REMEMBERーWorld OUTSIDE Memorialー
現実世界ー電化製品屋
今私は生命の危機に陥っている気がする、気がするのだ。…エレベーターに閉じ込められた。
全く…久しぶりの有給なもんだから電気屋に電化製品を買いに来たというのに…ついてないなぁ。
都心の総合病院で何処にでもいそうな医者として働いている私は、仕事が一段落したもんだから有給を取って買い物を楽しもうかと思っていたのだ、いつ呼び出されるかわかったもんじゃないがな。
「…ううむ、呼び出しボタン使おうか…。」
と電話のマークが書かれた黄色いボタンを長押するが…いくら押しても反応はない。5階を押したはずのボタンも何処も反応しない。…とにかくエレベーター自体が反応を示さない。
「こりゃお手上げだ…電波も通じねえや。」
外に電話しようとスマホをポケットから取り出したが電波棒が一つも立っていなかった、それもそうだ、普段のエレベーターでも繋がりにくいのにここじゃもっと無理だろう。
「機械いじろうにも私は知識がないし…はぁ…死ぬのかな?」
少し辺りを見回してみよう、酸素が無くなって苦しくなるのも時間の問題だし、それまで暇だ。と、後ろに防災グッズらしき蓋があるではないか。
「なにか入ってないかな…。」
ガサガサと漁っていると、ラジオが出てきた。他にもあの貯蔵用の水の1Lペットボトルとか食料とか入っていたが、ラジオの電源を入れてみた。すると
ー…みには都市伝説をやっt…ザザッ…らおうと思うんだ、方法は簡t…ガー…2階、4階、6階、8階、10階、5階と押して、最後に1階を押すだけ!…ジジ…5階で女が乗ってきたら…ふふ…ははh…ザー…
ノイズが混ざっていたがなんとか聞き取れる女性よりの音声が聞こえてきた。まだ続きそうな気がしたが、砂嵐の音が数秒流れた後に何も聞こえなくなってしまった、電池切れのようだ。
「…はぁ!?ちょ…手回し発電ラジオじゃねえのかよ…!」
換えの電池でも入っているのかと思って探したが、そのようなものは無いようだ。電池も充電型ではないし、なんとも防災の知識が不足している者が用意したような気がして、少ししょげてしまった。電池を取り出して入れ直しても見たのだが、変わらなかった。
そうやってあがいていると、突然ボタンが点灯した。2階だ。ゴウンッと揺れて上昇している感覚が私を取り囲む。
「誰が押した…誰かいるのか!!」
先程のラジオの話からして、あの方法はあのエレベーターを使って異世界に行く方法なのだろう…と薄々感じていた。都市伝説上、10階以上ある建物で無いと実行不可能という少し地方によっては難しめな方法だが、此処は都心、一歩外に出れば使えそうな場所は探せばいくらでも見つかるだろう。
何処を見てもこの狭いエレベーターの中には隠れる場所など存在しなかった。何処にも私以外の人は居ない。エレベーターがまるで生きている様だ。
2階についたのだろう、停まったは良いが扉が開かない、私を外に出したくないのか…開けばその隙に逃げ出してやると思っていたのに。そのまま上に上がり始めてしまった。
「無理にでも異世界に連れていくってか…参ったなぁ…。」
非常ボタンを何回も押したり、色々調べて見たりしたが…なにも変わった所が無いのでつまらない。普通ならもっと焦ってあがくのだろうが、もう諦めがついてしまった。
と、鍵が見つかった。鍵穴はまだ見つけてないがどこかで使えるのだろうか。というかよく見れば端っこの床に鍵穴があった。
と、4階についた。相変わらず扉は1mmも開かず、今度は6階のボタンが点灯して上昇を始める。
カチャッと容易に鍵が開いた。蓋を取ってみると…
「うわっ…はは…。」
絶対にテレビじゃ見せられない、モザイクが掛かるであろう死体が詰め込まれていた。まるで潰されたような…グチャグチャな死体だ。
「は…はは…なんてこった…。」
もしこの異世界へ行く方法が成功して…それがもし10階だなんてふざけた高さなら…あの音声が言ってた異世界というのは…平行世界なんてファンタジーじゃない。
「地獄行きエレベーター…。」
速いものだ、もう6階に停まってまた上がっていく。カウントダウンが少しずつ減っていくような気分だ。
