24.ゴーレム戦。
ガルゼミの教授ガルさんは元Aクラスの冒険者です。
持つ剣はミスリルの剣であり、気を這わせてゴーレムをバターのように切ってゆきます。
しかし、数が多いのです。
撤退を開始すると、岩が集まってゴーレムが生まれるのです。
辺りの石ころが全部ゴーレムだった訳ですね。
足元からにゅるにゅると生まれてくるゴーレムはその場で処理しましたが、処理に手間取っている間に囲まれてしまいます。
ガルさんが凄い勢いでゴーレムを処理してゆくのですが、後ろから補充されるので中々終わりそうもありません。
右翼は騎士が守っているのでゴーレムを寄せ付けない強さがありますが、左翼は貴族の護衛と私兵の混成部隊でゴーレムに手間取っています。臨時パーティの脆さを露呈しています。
「ちゃんと受けろ! 危ないだろうが」
「文句をいう前に一撃で仕留めろ」
「口を動かす前に手を動かせ」
罵倒しながら前線を維持しています。
後方からウガラスゼミの魔法援護も入っていますから崩壊はしていません。
「ちょっと頼む」
「私は攻撃魔法が苦手って言ったよね」
ある程度の前方を片づけるとガルさんはメイド服(薬)の教授にその場を任せて左翼の援護に回ります。
文句を言っていますが、メイド服(薬)の教授も魔法師です。
ゴーレムくらいは寄せ付けません。
押されていますが、ガルさんが戻るまで維持できるでしょう。
そして、殿です。
「怪我しないで下さい。ちゃんと正面から受けて下さいね」
「判っています」
「守りはお任せします」
「了解です」
赤毛のお姉さんが槍を持ち、便所掃除さんとNo.1さんに声を掛けます。
腕を振りまわして攻撃を掛けるゴーレムを大盾で受け、その隙間から赤毛のお姉さんが全力で槍を急所の胸に貫きますが、巧く刺さらない一撃で倒すのは難しそうです。失敗すると逆の腕が飛んで来ます。お姉さんは後ろに飛び、その間にNo.1さんが飛び込んで腕を剣で砕こうと叩き付けるのです。
腕の半分が砕け、No.1さんが横に避けるとお姉さんがもう一度胸を貫きます。
今度はコアに届いたようで、ゴーレムが崩れてゆきます。
「続けて大丈夫ですか」
「どんどん来て下さい」
「疲れたら代わって下さい」
「了解です」
ガルゼミの生徒はスリマンセルを2組作って交代で殿を務めます。
足が止まっているので殿の意味はないですね。
赤毛のお姉さんはまだまだ元気なので次のゴーレムを通します。
アイススピアー!
少し長細い氷の針が超高速でゴーレムの胸を貫通してゆきます。
今日は普段の連発モードではなく、1発ずつの控えめモードで1体ずつ倒していっても足の遅いゴーレムはこれで十分です。
瞬殺すると危機感がなくなって練習になりませんからね。
「彼は随分と余裕だね」
「はい、問題ないと思います」
お茶会のお姉さんはみんなにお茶を配っています。
お茶を受け取った王子に呆れ顔です。
全体的にあぶない状況、後退の足が止まって、防衛線が崩壊の危機に瀕しているのです。
特に左翼です。
しかし、後方に配置された王子と二人の生徒は余裕です。
先ほどからガルゼミの生徒は交代で1体のゴーレム以外と戦っていないのです。
3体ほど叩いた赤毛のお姉さんが戻ってきます。
「やっぱり実践は違うわね」
「ご苦労様、お茶です」
「ありがとう」
「済まないが次は僕らに譲って貰えないだろうか。これでは何の為に後方に付いたのか判らなくなる」
「「王子、危険です」」
「危険じゃないように、君達が守ってくれ。君達は剣も盾も使えるだろ」
一人当たりの休憩時間が長くなるのはいい事です。
ガルさんの持久力は問題なく、騎士も健在です。
左翼は疲れが見えますが、コンビネーションはよくなって来ています。
しばらく持ちそうと思うのですが、中々に終わりが見えません。
長い時間が過ぎたように感じますが、30分が過ぎた頃にウガラスゼミの魔力が尽きたようで援護がなくなります。
500体の大台を超えてきた所で、まだ続くのかという焦りの色が見え隠れします。
これでも左右のカバー領域を広げているんですけどね。
ガルさんはよりがんばりを見せます。
一人で半分近くを倒しているんじゃないでしょうか?
