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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第二部.児童チートで優雅な(?)ドキドキ編、確かに女の子をはべらしますが、少女ですよ。
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23.嘉辰令月(かしんれいげつ)。

布団に入っても目が冴えて眠れません。

宿営地(仮宮殿)というのがいけないのでしょうか。

冒険者としては失格ですね。

そっと部屋を出て庭を散歩します。

流石、王族が泊まる為に作られた宿営地です。

中庭に鮮やかな梅園があるようです。

月は満月に近づき、梅園を明るく照らしています。


「あらぁ、眠れないの」


梅の精のように俺に声を掛けたのは赤毛のお姉さんです。

紅い髪の毛が風に揺れて、梅の花と一緒にゆらゆらと踊ります。


「月が明るく、梅の花も鮮やか。嘉辰令月(かしんれいげつ)ね。」


嘉辰とは、月の巡りに喜びを感じるという意味です。

令月とは、麗月とも書かれ、美しい月で2月の事です。

そして、梅見月と呼ばれるように2月の花は梅です。

そこから美しい月、梅のように艶やかな月という意味で使われるのです。


嘉辰令月は、美しいものに出会ったことを感謝する。

そんな意味でしょうか。


「綺麗ですね」

「ホント、持って帰りたいわ」

「本当に綺麗です」

お姉さんが!


