新たな住民希望者達
「セアラ様、どうやらあそこにいる者達は皆、住民募集の声に釣られてやって来た人々です。気づかれない様に我らの後ろにお隠れ下さい。そして結界の中にすぐにお入り下さい。暴動が起こりそうで危険です」
シミルが真剣な顔で口を開く。セアラの前に背の高い犬耳族の男達が立つと、160cmもないセアラでは隠れ埋もれてしまう。
アクアポリスに近づくに連れ、不穏な声が耳に入ってくる。
「国主様はどこにいるのか?」
「どうやってお前たちは人族でもないのに住民となれたんだ? お前たちが住民となれるなら我らだって住民になれるはずだ!」
「そうだ、我らの方が国主様の役に立てる!」
「人族の国主様なんだから、亜人共ではなく我ら人族を優先してくれるはずだ!」
「出てこい、亜人め! そこはお前たちがいていい場所でない」
集まった者達が口に出す言葉のほとんどすべてが、犬耳族達に対しての詰問や非難であった。
中でも人族の男達が犬耳族達に向ける言葉は、聞くに堪えない。
結界の中にいる幼き子供達にも、容赦なく言葉を浴びせている。
シミルの言う通り、セアラが国主だとバレたら、あそこにいる人々は一気にこっちに押し寄せてきそうだと思った。
まずは、こっそりと結界内に入りそれから彼らの話を聞くことにしよう。
それにしても、こんなに多くの住民希望者が短期間で集まって来るなんて、やっぱりゲームとは違う。
差別などゲームの世界ではなかったが、この世界では人族達の様子を見る限り、亜人差別があることが見て取れた。
犬耳族達の態度から少しそうではないかと疑っていたが、まさか本当にあるとは…………。
セアラとしては、亜人差別なんて馬鹿なことをアクアポリスでは許す気は毛頭ない。
たが、もしかすると人族が亜人に差別心を抱く理由となった何かがあるかもしれない。
まずは、人族と亜人、双方の意見を聞いて見てからどうするか決めようとセアラは思った。
聞こえてくる話から、犬耳族達はセアラが結界の外に出ていることを、集まった者達に言っていないようだった。
セアラが結界の外にいると知れると、帰って来た時に人々が群がり住民にしてくれるように言い募り、セアラに危険が及ぶかもしれないと考えたのであろう。
セアラ達は方向を変え、人が集まっていない方角へ移動する。そしてセアラはこっそりと結界内に入った。もちろんシミルも一緒である。他の4人はセアラ達が結界内に入ったのを確認すると、責められている同胞の元へと歩いて行った。
セアラが見た4人の横顔は強張っていた。
「結界の中にいる子供たちは大丈夫かな。あんな言葉を聞かされて、今は子供達だけでいるから、きっと不安に思っているはず。ごめんね、シミル。無理に連れて行って。もう少し考えればよかった」
セアラは、後悔を滲ませた声でシミルに謝った。結界のすぐ外には犬耳族達の大人がいるし、子供達も昼の間は、結界の外で彼らと一緒に居れば大丈夫だろうと思ったのだ。
簡易結界を犬耳族達には渡しているから、心配ないと思っていた。
「とんでもございません! 私が国主様をお守りしたかったのです。国主様をお守りすること以上に大切なことなどありません。犬耳族の者、皆がそう言うはずです。子供達にしても、結界内にいるので何の心配もいりません。それに、あのような言葉など聞き慣れていますので、どうか気になさいませんように」
「そんな言葉に慣れる必要なんかないよ!」
思わず強い声で言い返してしまい、すぐにセアラは後悔した。
「ごめん、私はちょっとした訳があって……たぶん、色んなことを知らないの。人族がどうして亜人に対してあんな態度をとっているのか、シミル達もそういう扱いに甘んじている理由とか。私は、種族に関係なくみんなが仲良く暮らせる国を造るつもりよ。だからあの人族を含めた全員とこれから話し合おうと思っているの」
「亜人が差別される状況をしらない……? そんなことが……」
シミルは訝しげな声で小さく呟いた。
シミルはハッとした様子で気を取り直し、話す時は結界の外に絶対に出ないようにとセアラに懇願した。
