9.決闘《デュエル》 を申し込むアッキ。
俺の名はアッキ・アディ・ステイク子爵だ。
ステイク家は王族より古くこの地を治めていた一族であり、アルゴ王の付き従った建国の忠臣の一族だ。私の父は現宰相エステル・エスク・アルゴ第2王子の文官をしており、王からの覚えも目出度い。父は働きを認められ、エステルの孫娘を嫁に貰った。つまり、この俺様はアルゴ王の血筋を半分受け継ぐ、準王族でもある。
ステイク家はステイク城壁市を中心に多くのコロニーを持ち、我が領地の城壁町もその1つである。農耕と軍備のバランスよく整えられた我が町は他のコロニーより栄えていると言えよう。
生まれた時から期待され、英才教育で5歳の初等科に入学時からトップを走り、2年で飛び級試験を受かり、3年で卒業した天才である。4年で卒業する奴は意外と多いが、3年となると数は一気に減る。つまり、この俺様は数少ない天才の一人という訳だ。
もちろん、ただ頭がいいというモヤシではない。
小さい頃から剣と弓を鍛えられ、魔法という新たな力を得た俺に敵はいない。
ステイク城壁市剣術大会、優勝。
ステイク城壁市弓術大会、優勝。
ステイク城壁市魔法戦、優勝。
紋章学論文、ステイク城壁市金賞。
討論大会、ステイク城壁市優秀賞。
以上を総なめにしてやった。
わは、は、は、は、俺の功績を認めて、王立アルゴ学園が第一位推薦者の推薦状を送ってきた。
本年度、最年少の入学者、天才アッキ・アディ・ステイク子爵の伝説はここに始まる。
◇◇◇
忌々しい。
なんと、8歳で入学しているのが俺だけではないと言う。
ラケル・エスク・アルゴ王子。
王位継承権第6位という低い順位なので王になることはないが、直系の王族は王族だ。
王都ではラケルの話で持ちきりらしい。
俺の名前は1つも上がっていない。
ラケル王子さえいなければ、王都でも本年度の高等科入学生の話題は俺で持ちきりになるハズだった。
忌々しい。
ラケル王子はテストに合格しただけで、剣も魔法も大した腕でないらしい。
それなのに天才の名をほしいままに王都で騒がれている。
王子でなければ、叩き潰してやれるのに。
くそぉ。
だか、王立アルゴ学園が第一位推薦者は俺だ。
見る人が見れば、正しい評価をしてくれる。
この悔しさは倍にして返してやる。
◇◇◇
王に謁見する日。
大広間の最後方に位置する場所だが、ここから俺の一歩が始まる。
大臣や官僚の先輩方々が後から入場されてくる。
近衛、聖騎士、騎士、高等科入学生の品定めの時間がやってきた。
この大広間に集められる者は全国で去年活躍したと評価される者ばかりである。
今年は当たり年かどうかなど、たわいもない話からその者の将来が大きく左右されることもある。
高等科入学生はその中でも一番に話題に上がる。
なんと言っても金の卵だからだ。
今年の目玉は俺とラケル王子だ。
やはり、忌々しい。
おやぁ、違う。
ラケル王子は俺と同じ中央の先頭に立っている。
皆が指を差しているのは、斜め迎えの最後方だ。
どういうことだ。
しかも来る人、来る人、皆が注目を集めている。
なんと言うことだ。
これでは俺の方を見る人がいないではないか。
◇◇◇
従者に情報を集めさせた。
なんと6歳で初等科を卒業したらしい。
剣の腕は大会に出るレベルではなく、論文や討論の評価もない。
ただ、卒業しただけだ。
北の果てはレベルが低いのか。
ただ、頭は回るらしい。
何でも伯爵の令嬢に取り入って北の発展に貢献したという。
北の発展は鬼の悲願であったらしく、それで推薦を受けたと聞く。
鬼の秘蔵っ子か知らんが、随分とゲスな事をしてくれる。
庶民と言うのは本当に浅ましい。
伯爵の令嬢に取り入るとは、恥しらずな。
今は美少女を二人はべらせて、伯爵家の屋敷で住んでいるという。
男の風上にも置けない奴だ。
たが、なんと言っても許せないのが、『最年少』の3文字を奪ったことだ。
『至上初』、『王国初』、『最高峰』、『最年少』と言う3文字は、人の偉大さを簡潔に表現してくれる。
本年度、天才入学者、アッキ・アディ・ステイク子爵。
本年度、最年少の天才入学者、アッキ・アディ・ステイク子爵。
どちらの方が簡潔に俺の偉大さを現しているだろう。
『天才』と言っても、ピンと来ない。
しかし、『最年少の天才』、『至上初の天才』と付けば、誰も瞬間的に感じてくれる。
この3文字を俺から奪った罪は重い。
幸い、こいつは庶民だ。
王族ではない。
天罰を受けるべきと思わないか。
「決闘 だ。本年度、入学生による決闘を行うぞ」
今年最初の決闘だ。
城壁市戦は3対3、魔法ありの決闘だ。
観客も湧くだろう。
ハリボテの最年少を打ち砕き、誰が今年の最高峰か判らせてやろう。
いやぁ、待て!
城壁市宛てで出せば、奴が出て来ないかもしれない。
奴宛てに出しておこう。
大将アルフィン・パウパー様宛だ。
◇◇◇
はぁ、意味が判らん。
決闘を引き受ける条件が3対3の勝ち抜き戦でないと受けないと言ってきた。
それでは俺が奴をぼこぼこにできないではないか。
「で、なんと言った」
「はい、勝ち抜き戦にしないなら引き受けない。嫌なら好きに吹聴して貰って構わない」
ステイク城壁市のレベルは高い。
大将は俺が出るとしても、後の二人もレベルが高い。
一人で3人を倒すことも考えられる。
それでは面白くない。
「棄権あり、但し、大将は棄権を許さない。この条件なら勝ち抜きを認めよう」
最初から二人は先鋒と中堅を倒せば、棄権すると喧伝すればいい。
しばらくして使いが帰ってくる。
認めないだと。
「はい、棄権は認められないといいました。但し、約定は交わせないが、勝者側が希望するなら大将戦のみ、もう一戦組めるという特別ルールを組んでもいいと言っておりました」
理解した。
腹が立った。
俺が大将戦をしたがっているのを承知で言ってやがる。
ステイク城壁市をなめているのだ。
いいね、いいね、全員をぼこぼこにしてやろうじゃないか。
ふ、ふ、ふ、殺してやる。