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セアラの気付き

 たっぷりと久々のお風呂を満喫したセアラ。

 生まれ変わったような爽快感が身を満たす。体を拭くだけとは違う毛穴の奥まで浄化された気分だ。やっぱりお風呂は最高だと再認識した。

 不満なのはシャンプー、リンスがないことだ。

 体を洗う石鹸は『アワの実』という揉めば名前の通り泡が出てくる植物を代用している。汚れがよく落ちるので普通は衣服の洗濯にも使われている。

 ちなみに匂いもいい。キンモクセイに似ている。


 体を洗うのは『アワの実』で妥協できるが、髪に使うとギシギシして指通りも悪くなり痛むのがはっきりわかる。

 錬金術で創れる石鹸もあるが、それは攻撃アイテムである。

 敵に投げつけると、大量の泡が敵の身体に絡まり、身動きが出来なくなるというやつである。


 リンス代わりに植物の油をつけてみる? 日本でも椿油が髪によかったよね? 

 とにかく色々な植物集めて試してみるか。

 もしいいのが見つからなかった時のことを考えると、交易で手に入れた方が手っ取り早いかな?

 でも毎日使うものだから、出来れば自国で生産できた方がいいんだよね。商品を手に入れて何で作られているか解析しよう。

 こういう時に鑑定スキルがmaxだと便利なんだよね。


 セアラは脳内であれこれ考えながら扉を開けて家を出ると目に入ったのはドゴンと護衛達4人である。どうやらセアラを待っていたらしい。


「国主様、風呂はどうだったの? なんかいい匂いするね。嗅いだことあるような、うーん何だっけ?」

「『泡の実』の匂いだ」

 バードの疑問に答えたのはシミルである。


「『泡の実』か。どうりで嗅いだことのある匂いだと思った」

 バードは納得したという顔で頷いた。


 バードはお風呂に興味があるらしく、セアラに説明を強請った。セアラはとっても気持ちが良くて、入ればみんな虜になるよとお風呂のすばらしさを力説した。

 そして、公衆浴場を近々ドゴンが造ってくれるからみんなすぐに入れるようになるよと付け足した。

 ドゴンは自分の名が出てギョッとした顔をした後、すぐに諦めた顔になった。

 新しい物、珍しい物が大好きな好奇心の塊のようなバードは風呂に入るのが楽しみだと瞳を輝かせた。


 セアラはドゴンに公衆浴場について具体的な話をした。

 場所は世界樹が埋まっている国の中心から離れた東側に造るように要請する。一度に入れる人数は50人ぐらいを目安にして、男女別々に造り仕切りを作ること。また、体を洗うスペースを広く確保することなど大雑把に説明していく。

 お湯についてはセアラの家の風呂でも使っている『湧き水の石』と『温石』に加え『浄化石』を提供するので心配はいらないことを言った。

 セアラの『期待してる頼んだよ、ドゴン』という言葉にドゴンはやる気を漲らせた。

 ドゴンは公衆浴場を造る為に現場へと向かった。


 

 

