アクアポリスの発展
新しく住民となったのは、人族、猫耳族、兎耳族、人狼族、竜人族、鳥人族、リザードマン、ラミア、アラクネ、フェアリー、ホビットの11種族。
そして、前回住民に選ばれなかった残りのエルフとドワーフの者達である。
セアラは、種族ごとにまとめて住民契約を施していく。
今回住民となったのは合わせて約450人。
あと、50人程空きがある状態である。
「これで、俺達は住民になったんだ!」
「ううっ、こんな日が来るとは。我らの種族が結界の中で過ごせるなんて…………夢じゃないよな?」
「もう、魔物に怯えることはないんだ! 安心して眠れるんだ!」
「ありがたや、ありがたや」
「あの時諦めなくて――――――――生きててよかった!」
「世界樹を見に行こうぜ! 早く急げって!」
集まっていた全ての人々が結界の中へと入ることが出来た。
感動のあまり叫ぶもの、泣き出す者、元気に世界樹へと駆けていく者と反応も様々である。
皆に共通しているのは、喜びの中にいるということだ。
その様子を見ているセアラも自然と笑みが浮かぶ。
三週間前には世界樹以外何もなかった場所には、今や畑が立ち並び、様々な野菜が育っている。林檎、蜜柑、桃に葡萄の果樹もそれぞれ実をつけ、見ているだけで美味しそうである。
錬金術で創ったアイテムのすごいところは、育成期間を短縮させるだけでなく、味も向上させ、さらに季節に関係なく作物を育てることが出来ることだ。
「あまーい、美味しいねこのトマト。こんなの初めて食べた」
「ね、幸せだね。まだまだいっぱいなってるね」
「おい、食べるのは1つだけだぞ。こうして食べられるのもみんな国主様のおかげなんだからな」
セアラの耳に子供達の声が届く。
セアラが味見くらいしても大丈夫だと言ったせいで、子供達皆が味見をするようになった。
食べ過ぎないように、ルールは一応決めているらしい。
セアラのアイテムのおかげで収穫しても次から次へと新しい実がなるので、なくなる心配はない。
錬金術師ってやっぱり便利だな。
選んでよかった。
強くてニューゲームでなく、戦闘能力がカスだったことで最初は不満があったけど、錬金術のスキルレベルがmaxでよかった。
これが反対に、戦闘能力がmaxで錬金術がへっぽこだったら、こんなに早く国を発展させることが出来なかっただろうと思った。
実際、錬金術のスキルを上げるのより、戦闘能力をmaxに上げる方がまだ簡単だし、時間も掛からない。
錬金術のレベルをmaxにするためには、あらゆる素材を使って、錬金術で創れるアイテム全てを創らないといけない。
その数は優に1万を超える。
その中には、素材を採るのさえ非常に難しい物も多々含まれており、難易度は言わなずもがなである。
そう考えれば、セアラはラッキーであると言えよう。
セアラが住民登録で驚いたのは、バードとアルダスが仲間の竜人族を5人連れてきたことだった。
竜人族が2人住民となるだけでも貴重なのに、さらに5人増えるとは。
幸先がいいと思った。
出来れば採取にも連れて行きたい。彼らの戦闘力なら森だけでなく、もう少し先へ行けそうだと思った。
ミタラコス遺跡にも行きたい。アクアポリスからはそう遠くないはずだ。
森での戦闘でステータスも上がったし、採取によって作れるアイテムも増えた。
シミルに加え、バードかアルダスどちらかが一緒に来てくれたら、ミラタコス遺跡を攻略できるだろう。
だが、問題は彼らがセアラと一緒に来てくれるかどうかだ。
シミルは同行してくれるだろう。危険だと止められるかもしれないが。
バードは好奇心旺盛だから、意外とあっさり了承してくれるかもしれない。
アルダスは、見たところ真面目そうだし無理かも。
うーん、ダメもとで声をかけてみようとセアラは思った。
しかし、アラクネ達が来てくれたのは有難かった。
森で布の元となる植物を大量に採取したが、錬金術で植物を布にすることは出来たが、そこから服にするには時間も人手もかかる。
比較的仕事の少ない犬耳族の女性に頼んだが、彼女たちも裁縫が得意でなかったので服を1つ作るのにもかなりの時間がかかった。
種族特性として器用さが低いのも関係しているだろう。
