20. 合同クエストがはじまる。
伐採場のクエストは1ヶ月後と決まった。
正確には2月末だ。
来月のはじめには、長荷馬車の1台目も搬入してくれると約束してくれました。
クエストの報酬は金貨30枚です。
高いのか、安いのか、よく判りません。
お茶会のお姉さんに言わせれば、金貨100枚くらいが妥当とか。
「でも、安心して下さい。金貨200枚程度の企画課の仕事を100枚に負けさせているので、金貨100枚は企画課に貸しです」
お茶会のお姉さんに借りると金利が高く付きそうです。
◇◇◇
「今日からおまえがゼミの代表だ。よろしく頼む」
測定室に入ると急にガルさんに肩を叩かれてそう言われた。
生徒会長の依頼らしく、会議で発言らしい発言もしないちょびさんより俺の方が都合いいと頼まれたそうです。
ちょびさんはむしろ大喜びです。
二つ返事で了承し、ガル教授も問題ないと受けたので俺が代表らしいです。
俺の意見はないのかい。
「伯爵の令嬢を婚約者に持つ奴が細かい事を気にするな」
それは関係ないでしょう。
「月末のウガラスゼミと合同クエストをすることになった。当面はそれを目標に鍛えるからな」
勝手に色々と決まってきます。
代表が飾りというのがよく判りますね。
ウガラスゼミの生徒会長を含む3回生は参加せず、ウガラスゼミの代表になった第3王子ら1回生と2回生の20人が参加するそうです。
好きにして下さい。
先輩との連絡はゼミの黒板にメモを張って置けば、2週間に1度くらいは見に来るそうです。
細かい事はお茶会のお姉さんに任せましょう。
本日は訓練に入る前に体力測定と魔力測定です。
体力は1週間で倍近く上昇しましたが、これから上昇率が落ちてくるそうです。
今日から装備の重量を50kgに増やし、走破距離も120kmに増やすと言っています。本当に大丈夫なんでしょうね。
一方、魔力量は1割ほど増加しています。
一週間で1割増しは大きいのでしょうか?
元々の成長速度が判らないので多いのか少ないのか判断のしようもありません。
俺の魔力量は魔導士の入り口と言われたメイド服(薬)の教授さんが太鼓判を押してくれます。
因みに、
自称天才君は俺の3倍近く上を行っています。
学年一は生徒会長で100倍以上も上です。
学園に来る優秀な資質を持つ学生が来る場所で、最優秀な資質を持つ魔法師の卵は弟子入りするという事ですから、どこまでも上があるということです。
俺の100倍の生徒会長の魔力量が魔法師同等と言われているそうです。
別に目指していませんが、遠いですね。
しかし、理論上は、8週間で2倍に膨らむと仮定すると、1年半後には追い越していることになりますね。
えっ、成長率がずっと1.1倍を維持する訳じゃない。
先に言って下さい。
期待したじゃないですか。
そんなことだろうと思っていました。
◇◇◇
あっと言う間に14日間が過ぎ、地獄のような訓練も一休みです。
「今日はよろしく。ウチのゼミは魔法士が多いので後衛が多いので世話になります」
「こちらこそ。前衛が多いので巧く使ってやって下さい」
第3王子とがっちりと握手します。
あいさつを終えると馬車に乗ってすぐに4泊5日のクエストに出発です。
目的地は袋の穴の最上段に位置する城壁町です。そこで一泊して問題がなければ、北上して危険地帯の砦に向かいます。
最奥の砦には向かわず、手前の中間砦を拠点とします。
到着は9時間後、夕方前というには少し早い時間になる予定です。
到着後にフォーメーションを確認の為に軽い討伐を行います。
本格的なクエストは3日目です。
詳しい予定は到着後に発表するそうです。
4日目は朝から撤収し、街道沿いで野営の訓練をします。
5日目は昼前に学園に到着し、そのまま解散の予定なのです。
こちらは荷馬車1台で1回生7人とガルさんを入れて8名です。
先輩方が全員不参加です。
ウガラスゼミは1回生と2回生を合わせて20人ですが、護衛が20人付いています。馬車10台と荷馬車1台、護衛の騎士6騎です。
貴族の坊ちゃんやお嬢ちゃんに王子が要れば、そうなりますよね。
護衛はあくまで護衛であり、クエストには参加しません。
「待って、私も連れて行って」
「先生、ゼミが違いますよ」
「いいじゃない。私達の間に他人行儀はなしよ」
「ゼミの生徒はいいんですか!」
「ウチは放任主義だから大丈夫よ」
メイド服(薬)の教授さん、にこやかな顔で言わないで下さい。
手綱を握るのは教授のガルさんです。
ウチの家臣はみんな貴族で馬に乗れますが、馬車や荷馬車を扱ったことがないのです。
これだから貴族は!
