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童話

けんたくんとおばけ

作者: 千日紅
掲載日:2018/05/19

 月の明るい夜でした。

 パパとおやすみのあいさつをして、けんたくんはベッドに入りました。

 お部屋でけんたくんはひとり。なかなか寝付かれずにいたとき、どこからか子供の声がしたのです。


「ねえ、きみ、何を泣いているのさ」


 けんたくんはびっくりして布団から頭を出すと、あたりをきょろきょろ見回しました。

 すると、けんたくんのベッドの下から、白い影みたいなものが、にゅーっと出てきました。


「わっ! わあ!」


 影は天井まで伸びると、しゅーっと縮んで、けんたくんのお気に入りのロボットのおもちゃくらいの大きさになりました。

 影はぴょこりとけんたくんにおじぎをしました。

 けんたくんはびっくりして、聞きました。


「きみ、だあれ?」

「ぼく、おばけ!」


 白い影――おばけはそう言うと、ベッドの上をくるくる踊り始めました。


「ねえ、教えてよ、どうして泣いてたの?」


 おばけのダンスはとても楽しそうです。それで、けんたくんはぽつりと言いました。


「泣いてなんか、ないさ。だって、僕もう、リス組のお兄ちゃんなんだから。でも……」


 本当はけんたくんはパパとおやすみをしてから、布団の中でしくしく泣いていたのです。それはなぜかというと……。


「今日は、ママがお家にいないんだ。大事なお仕事があって、およそにお泊まりなんだよ」


 けんたくんがそう言うと、おばけはぽよんとベッドの上で飛び上がりました。


「ママって、なあに?」


 けんたくんはきょとんとしました。ひょっとしたらおばけにはママはいないのかもしれません。


「ママっていうのは、お母さんのことさ」

「お母さんって、なあに?」

「お母さんって、ママのことさ」

「ママって、なあに?」


 けんたくんはうーんと唸りました。


「ママはねえ、とってもやさしくって、ぎゅっとするとやわらかくって、だっことおんぶをしてくれるんだ」


 おばけはちゃんと、けんたくんの前に座って、けんたくんのお話を聞いています。


「それから、ぼくのだーいすきなオムライスとハンバーグを作ってくれるんだ。でも、ちょっとママのおならはくさいんだぞ」


 けんたくんは鼻をつまんでみせました。


「それから、ひみつだけど、ぼく、ママのおっぱいがだいすきなんだ」

「おっぱいって、なあに?」

「おっぱいからはね、おっぱいが出るんだぞ。ぼくは、お兄ちゃんだからもう飲まないけどね」


 けんたくんは寝る時いつもそばに置く、うさぎのぬいぐるみを抱きかかえて、おっぱいを飲ませる真似をしました。


「赤ちゃんは、おっぱいを飲んで大きくなるんだって」


 おばけも、近くにあったペンギンのぬいぐるみを抱いて、けんたくんの真似をしました。


「ママが怒るとね、ぼく、赤ちゃんになったみたいな気持ちになっちゃうんだ。ママにぎゅってしてもらいたくて、ママに笑ってほしくて、たまらなくなるんだよ」


 しょんぼりとけんたくんは肩を落としました。


「ママにあいたいなあ」


 それを聞いて、おばけは言いました。


「いいなぁ、ママって。ぼくも、ぎゅっ、とか、ハンバーグ、とか、おっぱい、とか、してみたいなあ」


 そこで、はっと気がつきました。

 おばけにはママはいません。もしけんたくんにママがいなかったら、それはそれはさびしい思いでしょう。

 おばけはけんたくんよりもうんとさびしいかもしれません。

 けんたくんは、おばけの手を――手みたいなところを――握りました。


「ぼくがぎゅってしてあげるよ! ハンバーグと、おっぱいは、むりだけど!」


 おばけは目を――目みたいなぽっかりしたところを――大きくしました。

 けんたくんは胸を張ります。だってもう、けんたくんはリス組ですから。


「ぼく、おにいちゃんだからね!」


 おばけは口を――口みたいなところを――半分のお月さまの形にしました。


「ぼくの、おにいちゃん?」

「うん、ぼくが、きみのおにいちゃんになってあげるよ! ぼくはけんた、けんたおにいちゃんだよ! えーと君の名前は……?」

「ぼく、おばけだから、お名前ないの」

「じゃあ、ぼくがつけてあげる。だって、おにいちゃんだからね! さあ、耳をかして……」


 おばけは耳を――耳みたいなところを――けんたくんの口に近づけました。


 ふたりはそれからぎゅっとして、ベッドの上で飛び跳ねて、手を繋いで躍りました。





 次の朝です。

 ベッドで目覚めたけんたくんの隣に、おばけはいませんでした。


「夢だったのかなぁ」


 朝ご飯を食べた後、パパが「おーい、けんた、ママのところにいくぞ」と言って、車にけんたくんを乗せました。


 ドライブは三十分ほどでした。

 パパはけんたくんの手を握って、大きな建物の中をぐんぐん歩いて行きます。


「よし、この部屋だぞ」


 パパが扉を開けると、ベッドにママが座っていました。


「けんた! パパ!」


 うれしそうに笑ったママは、小さな小さな赤ちゃんを抱いていました。

 けんたくんの弟です。

 赤ちゃんはママのおっぱいをたくさん飲んだのでしょう。気持ちよさそうに眠っています。


「けんた、この子の名前はね……」


 ママとパパが教えてくれた弟の名前を聞いて、けんたくんはにっこり笑いました。


「うん、ぼく、知ってたよ。だって、ぼく、おにいちゃんになったんだもん!」


 にっこり、赤ちゃんの小さいお口も、半分のお月さまのかたちになりました。


 おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルからして童話だ~って分かりやすいところ。 ほのぼのした、けんたくんとおばけのやり取り。 ラストの「あ……もしかして……」と愛らしくも不思議な空想の余地を残すところ。 字数も丁度良く…
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