13.王都でのクエスト。
「なにか、変じゃありませんか」
「似合っている。似合っている。可愛いよ」
「そうれならいいのですが…………」
お茶会のお姉さん、はじめてスカート以外の服を見た気がします。
ワイシャツで露わになる起伏、ズボンで腰がきゅうと締まり、スタイルの良さがより際立ちます。足が凄く長くスレンダーだったんですね。
「はぁ、着やせするタイプなんたんだ」
「これはブラがずれないように厚めのブラを使ったせいですよ」
「ホント、スタイルいいね」
「筋肉がないだけです」
赤毛のお姉さんがいつも訓練着です。訓練着と言っても初級の冒険者より遥かにいい装備で、胸と肩にプレートの付いた軽装鎧を身に付け、インナーに魔物の内皮を使った丈夫な布の服を装備しています。
防御力を考えると、カジュアルな作業着のようなお茶会のお姉さんの装備が貧弱です。グイベルの内皮を仕込んだ俺のローブでも装備して貰いましょう。
「それとこれを装備して下さい」
「わぁ、指輪だ」
「指輪です」
「貰っていいの?」
「どうぞ、どうぞ」
「ありがとうございます。一生大切に保管します」
「いいえ、護身用ですからずっと身に付けて下さい」
「「はい」」
指輪を付けると魔力が発動してプロテクションが発動します。小さな矢を弾く程度のささやかな魔法ですが、魔力を供給すれば1日ほど持つように設計しておきました。
学校まで馬車で送って貰います。
学園の前に二頭引きの幌馬車が止まっており、先輩と同期が待っていたのです。
「おぉ、女の子がいる」
「ホントだ」
馬車から降りるお姉さんらを見て喜ぶ先輩方です。
あげないよ。
俺のモンじゃなけどさ。
「はじめましてお嬢さん、私はジャック・ダニエルと申します」
もう面倒だからバーボンさん、スコッチさん。アイリッシュと仇名に決めました。
文句ありますか?
ないそうです。
最上級生の先輩はみなさんから『ちょび』と呼ばれています。
みみっちくてちょびっとしか使わないとか?
おいおい判ると言われました。
荷物を幌馬車に乗せ換えて出発です。
◇◇◇
王都の北側から我が城壁市の方へオリエント山脈という長い山脈があり、魔物進入を退けてくれています。
高さは3000m級と1000m級がミックスになっており、完全に防いでくれる訳ではありません。北に行くほど標高が若干高い感じです。
王都の北西にアルゴ山地が伸びており、その先にオビウム高原が広がっています。
聖域を中心に考えると、
東にオリエント山脈、
北にオリエント山脈からなる台地、
西にオビウム湖
南西にオビウム高原、
南にアルゴ山地、
と四方が囲まれているように見えますが、オリエント山脈とアルゴ山地の間が南東方向に袋の底が破れたように開いているのです。
王都に北には出城となる4つの城壁町が袋の底の穴を塞ぐ存在なのです。
◇◇◇
その中で一番近い城壁町は幌馬車で1時間ほどです。
城壁町の大きさは我が城壁市と同じくらいです。
特に沢山の冒険者が暮らしている町だそうです。
「着いた」
「お尻が痛いわ」
「は、は、は、馬車ほど丁寧に造られておらんから」
「車軸は丈夫そうですね」
「おぉ、よく見ているな。その通りだ。今、おまえらが乗っている場所は魔物を積む場所だ」
なるほど、馬ように藁など引いているのはお尻のクッションではなく、床の汚れを隠す為でしたか。
教授は冒険ギルドに入って行きます。
「ガル、ひさしぶり」
「おぉ、ひさしぶりだ」
「また、若い子を連れてきたな」
「今年の生徒だ」
「随分、ちっこい奴に女か、遠足じゃないぞ」
「は、は、は、大丈夫だ」
ガルさんが俺の頭を撫でながらそう言うのです。
お茶会のお姉さんと赤毛のお姉さんをギルド登録するみたいです。
おぉ、プラチナカードですか!
