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転生は普通のことだった!~3度目の人生、転生チートしてもそんなに巧くいくわけじゃないのよ~  作者: 牛一/冬星明
第一部.幼少チートで優雅な(?)ウハウハ編、どこがウハウハなのですか?
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42.仰げば尊し。

あっと言う間に旅団の出発日です。

飛行船で領主伯爵様の長男さんと一緒に王都入りさせたかったそうですが、飛行船の予約は半年前から予約を受けているとかでびっしりと詰まっている状態です。割り込ませるにも同じ伯爵か、それより上の侯爵の関係者が名を連ねるので、それも間々ならないとか。

無理ですね。

飛行船は諦めました。

という訳、納品時期を遅らせることもできず、暗黒の日々が続いた訳です。

砦で缶詰です。

マリアさんの依頼、領主伯爵の依頼、(不在で勝手に受けた)依頼発注の納品、全部間に合わせました。

もうしばらく何も書きたくありません。

12日間は馬車の中なので休めますよ?

それも嫌だ!

今度は馬車の中で監禁ですか。

せめて城塞市で1日くらい観光できるような日程じゃないとね。

そう思うでしょう。

姉さんらのことはベンさんとドクさんにくれぐれも頼んでおきました。

無茶をして早死にしそうです。

見送りに来たみなさん、何故かお茶会の姉さんと赤毛のお姉さんに俺のことをくれぐれも頼んでいますよ。

俺くらい大人しい人間はいないのにね。

見送りのメンバーが異常です。

旅団には何度か参加しましたが、下町の人間が見送りに来るなんてことはありませんでした。常連のパン屋のおばさんなら知り合いと言えますが、ご近所さんが勢ぞろいと言うのはどうでしょうか。

同じ冒険ギルドに所属しているだけで、声も掛けたことのない奴まで来ています。

冒険ギルドの知り合いって、受付のお姉さん、ギルマスくらいです。今日も見送りに来て、もうあいさつを済ませました。後はベンさんやドクさんの知り合いというくらいで話したこともありませんよ。

そんな人達が「下町の代表だ」、「がんばってこい」、「王都の冒険者に負けんなよ」とか、声を掛けてくれるのです。

変な気分です。

この世界に転生されて、自分の為にしか動いた記憶がありません。

父さんまで見送りに来ています。

最近まで父さんと真面に話したことなんてありませんよ。

母さんが来てくれたのは嬉しいです。

母さんが父の胸で泣いているのは嬉しくないです。

「風邪を引くなよ」

上兄がそう優しく声を掛けてくれます。

色々と邪魔なことしかしない兄でした。文字を教えて欲しいと言って来たのでスパルタで虐め返した記憶しかないですね。

そうそう、上兄が靴屋の手伝いをするようになって、下兄の子守が俺に回ってきましたね。上兄が巧く立ち回ってくれれば、下兄が暴走して冒険者になることもなかった。

この辺りでボタンを掛け間違った気がするよ。

「何か、言いたいことでもあるのか?」

「いいえありません。上兄ぃも元気でね」

「あぁ、ありがとう」

上兄は少し落ち着いた感じになっています。

下兄や姉さんらは旅団の護衛を受けているからお別れは明後日になります。今頃は護衛の打ち合わせの最中です。

同学年の1組、2組の生徒も駆けつけて来てくれます。

頻繁に話したのは伯爵支持の腰ぎんちゃくと男爵長男くらいです。

1組の連中なんて、ほとんど話したこともありません。

「期待しています」

「俺達の代表です。暴れてきて下さい」

その他、「俺も行きたい」、「追い付きます」、「王都の女を紹介しろ」と何か意味不明な掛け声もありましたが気の性でしょう。

訳ありの君も同郷の転生者も見送りに来てくれています。

さすがに伯爵の3男は…………いたよ。

馬車の中から顔が少し見えました。

馬車から降りてきたのは7女ちゃんだけです。

来ない訳ないよね。

もう別れは先日の進学祝いのパーティーで済ませています。

7女ちゃんが代表で新お茶会メンバーが、俺やお茶会のお姉さん、赤毛のお姉さんを送る会を催してくれたのです。

もちろん、冒険パーティのメンバーも呼んでくれました。大食い大会みたいになって申し訳ないけど楽しんでいたみたいだからいいよね。

俺も凄く嬉しかった。

うん、昨日の市長伯爵閣下主催の貴族を送り出すパーティーより数千倍も嬉しかったよ。

伯爵ズのパーティーは欠席できるなら欠席したいよ。

でもね!