セアラからすれば皆、ボロボロの服を着ているのだが、彼らの感覚としては普通なようで、穴があいたり破れても気にしていない。
しかし、彼らの服がボロボロなのも仕方がないことだった。彼らには服に気を配る余裕なんてなく、生きていくので精一杯だったのだ。
服に気を配るくらいなら、武器や食料を優先したい。
それが当たり前であった。
アラクネは、上半身は人間で下半身は蜘蛛の特徴を持っている。
アラクネの種族は女性しか生まれない。
彼女らは、腹の先から良質な糸を出し、それを使って自らの服を作っている。
だから、他の者達がみすぼらしい服を着ているだけに、彼女たちだけ綺麗な服で目立っていた。
本当は服も最低5枚は欲しかったが、皆が1枚のボロボロな服を着ている状態で、セアラの分だけ作れとは言えなかった。
だからこそ、自分たちが出す糸で服を作れるアラクネの存在は大歓迎だった。
彼女たちが作る服は上質な糸で作っている為に、丈夫で防御力もある。
アラクネは器用値も高いので、服を作るスピードも速いはずだ。
これで、衣、食、住の目途が立った。
戦闘能力が高い者は獲物を狩りに、残りの者達は、適正に応じてエルフ、ドワーフ、アラクネの各部署へ割り振った。
子供達は遊ぶのが仕事である。
そして、セアラには住民の強い希望で護衛が就くことになった。護衛はシミル、バード、アルダス、ターシャに最終的に決まった。
セアラの護衛に誰が立候補するか揉めたが、アルダスとバードだけはあっさりと皆が認めた。
その点、シミルが立候補した時には、他の種族からの反対も多かったが、セアラがシミルを推したのでしぶしぶ皆が認めた形だ。
ターシャはフェアリー族である。
セアラの手のひらぐらいの大きさしかなく、人形みたいで可愛らしい印象を与える。
そして、護衛としては戦闘力が弱い。
セアラの護衛が男だけなのはいけないと言い張って、自ら護衛に立候補したが、反対する者ももちろん多かった。
セアラは、ターシャのステータスでは護衛に就くのは危険だと遠回しに言って断ったが、ターシャに逆に説得されてしまった。
フェアリー族特有のワープ魔法があるから、いざという時にそれを使えば安全だと言って。
ターシャがいれば、危なくなったら一瞬でアクアポリスに戻って来られる。
それが決め手となり、他の人々も認めた。
アイテムの1つに『帰還の道しるべ』という便利なものがある。
このアイテムは、行ったことのある場所に、対となる印をつけることによって、瞬間移動出来るという優れものである。
残念なことに、セアラはこのアイテムを創るための素材をまだ手に入れてなかった。
だから、ターシャの言葉は魅力的に思えた。
セアラも首を縦に振らざる得なかった。
シミルもアルダスも、何故かセアラに忠誠心を持っているように感じられた。だから、護衛になったのは納得出来た。
しかし、バードは違う。
バードがセアラの護衛に立候補した理由は、
国主様は面白い、不思議に満ちている。国主様についていけば、きっと面白いことになりそうだ。研究してみたい、といったセアラにとってあまり有難くない理由である。
(面倒くさい性格で、変人ぽいけど、戦闘能力だけは申し分ないし目をつぶるか。素材採取に精々利用してやる!)
「それで、国主様ミタラコス遺跡にはいつ行くの? 今から行こうよ! 僕はいつでも準備満タンだよ」
「バード、黙れ! 国主様はお前とは違いお忙しいのだ。急かすんじゃない」
アルダスの言葉も気にせずしつこい様子のバードに、アルダスの拳が頭に落ちた。
だいぶ痛かったようで、バードは頭を抱えて口を閉じた。
セアラがミタラコス遺跡に行きたいという話をすると、シミルは難色を示したが、バードは案の定興味を持って、早く行きたいとせがみ始めた。
アルダスとターシャはセアラに従うというスタンスであった。
「悪いけど、私もアイテム創ったり色々準備したいから、行くのは3日後になるわ。そのつもりでみんなも準備しといてね」
セアラの言葉にバードは不満げであったが、アルダスがすぐ横にいる為に、口に出すことはなかった。
そうして、3日が過ぎ、ミタラコス遺跡へと出発する日が来た。