「坊主、欲しかったら交換して貰えるぞ」
「結構です」
プラチナカードと言っても完全なプラチナではなく、コーティングしているだけのモノですが、死体から持ち帰ってギルドに提出すると、情報料として金貨2~3枚と交換して貰えるそうです。
なるほど。
普通の冒険ギルドなら予定期日に戻って来ない場合は死亡扱いにされて終わります。
わざわざ、生死の確認なんて取りません。
学生は貴族が多いですからね。
何々、プラチナは魔物の腹に入っても消化されず、排出される。
嫌なことを聞きました。
◇◇◇
掲示板を見て状況を確認します。
常備クエストに陸蟹があり、随分と高値で取引されています。
やはり甲殻系が多いみたいですが、カエルとか、イモリとか、ワニとかありますね。
沼地が近くにあるのでしょうか?
受付で地図を買って置きましょう。
生息状況が書かれているちょっと高めの奴です。
なるほど、なるほど、オリエント山脈の西側に川が流れ、王都手前で合流しているようです。その川が池や沼地を形成し、カエルなどの繁殖地帯が生まれているようです。
地図を見ていると、ガルさんが頭を軽くポンと叩きます。
どういう意味でしょう。
城壁町を出ると聖域に入ります。
聖域では道など通すことは許されますが、常時住むことは禁止されています。つまり、道と砦と小屋はあっても家はないのです。
小屋と家と、どう違うのでしょうね?
砦を3つほど進んだ所で、幌馬車を砦の中に入れてゆきます。
山ほど積んでいた藁と食糧を降ろし、砦の兵士に渡します。
これが宿賃だそうです。
砦は冒険者を守る為に作られており、大量の魔物が接近した場合は砦を放棄して、城壁町まで撤退します。
冒険者は要するに偵察部隊代わりなのです。
食事を終えると本日は腕試しです。
ガルさんを含めて全員が剣士というバランスの悪いパーティです。
えっ、パーティじゃない。
普段は別のパーティに加えて貰ってクエストを熟している?んですか。
そりゃ、そうです。
まぁ、ガルさんはソロでも問題ないようですが、同期のアイリッシュは困っています。
バーボンさん、スコッチさんは何とかゴミムシみたいな魔物と戦っています。
大きさは子犬くらいから牛サイズます。
ヒゲみたいなムチと凶暴なノコギリのような大顎が危険ですね。
足も6本ありますから、手数も多いのです。
極めつけが危険になると、腹から臭いガスを吐き出すことです。
尻を上げて、正面に100度を超える高温のガスを噴き出すと色々な意味で堪りません。
ちょびさんは流石の3回生です。
レイピアのような細い武器に持ち替えて、急所に一撃で次々に倒してゆきます。
「お姉さんもやりますか」
「もちろん」
赤毛のお姉さん、がんばって走って攻撃です。
ウォォォォ!
剣を高く振り上げから振り降ろします。
がちん。
ゴミムシの頭部を叩き潰します。
ほしい。?
頭部の甲殻を押し曲げるまで成功しましたが、昆虫系はしぶといのです。
もちろん、赤毛のお姉さんへの攻撃なんて通させません。
全部、浮遊盾で防いでみせます。
もう一度、剣を振り上げます。
危ないと思ったのか、尻を上げようとするのですがさせません。
浮遊盾を背中の腹部周辺に出現させて持ち上らないように、上空に向けて放たれたガスも風の魔法で流している内に、ぐしゃりと頭を完全に潰されて息の根が止まったようです。
初の魔物討伐に大喜びです。
「やります?」
ぶん、ぶん、ぶん、お茶会のお姉さんには無理そうです。
一応、クロスボウを装備して貰っていますが、甲殻系は相性が悪そうですね。
結局、アイリッシュは1頭だけ相手して逃げ帰ります。
ちょびさんはさすがの無傷です。
バーボンさん、スコッチさんは擦り傷だらけで化膿するといけませんから治療しておきましょう。
「ほぉ、治療魔法も使えるのか」
「はい、一番得意なのは土魔法ということになっています」
「妙な言い回しだな」
「色々ありまして、そういうことになっています」
一番得意な魔法はやはり火の魔法系ですね。
でも、効率では氷がお得なのです。
しかし、評価が一番高いのは土魔法です。
一人で砦を造れる戦略級の魔法師とか言われていますからね。
機密院、どこまで俺の情報を隠蔽しているのか知りませんが、北の城壁市まで調べに行けば、大抵のことはバレているみたいです。
さて、ガルさんはどこまで知っているのでしょうか?