死体の箱の蓋を閉めて立ち上がって扉が開くのを扉の前であからさまに待った。5階に付けば女が乗ってくるはずだ、その時は扉が開くだろう。
開かずのエレベーター、潰された死体、ラジオの音声、反応しない問い合わせボタン…このエレベーター自体通常のものでは無いことはもう察していた。なにも解決方法は無かった。
8階…遂に10階についてしまった。チーンという音がなって、5階が点灯した。少しだけ頬が釣り上がるが同時に冷や汗も流れ始めた、そろそろ息苦しい。
結構長い時間降りる感覚に襲われた。ふわっと浮くような、そんな感覚が5階に着くまで感じられた。
…5階についても扉は開かない。一瞬失敗したかと胸をなでおろしたが…
「…っは!?」
後ろに誰かいる、鏡のような扉に自分ともう一人、自分の黒髪ロングだが、もっと長い髪の女が後ろに立っていた。顔は前髪が長すぎて確認出来ない。
(…確か話しかけたら確実に失敗するんだっけ…。)
1階が点灯している、しかしエレベーターは上昇している。もう時間がない。
その女は白いワンピースを着たまま、棒立ちで立っている。生気は一切ない、まるで幻覚だ。
「…おい、お前さん…!」
ふと話しかけてみた、近づくと前髪の隙間から顔が見えた…のっぺらぼうだ。
「あ…あ…。」
怖気づいて扉を背にもたれかかって後退してしまった。女(?)はさっきの言葉に反応して私に近づいてきた。既に先程から息苦しかったが、もう呼吸も荒い。逃げる場所もない。
其奴は私の目の前でピタッと立ち止まって…私よりも高い身長で見下ろした。発狂以前にもう意識すら保っているのが危うい。そして…。
「…あ…ぐっ…。」
その白い手を私の首に伸ばして締めてきた、首を掴まれて持ち上げられ足が床から離れて更に締められる。女とは思えない…そろそろ気管を握りつぶされてしまいそうだ。
「ばな"…ぜよ…!」
手を掴んで振りほどこうとするが、時既に遅し。手は震えるだけで持ち上げてもその白い手に添えるだけだ。振りほどく以前に私がもう意識が朦朧としていた。
ー…チーン…10階です…。
そのアナウンスと共にその女は私の首を離して消えてしまった。ドサッと床に落とされ、そのまま倒れ伏していた。
「ゲホッ…はぁ…はぁ…。」
酸素も多分残り僅かなのだろう、息をしようにも息をしていないような感覚しかしなかった。ぼやけた視界をぼーっと見つめて誰も居なくなったエレベーター内を眺めていた。
感覚が麻痺しているのだろうか、身体がふわふわして重力が無くなったみたいな…いや自分自身浮かんでいる。
ーあ、私死ぬんだな…。
エレベーターが吊られているロープがパッツリ切られたかのように10階からエレベーター自体が落下していた。私と底にほったらかしにしてあったラジオは自由落下により天井まで浮き上がっていた。
…その後、酷い激痛が頭から全身に流れて平らな所に倒れ伏しているようだった。暖かいものが背筋を伝って背中の下を通っていくように広がっていくのを微かに感じた。身体も動かなければ目も開けることも出来なかった。
最後に聞こえたのは…はっきりとしたあのラジオの音声だ。
ー…あーぁ…あはは、ご愁傷様…。ー
ー「…ッは…!…はぁ…。」
何を思ったのか、気が付けば私は掛ふとんを蹴っ飛ばして跳ね起きていた。それと同時にズキッと頭の古傷が痛んだ。
「ッ…いてて…。」
ボサボサの青く長い髪の中に手を突っ込んで痛みを治めるように傷を抑えた。痛みはすぐに収まったが、シャッキリ起動しきってしまった。寝ようにも寝っ転がっているだけで暇だろう。
窓から見える外は木が見えるだけでまだ暗く、時計を見ればまだ寝ているはずだった夜遅い時間だった。
「…まだ深夜じゃないか…。なんでこんな時間に起動出来たんだ…?」
寝ている間耳に着けていた黒い特殊な形をしたイヤホンを取って、すぐに近くの仕事の紙やら部品やらがごちゃごちゃに置いてある机に置いてあったヘッドホンを着けた。ボサボサの髪を更にわしゃわしゃと片方の義手でかき回しながら、起き上がって布団をベッドに戻した。
ふと、頭をかいていた手が止まった。
「あれ?…何の夢見てたんだか…忘れちまった。」
ー【宝石の主の前世の話】
ー頭の古傷は永遠に消えることは無かった。