10.決闘《デュエル》 。
わぁぁぁぁあぁぁぁぁ、コロシアムの満員の人が入り、観客席の貴族方々の顔がごろごろと見えます。
「断ってくれたんですよね?」
「はい、相手の意図を読み。断りましたが、かくの如くなってしまいました」
そうですか。
「ホントに?」
「はい、伯爵家の名誉に傷が付きます。相手は学生としてでなく、伯爵邸に手紙を送ってきました。負けてもいいので受けざるを得ません」
あ~ぁ、魔術士さんが言っていた意味が判ってきました。
伯爵家に取り入るとこう言う事態になるんですね。
我が校の代表は総合格闘戦No.1と伯爵派のNo.2だった人が先鋒と中堅を務めます。今年の学年主席で卒業した方は、総合格闘戦でベスト8、剣術戦でNo.2に負けているのでこういう人選になったそうです。
たぶん、純粋な剣術では3人に敵わないでしょう。
「おい、こらぁ。死んでこい。生きて帰ってくるな」
「糞餓鬼、喉元を噛みきれでも喰い下がれ」
「死んでもこい。みっともない試合をするなら、トイレ掃除6ヶ月だからな」
「なら、布団も毛布もなしだ」
「おぅ、それいいな。飯も1週間抜くぞ」
「「おまえらが負けたら、俺らも奴隷1年だからな~がんばってくれよ」」
味方の声援?
敵の罵倒より味方の先輩の罵倒が酷いです。
「いいか、我々の名誉に掛かっている。将来が決まると思え」
「二人で1人。少なくとも一人は倒す」
「ここが墓場だ」
「死んでくるぞ」
二人の先輩がタッグを組んで悲壮感を出して特攻します。
◇◇◇
おぉ、強いです。
もしかしたらベンさん並に強いかもしれません。
ファイラーボールで威嚇して特攻しますが、一撃の威圧で剣ごと場外にリングアウトです。先輩、泡を吹いて倒れています。
見事な瞬殺です。
こりゃ、準備体操をしておきましょう。
我が中堅。
粘る。粘る。ガタイを生かして剣撃を受け続けています。
でも、全然、疲れている様子がありませんね。
がんばっているけど、こりゃ駄目ですね。
あぁ~、遂に力尽きました。
「すまな~ぁない」
破顔して大粒の涙を流し、俺に何度も何度も謝るのです。
これでは軽く負けて帰ってくる訳がいきませんか。
大声で罵倒していた味方もシーンと静まり返り、不甲斐ない後輩に味方の席で先輩方が殺気だっています。
目立ちたくありません。
今更ですか?
お茶会のお姉さんに激励されて諦めます。
「両者、中央に」
みなさん、注目しています。
腹括った。
ご期待に答えましょう。
「はじめ!」
俺は相手の懐にゆっくりと歩いてゆきます。
不思議そうな顔で睨んでいます。
はい、間合いに入りました。
「舐めるな」
「いえ、いえ、舐めていません。ただ、お客さんがそれを見たがっていると思いまして」
たぶん。
筋肉もりもりの戦士系の生徒が豪剣を振います。
がぁん、がぁん、がぁん、がぁん、がぁん、がぁん、がぁん!
「ふ、ふ、ふ、なるほど。手加減はいらんかぁ」
「はい、好きに打って下さい」
がぁん、がぁん、がぁんと剣の速度がドンドンと上がってゆきますが、野生の魔物を相手に8人分の防御を担当しながら攻撃もしていたのに比べれば、この程度なら余裕です。
魔力量を極限まで落として作った小さな無属性の盾です。
魔力のストックも大丈夫です。
がぁん、がぁん、がぁん、がぁん、がぁん、がぁん、がぁん!
剣が速くなれば、なるほど、見ている方が面白いでしょう。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、観客席の声が上がってゆきます。
こりゃ、大道芸人の域ですね。
お捻りは止めて下さい。
お捻りは止めて下さい。
こんな感じでしょうか。
はぁ、はぁ、はぁ、遂に肩で息をし始めています。
「もう終わりですか」
「ガキが舐めるな」
「では、今度はこっちからいきます。受けて下さいよ」
そう言って、肉体強化のレベルを上げると、拳の前で浮遊盾を作り、超加速で懐に入ると、加速門を4つ拳の前に作って撃つべし。
見た目はただのフックです。
戦士系の人も腕でガードをキチンと合わせています。
但し、加速門を通った浮遊盾は弾丸より重く。
ずごぉ~ん!
腕の盾ごと吹き飛ばすことができるのです。
うおぉぉぉぉぉ、吹き飛ばれて、どすんという音と共にそのまま場外です。
審判の手が俺を差します。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、観客席がやんややんやと騒いでいます。
「こりゃ、この子供に喧嘩を売った伯爵の息子が悪いわ」
「まったく、まったく、今年は凄い子が出てきましたな」
「来たかいがありましたな」
そんな声が聞こえたのか、自称天才君は額に青筋を立てて怒りを露わにします。
◇◇◇
次は大男です。
ホントに生徒ですか?
