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森での戦闘

 セアラのステータスでダークホーンに挑むのは、本来なら死にに行くようなものである。だが、セアラには勝算があった。ゲームの中では何度も倒しているので、相手の弱点もお見通しである。

 ダークホーンは足が速く、その鋭く大きな角で突進してくる。角も非常に硬く、セアラのような防御力も紙のような者だと一突きで死んでしまうだろう。


 だが、当たればの話だ。セアラの素早さはウィングブーツと疾風のお守りによって底上げされており、ダークホーンの素早さをかなり上回っている。だから、気を抜かなければ攻撃が当たることはないだろう。


 疾風のお守りの方がアイテムの価値としては高いが、セアラのようにステータスがまだ低い者には、ウィングブーツが大活躍である。素早さを100上げるからだ。ステータスが高い者には疾風のお守りの方に軍配が上がる。


 セアラはが使うのはビリビリ爆弾である。ダークホーンは状態異常攻撃に弱い。だからそこを突く。

 セアラは隠れていた木から飛び出す。

 ダークホーンはセアラが弱いと感じとっているのだろう。全く逃げる様子が全くない。頭を少し下げる体勢をとると、セアラに向かって走りかかってきた。


 今だ! 


 セアラは獲物に向かってビリビリ爆弾を投げつけた。それが上手くダークホーンの体躯に当たり、バチバチっと音を立てる。

 ダークホーンは急に動きを止め石像のように固まった。

 セアラはゆっくりと近づいていく。

「国主様、まだ近づくのは危険です」

「大丈夫、当分痺れて動けないから」


 いつでも助けられるようにと木陰に隠れながらも、すぐに飛び出せる体勢をとっていたシミル達も慌ててセアラの後を追う。


 セアラの言う通り、皆が近づいてもピクリともしない。セアラは犬耳族達にもらった鉄剣で首を切り落とす。

 切り口から血が溢れだし、地面を濡らす。

 命を奪うことに躊躇いや罪悪感があるかと思ったが、セアラは自身でも驚くほどそれがないことに気が付いた。

 そう言った感情はいざという時に命を危険に晒す。だからこそ冷酷になれる自分に安心した。

 

 殺さなければ殺される。それをセアラはわかっている。


 多分、襲われたら人を殺すこともできるだろうなとセアラは思った。

 同時に、もしも自分がゲームの世界でのセアラ・バークレイのように戦闘能力のステータスがmaxだったら、ここまで非情にはなれなかっただろうと考えた。


 今のセアラには同情だとか手加減だとかする余裕がない。そんなことをすれば、すぐに死んでしまうとわかるからだ。


 死体を見ながら思考の底にいたセアラに声がかかる。


「さすが国主様です。錬金術師が創るアイテムとは、いやはやすごいものですね」

 感心したような声を出したのはグラストである。


「国主様、いくら持っているアイテムが強力だとはいえダークホーンが国主様に突進してきたときは胆が冷えました。敵に見えない様に少し離れた後ろで待機するのではなく、隣で守らせてくださいませんか。もちろん、危なくなるまで手は出しません」


「うーん、私ならステータス低いから魔物も舐めて襲い掛かって来るけど、臆病な魔物はシミルの方が強いと感じ取ればすぐに逃げるからなあ。でも、まあ好戦的な魔物の時だけだったらいいよ」


 シミルの言葉にそう返しながら魔物を万能カバンに入れる。そして皆に次の獲物を探すように頼んだ。

 さっき1人で倒したおかげでセアラのステータスもかなり上がった。


 やっぱり、獲物の経験値の一人占めはおいしい。最低でも各ステータス200までは今日中にあげたいな。


 グラストが獲物を見つけたようだ。今度はフォレストスネークである。その体の色は森の色と同じでなかなか見つけるのが難しい魔物である。

 牙に強力な毒を持っているので、噛まれると危険である。

 

 フォレストスネークからとれる毒は貴重である。セアラの今回の採取の目的の一つが、これであった。

 この毒とある薬草を混ぜると上質な毒消し薬が創れる。

 この毒消し薬はあらゆる毒に利くので、必ず一人1個は持っておきたい必須アイテムである。だが、この魔物は倒すのがなかなか厄介である。


 近づくとすぐに毒を浴びせてくる。その範囲は5メートルにも及び、うかつに近づけない。毒消し薬を持っていないと、フォレストスネークの攻撃は致命傷となる。受けて1時間以内に解毒しないと助からない。

 だから、倒し方としては弓などの遠距離からの攻撃を仕掛けるのが一般的である。


 セアラは『闇夜への誘い』というアイテムを使うことに決めた。その為には風上に立つことが大切である。敵に気付かれない様にこそこそと、セアラ達は足音を立てないように気を付けて風上へと移動する。

