出会い
暇だったので続けて2話目投稿。です。
とうとう俺の頭はオカルティックサイコ仕様になってしまった様だ。
何故そう思うかって?そりゃそう思うしかないだろう。今日の午後は謎に発光するスカイフィッシュを目撃し、今現在に至ってはまた謎に発光している、今度は大きな球体が俺の腹の丁度真上で浮遊している。
これはもう、自分の頭を疑わざるを得ないじゃないか。
間接照明のついた薄暗い寝室のベッドの上で俺はそんな事を考えていた。
すると今度は音が……いや、音色が、目の前で浮遊し続けている球体から聞こえてきた。
その音色はとても小さく、綺麗で儚かった。例えるならその音色はオルゴールに近い、心休まる音色。
そして、球体が放つ光は雄二の鼓膜を震わせると共に明るくなり、そして────
「あ、あっつ!?」
温度が増した。
急上昇する温度と、増していく光はやがて部屋全体を包み込んだ。そして次の瞬間、球体は一瞬とても大きな不協和音を発し、爆発した。
鼓膜を引きちぎる程の(いや、実際鼓膜は無事なのだが)大音量の炸裂音が部屋中を震わせる。
強烈な炸裂音のおまけに付いてきたキーンという耳鳴りが収まるのを待ち、恐る恐る瞼を開く。
「……はっ!?」
────そこには、一人の少女が俺の腹の上にちょこんと座っていた。
驚愕……と言うか、もはやこれは恐怖だ。
何故か、まず俺に妹はいない。「まさか隠し子か?」とも一瞬思ったが、あの爆発といい色々と説明がつかな過ぎる。
眩い閃光で眩んでしまった目を擦り、もう一度俺の目に写したその少女は、髪が長く、背丈は俺の頭一個分無いくらいであった。
そしてその少女の特徴がもう一つ。
「か、軽い……?」
俺の腹の上に座ったまま、周りをキョロキョロし続けている銀髪の少女はあまりにも軽過ぎた。
小さな子供をあまり抱き上げた経験がないから分からないだけかもしれないが、それでもこれは流石に軽過ぎるように思えた。だってそうだろう?目を開けるまで、人が腹の上に乗っている事に気づかなかった程だぞ?
「あっ……」
と、ここまで来てようやく俺の頭は自体を把握したようで、流石に裸の少女を自分の腹に乗せたまま沈思黙考するのはまずい。という事を判断出来たみたいだ。
手元には自分にかけていたタオルケットしかなかったので、とりあえず少女を自分の腹の上からどかしタオルケットで少女の体を包み隠す。
「……?」
初め、巻かれたタオルケットを少女はジッと不思議そうに見つめていたが、徐々に表情が緩んでいくのが分かった。
どうやらお気に召したらしい。
暗い部屋の明かりをつけ、改めて少女を確認する。
彼女の髪色は銀髪であった。髪型はロングストレートで少し内巻き。瞳の色は薄い紫色をしており、肌は白く透き通った色をしていた。
そして、あの体重からは想像も出来ないくらい柔らかそうな肌だ。
腕や足は強く握ったら折れてしまうのではないかと心配になるほど細く、指に至っては爪楊枝のよう。
全体的に細く、引き締まったスタイルで、まるでお人形さんかフィギュアがそこにあるようだ。
そしてこの少女は何故か、どこかで見た事のあるように思えた。
「えっと……君は?とりあえず名前を教えてくれるかな?」
あまりにも非現実的な事が起こった為、未だに現状を把握出来ていなかった俺は、ひとまず目の前の少女に問いかける。
「……あ、すゅぅ。にぃあ」
動揺しているのか?……無理もないか。いきなり見ず知らずの男にの部屋にいて、自分の名前を言えと言われたら誰だって慌てふためくだろう。
俺だったら殴りかかっているところだ。
「お、落ち着いて?まず自己紹介だけでもしたいんだ」
「にぃあ……」
にぃあ?
「すゆぅ」
……これは、まさかとは思うが。
「……ねぇ君、あ行言ってみて?」
「あぁ、ぎ……?」
そのまさかだった。
あぁマジか、頼む……誰か教えてくれ。日本語が分からない少女とコミュニケーションを取る方法を。
「ん、すゆ。ゆじ」
oh……これ、どうしろって言うんだよ
「あーどうしよう。と、とりあえずここにいて?今服とってくるから!」
「あぅ」
これは『了解』という意味でいいのだろうか?爆発した球体といい、そこから生まれた(?)彼女といい、分からない事だらけだが、一人の少女をタオルケット一枚で置いておく訳にもいかない。ひとまず、自分のタンスから無地の白Tシャツとイージーパンツを取り出し、着させる事にした。
元々美麗でどちらかと言うと清楚なイメージの彼女は、ラフな格好も何と言うか、ギャップがあって萌えた。
「んぅ……?」
しかし、本当に困った。ほぼ赤ん坊と同じ様な言葉しか喋る事の出来ない少女をどうすれば良いのだろうか。
警察に任せる?任せるつったって、この状況をどう説明すればいい?
「光る卵から少女が生まれましたぁ!」ってか?恐らく俺は病院か豚箱行きだ。
犬や猫じゃあるまいし、預ける事なんて出来るわけがない。
と言うか、この娘。やっぱりどこかで見た事のあるような気がする。
どこだろう。頻繁に目にしている様な。
────そう、例えばこの人形……。
「あれ?そういや、NIAはどこやったっけ?」
「んむぅ?」
「あぁ、いや君じゃなくて、俺の人形のNIA────」
「にぃあ!」
……へ?
「へ?いや、いやいや。いやいやいや!」
まさ……か
「今さ、に……NIAって言った?」
「にぁ!」
は、嘘だ、馬鹿げている。そんな非現実が起こり得るわけがない。
第一、NIAは人形だ。そんな事、俺が1番分かっている。
だが、心当たりはある。いや、むしろあり過ぎるくらいだ。しかし……
「に、NIA?」
「に・ぃ・あ!」
は、ははっ違う、何を言っているんだ、俺は。
これはきっと夢だ。そうだ。それに違いない。
自分に言い聞かすように、俺は何度も右の頬を抓る。
しかし、その頬はしっかりと痛覚がある事を主張し、赤く腫れるばかりだった。
頭がこんがらがり、気が狂う様な感覚に襲われた。その時、前方からきゅるるっと可愛いお腹の鳴る音が聞こえた。丁度少女の座るベッドの辺りから。
「もしかして、お腹空いた?」
「うっ、うぅぅ……」
顔を赤らめてしまった少女は、それを隠すように手で顔を覆い隠した。
容姿も可愛いが、何よりいちいち取る行動そのものが可愛らしい。
「とりあえず、ご飯食べよっか」
「んぅ」
何もかも分からない事だらけだが、ひとまず夜食、元いご飯を作りながら情報整理をする事にした。
「恐らく、今夜はとても長い夜になるな」と内心ため息をつきながら。
ロイツマ。