12.王立学園への推薦状 。
朝起きると慌ただしく着せ替えられ、正装を着せられると謁見の間に運ばれます。
俺やお茶会のお姉さんと赤毛のお姉さんも跪いて使者を待ちます。
使者が到着し、扉から入って俺の前に立つと、書官の持つ書簡箱を開いて巻き上げた羊皮紙を開きます。
「皇太子殿下からのお言葉を伝える」
へぇ、何ですか、それ?
現皇太子はアウグェ・エスク・アルゴ王の曾孫に当たるサウルド皇太子です。アルゴ王国は聖教会に所属しているので長男が家督を相続すると定めらえており、長男、孫が先に亡くなり、曾孫が皇太子となっているのです。
「先日の決闘は実に勇敢であった。かくも傑出した存在を埋もれさせることなく、その偉大な英知・経験・功績を得るにふさわしい若者として、その機会に触れることを希望する。願わくば、精進されること深く望むものであります。
我が王国の誇り高き伝統を継ぎ、不屈の精神と断固たる決意で王国の臣民としての責務を果たして貰いたい。
サウルド・エスク・アルゴ皇太子
皇太子のありがたいお言葉で王立アルゴ学園への推薦が決まった。ありがたく、お頂戴するように」
今、なんていいました。
王立アルゴ学園への推薦?
「べつに……ぬごぉ」
お茶会のお姉さんと赤毛のお姉さんが俺の口を押えます。
「皇太子のありがたいお言葉を主になり代わり、感謝いたします」
「主はあまりの感動でとり乱しております。ご無礼をお許し下さい」
えっ、使者は本人と同等と見なされるので無礼を働くと、首チョンですか。
先に言って下さい。
使者が帰ると、横に控えていたアルゴ学園の者が入学許可書を手渡してくれます。
俺は跪いたままでありがたく頂きます。
えっ、普通に受け取っていい。
ただの文官ですって?
だから、先に言って下さい。
「は、は、は、中々に面白い奴だ。何でも皇太子は孫にせがまれて、決闘を見にいったそうだ。これほどの逸材を王立に迎え入れなくては、国の損失だと言ってくれたらしい。おまえも北で冒険者をやっていたと聞いている。王立の堅いのは苦手だろう。俺のゼミが一番緩いぞ」
本人が「ガル」と呼んでくれと言っていますから、ガルさんでいいですね。
ガルさんは文官の護衛というのが建前で俺の顔を見に来たそうです。
「家来は6人までとします。厳選にはご注意下さい」
そう言って学園の文官さんとガルさんは帰っていった。
ガルさんは一度遊びに来いと言ってくれました。
俺、「家臣なんていないよ」と言ったら!
お姉さんズからじっととした目で見られました。
折角、王立に入学できるようになったのに、俺が認めないと入学できません。
そうですね。
はい、家臣です。
お姉さん達は俺の家臣です。
序でに学園上位3人も家臣認定することになりました。
三人は大喜びです。
でも、随行は認めません。
俺よりガタイのいい先輩を引き連れて歩くなんて嫌ですよ。
えっ、屋敷に住めると思った。
知りませんよ。
お姉さんに相談して許可を貰ったらそうして下さい。
「させません」
「がさつな男は要りません」
そうですか。ご自由に!
◇◇◇
入学許可書を貰ったので王立学園を見学に行きます。
案内の助教授さんが、如何に王立が素晴らしいかを説明してくれます。
朝から晩まで勉学に励み、魔法の修練を怠らず、弁論会に積極的に参加し、武術会が毎週のように開かれていると自慢します。
お腹一杯ですよ。
教授が一人1つのゼミを持ち、ゼミ同士が切磋琢磨して争っています。
学園としては仲間ですが、普段はライバルという訳です。
講義室は数しれず、練習室に運動場が数十個も用意され、特別な訓練場も作られています。
ステイク城壁市と争ったコロシアムも学校の施設の1つです。
魔物と戦う専用コロシアムもあるんですね。
これらの施設を自由に使えるのが、最優秀校の特権だそうです。
遠慮します。
24時間戦えますか!
もう戦っています。
これ以上は遠慮します。
中央の案内が終わると、大通りを渡って建物の中に入ります。
こちらは本来の王立学園の建物です。
講義室や教室、講堂、体育館、競技場が設置されており、中央のミニチュア盤です。
こちらのゼミの教授はみんなちょっと変わったと助教授さんが形容詞のように付けます。
地質学や植物学や鉱石学や魔人研究とか、珍しいのが多いです。
その1つが冒険学、ガルさんのゼミです。
「おう、案内ご苦労」
「ここに入るのは止した方がいいと思います。ここのゼミでは特別に学べることはありません」
「何言ってやがる。実践に勝る勉学などないぞ」
「他のゼミとの交流もありません」
「アマちゃんと付き合うのが嫌なだけだ」
「毎月、中級以上の、魔物を一人当たり25体も討伐するノルマを掛ける。超ハードなゼミです。命が幾つあっても足りません」
「上級者ならそれくらいが当然だ。それ以下は要らん」
「しかも、8月の武闘大会に参加しないので、このゼミの評価は最低評価です」
「別に自前に稼ぐから予算の分担金なんて当てにするか」
「ここのゼミに入ると落ちこぼれ認定されます。入らないことをお勧めします」
「おい、おい、教授の目の前でそれを言うか?」
「あなたのことを教授と思ったことはありません」
ガルさんがお茶を出してくれるというので頂きました。
ノルマは絶対です。
その他に年一回ある王軍の遠征に参加します。
他は何もないそうです。
本当にないんですか?
「ない」
ホンとのホント!
「ない」
ここに決めます。
お茶会のお姉さんと赤毛のお姉さんが慌てます。
最下位を気にしているみたいです。
でも、最上層の最下位って、中層の上位より上ですよね。
別に一緒じゃなくても…………。
「「入ります」」
はい、そうして下さい。
後で知ったことですが、他の3人もここに自動的に入会することになりました。
家臣って、主人と同じゼミに所属するのが決まりだったんですね。
ごめんなさい。
書類はお茶会のお姉さんに任せます。
「細かいことを説明するのが面倒だな。明日からクエストに行けば判るだろう」
明日からクエストに行くことに決まります。
メンバーは3回生が1人、2回生2人、俺と同じ1回生が1人のみだそうです。
必要なモノはゼミで手配してくれるそうです。
ガルさんが着のみ着のままで来てくれと言っていますが、普段のクエスト道具は持ってゆきましょう。
見学を終えて校舎を出るとお茶会のお姉さんが肩を落としています。
俺は皇太子の推薦状を貰って入学する訳ですから、ゼミの8割に当たる王族派が主催するゼミを選び放題だったそうです。
それこそ、この学園の最高位と言われる教授のゼミに入って、最新の魔法学を学ぶチャンスがあったとお茶会のお姉さんは説明してくれます。
忙しいのは困るんですよ。
副業があってね。
帰りに町の魔法具屋によって貰います。
お金に余裕がないんですが、念の為に魔法石入りの指輪を二つ買いました。
さぁ、屋敷に帰って今日の日課です。