美少女が美しい梅の木の下で立つ情景です。

絵になります。

とても綺麗でいいものが見られました。

これならゆったり眠れそうです。


 ◇◇◇


朝食を食べてから顔面岩まで出発です。

王都北西にある山は余り高くないのですが草木も生えない禿山で、標高は300mくらいの山と100mくらいの丘陵地帯が幾重にも折り重なった荒野が広がるのです。

道を整備されていないので徒歩で登る事になります。

最初に50mくらいの丘を登ると草木の生えない山の境界線を越えます。

そこから見渡す限りの岩だらけです。

大きな岩から小さな岩がごろごろと転がっているのです。


「不思議な配置の岩です」

「何がですか」

「私が岩場は万遍なく大きな岩と小さな岩が転がっていたと思うのです」


確かに、お茶会のお姉さんの指摘は思い当たります。

この荒野の石や岩は大きい岩が集まる所に同じくらいの岩が集まり、小さい石が固まっている所には小さい石しか転がっていない気がします。

言われて見ると不自然です。

まぁ、その1つが擬態だったりするので厄介なのです。

そう岩トカゲと岩ねずみなど岩に擬態した魔物が多く、小さいモノでも毒サソリなどがも要注意です。


「あっ、そこ気をつけて下さい。穴がありますからアントが出てくるかもしれませんよ」

「それなら燃やせばいいんだよ。インフェルノ」


馬鹿が穴に向かって炎を放り込みます。

穴の中が高温になり、熱さに耐え切れない奴らが地上に逃げてくるのですが、沢山の出口から一斉に飛び出してくるのです。


あっ、蟻でなく、地蜂です。


クロスズメバチに似た人くらいの大きな蜂の魔物です。

50匹くらいはいますね。

俺もむかし、そんな馬鹿をしました。

突然、足元から出てくるので生徒は大慌てです。

護衛が王子や貴族の周囲を囲みます。


「散開、全方位の守備陣形」


第3王子が叫びます。

襲ってくるクロスズメバチを切ってゆきます。

お姉さんらに指一本触れさせませんよ。


ウガラスゼミの生徒は自分で何とかして下さい。

怪我くらいは直して上げます。


ガルさん、今日は朝から考えごとをしているようですが、いざ敵が出没すると地味ですが生徒の邪魔をせずに守っています。


きゃぁ~、メイド服(薬)の教授はそんな声を出して怯えて慌てている様子の割に『ファイラーニードル』という感じの針を刺して余裕で蜂を処理していますね。


おぉ、広範囲系のファイラーボールら、本格的な広範囲のインフェルノが炸裂して蜂があっという間に撲滅されてゆきます。

やはり、広範囲系の魔法があると便利ですね。


しかし、中途半端な熱風を送り込むからこんな大騒ぎになるのです。


この手の魔物は徹底的にやって貰いたい。

マグマのような溶岩を流し込んで、出口を固めと同時に中を蒸し焼きにするくらいの根性を見せないと反撃に合うんですよ。

しかし、こんなに派手なインフェルノを連発して大丈夫ですかね。


 ◇◇◇


3時間ほど歩いて工程の半分を過ぎた所でインフェルノ君は顔色が悪くなっています。

魔力限界まで魔力を使った経験がないようです。


第3王子からこれ以上は攻撃に参加しないように言って貰いましょう。


ゴーレムとは10体ほど接触しました。

1kmに1体くらいの割ですかね。

予定通りに進んでいます。


「ゴーレム発見」


姉さんのような斥候はいないので、岩トカゲとか、擬態する獲物は割と接近するまで気が付かないこともあって慌てます。


一方、ゴーレムは身長が2mほどの巨体なので発見が楽です。

「3班が攻撃します」

スリーマンセルで6班に分かれた生徒が交代で攻撃を掛けます。


ゴーレムは岩の塊なのでファイラー程度の火の魔法ではダメージを受けません。


ファイラーアロー、ファイラーランス、ファイラーアロー。


撃ち出された炎の矢をゴーレムが腕で受けますが、その威力で腕の一部が崩れてゆきます。次に当たった炎の槍が完全に腕を粉砕しますが、腕は1本ではありません。


ファイラーアロー、ファイラーランス、ファイラーアロー。


詠唱をし直して再度攻撃を加えてゆきます。


確かに第3王子の目論み通り、足が遅いゴーレムはいい的です。

接近する前にぼろぼろにされて、最後に胸のコアを砕かれて崩れてゆきます。

崩れた岩の中を探すとと小指の爪ほどの銀貨1枚の価値になる魔石が見つかるのです。

しかし、倒したというのに最初のように歓喜が湧きません。


狙いが正確でない為に無駄に魔法を連発することになって精神力をがっぽりと奪われているのです。

こりゃ、魔力が尽きる前に精神力が尽きそうです。

魔力の消費は実践も練習も変わりませんが、精神力の消費は全然違います。

精神力は鍛えると割と簡単に手に入ります。

要はぎりぎりまで追い込めばいいのです。

ガルゼミの生徒はここ2週間、かなり追い込まれているので相当アップしています。

慣れるしかないんですよ。


さぼって怠惰な生活を続けていると減るのが難点なんですよね。


 ◇◇◇


おぉ、顔面岩が見てきました。


魔力切れが近い生徒が3人に増え、マインドダウン直前の生徒が9人です。

体が怠い。

もう歩きなくない。

帰りたい。

そんな愚痴をいう程度なのです。


マインドゼロになっても気絶する訳ではありませんし、精神を鍛える場合はむしろここからが本番なのですが、今日は訓練ではなく実践です。間違って自暴自棄になったりされると堪りませんから、これ以上の戦闘に参加させない方向で第3王子と話を付けました。


それにマインドゼロになると魔法が発動しなくなります。


研究型の魔法師が実践で使い物にならないと言われるのもその為なのです。

お茶会のお姉さんが顔面岩を見てじっと見つめているのです。

顔面岩はスフィンクみたいに顔を上げているような高さ2.5mの顔の形をした1枚岩で土の中で本体が埋まっているような奴です。


「どうかしましたか?」

「いいえ、頭のある文字を見て下さい」

これは「אמת」(EMETH)、ヘブライ語です。

「確か、この言葉は真理ですね」

「正解です。ユダヤ教のラビがゴーレムを創ったと旧約聖書に残っています」


代筆できる書物の中に『旧約聖書』もあります。しかし、すでに原典を書き遺した人がいるそうで、図書館にも異世界文学の1つとして寄贈しれていました。

こちらの世界では、ユダヤ教の『旧約聖書』、キリスト教の『新約聖書』、仏教の『経典』も全部が文庫扱いなんですよね。


そりゃ、こっちはリアル神様がいる訳ですから「これは事実でしょうか」と聞ける訳です。異世界の神の言葉全集に宗教的な価値がある訳がありません。

文庫扱いとは思いませんでしたが…………。


時期を推測すれば、ラビがいたのは出エジプト記時代で紀元前13世紀頃になります。旧約聖書が出回ったのが紀元前4~5世紀、ラビという称号が使われたのが紀元後になった頃です。いずれにしろ、2000年から3000年以上も前の話です。


ラビの伝承をこちらの世界の人間が地球に伝えたのか?

それとも地球の世界の伝承がこちらの世界に伝わったのか?

それは謎です。


 ◇◇◇


ガルさんが全員を集めます。


「ゆっくり食事をしている暇はないが、簡易食を食べながら聞いてくれ」


妙に真剣な顔で語り出します。


「あの顔面岩を見て、さっき思い出した。俺がまだ冒険者をやっていた頃、西の冒険者が山越えで冒険クエストに来ることがよくあった。彼らはいつも山を越えて森に入るが、帰る時は森の砦経由で帰ってゆく。砦で火を一緒に取り囲んだときの話だ。この山を彼らは『天神門』、あるいは、『天神通り』と呼んでいる。確か歌は、かごめかごめだったかな」


あっ、『とうりゃんせ』か!


「行きはよいよい 帰りはこわいっと言ってな。この山で戻ろうとすると、山ほどのゴーレムがでるらしい」

「先生、いいですか」

「王子か、いいぞ」

「どれくらいのゴーレムがでるのですか」

「判らん。だが、Aクラスの冒険パーティが嫌がるぐらいの数というのは間違いない」

「しかし、選択の余地はないと思います」

「その通りだ」


我々はゴーレムが出現すると言っても半日で帰れる位置にいます。

ここまま盆地を直進し、3日以上掛けて魔の森に抜けるのは得策ではありません。

森に抜けても森の魔物を討伐しながら砦まで戻る必要があるのです。

護衛の20人が頼りですが、生徒の方がすぐに戦力外が出ます。

さらに現地調達で食糧を得る必要も出てきます。


無理ですね。


「覚悟しておけと言っている。日が暮れる前に山から出たい」

「判りました。では、打ち合わせ通りに八陣で撤収します」


八陣、昨日の打ち合わせいた不測の事態の対処陣形です。

生徒を中央に集め、ガルさんが先頭、左右に護衛が半分ずつ別れ、殿に俺が付くという陣形です。

八陣の由来は兵法に魚鱗(ぎょりん)鶴翼(かくよく)雁行(がんこう)偃月(えんげつ)鋒光(ほうこう)衡軛(こうやく)長蛇(ちょうだ)方円(ほうえん)と8つあり、その8番目の方円の陣という訳です。


どうでもいいですか!

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