
「はい」
ガルさんが肩をがっくりと落とします。
「ちゃんと2匹は残していますよ」
練習用のカエル2匹が迫っています。
「たぁく、戦闘態勢!」
逃げ出そうとしていた馬車護衛の冒険者の足が止まります。
「なんだ?」
「どうなった」
「冒険者のみなさんは倒したカエルを荷台に積んで行って下さい」
馬車護衛の冒険者の仕事は魔物の積み込み手伝いと街道の護衛です。
当然、俺も手伝います。
「テメイら、カエルはゴーレムほど遅くないぞ。ちんたら動いているとあっという間に喰われるぞ」
ガルさん、今日はちょっとオコモードに入っています。
箱型荷台の壁の高さは1.5mほどあり、牛ほど大きなカエルを何重にも詰めるようにしてあり、はみ出した部分は布とロープで押さえておきます。
112匹の死体を3台の長荷馬車に積み終えると1時間掛けて城壁町の冒険ギルドに向かいます。死体は裏の倉庫に降ろし、仮清算を終えると再び狩り場に戻ってゆくのです。
1匹が小金貨12枚です。
112匹なので小金貨1344枚、金貨に換算して44枚と小金貨24枚になります。
往復と積み込みと積みおろしで3時間、6往復はできますから金貨268枚くらいになります。
まさに入れ食いです。
◇◇◇
は、は、は、ちょっと甘過ぎました。
3往復目にギルドから次のカエル引取りを拒否されました。
王都に運ぶ荷馬車の手配ができないそうです。
明日はもう少し荷馬車を用意すると言っていますが、すぐには数が増やせないでしょう。
残り3往復は甲殻系の昆虫魔物を引き取って貰います。
引取り価格は3分の一の小金貨4枚に激減です。
普段は肉も引き取って、もう少し高値で買い取ってくれるそうですが、中の肉を引き取っても腐らせるだけですから、その分がディスカントです。
但し、積める数が100匹から200体くらいに増えますから半分以下にはなりません。
1日で金貨200枚なら悪くないでしょう。
2週間あれば、4000枚になりますね。
「どうしましょう。お金持ちです」
「お姉さん、みんなの装備を揃えたらそれくらいは消えますよ」
「そうでした」
北より倍近く儲かりますが、装備品の価格は倍以上も高いのです。
◇◇◇
1週間後、若い親方さんが御者付きで残り2台を納品に来てくれました。
「わざわざ届けて頂いてありがとうございます」
「いいって事よ。点検も兼ねて見に来た訳だ」
若い親方さんと何人かの職人が長荷馬車の点検をします。
来週まで待てなかったようで、早く点検したくて持って来てくれました。
「やはり、サスの方が2・3割強化しないと長期間の使用に耐え兼ねそうだ」
「ネジの構造は考え直しましょう」
「接続部は広げた方がよさそうですね」
「車軸は問題ありません」
職人が次々と問題点を上げてゆきます。
「乗っている感じでは、今の所は大丈夫そうですが」
「お嬢ちゃん、俺達は1ヶ月くらいで潰れるようなモノは作らんよ。最低でも半年は持つものでないと使えんだろう。何と言っても旅団で使うんだろ」
「あぁ、そうでした」
「そういえば、さっきギルドからこの長荷馬車の注文を貰った。いい宣伝になっているぞ。ありがたいことだ。納品は4月以降になると言って置いた。来月末までに改良品を作るから次のクエストもよろしく頼むぜ」
「判りました」
2月の合宿が終わると長荷馬車を親方に返します。
すべてを分解して、摩耗度やヘタリ具合を確認するそうです。
ガルゼミも3月中旬にある王国遠征の準備を手伝うことになり、みんなは学園で訓練の仕上げをすることになるハズです。
遠征は1週間くらいですが、式典や出陣式などで5日も掛かるそうで、馬車1日で行ける距離を5日掛けて移動するというのは面倒なことです。
3万の軍が移動するとなると、それくらいの時間が掛かる訳ですね。
さらに、
帰りも凱旋式や表彰があり、慰労の為の舞踏会が行われると3月が終わるそうです。
いやぁ~、面倒ですね。
ガルゼミは遠征が終わった時点で解散され、3度目の1週間の合宿にそのまま突入する予定なのです。
親方達にまた城壁町まで出張サービスを頼みましょう。
お茶会のお姉さんは、合格した3人の御者の事を親方に頼みます。
「あぁ、いいぜ! 御者に点検の仕方とか教えておけばいいんだな」
「はい、できれば簡単な修理もできるように仕込んで頂けると助かります」
「うん、引き受けた」
この1週間、御者3人はお茶会のお姉さんの眼鏡にかなったようで、3人とも旅団に参加すると言ってくれました。
彼らとは月決め小金貨24枚で年間契約することになりました。
仕事があってもなくても月に小金貨24枚が支給される契約です。
しかし、仕事のある日は最低2食が保障されているのは変わりません。
北なら職員並の高給取りです。
さて、
明日から新しい御者3人がギルドに到着するハズです。
親方が連れてきた御者と新しい御者は眼鏡にかなうのでしょうか。