8.学校って、何をするところ。
入学を終えた翌日、先輩方にあいさつです。
食堂に集まっていた先輩方は俺に頭を下げてくれます。
流石に片膝を付いての最敬礼ではありませんでしたが、上官並の丁寧さです。
俺に様を付けています。
先輩なのに申し訳ない。
どうやら俺は伯爵家の親族扱いだそうです。
まぁ、屋敷を使っているのですからそうなりますね。
赤毛のお姉さんは先輩から虐められています。
「巧いことやり上がって、この!」
「私にも紹介してよ。しなかったら酷いよ。昔の話をみんなに広めちゃうから」
「判りましたから、それは止めて下さい」
「あのぉ、お姉さん達ってどういう立ち位置になっているんですか?」
「そうですね。特に主従の契約も結んでいません」
そうですね。
結んだ記憶はございません。
「私もそのように名乗ったこともありませんが、見る方からみれば、家臣のように映っていると思われます」
「俺、庶民ですよ」
「もう、誰もそのように見ておりません」
そうですか。
お茶会のお姉さん曰く、伯爵の猶子と見なされているそうです。
猶子と言うのは、便宜上の親子関係を差し、姓が変わることもなく、伯爵が後見人と名乗りを上げている状態です。つまり、貴族同等、家臣がいても不思議ではないと思われているのです。
いつからそんなことになっていたのでしょうか。
「ただ、後見人に市長閣下も名乗りを上げていますから、もう少し複雑な状態です」
なんと、赤毛のお姉さんのお父さん、領軍の100人隊長から師団長に格上げされていました。ウチの領軍は300人しかいませんから、将軍に次ぐNo.2です。将軍は領主の直家臣であり、師団長になった時点で赤毛のお姉さんのお父さんも領主の直家臣です。その直家臣の娘を俺に付けているので、赤毛のお姉さんは伯爵の準家臣扱いになっていました。
まったく、知りませんでした。
「因みにわたくしは市長から命令を受けておりますので、市長の準家臣となっております」
何となく、そんな気がしました。
お茶会のお姉さんの命令は俺を支えろという単純なものです。
言われなくともそうするつもりだったそうですが、いろいろと役に立つので頂いたそうです。
一昨日もさっそく役に立ったそうです。
「一夜にして、王都の行政府の偉業の名乗りを上げてやりました」
「もしかして、王宮のやたらと指を差されていたのはそう言うことですか」
「いえ、いえ、あれは今年度最少の入学生が馬鹿伯爵家に喧嘩を売ったという方です。交渉中にその話が上がり、非常に交渉がスムーズに進みました」
王宮の表彰の後、晩餐会までに閣議が開かれて、俺の名前の付いた計画書が通ったと朝一番の通達で届いたそうです。まだ、大臣や長官に名が知れた程度で、貴族や下々に広がるのはこれからだとか。
止めて下さい。
どうして計画書に俺の名前を付けるんですか。
「今後の旅団の通称とレンタル荷馬車定期便の通称もその名前になり、一年後には王都でその名を知らない人はいなくなります」
おい、おい、悪の参謀みたいに手を広げて叫ばないで下さい。
これで『おほほほ』とか、高笑いを付けたら悪役になりそうな雰囲気です。
俺って、魔王のポジションですか。
それはさておき、せっかく総合区に出てきたので三人で町見学です。
馬車の中からメイドさんが色々と説明してくれます。
武器や魔法具屋に入ってみましたが、物価が高いのでお金が掛かりそうです。
おぉ、中級魔法陣10層の魔法石が売っています。
金貨1000万枚って、いったいいくらですか。
「冒険ギルドはありますか」
「はい、あります」
御者に言って移動して貰います。
中は静かです。とても静かです。
掲示板には赤紙ばかりで常駐依頼が1つもありません。
「いらっしゃいませ。学園冒険ギルドにようこそ」
「こんにちは」
「今日はどういう御用ですか。ギルド登録でしょうか」
俺は胸からギルドカードを提示します。
「すでに冒険者の方でしたか。申し訳ございません」
「いくつか聞いてもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
「まず、常駐依頼が1つもないようですが、どういうことですか」
「この町には、特殊な解体職人しか常駐しておりません。常駐依頼は隣のコロニーでお願いしております」
要するに学園都市の冒険パーティは学生のみで構成されており、生活の為ではなく、冒険功績の為にクエストを引き受けるそうです。つまり、依頼功績が評価される赤紙しか引き受けないので、通常の冒険ギルドと異なるそうです。
普通のクエストを引き受けるなら隣のコロニーの冒険ギルドでも受け付けができるそうなので問題ないそうです。
コロニーとは学園都市に入る前に在った近くの城壁町のことです。
