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ルブラン国にて

「そろそろ他の国と交易を始めようと思うの」

 セアラの言葉に戸惑った声が多方面から上がる。


「……交易ですか? ちなみにどこの国とお考えなのですか?」

 犬耳族の長老であるマグが躊躇いがちに口を開いた。


「まずはアクアポリスの近くの国と交易を考えているんだけど……」

「それではダーカルやルブナンをお考えですか?」


 マグが挙げた国の名前はセアラも知っている名前でほっとした。ビザンテア帝国という例外があったのでゲーム知識にない国だったらどうしようと不安だったのだ。

『コクナロ』のゲームではプレイヤーが国主になって造った国とNPCが造った国の2種類が存在する。

 ダーカルもルブナンもNPCが造った国である。


 ダーカルはアクアポリスの北西にあり、国主の職業はモンスターテイマーであった。そのためダーカルではモンスターの販売が盛んで、セアラも採取に便利な騎獣となるモンスターを買ったことがある。

 そしてダーカルの目玉ともいえるのが、モンスター闘技場である。

 モンスター同士を戦わせどちらが勝つか賭けるのだ。

 モンスターも戦えば戦うだけ強くなるので闘技場で優勝したモンスターを買うのは恐ろしいほど高い。

 

 一方、ルブナンはアクアポリスの南東にあり、国主の職業は商人である。

 食材や日用品をはじめ様々な物が世界中から集まる為、流通の要とも言われている国であった。


 セアラが交易をしようと考えているのはルブランである。ルブランなら求めるものも手に入るのではないかと考えている。

 

「まずはルブランと交易をしようと思っているの」


 セアラの言葉にざわっと空気が揺れる。


「国主様、ルブランとの交易は難しいのではないでしょうか?」

 マグが難しい顔をして口を開いた。


「えっ? 難しいってどういうこと?」

 セアラの疑問にマグを含めた住民たちは困惑したように押し黙った。

 そんな中でバードだけがセアラの疑問に答えてくれた。


「国主様は知らないようだけど、ルブランの国主様を含めそこに住む住民は気位が高いんだよね。世界樹のレベルが7もあって世界の中でも5指に入る大国だし。たぶん、アクアポリスほどの小国だと相手してもらえないと思う。それに、アクアポリスの住民のほとんどが亜人だし」


 バードが言いにくそうに話し終えた。

 他の住民たちもセアラを気遣うように見ていた。

 セアラは愕然とした。


(なにそれ! そんなことってあるの!? そんな設定ゲームになかったよ)


 口を開かず黙ったままのセアラ様子にショックを受けたと思ったのだろう。バードのあたふたした様子が伝わってきた。


「ルブランがそんな国だと知らなかったよ。でも、一応試しに行ってみることにする」

 セアラの言葉にギョッとした様子でシミルが口を開いた。


「もしかして、国主様自らがルブランに行こうとお考えで?」

「うん、もちろんそうだよ」


 セアラは当然という顔でシミルの問いに頷いた。

 焦ったのはシミルだ。セアラは国主なのに結界の外に出て国の発展の為に精力的に動いている規格外な存在である。

 シミルはセアラに押し切られる形で毎回その行動を容認してきた。

 だが今回ばかりは、行かせたくなかった。



「交易は他の者に任せて、国主様は国に留まり下さい。ルブランの者達は国主様にきっと不快な思いを与えます」


 シミルの気遣う言葉にもセアラは首を縦に振らなかった。


「嫌なこと言われるくらい大丈夫。そんな状況ならなおさら人族である私が行ったほうがいいんじゃない?」


 結局セアラの意思が通り、ルブランへ行くこととなった。

 セアラに同行するのは護衛の4人と、ピックスという人族の男だ。

 あの後、ピックスがセアラの家に訪ねて来た。そして、自分もルブランに連れて行ってくれと土下座してきた。

 ピックスを初めとした人族の男たちは、住民になる前は犬耳族の子供達に酷い言葉を投げつけ、亜人差別も酷かった。

 しかし住民となってからは差別意識も徐々に消え始め、犬耳族の子供達も謝っていたのをセアラは知っている。


 ピックスは自分がルブランの出身だと言った。そして、もしかしたら交易の打診の役に立てるかもと。

 セアラはピックスが思い詰めているような様子が気になったが、真剣に頼むので彼も連れて行くことにした。

 ピックスは何度も礼を言って戻って行った。











「ルブランまであとどれくらいかかるかな? 思ったより遠いよルブラン」

「もう少しですよ、国主様」


 セアラの口から零れる愚痴にシミルが慰めるように口を開く。

 騎獣も魔法の絨毯も空飛ぶブーツもない状態では自らの足で歩くしか方法はない。ルブランはセアラが想像していたよりアクアポリスから距離があり、こんなに歩くのは予想外であった。

 

(騎獣は高いしお金がない。魔法の絨毯も、空飛ぶブーツも素材がなくて創れない。レシピと創れるだけの腕はあるのになあ。あー、素材が欲しいよ!)