忙しそうなのはお茶会のお姉さんです。
気持ちだけ魔力が回復するお茶をみんなに配っています。
「君も器用だね」
「何がですか?」
「ゴーレムを攻撃しながら、お茶用のお湯を沸かしているだろ」
「こういう方が得意なんです」
「本気を出して終わらせる気はないのかい」
「がんばっている人の手柄を取るのは感心しませんね」
「なるほど、そういう性格か」
そう言うと第3王子は肩を回しながら3度目の対戦に挑んでゆきます。
ゴーレムとの戦い方が様になってきています。
◇◇◇
1時間くらいが経ち、800体を越えた辺りで終わりが少し見えてきたようです。
騎士もかなり疲れているようで、動きが緩慢になっています。
左翼は崩壊寸前、ガルさんと俺がかなりの数を引き受けているので持っている感じです。
ここに来て集まってくる数が一気に落ちてきました。
「少し減ってきましたね」
「1エリアに1000体くらいのゴーレムが配置されているのではないでしょうか」
「僕もそう思います」
「それで少し気になっていることがあるのですが言ってよろしいでしょうか」
「僕も少し気になっていることがあります」
「先ほど、転がっていた石は合わさってゴーレムになりました。ここある石は全部が小さなゴーレムの欠片なのではないでしょうか」
「やはりそう思いましたか」
お茶会のお姉さんと第3王子が不穏な会話を続けています。
言われなくとも気が付きます。
周囲にあった石がゴーレム化して集まってきているのです。
遠目に見ると、この辺り以外から石が消えて平地になっているのです。
さて、問題です。
周辺から小さな石が消えました。
でも、まだ周辺にある大きな岩はなんでしょうか?
ゴゴゴゴゴォ!
岩が動き出し、身長5mぐらいの大きなゴーレムとなるのです。
「あれ、盾で受ける自信あります」
ぶん、ぶん、ぶん、便所掃除さんが絶対に無理と首を横に振ります。
「流石にあれで練習は無理と思います」
「ですよね」
合計10体の大きなゴーレムがドンドンと足跡を立てて近づいてきます。
騎士も護衛も冒険者も顔面蒼白です。
一番近い奴がガルさんを襲います。
腕を振り上げるとその勢いで振り降ろします。
ずどん!
その拳は地面を揺るがす一撃ですが、すっと体を躱してすれ違い様に腕を切断します。
引き上げる腕の半分が切られて置き去りにされているのです。
ガルさんは間を置かずに懐に入って膝の関節部を横一閃で切断すると、バランスを崩して大きなゴーレムが仰向けに倒れていきます。そこに胸の中心目掛けて剣をグサリと刺し込むとゴーレムの核が砕けて、形を失って崩れてゆくのです。
流石、ガルさんです。
息も付かずに次の大きなゴーレムに向かって走り出してゆきます。
思わず、見入ってしまいました。
◇◇◇
ガルさんに全部任せても良かったのですが6体は顔面岩の近くに大きな岩がゴーレムになった奴です。さらに残る2体もその後ろです。
担当でいうとやはり私でしょうか?
戦ってみたいという人はいないようですし、ガルさんを気にしているのは戻ってくるのを待っているのでしょうか。
「目の前のゴーレムに集中しなさい。怪我するわよ」
No.1さんが余所見していた所を赤毛のお姉さんが槍を盾代わりにして防ぎます。もちろん、ゴーレムと体重差があり過ぎますからNo.1さんと一緒に後ろに一度吹き飛ばされます。
それでも倒れることなく着地して、便所掃除さんのフォローに回るのです。
No.1さんは注意されても大きなゴーレムが近づいてくるのが気になるようです。
「さっさと片付けた方がいいかな?」
「はい、その方がいいと思います。近づいてくるだけで目の前のゴーレムに集中できないようです」
他のゴーレムと同じようにある程度近づいて来た所で仕留めるつもりでしたが、お茶会のお姉さんに従って片付けましょう。
アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー!
超音速の速度で氷に針が胸に突き刺さります。
さすがに貫通はしません。
それでもが核には届いたようで、その場で崩れて岩の山になってゆくのです。
浮遊盾、アイススピアー!
こら、こら、その光景に見て盾役が動きを止めちゃ駄目でしょう。
盾が止まって、飛び出した赤毛のお姉さんの頬に危うくいい一撃が入りそうになっていました。
集中力も切れたみたいですし、数を減ってきたので終わらせますか。
ぶおん。
擬音にすると、そんな感じの音を出して顔面岩の目が光ります。
そして、背中の大地を割って、ぐごごごごぉぉぉと立ち上るのです。
全長は20mくらいもある手長の巨人です。
立ち上がると山のように見上げなくてはなりません。
俺は手信号でガルさんに戦いますか?
そう問いかけるのです。
腕をクロスして『×』を作ります。
あの大きさになるとバスターソードでも一撃で切るのは難しそうですね。
地味に腕や足を削ってゆく作戦も駄目です。
ゴーレムの厄介な所に1つは破壊した腕や足がすぐに再生されることです。
壊しても再生される厄介な特性があります。
ばさりと切れないと駄目なのです。
まぁ、普通は魔法士が爆裂の魔法とかで転倒させるとかフォローがある所なのでしょう。
巨人を転倒させて急所に一撃入れるのはかなりの無理ゲーです。
しかも手が長くゴリラみたいな歩き方をする巨人を転倒させるのも一苦労しそうですね。
漫画か、アニメのようなに巨人が撃ち込んできた腕を逆に逆上って攻撃するようなアクロバットを見たいものですが、やる方は堪りません。
もちろん、ガルさんも嫌なようです。