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夕食とこれからと

 シミルがここに来る途中で狩ったというレッドラビットや灰色鳥を含め様々な魔物肉を献上されたが、どうせならみんなで食べようとセアラは誘った。堅パンと干し肉だけという貧しい食事に、新鮮な肉が加わるのは単純に有難かった。

 魔物の肉はどんな味がするのかちょぴり楽しみであった。

 

 おそらく慣れているのだろう。あっという間に火を起こし、木串に手際よく肉を刺して準備を整えていた。

 バチバチという肉の焼ける音と、美味しそうな匂いが辺りに広がった。肉汁が火の上に滴り落ち、ジュっという音を立てる。

 食欲をそそる光景にお腹が音を鳴らす。


「どうぞ、国主様これを」


 そう言って差し出されたのは、レッドラビットの肉だった。

 セアラはウサギ肉を食べたことない。が、フランスでは高級料理と聞いたことがあるので、まずいということはないだろうと味に期待した。

 喜んで受け取り、口に入れるとジュワっと濃厚な肉の味が口に広がった。もっと癖のある野生じみた臭いがするかと思っていたが、それもない。

 あえて言えば鶏肉に近い味だといえるだろう。

 調味料は塩のみだが、それがかえって肉の旨みを引き立てているように思えた。


「おいしい」思わず漏れた言葉に、犬耳族達は安心したかのようにほっと息を吐いた。

 どうやら、彼らは誰も食べずにセアラの反応を覗っていたようだった。


 食べ終えると、「こちらもどうぞ、国主様」と言って今度は灰色鳥の肉をシミルはセアラに手渡す。


「ありがとう、頂くね。シミルも他のみんなもまだ食べてないようだけど、私に気を使ったりせずに食べてね。このままじゃあ焼いている肉が焦げちゃてもったいないよ。ほら、早く」


 急かすセアラの言葉に彼らは慌ててそれぞれが肉を手に取った。


「おいしいね、おじいちゃん」と言って、ふわふわの耳をぴくぴく動かす幼女は大変可愛らしい。

「そうだのう」とマグは幸せそうに頷いた。


 灰色鳥は鳥肉というよりは豚肉に近い味がした。これも美味しかったが、やはり最初に食べたレッドラビットには叶わない。

 ゲームの中では味なんて要素はなく、錬金術で作る料理は体力回復だったり、攻撃力アップなどの何かしらの効果がついていた。

 だから、どんな味か見た目で予想がつかないところは、ちょっとした楽しみと言えるだろう。


 セアラは満足げにお腹をさすりながら、犬耳族達の食いっぷりに驚いていた。種族特性として亜人は人間の倍は食べると知っていたが、セアラの腰の高さほどしか身長がない子供も、セアラより食べている。

 実際に見ていると、そんな小さな体のどこに入るのかと不思議に思った。

 全員が食べ終わり一息ついているのを確認して、セアラは口を開いた。


「それじゃあ、明日の説明をしていいかな? みんなも知っての通り、この国には今夜寝るベッドさえないの。そこで、明日私と一緒に何人か森へ素材を取りに行って欲しいんだけど大丈夫かな? 出来ればメンバーの1人はシミルにお願いしたいんだけど……」


「結界から出るのは危険でございます、国主様。必要なものは言ってくれれば我らが取りに行きます。御身にもしものことがあれば」

 

 マグはとんでもないことだと悲鳴をあげ、なんとか思いとどまってもらおうと説得する。


「長老のいう通りです。私が森に行きますので、どうか国主様は結界内でお待ち下さい」

 

 シミルもマグの言葉を後押しする。


「大丈夫、心配しないで。もちろん自衛の為のアイテムを用意して持って行くし、ほら簡易結界石もあるし」

 

 絶対の安全という訳ではないが、たぶん大丈夫だろうとセアラは考えている。犬耳族は力と素早さ、持久力に特化しているし、戦闘能力も高い。そこにセアラの作った錬金アイテムを活用すれば、敵を倒せなくても逃げ出すことは可能だろうと思った。

 一応体力回復薬も創ってある。


 一方、犬耳族達は気が気ではない。長年の悲願である安住の地が見つかり、住民として全員受け入れてくれるという状態で、さらに国主の人柄も優しく、まさに理想のその上をいっている状況である。

 絶望の中で生きてきた彼らに、やっと光が灯ったのだ。

 国主が命を落とせば、世界樹は枯れ、結界は消えてしまう。そうすると、また放浪生活に逆戻りである。

 希望が叶った今、もう一度あの地獄に戻れるとは思えなかった。

 

 そもそも、どの国の国主も結界から出ることはない。国主は国に留まっている限り、世界樹との契約によって何物も害することは出来ない絶対の存在である。

 だが、外にでてしまえば状況は変わる。

 セアラには常に安全な場所にいてもらいたかった。



 しかし、セアラの意思ははっきりしていて、その姿から意見を覆すのは不可能に思えた。

 シミルは一つの決意を固めた、もしもの時は自分の命をとしてでも守ろうと。

 シミルと瞳を合わせたマグは彼の決意を読み取り頷く。


「わかりました、セアラ様。差し出ましいことではありますが、ご自身のお命を一番に考えて下さいませ。もしもの時は我らを盾にしてお逃げくだされ」


 マグのあまりにも真剣な顔に、出かかった否定の言葉を呑み込んだ。そして少し間をおいて了承の言葉を返した。


 疲れているだろう犬耳族達に寝るようにと言い渡す。幼い子供達は眠いのか、トロンとした瞳で何度も欠伸をしている。

 お休みの挨拶をかわし、新しく住民となった者達を引き連れ、結界の中へと戻る。

 それぞれに好きなところで寝ていいと伝えると、セアラは世界樹のふもとで横になった。


 セアラ先ほどの会話を思い出して、犬耳族達に対しての自身の配慮のなさに、反省した。

 考えてみれば、他から見るとセアラは弱く見えるだろう。実際に弱い。

 セアラだってゲームの知識がなければ、結界の外に出るのを躊躇うだろう。

 セアラが死んでしまえば、アクアポリスまで来た犬耳族にとっては無駄足となってしまう。

 


 だが、効率を考えると万能カバンを持ったセアラが行った方がいい。それに、ステータスを早く上げたかった。

 廃人ゲーマーとしての血も騒いだ。結界の中で誰かが持って来た素材でアイテムを作り、ゆっくりと国を発展させていくのが安全であることはわかっている。

でも、そんなのつまらないではないか。

 セアラは強くなりたい。

 強くなって自ら素材を取りに世界中に行きたいのだ。


 セアラは犬耳族たちの思いを知らなかった。

 安全な地で暮らせることをどれほど望んでいたかを。

 セアラはゲームの知識で考えすぎていたのだ。ゲームの中では、どこの国主も住民を出来るだけ多く集めようと必死に努力していた。

 住民が増えないと国が発展しないからだ。

 だから、犬耳族の必死さを本当の意味で理解していなかった。


 セアラがそのことを知るのはずっと後になってからだ。 

 

 瞳を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。どうやら思いのほか疲労がたまっていたようで、意識がスーっと落ちていった。


 



 


 




 


 

 


 

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