世界樹のレベルを上げるために
新住民を受け入れてから3週間経った。
セアラは、今日までの怒涛の日々を思い出した。
セアラはまず、簡易結界石を錬金術で大量生産した。そして、結界の外にいる人々に渡した後は、世界樹のレベルが上がったことによって得た、ボーナスポイント使うことに決めた。
今回は50ポイントもらえた。
このボーナスポイントとは、国主が世界樹のレベルを上げるごとにもらえるもので、それを使って自国を発展させるために使ったり、あるいは住民に使うことも出来る。
例えば、20ポイントで水場を造ることが出来る。湖とならば100ポイントに跳ね上がり、川なら1000ポイント、海なら1000000ポイントとなる。
このように規模が大きくなれば、消費するポイントも高くなる。
100ポイントを使って湖を造った後、川に変更したくなったら900ポイント足す。
こういう使い方も出来る。
セアラが海の近くに国を造りたかった理由がここにある。ポイントで造るのはあまりにも高すぎるのだ。
だから、世界樹を埋めるときの立地条件は重要だ。
しかし、セアラにはあの時そんな余裕はなかった。
だから、悔しいけど仕方ないとあきらめる。
レベルを上げていつか海を手に入れることを心に誓う。
ボーナスポイントを民に使うと、スキルを与えることが出来る。これもレアなスキルほど、当然使うポイントは高くなる。
セアラもゲームの中では、気に入った住民にスキルを与えていた。
だがスキルを与えても、国に不満を住民が抱くと逃げてしまうこともあるので、せっかくのポイントがパアである。
だから、住民に与えるときには注意が必要である。
このボーナスポイントは、世界樹のレベルを上げた時しかもらえないので、有限で貴重である。
今回セアラは、採掘所を造ることに決めた。
薬草園も創りたかったが、薬草は今日行った森でも取れるから今回は諦めた。
次にレベルが上がるまで我慢、我慢と心の中で繰り返す。
採掘所も薬草園もちょうど50ポイントで造れる。
ただ、50ポイントで造れる採掘所のレベルは1なので、クズ魔石と銅や鉄しか採れない。
ボーナスポイントを使って、この採掘所のレベルも早めに上げておきたい。
早くミスリルやオリハルコンが採れる様になって欲しいものだ、とセアラは思った。
ボーナスポイントを使って採掘所を造った。
これに大喜びしたのはドワーフ達である。建てている家を放り出して、採掘所へと集まった。
入りたい、入りたいと煩く騒がれたので、セアラも落ち着かせるために許可を出した。
「鉄だ! 鉄があるぞ! こっちを見てみろ! 魔石も埋まっている!」
「銅もあったぞ! こりゃ、すげー」
セアラは大げさだなと思った。
正直、まだレベル1なので出てくるものはしょぼい。
興奮して今にも採掘しそうなドワーフに、まずは家を建て終わってからだと言い渡す。
セアラの言葉に火が付いたようで、建築の速度が更に上がった。
この調子だと、今日中に家が何件か建ちそうだ。
この程度の、採掘所でここまで喜ぶなんて、レベルを上げてミスリルが採掘できるようになったら、と考えたらドワーフが熱狂して裸で踊っている姿が頭に浮かんだ。
いや、ないないと慌てて記憶から消去する。
一方エルフ達は、セアラが採ってきた森に自生していた野菜や果物から種を取り出し、地面へと蒔いていった。犬耳族の子供達もそれを一緒に手伝っていた。
エルフはそれら育成魔法をかけていった。
エルフが犬耳族の子供達に冷たい態度をとらないか不安だったが、案外上手くやれている様だった。
セアラはそれを確認すると、錬金術を使ってひたすらアイテムを創ることに没頭した。
素材がたっぷりあるのでご機嫌である。
ゲームの中でもアイテムを創るのは好きだったが、現実となった今は、その数倍好きになった。
何より楽しくてしょうがない。
色んな素材を使って、素材とは全く別のアイテムが出来上がる瞬間は、何度やっても不思議であった。
創ったアイテムをどう使おうか考えるのも楽しかった。
どれくらい時間が経ったのか。
夢中でアイテムを創っていたセアラに、ドゴンというドワーフが声をかけた。
なんでもセアラの家を造り終わったので見て欲しいとのことだった。
セアラの家は目立っていた。どーんと大きな家が一軒だけあるのだから目立たない訳がない。
国主が住む家としては確かに物足りないかもしれない。だが、セアラにとっては充分であった。
家は1階建てで、家の中に入ると木の香りがした。
1階に20畳程の部屋が1つと15畳程の部屋が5つあった。15畳程の部屋の1つは寝室のようでキングサイズのベッドが中央にドーンと置いてあった。
これだけ大きいベッドならば、どんなに寝相が悪くても転げ落ちる心配はない。
「これでやっと土の上で眠るのから解放される」とセアラは喜んだ。
20畳の部屋と残りの15畳の部屋4つはただの部屋で、どの用途にも使えそうである。
「国主様のご要望通り、スピードを優先して造れとのことでしたので簡素ですが…………もし具体的なご要望があれば、すぐに直しますよ」
「いや、十分だよ! ありがとう。 残りの空いている部屋をまた注文すると思うけど、それは他のみんなの家が建った後にお願いするね」
セアラは上機嫌で言った。その言葉を聞いてドゴンは、ほっとしたようだ。
さっそく建ててもらった家でセアラは、アイテム創りを開始する。ドゴンも家造りの作業へ戻っていった。
セアラは、創ってできた『栄養土』、『育成水』、『輝きの雫』のアイテムをエルフが管理している作物や世界樹に1日1回、順序よく振りかける。
そして、エルフは魔力の続く限り育成魔法をかける。
そんな日々が過ぎていき、とうとうセアラが予想していた通り、3週間ほどで世界樹をレベル3に上げる条件が整った。
・10種類以上の作物を国で育てる
・錬金術を使って30種類以上のアイテムを創る
・住民の家を50軒建てる
・水場を2か所造る
・国に住んでいる住民が50人以上である
以上の5つが世界樹のレベルを3に上げる条件である。
セアラは職業が錬金術師なのでアイテムを創ることが条件に入っているが、例えば商人だと50万セル稼ぐこと、という条件だったりする。
つまり、国主の職業によって条件は微妙に異なるのである。
世界樹も大きくなり、今や10メートルは超えているだろう。
結界の外にいる人々の歓声が耳に響く。
いよいよ、集まった人々全員を住民契約出来ると知って、皆がはやる気持ちを抑えきれないようだった。
この3週間の内にも続々と移住希望の者は増えたが、募集最大人数の500人には届かなかったのでほっとした。
いくら、簡易結界石を渡しているからと言って、ずっと野宿をさせるのは心苦しい。
だが、簡易結界石を渡したことで魔物に襲われる心配がなくなり、夜も十分に眠れるようになったおかげだろうか。
結界外にいる人々にも余裕が出来て、笑顔が増えていた。色んな種族が仲良くご飯を食べている姿も見え、集まった初日のようなギスギスした空気はもはやなかった。
セアラは内心で、種族の違いで住民たちが仲たがいする可能性を心配していたので、この事実に喜んだ。
「みんな、今から住民契約をしていくよ。種族ごとにしていくので呼ばれた種族から前に出てね」
セアラの言葉に、ひときわ大きな歓声が上がる。人々の瞳は待ちきれない期待で輝いていた。