セアラとしても結界の外に出るつもりはなかった。
「シミル兄ちゃん」
「国主さま」
子供達は、セアラ達の顔を見かけると走り寄って来た。
シミルは慣れていると言っていたが、やはり子供達だけでは不安だったのだろう。駆け寄ってほっとした顔をした。
「ごめんね、シミルを森に連れて行っちゃったから、子供達だけで不安だったでしょう?」
「そんなことないよ、国主さま」
「私たち結界のなかにいたから、全然怖くなかったよ」
「まあ、リノは泣きべそ掻いていたけどな」
「ジーノのばか! そんなことないもん!」
「あの……国主様、私達出て行かなくて……ここにいても本当にいいですか?」
セアラの申し訳なさげに謝る様子に、子供達は否定の言葉を口にした。
ジーノだけは正直に話していたが。
そして、1人の少女が最後に発した言葉にセアラは息をのんだ。
子供達は、固唾を飲んでセアラの反応を待っていた。
不安げな瞳は「ここに居ていいと言って欲しい」と語っている様にセアラには思えた。
「もちろん、居ていいに決まっているじゃない! あなた達はもう私の国の大事な住民なんだから。もちろん、外にいる犬耳族達全員もよ」
セアラは、子供達の不安を吹き飛ばすように明るい声で答えた。
隣に立っているシミルがほっと息を吐きだした音が聞こえた。
子供達にも笑顔が広がる。
セアラは、集まっている住民希望者と話す為に彼らがいる場所へと移動した。子供達には少し離れているようにと伝える。
結界の境界線ギリギリまで来ると立ち止まる。シミルも一緒だ。
何人かの人々が、セアラが国主でないかと気づいたようで、大きな声で口々に何か言葉を発したが、大勢の声が混じって何を言ったのかセアラにはわからなかった。
「みんな静かにして!」
セアラは声を張り上げ、出来るだけ大きな声を出した。すると皆が口を噤み、静寂が辺りに広がった。
ううっ、緊張するなあ。でも、私が国主だし、しっかりしないと!
「私が国主のセアラ・バークレイよ。ここに集まっている者は皆、住民希望者で間違いない?」
「その通りでございます、国主様」
「国主様、どうか我ら一族を住民に」
「国主様、亜人など放り出して私達を住民に」
「国主様――――――」
「国主様――――――」
「国主様——――――」
同時に喋りだしたので1人1人の言っていることはわからなかったが、全員が住民希望で間違いないことは確認できた。
「一遍に喋るとわからないから、まずは私の話を聞いて。皆がこの国の住民になりたいということはわかったから。もう知っていると思うけど、この国は住民の収容人数がもういっぱいで、世界樹を大きくして国が発展するまでは、住民を増やすことは出来ない状態なの。だからそれまで待って欲しいの」
「亜人を追放すればいいではないですか! 奴らの代わりに私たちを住民にしてください」
人族の男が声を張り上げ、セアラに提案する。
「犬耳族達はアクアポリスの大事な住民よ。追い出すことなんかしないわ」
「どうしてですか! あなたは人族でしょう! なぜ亜人を庇い住民とするのですか! なぜ同じ人族の私たちを優先しないのですか!」
男の糾弾する声に他の人族達も同調し叫んだ。
「静かに! 私の国は人族を優遇しないし亜人を優遇することもないわ。種族に関係なく、みんなが仲良く暮らす国にしたいと思っているの。ねえ、どうしてあなたはそんなにも亜人を批難するの?」
「そんなの決まっています! 亜人は人族の倍以上食料を食べるじゃないですか! そんな奴らを住民にしたらすぐに食料不足に陥ります。それに亜人がいたら、世界樹だってあまり大きくならないし、国が発展しにくくなるじゃないですか!」
ちょっと待て! 誰だ、そんなでたらめな情報を流した奴は! 亜人の食欲が人族の2倍以上ってのはあっているが、世界樹があまり大きくならないって! 騙されているからそれ! むしろ、逆だよ!逆!
セアラは、でたらめな情報を本気で信じ切っている者達に、どう説明しようかと内心で頭を抱えた。