1.旅は道連れ。
王都まで旅団、地獄の旅でしたな~んてことはありませんが、担当している領軍の隊長さんはそんな感じです。
姉さん達と別れた城壁市はまだ最北の港に近い町だったので冒険者の数も十分多くおり、安全な旅行を確保できていたのですが、次の城壁市から内陸部になり、冒険者の数がめっぽう減って、領軍の兵士ががんばって魔物の退治に命を賭けています。
魔物の数より兵士の数の方が少ないのは問題です。
あっ、崩れました。
仕方ありませんと馬車の扉を開くと、同じように思った貴族方々も出てきます。
“ブレーンファイヤー”、“マグラニードタイフーン”等々。
近づく魔物を魔法派の貴族が魔法で大ダメージを与え、武闘派の貴族が飛び出して一刀両断で倒してゆきます。
おっと、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアーです。
いくら圧倒的と言っても数が多いので合間を縫って漏れてくる魔物を氷の矢で仕留めて置きましょう。
誰かが死んだりすると目覚めが悪いですからね。
冒険者の先行部隊は壊滅的打撃を受けて、荷馬車に乗せられて運ばれます。
貴族自身が馬車を守りながら進むので行軍が遅れ気味になり、到着はもう夜中でした。
えっ、宿に泊まらないで明日の朝出発?
おしりが痛いんだよ。
ヒールで治すのですぐに痛みは引きますが、気持ち悪いですよ。
次の城壁市も護衛の冒険者の数が足りないという状況は変わりません。
お茶会のお姉さんが状況を聞いてくれてくれます。
今年のオリエントは去年に続いて豊作になりそうらしく、東の海岸部の稼ぎがよく、内陸部の冒険者が減っているそうです。
「それと北に出稼ぎする冒険者も多いそうです」
おぅ~のぉです。
同じ魔物を狩っても買い取り価格が北の方が高いとなれば、そりゃ北に拠点を映しますよね。
自業自得という奴ですか。
この冒険者不足は王都手前の城壁市まで続くそうです。
オリエント地方の総代は、東海岸部の開発に熱心であり、内陸部の開発には無頓着だそうです。
「道にボロが落ちているようじゃ。城壁市と言えませんよ」
「うちの城壁市は清潔だったのね」
俺に同意してくれるのは赤毛のお姉さんです。他のメンバーが別の馬車を使っています。
「冒険ギルドの受付嬢が言っていましたが、水は生で飲むと腹を壊すそうです」
「でも、ウチの水は魔法で供給しているから問題なしです」
「本当に便利だよね」
馬車の屋根には風呂桶が積んであり、毎日、お風呂に入れるのでお姉さん方に好評です。ご近所のご夫人も入りに来ています。
さすがに昨日はその余裕もありません。魔物に襲われてその余裕もなかったのです。
今からお風呂を焚くのも面倒なので1日くらいは我慢して貰いましょう。
さて、朝まで少し仮眠です。
こん、こん、こん、やっと寝たと思うと眠り覚ます音が聞こえます。
「早朝、申し訳ございません」
次の旅団の隊長さんです。何でも冒険者の数が足りないので護衛を有志でお願いに回っているというのです。
ウチの馬車が子供しか乗っていないので諦めかけたのですが、俺が無理を言って引き留め、無茶なお願いをしたのです。
無茶なお願い?
お姉さん方が一緒に付いてくる方が余程無茶ですよ。
馬3頭をお借りして、俺、赤毛のお姉さん、お茶会のお姉さんの三人で先行するのです。馬車は御者に任せておきます。後ろには貧乏くじを引かされたと愚痴る三人の騎士がいますが無視しましょう。
可哀そうな子供を助けようという正義感を持った騎士とは思えません。どう見ても魔物に襲われたら俺達を見捨てて先に逃げそうな感じです。
「じゃぁ、そろそろ始めますか」
お姉さん方が首を傾げます。
はじめて見る光景なのでびっくりして貰いましょう。
魔物を集める魔法『リインフォース』です。
周囲にいた魔物が俺の魔法を察知して一斉に襲い掛かってきます。
数にして百数十頭くらいですか。
ちょっと少ないですね。
ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
押し寄せる魔物に目を丸くして、騎士たちが一目散に逃げ出します。
アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー、アイススピアー………………………。
「ひやぁ~、強いとは聞いていたけど、凄まじいね」
「きゃぁぁぁ、感動です。感動しました。さすがグイベルの英雄です」
「あぁ、そう言えば、そんなことも言っていたね。本当だったんだ」
「私が嘘を言う訳ないじゃないですか」
赤毛のお姉さんは強いことを少し疑っていたようで、お茶会のお姉さんは信用し過ぎですよ。
まぁ、サクサクと街道の安全を確保しましょう。
適当に馬を走らせてリインフォースとアイススピアーのコンボです。
死体は回収しないのでそのまま放置します。
勿体ない。
金貨100枚以上を捨てるようなものです。
ベテランの冒険者が護衛を嫌がる訳です。
えっ、狩り尽くす馬鹿はいないって?
リインフォースの魔法は融通が利かないんですよ。
逃げ帰った騎士が援軍を連れて戻ってくると、そこには魔物の死体が所狭しと転がっているだけです。追い駆けても、追い駆けても魔物の死体しか残っていません。
お昼になって旅団に戻って食事をしていると、隊長さんが揉み手をしながら寄ってきます。午後からもよろしくお願いしますと頭を下げます。
そう言えば、隊長さんは俺の名前を様付けで呼んでいたよね。
俺、庶民ですよ。
ねぇ、貴族の隊長さん。