世界樹の成長
「じゃあ、この20人を世界樹のレベルが2になった時に住民契約するよ。たぶん、今日中に契約出来ると思うから準備しておいてね」
セアラはエルフ達に問いたださず、様子を見ることにした。セアラが鑑定スキル持ちだということは、信用できるまで知らせるべきではないと考えた。
エルフに達にどういう思惑があるかわからない。
いずれはセアラが鑑定持ちだと気づく機会があるだろう。
その時に彼らはセアラに対して行った虚偽にどう思い、反応するのか。
それを見てみたいとセアラは思った。
(でも、ちょっと腹立つなあ。私に鑑定スキルがなかったら騙されて気付かなかっだろうし。やっぱり騙されるのは気分が良くない)
『大地の祝福』や『植物育成』のスキル持ちを見逃すには惜しいが、その分は先に受け入れるエルフ達に頑張ってもらおう。
それに今日森に素材採取に行ったおかげで、様々なアイテムを創ることが出来るようになった。『栄養土』や『育成水』や『輝きの雫』はどれも世界樹に使えば、成長速度を上げることが出来る。
「あの、国主様、今日中に契約できると聞こえたのですが……」
「うん、そうよ。世界樹の成長を早めるアイテムを今から創るつもり。たぶん、そのアイテム使うと世界樹のレベルも2に上がると思うの」
躊躇いがちに聞いてきたエルフの男に、セアラはくるりと背を向け、万能カバンから錬金釜やアイテムを創るための素材を取り出した。
セアラは、すぐに後ろを向いた為に、彼女の言葉に皆がぽかーんという顔をしていたことに気付かなかった。
セアラはまず、栄養土から創り始める。
採取した『森の土』と『土の魔石』、『水』が材料だ。全てを錬金釜に入れ、魔力を注ぎながら混ぜる。
素材と魔力が混ざり合い、錬金釜の中で徐々に形を変えていく。
出来上がった栄養土(最高級品)を見てにんまりと笑う。
(よし、品質がいいのが出来た。この調子であとの2つのもパパッと創ろう)
『世界樹の朝露』、『七色の砂』、『無属性魔石』で輝きの雫(良品)を創り、そして『紫ゴケ』、『土の魔石』、『水』から育成水(良品)が出来た。
最高級品にならなかったことは残念だが、許容範囲内だ。
「創ったアイテムを世界樹に使って来るからちょっと待ってて」
セアラはそう言って、世界樹へと駆けていった。あまりにも早い行動に誰も口を挟む暇はなかった。
セアラの隣に立ち、話し中ずっと口を開かずにいたシミルもすぐに彼女の後を追いかけた。
少し離れた場所で、大人たちの様子を覗っていた犬耳族の子供達もそれに加わり、世界樹へと向かう。
「国主さま、世界樹大きくなるの?」
「そうよ、グングン大きくなるから、きっとビックリするよ」
「リノ、早く見たいな。楽しみだな」
わいわいと騒ぐ子供達の声を聴きながら世界樹へとたどり着いた。
セアラはまず、『栄養土』を世界樹が埋まっている場所にばら撒いた。次に『育成水』をかける。最後に『輝きの雫』を振り掛ける。
するとどうだろう。世界樹が徐々に大きくなっているではないか!
育成水をかけた時には、少ししか枝も高さも伸びなかったが、輝きの雫を加えたことで、メキメキと成長している。
「うわあぁ!!!! すごーい! 木があんなに大きくなっている!」
「マジかよ、すっげー!!」
「国主様、すごーい!!」
「まさか、こんなことが……」
シミルは、一言呟いた後、絶句し唖然とした。
子供達の素直な賞賛の声が、耳に心地よい。
そうだろう、すごいだろう、これがゲームの知識の力さ、とセアラは心の中で胸を張る。
ここまで効力を発揮したのは、組み合わせ、アイテムを使う順番も大きく関係している。錬金術で作るアイテムには相性があり、今回のように相互作用で効果を高めることも出来るが、反対に効果を打ち消すことになる場合もある。
それは、何度も試行錯誤を繰り返して得られる知識である。セアラも実際苦労した。上手く行かなくて素材を何度も無駄にした。
だが、そのおかげで今は助かっていた。
セアラの頭に「アクアポリスの世界樹のレベルが2に上がりました。新しく住民を募集できます」という声が響く。
世界樹は以前の倍ほどの大きさになって成長を止めていた。
「世界樹のレベルが2になったから、犬耳族みんなが結界の中で一緒に住めるよ」
セアラの言葉に「わあーっ」と子供達から歓声が上がった。
耳をぴくぴく動かせて喜んでいる姿は愛らしくセアラも微笑ましい気持ちになった。
セアラに礼を言うシミルの耳も嬉しそうにぴくぴく動いている。
「さあ、さっきの場所に戻ろうか」とセアラは皆に声をかけて足早に歩く。
「いきなり、世界樹が成長したぞ」
「どうなっているんだ?」
「まさか、こんなことがありえるのか」
「国主様が何かしたのか」
戻ってみると、現場は混乱していた。セアラは、創ったアイテムを使って世界樹を成長させると言ったのに待っていた者達には、まったく信用されておらず、理解もされていないようだった。
「おおっ、国主様が戻って来たぞ!」
「国主様!!」
「国主様!!」
なんだかわからないが、熱狂的にセアラは迎えられた。
「みんな、落ち着いて! 見ての通り世界樹のレベルが上がったので、今から住民契約をするよ。犬耳族とさっき決められたエルフとドワーフの20人は前に出て」
セアラの言葉によって前に出た者達に住民契約を施していく。
「よし、これで住民契約が完了したから、もう結界の中に入れるよ」
その言葉を聞いた新住民となった者達は、恐る恐ると結界の境界線を越えた。
弾かれなかったことで民となった実感が湧いたのか、涙をこぼす者が多くいた。
犬耳族の子供達は大人に駆け寄り、抱きついていた。
「国主様、本当にありがとうございます。国主様が他の種族ではなく、我らを優先して民にしてくださったこと、本当に感謝しております。国主様が我らとの約束を守ってくださったことが、どれだけ嬉しかったことか。エルフやドワーフのようにお役には立てませんが、荒事や力仕事ならお任せください」
そう言って、マグは深く頭を下げた。
一方、結界の外にいる人々は羨ましそうな顔で中の者を見ていた。