 セアラには一つ気がかりがあった。それは、子供達に自由にして遊んでいいと言っても大人の手伝いをして、まったく遊んでいないことだった。

 真面目なのはいいことだ。だが、自分の子供の時と比べてしまうと子供らしさがないというかいい子すぎるというか。

 なんか違うと思ってしまうのだ。

 セアラはシミルに聞いてみることにした。


「ねえ、シミル。犬耳族の子供達に自由に遊んでいいって言っても、いつも大人の手伝いをして全然遊んでいないんだけど、なんでかわかる?」

「国主様、遊ぶとはどういうことですか?」


 セアラの言葉にシミルが真剣な表情で答える。

 セアラはシミルの言葉に固まるが、何とか言葉を口に乗せる。


「えーと、例えば、鬼ごっことかかくれんぼとか」

「『鬼ごっこ』や『かくれんぼ』とはどういうものですか? 初めて聞きました」

「えっ、鬼ごっこやかくれんぼのこと知らないの!?」


 セアラはシミルの言葉に驚いた。皆が知っているものと思っていたが考えてみれば、ここは異世界だ。

 知らないのも仕方がないかと考え直した。


「鬼ごっこは、誰か1人が鬼になって他の者を追いかけるの。捕まったらその人が今度は鬼になって他のみんなは逃げるんだけど……ってこの説明でわかる?」

「なるほど、つまり魔物から逃げるための訓練を遊びに取り入れるというわけですな」


 シミルはセアラの言葉に感心したように頷いた。

 全然違うよ! セアラは内心でシミルに突っ込んだ。

 続いてかくれんぼの説明をすると、魔物から身を隠す訓練だとシミルに勘違いされた。

 聞いていた他の者達も感心したような顔をしている。


「国主様の言う遊びは子供達の為になりそうですね。ぜひ取り入れましょう」と言われたのはいいが、セアラの思っていたものと違う。

 セアラはなんとかわかってもらおうと、必死に説明した。

 仕事を手伝うんじゃなくて、自分の好きなこと、楽しいことをして欲しいと。

 鬼ごっこやかくれんぼだけでなくもっと楽しい遊びは一杯あると。

 シミルにはセアラの言うことがピンと来ないようであった。


「僕はわかったかも。国主様が言おうとしていることが」

 そう言ったのはバードである。


「国主様は『鬼ごっこ』や『かくれんぼ』などの遊びは楽しく子供達も好きになると思っているんだよね。そして大人の手伝いが子供達にとって面白くないことだと。うーん、国主様は勘違いしていると思う。子供達は手伝いも楽しんでしているよ」


 バードの言葉に同意するように口を開いたのはシミルである。


「バード殿の言うように子供達は楽しんでいます。魔物に襲われることなく過ごせ、お腹一杯食べられる、それだけで幸せです。それに作物の収穫の手伝いは味見が出来るからと特に人気です」


 セアラは2人の言葉にムムムと唸った。

 セアラは元の世界の子供達を基準に考えていた。手伝いだとか楽しくないし、したくないだろうと。

 だが、結界の外で暮らしていた人々はモンスターの襲撃で命の危険がある毎日を過ごしている。当然呑気に子供が遊ぶ余裕などないだろう。

 つまり、皆が遊んだことがなく遊ぶ楽しさなども知らないのだ。


 セアラの深く考え込んでいる様子に気を使ったのかシミルが、「国主様の言っている鬼ごっこやかくれんぼを子供達に教えます。子供達も楽しんでくれるはずです」と言った。

 なんか違うと思いながらも、せっかくのシミルの気遣いを無駄にしない為にお礼を言った。



 




 夕日が顔を隠す時間となると、女たちが夕食の支度を始める。アクアポリスでは、皆が世界樹の近くで円となって夕餉を食べている。

 まだ、国の人口にしては少ない人数だとはいえ、500人以上いるのだから大所帯での食事となる。

 今日の食事の目玉は一角牛の丸焼きである。

 リザードマンのギーオという男が森の近くで仕留めたらしい。

 一角牛は魔物ではないので弱くおとなしい性格でその肉も非常に美味な為、魔物達にも狙われやすいらしい。

 徐々に数を減らしているらしく、今回見つけたのは非常に幸運だったようだ。

 セアラはその話を聞いて、飼って数を増やせば肉の確保にいいのではないかと考えた。

 いずれは牧畜にも手を出したいと思っていたのだ。

 これも、交易の話と共に後で話そうと決める。


 円の中央には大きな寸胴鍋が5つ並んでいてその中の具材はそれぞれ違うスープである。

 木で出来たお皿には数々の野菜や果物がのっている。

 一角牛は頭から尻に2本の大きな鉄でできた先を尖らした棒で貫かれ、回転しながら火に炙られている。

 肉汁と油が火の上に落ち音を立てる。漂ってくる匂いと共に食欲を刺激するのに何役も買っている。


 セアラに給仕するのは兎耳族のクルーシャという名の女である。

 初めて給仕された時は戸惑ったがすぐに慣れた。

 クルーシャは一角牛の肉を削ぎ取りお皿に乗せ、セアラの好きなイチゴや野菜も次々とお皿に乗せていく。

 クルーシャはセアラに給仕出来ることに喜びを感じている様で、セアラが遠慮して最初断った時は泣きそうな顔をしていた。受け入れてみれば、なんて楽なんだろうとセアラは驚いた。

 飲み物がなくなったらすぐに注いでくれるし、自分で取りに行かなくても用意されているので楽である。

 クルーシャはセアラの顔色を見て判断しているらしく、おかわりしたいなと思った料理は口に出さなくても取ってきてくれる。

 お大臣にでもなったようだと考えたら、それより偉い国主だったと気づく。


「うわっ、この一角牛の肉美味しい。それにすっごく柔らかい」

 セアラの口から思わず出た言葉にクルーシャはニコニコ笑顔で見守っている。


 あちらこちらから一角牛を食べた者のうまいという声が聞こえてくる。そして、一角牛を狩った功労者であるギーオに対する賞賛も。

 皆が一角牛にばかり手を出したせいでわずか数十分で骨となった。

 もうないのかという残念そうな顔をした後は他の料理に手を伸ばしていた。

 そして、料理に手を伸ばす者がいなくなったのを確認してセアラは交易について住民に話す為に口を開いた。

 









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