12日間も毎日顔を会わす人達とのあいさつもありますから仕方ないですね。

ここはチートな知識と能力で車でも作って、「お先に」と逃げ出す所なのでしょうが、この世界は甘くありません。

チートに思える能力も別にチートと言う訳でありません。

この世界の住人は基本的にスペックが高いのです。

知識は意図的に支配層が独占しています。

能力も知識も俺なんか普通です。

『搭乗』

出発の合図が掛かります。

馬車に乗り、みんなに見送られて馬車がゆっくりと走り出します。

俺の名前をみんなが連呼しています。

う~ん、どうしてこうなった。

おかしい。


がたがたがたと尻が痛いのを除くと馬車の旅は快適です。

お茶会のお姉さんと赤髪のお姉さんがかいがいしく世話をしてくれます。

他の城塞市に行ったこともないので気分はピクニックみたいです。

人口3万人の城壁市で城壁から出る人は半分以下、隣の城壁市まで行く人は3割に達しません。

上級貴族か、領兵か、商人か、冒険者くらいしか移動しないのです。

江戸時代、庶民だって伊勢参り、出雲参り、こんぴらさんを巡っていたよね。

商人や冒険者なら大陸まで自由に移動しているというのに。

この世界の移動は酷いですね。

何でしょう。

この違和感?

王都に行けば判るのでしょうか。

それともこれがこの世界の常識なのでしょうか。

休憩時間になると姉が絡んできます。

暇だから荷馬に乗せて上げるって!

暇なのは姉さんでしょう。

まぁ、東の森から魔物がでないから南側だけ警戒しているみたいです。

旅団の構成は領軍が50人ですが、冒険者は斥候と護衛に別れて行動します。

斥候は言葉の通り、威力偵察ですから戦闘になります。

先行して魔物を退治し、進路の安全を確保する。

馬車が休憩中や野営で止まっている時こそ、先行して網を広げるのです。

しかし、素材回収できないので冒険者として旨みのない仕事なのです。

普通は2交代ですが、獲物が少ない為に3交代に替わって姉達は暇なのです。

有無を言わせず、拉致されました。

2時間ほど走ると馬を休憩されるので2時間の我慢です。

最初は普通に話していましたが、周りの冒険者が北の話を聞きたがったので姉さんの自慢話に変わりました。

山を越えて盆地まで進出する冒険者は少ないのですね。

聖域になるとほとんど皆無です。

東は荷物持ちで入ったことがある人も多くなっているそうで、魔物生態や警戒の仕方など色々と勉強になっているようです。

うん、判る、判る。

ドクさんらの知識は参考になるもんね。

学園の図書館に置かれている魔物図鑑にも書かれていないことをドクさんらは知っていて、冒険者の知識量が一番多いのかもしれません。

お茶会のメンバーは実に物知りで色々な知識も持っていますが、実際行ったドクさんらの話を聞くと微妙に違和感を覚えます。

北の侯爵の城壁市は都と言ってもいいくらいに大きな規模です。ここ境界線に人の行き来が激減します。

西側の住民には弓矢と乗馬を義務付け、人の通行が意外と多いそうです。小さな村や町を持つ小領主も多く、定期的に魔物討伐隊を出しており、ドクさんも討伐行軍クエストに参加したことがあるそうです。しかし、この行軍は東に行きません。

東は村や町が少なく、城壁市が点在するばかりなのです。わざと開発を遅らせているように感じるのです。

今では下流の城壁市が所有する川船が我が城壁市まで上ってきますが、ちょっと以前までは川を上ってくる船は稀でした。そう、産業が余りに少ないのでオリエントが不作で大量の小麦を運ぶときくらいです。