 そして、フォレストスネークが風下にいるのを確認して『闇夜への誘い』に魔力を込めて地面へと置く。

 そうすると、うっすらとした煙が湧き上がり風下へと流れていく。


 フォレストスネイクは、視力が弱く生き物が発する振動や熱反応によって位置を把握し攻撃してくる。つまり、この『闇夜の誘い』によって湧き出た煙を感知することが出来ないのである。


 セアラは、シミル達にこの魔物の倒し方を聞かれた時にその話をした。シミル達はセアラが魔物の生態について思いの外詳しいことに驚いている様だった。


 煙がフォレストスネイクの所まで達する。遠目からではピクリとも動かないので、普通なら眠っているかもわからない。

 だが、セアラの鑑定スキルはmaxである。そのおかげで簡単に読み取ることが出来た。


 やっぱり、鑑定って便利だな。

 

 スキルmaxなのでステータスを読み取れない魔物は存在しない。状態異常にかかったか、本当に死んでいるかもはっきりとわかる。それは戦う上で強力なアドバンテージとなっている。


 セアラは標的のステータスを見て『睡眠状態』と表示されているのを確認してから近づいていく。

 念のためにといってシミルが先行している。

 セアラは、そんなに気を張らなくても眠っているから大丈夫だといったが、彼もセアラと彼女の創るアイテムのことは信用しているが、それでももしもの時の盾になることが出来ると言ってきかなかった。


 なんか、犬耳族って忠犬ぽいなあ。確かに忠誠心が高く、主と認めた人物にはとことん尽くすというゲーム内での設定だったが、本当にその通りだな。


 シミルがフォレストスネイクの近くに立って、ギリギリ当たらない様に剣を何度も振りかぶり安全だと確認してから、やっとセアラが近づいてもいいとの許可が出た。


 セアラは入念すぎるほどに確かめるその様子に少し思うところはあったが、これもセアラの為を考えてのことだと思い直した。

 セアラはフォレストスネークの頭部に一撃を入れて止めを刺した。そしてこれも万能カバンへと入れる。


 そうようにセアラのアイテムを使いながら、次々と魔物を倒し収納していく。

 あまりにも鮮やかにセアラがアイテムを使って魔物を倒すので、シミル達は今度はどのように魔物を倒すのかと楽しむようになっていた。

 また、聞けばセアラは魔物の弱点や特徴を説明してくれるので、それもシミル達にとっては有益な話だった。

 普段はてこずる魔物もその弱点を突けば簡単に倒せる。それが知れたのは大きな収穫であった。


 魔除け液を少し振りかけお昼休憩をとる。持って来たのは堅パンと干し肉に水だけである。

 

 作物も育てて食の改善もしないとなあ。森でとれる野菜や果物も採ったから、この種を植えて植物成長薬を錬金術で創れば種類によっては3日で食べられるようになる。しばらくは錬金三昧の日々になりそうだなあ。


 休憩を終えると、また魔物を探し倒していく。そうする内にそろそろ国に帰る時間になっていることに気付いた。


「みんな、今日はこれで引き上げるよ。欲しいものは大量に採れたし、協力してくれてありがとう」

 

 セアラは万能カバンに入った大量の素材を思い浮かべてご機嫌である。その上、ステータスも今日一日でかなり上がった。

 セアラ一人ではこうはいかなかったであろう。大満足である。


「セアラ様、我らもセアラ様のおかげで知らなかった魔物の弱点を知ることが出来ました。ありがとうございます。また、森に来る場合はぜひ私を連れて行って下さい」


 そういうシミルの声に、


「セアラ様、私もぜひ」「次はいつ森に行くのですか」と他の4人からの声が続いた。


「当分は、今日採った素材で錬金三昧の生活になるから次行くのはちょっと先になりそうだけど。その時はまた声をかけるね」


「そうですか、そのときはぜひ」


 シミルの声は心持ち残念そうであった。他の犬耳族のメンバーはもっとあからさまで、いつもピンっと立っている耳が垂れ、シュンした様子であった。

 大の筋肉ムキムキの男たちのその姿に微笑ましいものをセアラは感じた。


 森に行く前はセアラに危険が及んだらといって反対していた者達も、セアラの森での活躍を見て考えを少し改めたようだった。


 セアラの魔物に対する豊富な知識と創ったアイテムは、犬耳族達の信頼を得たようである。

 そうして、帰りも魔物除け液を振りかけて、森から出るとアクアポリスへと向かう。

 途中で魔物に合うこともなく計画道理に暗くなる前に国に着きそうだ。アクアポリスを囲む結界に近づいてきた。

 もうすぐ着く、そう思っていたところに…………犬耳族達を遥かに上回る人数の人影が見えた。


 近づくにつれ、結界の前には様々な種族の者達が押し寄せていることがわかった。なにやら騒がしく揉めている声が聞こえてきた。


 えっ、なにこの人数! もしやみんな住民希望とか言わないよね?!


 


 

 


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