22. 魔導士の多いパーティってバランス悪いよね。
魔導師ウガラスが高名な魔法使いですから、ウガラス教授を慕って集まってくる生徒も魔法士が多くなるのは当然です。
ウガラスゼミ20人の内、7人が正式な生徒であり、残る13人は家臣枠で登録されています。第3王子を除く6人が全員魔法士で、他の生徒も全員が魔法士というのは酷くないですか。
魔導師ウガラスの教壇が聞けるとなると、魔法士ばかり集まってくる。
そうですか。
ウガラスゼミは前衛に王子、後衛19人が魔法士という構成です。
バランス悪いです。
王子を最前列に置けないでしょう。
前衛はガルゼミが行い、中堅と後衛はウガラスゼミに任せましょう。
護衛の20人がいるので何とかなるでしょう。
砦を出て森に入ってゆくと熊型の魔物を発見します。
ファイラー、ファイラー、ファイラー、ウインドカッター、アイス、ファイラー、ファイラー、インフェルノ!
過剰攻撃で素材どころか骨も残りません。
しばらく、魔物が現れると早打ち合戦が続きます。
小学生か!
あっ、11歳と12歳は小学生でした。
これではフォーメーションの確認ができません。
「先生、あいつらの魔力量って、どれくらいあるんですか」
「そうね。二人がすでに魔術士レベルに達しているわ。他は優秀な魔法士レベルでいずれ魔術士になれるくらいね」
ファイラーなら100発から300発程度は軽く打てるレベルですか。
火力も高いです。
ファイラーなら100発分くらいに相当するインフェルノを連発している馬鹿は、魔術士レベルの奴らしく、インフェルノを20発は撃てると豪語しています。特に凄い点は中級魔法のインフェルノを初級のファイラーと同じ速度で速射できる高速詠唱の技術です。
有頂天になるのも判る気がします。
魔力測定器で俺は彼の1.5倍に当たる30180ポイント、ファイラーで換算すると3000発程度です。3ヶ月で3倍に伸びていますね。
成長期でしょうか?
それはともかく訓練になりません。
「すみません。うちのゼミの者がはしゃいでしまって」
「別に王子のせいではありませんから」
「そう言って貰うと助かります。みんな実践ははじめてらしく興奮しているみたいです」
「そうみたいですね」
「明日はフォーメーションを守らせますので許してやって下さい」
この第3王子、本当に俺と1ヶ月違いの満8歳ですか?
妙に落ち着いています。
夕刻まで好きに遊んで貰って砦も戻ります。
1つの誤算は大切な料理のメニューとなるハズの肉が手に入らなかったことです。
全部、消し炭にされてしまいました。
討伐部位の爪や牙は回収しましたよ。
ボロボロですが、引き取ってくれるのでしょうか?
さて、食事ですがその心配は無用でした。
砦の中にある宿営地(仮宮殿)を使わせて貰えるので食事の心配をする必要はなかったのです。しかも領軍の料理人が派遣されて、帰った頃には食事も風呂も用意万端です。
あぁ~、なるほど。
4日目にわざわざ野営を予定に組み込んだ理由がこれですか。
納得です。
食事が終わるとミーティングです。
ここではじめて今回のクエストが発表されます。
中間の砦ですから、街道安全の魔物討伐と思っていたのでびっくりです。
「今回のクエストですが、顔面岩までの威力偵察を行いたいと思います」
「威力偵察とは何ですか?」
生徒の一人が当然の質問をします。
偵察は基本的に敵に察知されずに敵を確認することを言います。それに対して、威力偵察は小部隊で攻撃を掛けて、敵の反撃能力を図る目的で行われる小規模戦闘を意味します。
砦に西には高くない山が聳え、岩がごろごろと転がる禿山です。
不思議な事に山にはゴーレムを中心とした岩系の魔物が徘徊していますが、麓に降りて来ないのです。森に徘徊する魔物も山を越えて王都を襲って来ないので、砦を死守できれば、魔物の侵入を大幅に減らすことができるのです。
何故、魔物が山を越えて来ないのか?
未だに解明されていません。
とにかく襲ってこないので放置されているのです。
「以上のように、威力偵察とは山にいる魔物の脅威を推し量るものです」
「1つ質問して、よろしいでしょうか」
お茶会のお姉さんが手を上げます。
「どうぞ」
「まず、冒険ギルドにそのような依頼がなかったこと。次にゴーレムの素材は非常に回収価値が低いと思いますが、何故、ゴーレムの戦力を確認するのですか」
当然の疑問です。
ゴーレムの構成物質は99.9%が岩であり、回収価値がありません。
残りの0.1%が魔石ですが小指の爪ほどの大きさなので、引取り価格は銀貨1枚です。戦闘力の高いゴーレムと戦って銀貨1枚では割が合いません。しかも麓に降りて町を荒らす危険性がないので、冒険ギルドも討伐クエストを出さないのです。
「1つ目の疑問ですが、今回の依頼は王国軍からクエストとなっています。正確には私個人が持ち込んだ作戦の検証です。3月の遠征で北から押し上げるだけでなく、側面に当たる山側から遠距離魔法攻撃で森ごと焼いて魔物を殲滅するという案を持ち込みました。持ち込むと言うと大げさに聞こえますが、祖父の所に来た将軍と3月の遠征の打ち合わせをしている所に私がその話をすると「確かめてみよう」ということになりました。半日の工程ですから大した情報は入りませんが、2月から行われる調査の目安となればいいと思っております」
「なるほど」
「それともう1つ。クエストでもうお判りと思いますが、我がゼミの生徒は火系を得意とする者が多く、森では広範囲系の魔法が使えません。岩だらけの禿山なら魔法も存分に使える訳です」
確かに、ファイラーボールなどで山火事でも起こしたら大変だ。
今日もインフェルノで山火事を起こしそうになった馬鹿がいたからね。
「判りました。それでクエストの報酬はいくらほどになるのですか」
「必要な情報ですか」
「必要です」
「残念ならが報酬はほとんどありません。将軍が個人的に持ち込んだ案件ですから予算は出ません。もちろん、持ち帰った情報によっては高い報酬を与えられる可能性がありますが期待はしないで下さい。但し、王国軍からの直接依頼クエストですから、遠征に参加するより高い貢献ポイントが与えられます。来年度のゼミ予算会議で有利に働くと思います」
つまり、金は出せない変わりに国に貢献しているという約定をくれる訳ですね。
お姉さんもそれで納得しました。
第3王子の提案でウガラスゼミはスリーマンセルを組み、順番に攻撃することが決められます。今日の調子で全員攻撃をすれば、帰り道は全員が魔力枯渇で足手まといにしかなりません。
第3王子もそのことは判っているのでしょう。
お風呂に入って、布団で就寝です。
とてもクエストに来ていると思えない優雅さです。