輸送費を引くと魔物素材の買い取り価格は他の地域より安くなる為に、魔物が多い割に魅力的な狩り場と思われなかったのです。

船を使えば、輸送費が格安になります。

行政府が正式に通商として取り扱う為に通行税も無くなりました。通商というのは城壁市と城壁市の取引ということです。引取り価格が割安にされますが、通行税に比べれば、安いものなのです。

町の税収が1割ほどアップしたと財務長官がレクチャーしてくれました。魔物素材で潤った住民が色々と物を買うようになった為です。

意外な話と言えば、

送り出す貴族を労うパーティーで、俺が領主伯爵様に別室まで呼ばれたことです。

領主伯爵は大きな周辺地図を前にして、大聖堂のある中央区、学園がある旧領主区、領軍と農村が一体の旧領軍区ができるまで北の侯爵家が派遣してくれた派遣軍を送って支援してくれたので開発も順調だったと初代伯爵様の話をします。しかし、この3つの区が完成すると派遣軍は撤退し、貧弱な領軍のみで開発が続けられたと言っています。

城壁市は正面の高さが20mくらいと大城壁なのに対して、北側と川沿いは10mくらいで厚さも貧弱なのはその為です。それでも多くの犠牲を伴って城壁を完成させたそうです。

祖先の並々ならぬ苦労の果てに城壁市は生まれしまた。

領主伯爵様はいいます。

「そのような苦労をこの町に住む住民にさせたくないがゆえに開発を頑な拒んできたのに、その壁を簡単にぴょんと飛びよって、こいつは……」

俺への愚痴に聞こえたような話でした。

そして、領主伯爵はもう一人のゲストである市長伯爵閣下に頭を下げます。

4年後、高等科を卒業した俺がこの城壁市に戻ってこられるように協力を求めたのです。王都では3つの侯爵家の力が拮抗し、1つは王国を発展させようとする開発派であり、このグループに市長も所属しています。もう1つは保守派で伯爵も含む北の侯爵も参加する派閥です。乱開発で古きよき伝統が失われ、王国を守ろうという団結が削がれると主張するグループです。最後の1つは教会派では開発も保守も関係ありません。教皇の力が増すことのみに興味を持っています。

領主伯爵様の方針転換に市長伯爵閣下が喜ばれずにいられるでしょうか。

表面上は保守派に留まり、市長が俺を使って開発を進めます。

俺は7女ちゃんを娶って一族になるので領主伯爵の面子も辛うじて保たれる訳です。

保守派を離脱するデメリットを排して、無能な領主を演じることで市長に手柄を譲ろうと言うのです。

領主伯爵は北の山に砦を築き、北西の開発をまず手掛けたいと希望します。さらに北東の湖から南に城壁を広げ、草原部ごと領地化したいと言います。広げた開発地はすべて貴族に与え、小領主化を進めます。

異論があるハズがありません。

ちょっと待て!