同期のアイリッシュ君は馬も乗れません。
おい、初等科の実技にあっただろう。
「まさか、自分が馬に乗ることがあるとか思わず、取っていませんでした」
「ウチの城壁市出身の生徒は割とそんな奴が多いぞ」
そう言えば、ガルさんとアイリッシュ君は同じ城壁市の出身でした。
「ウチの領主は学業でいい成績を修めた奴は全員の学費を肩代わりしてくれる。成績のいい奴は初等科もタダだ。俺はその初等科も中退した半端者だったがな、は、は、は! そういう訳で勉強は励むが高等科に進学するなんて、こいつらは考えていなかったのさ。だから、馬どころか、剣も握れない奴がやってくることがある」
なるほど、タッパがあるのにアイリッシュ君の剣技が冴えないのはそういう理由ですか。
頭が良ければ、初等科もタダとは気前のいい領主ですね。
「そうでもないぞ。食堂は朝・昼・晩と開いているから初等科にいる間は食費に困らない。だが、成績が落ちれば即退学だ。退学になりたくない為にみんな必死に勉学に励む。庶民に負けたなど貴族の名折れ、貴族はより血眼になって勉学に励むという訳さ」
あぁ~、庶民に優しい領主ではなく、貴族に厳しい領主みたいです。
などと、くだらない話をしている間に城壁町に近づいてきます。
馬車の往来が激しくなってきました。
城壁町の規模も北の城壁市の4~5倍くらいある本格的な城壁町です。
「ここは王都軍が出征する出陣地点になるからな」
「王都軍というは、毎年、聖域に魔物討伐に向かう奴ですか」
「おぉ、そうだ」
俺も少しくらいは勉強しています。
春の3月に魔物数を減らす為に魔物の討伐軍が編成されます。
前衛の第1陣は、小領主の領軍と冒険者で構成する1万です。
中堅の第2陣は、主力の大将軍が率いる王国軍です。
後衛の第3陣は、遊撃を中心とする王族が率いる王都軍です。
第1陣の目的は、強力な魔物が徘徊する地域まで第2陣を消耗させることなく連れてゆくことです。
露払いという奴です。
当然、一番消耗するのが第1陣であり、王都周辺の小領主はこの日の為にお抱えの冒険者を雇っていると言っても過言ではないのです。冒険者も儲け時ですから8000人近くも集まるというのです。
「この第1陣に俺達も配置される」
俺は赤毛のお姉さんとお茶会のお姉さんを見ます。
「悪いが連れてゆくことになる。なにぃ、俺が守ってやるさ」
「それでも危ないのではないですか」
「危険がないとは言わないが、俺達の配置は貴族の護衛だ。小領主も命を張って出陣するからな。こいつらと一緒に守ってやろうじゃないか。まぁ、余程の馬鹿じゃなければ、冒険者の先頭に立って突撃するなんてことはしないだろう」
あっ~~~~!
悪い予感しかしませんね。
◇◇◇
デカい城壁町に到着です。
旅団の速度ならどこかで1泊する距離ですが、万単位の軍が使用する道ですから整備を行き届いており、距離を稼げた訳です。
お尻が痛いので何度も休憩を取った為に到着が夜になったのは笑いです。
そして、予約していた宿で一泊です。
宿???
どこが宿ですか、屋敷の間違いじゃないですか。
第3王子なら王族の宿営地(仮宮殿)も使えるそうですが、それは訓練にならないので貴族の宿を予約したとか。
パーティーホールがある屋敷を宿と言いませんよ。
アイリッシュ君以外は慣れたものですけどさ。
お茶会のお姉さんらを連れて冒険ギルドに情報の確認に行きます。
特に問題なしです。
翌朝早く、俺達の一同は砦の方へ移動します。
魔物の素材を積んだ荷馬車が何台も砦から城壁町に戻ってきます。
「どこの町も同じようなことをしているんですね」
「いやぁ、知らんな」
「それならキルドで聞きました。北に遠征に行った冒険者が帰って来て、砦に買い取り所を作れと強く迫ったようです。荷馬車の護衛を雇う費用を差し引くことを条件に砦で買い取りができるようになったそうです」
「へぇ~って、北へ来ていたAクラスの冒険者の事か!」
「私は見た事がありませんが、おそらくそうでしょう」
「北はそういうサービスをしているのか。中々、進歩的だな」
「はい、我が主の提案です」
お茶会のお姉さん、我が主って言い方は止めて下さい。
中間地点の砦が見えてきました。
春の遠征では第3陣の王族が拠点にする砦であり、今回は俺達の拠点です。
ここに詰めている冒険者は街道の安全を確保するクエストを受けている冒険者達で、最強のAクラス冒険パーティ達は最奥の砦で活動中だそうです。
あの魔法銃を持ったパーティもいるかもしれません。
再会しなくていいでしょう。
というか、会いたくありません。