ゴリラの間違いでしょう。
さらに重装備に上に殴り潰す大型の槌、ハンマー系の攻撃をするタイプです。
吹き飛ばすのも面倒なのです。
今度は開始と同時に急加速で接近して首元にナイフを突き付けて終わりです。
見た目、簡単に終わったように見えますが、相手の隙を狙った奇襲です。
どんな魔法を撃っても利かないような対魔法の銃装備です。
撃って来いと余裕ぶっているから足払いで転倒を狙って、鎧の隙間にナイフを突き付けるのです。
念の為に手足が動く可動域に浮遊の盾を出して動きも邪魔をしています。
一瞬、身動きができなくなってパニックった所でナイフが首元です。
うん、偶然に巧く決りました。
頭が回らない内に試合を決めて訳です。
戦士系の人は潔いよくて助かりました。
インナーに来ている服も高級な魔物の内皮で、ナイフくらいの刃では切れません。
安全にインナーだけ切る方法なんてありません。
悪い顔をして脅しましたが、この後は考えてなかったのです。
良かった。
お茶会のお姉さんと赤毛のお姉さんが抱き合って喜んでします。
◇◇◇
最後の相手は俺と同じくらいの体格です。
太い腕と太い足、下兄のように筋肉が付いています。
しっかり鍛えられた体です。
なよなよとする俺とは対照的ですね。
しかも魔法が得意そうです。
「変わった戦い方をする奴だな」
「他の人の戦いは知りませんから」
「ふざけた奴だ」
「ふざけたつもりはないですよ」
「だが、この天才には通用しないぞ」
開始と同時に自称天才君は肉体強化で急加速して居合切りです。
否、刀を戻さないので居合切りじゃなく、ただ切り掛かっただけですね。
体付きがいいと言っても子供です。
年上と対峙するには肉体強化を覚えますよね。
「ちょこまと」
മിന്നൽ ബോൾട്ട്. എന്തോ ശിക്ഷ、自称天才君が口で何かを呟きます。
高速詠唱でしょう。
ばしん。
おっと、稲妻です。
あぶない、あぶない、浮遊盾で防げてよかったです。
ഇത് ഐസ് ആണ്. എന്തെങ്കിലും നിയന്ത്രണം、次は何ですか?
足元に水、違います。
凍った?
動きを封じられました。
「死ね」
ജ്വാല. ഈ ആഷ് ഉണ്ടാക്കുക、これは何となく判ります。
身動きを止めて、相手を仕留めるなら炎です。
って、考えている暇ないがありませんね。
う~ん。
相性悪いですけど、やって見ましょう。
周囲の集まった炎が俺を取り囲んで火の柱を作り上げます。
勝ったとガッツポーズをとってしますが油断大敵ですよ。
俺の小さなドームの盾を周囲に作って身を守ると、次に剣を抜いて精霊が作り出す絶対零度の氷の盾を刀身に張り付けます。そして、生まれるのは冬将軍が持っていた氷精霊剣擬きです。
熱量の低い赤い炎を切り裂いて、一気に自称天才君に近づきます。
自称天才君は俺の剣を剣で受けるミスを犯すのです。
シャキーン!
一閃に切って、剣を柄に戻します。
自称天才君の剣が根元から切られて、ポキンと剣の先が落ちてゆくのです。
見せ場は作った。
もう、良いでしょう。
俺はお姉さんの方に歩き出します。
「待て、まだ負けてない」
「こっちはガス欠ですから負けです」
場外。
俺が自ら場外に出ると、自称天才君の勝利が宣言されます。
お茶会のお姉さんと赤毛のお姉さんが勝者を迎えるように抱き付いてきます。
観客席はざわついています。
勝者判定に異論があるのでしょう。
できれば、ベンさん並の剣技で首元に赤い線を引きたいのですが、間違って喉を切ってお陀仏は嫌ですよ。
剣の根本を切るのが、俺の精一杯です。
ステイク城壁市が勝利し、我が城壁市の面子も保たれました。
終わりよければ、すべて良し。
◇◇◇
試合も終わって、優雅に食事をしてくつろぎます。
「でも、これで一生、ステイク城壁市に恨まれましたね」
「この恨みはむしろ名誉です」
「えっ、どうしてですか」
「そりゃ、負けた上に、勝ちを譲られたら死ぬより辛いと思いますよ」
「おそらく、何かつけて勝負を挑んでくるかと思います。受けて立ちましょう」
いや、いや、いや、それはないですよ。
お茶会のお姉さんが説明してくれます。
ステイク一族は宰相に従って、保守派の筆頭らしく。
市長伯爵閣下が所属する発展派にとって胸のすく思いだと言うのです。
一方、同じ保守派の我が城壁市の領主伯爵様はステイク一族を毛嫌いしているので問題がないそうです。
「ステイク一族は王家より古い領主様で、新しいウチの領主様を馬鹿にするんだよ」
なるほど、格式という奴ですか。
決闘を申し込まれて断れないのもそういう理由があるそうです。
派閥争いなんか、勝手に向こうでやってくれ!