 脳内で駄々を捏ねた後、ないものねだりをしても仕方ないと頭を切り替える。

 今回セアラが交易品として提供するのは『栄養土』、『育成水』、『輝きの雫』である。住民になにが交易品としていいか尋ねた結果、この3品に決まった。

 作物を成長させるアイテムはどこの国も食料問題に頭を悩ませている中、その効果を知れば喉から手が出るほど欲しがるだろうと言われた。


(世界中が食糧難か……。住民の話を聞くと深刻そうなんだよね。作物もあまり育たないなんて。この世界はいったいどうなっているのだろう?)


「国主様、ルブランが見えてきました」


 シミルはほらあそこにというように指でさす。


「本当だ! やっと見えて来たよ」


 セアラの声が明るくなった。

 ピックスもほっと息を吐いた。

 セアラは気付かなかったが、ピックスは他の皆よりステータスが低いため実はボロボロであった。

 必死に疲れを隠していた。もちろん、セアラとターシャ以外の者は気付いていたがあえて指摘せず、歩くスピードも緩めなかった。

 

 ターシャもピックスに続くステータスの低さだが、自分で歩かずシミルの肩に座っていた。

 セアラはぶっちゃけ自分で歩かなくていいターシャが羨ましかったが、口には出さなかった。

 口に出せばシミルやアルダスが背負うと言い出すことが分かっていたからだ。前にうっかり疲れたと口に出した時に背負われた。

 男性に背負われるなんて小さい頃に父親に背負われて以来でなんだか恥ずかしかしい思いをその時はした。




 ルブランはアクアポリスよりもはるかに大きな結界に囲まれ、外からでも多くの人が住み発展している様子が窺えた。

 結界の狭間に立つのは2人の男で鎧を纏い、剣を腰にぶら下げていた。

 どうやら、彼らが門番のような者らしい。


 ルブランへ出発する前にセアラが国主だということは相手にばれないように隠して欲しいと住民に懇願され、約束した。

 だからセアラも正体をばらさず、アクアポリスに住む普通の少女をよそおった。


「あの、聞きたいことがあるんですけど」

「なんだい嬢ちゃん? もしかして移住希望か? う~ん、まあ顔もそう悪く話ないし国主様に嘆願してやってもいいぜ。ま、その代わり見返りはもらうがな」


 そう返したのはエドガーという男である。顔にニヤニヤといやらしい笑いを浮かべ、尊大さを隠そうともしない。その様子に一気に嫌悪感をセアラは抱いた。

 シミルは耳を震わせ硬く拳を握りしめる。アルダスが腰にある剣を抜こうとしたのを制したのはバードである。

 ターシャの顔はまったくもって不快だといっていた。

 

「違います! 交易をお願いしに来たんです」

「交易だと? どこの国のもんだ?」

「アクアポリスです」

「アクアポリスだと? 最近できた弱小国ではないか! そんな国と我がルブラン国が交易などするはずがなかろう。どうせ、弱小国らしくろくな物がないにちがいないからな! ハハハハハ」


 明らかに見下し馬鹿にした様子にセアラの血管ははち切れそうだった。

 護衛達も怒り心頭の中、ピックスが口を開いた。


「エイハブ兄さん」

 ピックスの声に反応したのは黙ってセアラとエドガーの話を聞いていたもう1人の男であった。


「お前、ピックスか?」

 エイハブは驚いた様子で問う。


「うん」

 ピックスは頷いた


「それで、出来損ないが何の用だ?」

「…………聞いて兄さん、アクアポリスはすごいんだ。すごいスピードで発展しているんだ! 国主様も素晴らしい人でね、国主様が創ったアイテムは作物の成長を早めるんだ! これがあれば、ルブラン国の食糧事情だって、ううん世界中の食糧事情が改善するよ! 1回試して見てよ、絶対びっくりするから」


 ピックスは兄による出来損ないという言葉に傷ついた顔をした後、力説した。

 その様子は聞いていたセアラが照れるほどだった。

 ピックスに促されセアラは万能カバンから『栄養土』、『育成水』、『輝きの雫』を一つずつ取り出し、手渡した。


 エイハブは渡されたアイテムを受け取り眺めた後、地面にぶちまけた。


「そんなアイテムあるわけないだろう! 幻想じみた嘘を吐くな!」

 そうエイハブは吐き捨てた。


 ピックスが茫然とする中で、護衛達は怒りで今にも切りかかりそうであった。

 セアラは彼らに目配せして制止し、口を開いた。


「もういい。帰ろう。ターシャ、国までお願い」


 その言葉でターシャがワープの魔法を唱える。

 それによってセアラ達一行はあっという間に姿を消した。



「ふん、フェアリーのワープを使ったか」エイハブはその様子を見て呟いた。


「お、おい! エイハブ、あ、あそこ! 見ろ! あ、あああれは――――――――」

 

 エドガーがひっくり返ったような声を上げた。いきなりなんだと思いながらも、彼の指さした方向にエイハブが目をやると驚きの光景が広がっていた。

 生えていた草が徐々に伸びていくではないか。まるで月日を早送りしたかの驚きの速度である。


「まさか、あのアイテムは本物だったのか!?」


 エイハブは驚愕の声を上げるが問うべき相手は既にそこにはいなかった。




 

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