預けている預金はどこのギルドでも引き出せますが照合までに時間が掛かります。どこでも出せるというのは拠点が移せるという意味だったのですね。つまり、王都から北で出稼ぎに来た冒険者が北のギルドから王都に送金して貰えば、王都で引き出せるという意味だったのですね。
地球のキャッシュカードの様にいかないのです。
次に訪れたのが行政府の魔法省人材発掘課です。
今更、人材発掘もないのですが、こちらが審議官の窓口になっているからです。課長自ら出て来てあいさつしてくれました。
私のファンとか言われても恥ずかしいですね。
高等科に進学したので論文の提出の義務は解除されましたが、一生異世界論文を提出し続けても構わないのです。がんばって書いても銀貨1枚ですから、成人した後に論文を提出しなくなる方がほとんどいなくなります。ただ、私の場合は依頼小説1件に付き小金貨5枚以上ですから決して悪い商売ではないのです。
監視対象ではないので担当文官は付かないそうで、窓口の案内嬢が依頼と手配をしてくれるそうです。
今後、移動が多くなるかもしれないので依頼の保留期間を6ヶ月に伸ばして貰い、振り込まれるお金はさきほど開設した冒険ギルドの口座に入れて貰います。
「さっそくですが、当学園の教授から特別依頼が出ております」
はじめて聞く依頼です。
「目的の書籍が見つかるまで成功報酬が払われない依頼のことです。もちろん、1冊に付き、最低保障の小金貨5枚は支払われます」
教授が欲しい知識はコンピューターの入力知識です。つまり、プログラミング言語の書籍化です。アセンブリ言語やコンパイラの入門書でいいのですかね?
「一冊丸々を書き出すのは無理と先方に言っておいて下さい。私が読んだ部分のみなら書き出せます。それでよろしければ受けさせて頂きます」
「判りました。連絡を取っておきます」
今日のやることはここまです。
今後、やり取りはこの受付窓口か、手紙で要件を伝えることになります。
さて、総合区の要件を済ますと今日の目的の学園区を目指します。
この学園都市のシンボルになっている学園塔は地上20階の円錐台の巨大な建物です。
そう、権威の象徴『バベルの塔』です。
バベルの塔を中心に大講堂、図書館、訓練所、競技会場など様々な施設が作られており、ほとんど施設がここに集まっています。
現在の持ち主は王立アルゴ学園です。
「現在の持ち主というのは、持ち主が代わるのですか?」
「はい、8月に催される総合武闘大会で3年連続優勝すると持ち主になれます。逆に3年間、1度も優勝できない場合は退去しなければなりません。王立アルゴ学園は優秀な生徒を集めていますから、ここから退去したのは長い歴史の中でわずか5回のみです」
「5回ということは、退去したこともある訳ですね」
「はい、稀に優秀な生徒が他の学園に集まる時期があり、彼らが在籍している間に3連勝するという事が稀にあるのです。ただ、その者達が卒業すると、3年後には退去することになります。そんな歴史を繰り返しているようです」
なるほど、王立には王族が入学しますので、王族と親しくなりたい方はアルゴ学園からの推薦がくると大抵は入学するそうです。
全国から優秀な人材を集めるので優勝するのも当然なのです。
「やはり忙しいんでしょうね」
「はい、アルゴ学園では様々な依頼や課題が生徒に出されるそうです。一番忙しい学園の1つと言えます」
推薦も来ていませんからパスです。
暇な学園がいいですね。
「暇な学校ですか。探しておきます」
因みに、お茶会のお姉さんが行きたい学校のNo.1はアルゴ学園だそうです。
アルゴ学園の生徒になるだけで大図書館の4階まで閲覧できるようになり、様々な知恵の収拾ができるそうです。次に希望するのはアンティ王家が作ったというスペース学園です。大陸から持ち込まれた文献が多く集積されている知恵の学園です。
赤毛のお姉さんはフランク学園であり、北の宗主であるフランク族が作った学園で、先輩達が通っている学園です。ただ、俺がここに入学すると色々と問題があるので諦めているそうです。
どういう意味ですか?
馬車は中央塔からぐるりと学園区を巡ってから屋敷に戻ってゆきます。
急がなくても10日後までに選べばいいそうです。
魔法科に行って魔法を研究するか?
冒険科に行って冒険三昧で金儲けに走るか?
できれば、好きに時間を使える学校がいいですね。
「アンティ王家の一族でアルゴ王家の臣下になっている侯爵が作った学園にそんな趣旨の学校があったと思います」
いいですね。
向上心もなく、学生の評判はあまり良くないそうですが、成績は中堅なので割と狙い目かもしれません。
屋敷に到着すると、執事長が出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ。アッキ・アディ・ステイク子爵から城壁市戦の 決闘 の申し込みが入っております」
へぇ、デュエルって、何ですか?