全部、俺がやることだよね。

「10年掛かって構わん」

「むしろ、それくらいのペースでやって貰わんと、こっちが敵わん」

「そうなると貴族の借金を返す目途を考えてやらねばいけませんな」

「その通りだ。麦畑を増やすだけでは意味がない」

「手工業、駄目だ。余所に負ける。う~ん、魔物素材を使った特殊工業がいいですかな」

「悪くないな」

「蚕を使った絹はどうだ」

「絹は王家が抑えているからな」

「やる分には問題ないだろう」

「町で使用する分くらいにしておこう。製品がよくなってから考え直すということで」

「それが妥当だろう」

「小僧、おまえも知恵を貸せ」

「そう言われても、そうですね。盆地には高級果実の百薬果実など、林檎やアケビ、大柑子じゃないか、レモンのようなすっぱい果実もあります」

「おぉ、悪くないぞ。苗木が取れれば、一大産地にできる。林檎や檸檬は日持ちもするから輸出にも使える」

「小僧、他にないか!」

「他には木ぶどうくらいかな」

「「そうだ」」

二人のご老体の声が揃う。

「ぶどうの木だ。雨も少ない。この地は最適だ」

「様々な品種を取り寄せて研究させておこう。ワインの一大産地ならいい産業に育つかもしれん」

「いっそ酒とビールにも手を出すか」

「いいではないか」

いい年をした老人が無邪気にはしゃいだ夜でした。

「何、隠してんの?」

「姉さんには関係ないこと」

「いいから話しなさい」

頭潰れる。

暴力反対、二人の事は割愛した。

「北の砦に、草原を縦断する城壁?」

姉さんに呆れられた。

俺もやりたくないんだよ。


翌日に隣の城壁市に到着し、さらに護衛の仕事があるか問い合わせたみたいだが、すでに依頼は終わっており、姉さん達との別れが決まった。

一晩中付き合わされた。

いろんなことを覚えているね。

俺はほとんど忘れていたよ。

前世の記憶が中々薄れないのに対して、この世界の思い出は美化されて消えてゆく気がする。

朝になって姉さんが泣きじゃくった。

泣いた姿なんてほとんどみたくことない姉さんがぼろぼろだ。

「搭乗」

掛け声が掛かっても俺を放そうとしない。

下兄が姉の首元をひっぱって引き剥がす。

「帰ってくる頃には、おまえより強くなってやる」

「負けないよ」

「いっちゃ嫌だ」

「俺も嫌だよ。行きたくないよ」

姉友ちゃんが俺の手を取る。

「待っています」

「うん、みんなに魔法をちゃんと教えて上げてね」

「はい」

こつん、見習い神官ちゃんの杖が俺の頭を叩く。

「わたしより先に王都に行くなって卑怯よ」

「悪かったな」

「わたしの代わりに偵察してきなさい」

「暇があったらね」

「それに…………ありがとう」

「どういたしまして」

ベンさんやドクさん達と握手交わして馬車に乗る。

馬車が走り出すと姉さんが俺の名前を何度も何度も何度も叫び続ける。

いつも強気で我儘な姉さん。

どんだけ俺のことが好きなんだよ。

前世の記憶を持つと言うのはちょっと損だ。

前世の業まで背負ってしまう。

前世の母さんに捨てられた俺、前世の彼女に裏切られた俺、どこかに凍ったような心を残している。

下兄、姉さん、姉友ちゃん、見習い神官ちゃん、姉さん、妹ズ、ベンさんやドクさんら、誰かを切り捨てることも、見捨てることもできない。

俺はそれができないんだ。

それが嫌なんだ。

でも、どこか知らない場所で誰かがいなくなっても、「あぁ、そうか」と納得できる俺もいる。

そんな俺が本当に幸せになれるのだろうか?

これは呪いだね。

知識で得する分、心で損を背負っている。

転生者、それは普通の1つに過ぎない。

これも1つの現実だ。

この世界は転生者に優しくない。

これも現実だ。

才能がなければ、口捨てられ。才能を示せば、監視・利用される。

否、この世界に限らない。

前世の記憶を持っていたとしても、それを受け入れてくれる人達がいるから役に立つ。

理解できない者は村八分にされ、災いとなれば、蛇や鬼として排除される。

理解しようとしてくれるだけ、マシな世界か。

まったく!

前世の記憶でチート化して、ウハウハだとか言った奴は誰だ!

異世界でスマートフォンから絵が動いたら周囲の人に気味悪がられて、下手すりゃ悪魔付きと捕えられて火炙りだよ。

そうならないのは運のいい世界だけで、たぶんほとんどの世界では無理だろうね。

宝くじが当たるより確率は低いんじゃないかな。

まぁ、文句を言っても仕方ない。

転生者の義務を果たしに行きましょう。

ホント、この世界は転生者にやさしくない。

さぁ、冒険の始まりだ。

転生は普通です。第一部.幼少チートで優雅な(?)ウハウハ編〔完〕

次は、王都です。


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