世界樹のレベルが上がった
「国主様、聞きたいことがあるんだけど、世界樹を成長させたアイテムって何? 国主様が創ったって言っていたよね? どうやって創ったの? そのアイテムをまた使ったら、世界樹もレベルがまた上がるんじゃないの?」
少し離れた場所から、声が聞こえた。
声を出した男は、かなり後ろの方にいたようで、男が歩いて近づいてくると、人々がザザッと男をさけた。まるでモーゼである。
セアラの前まで来たのは2人の男だ。2人とも頬に鱗が1枚あり、彼らが竜人族だということがわかった。
皆が竜人族をさけた理由は単純に怖いからである。
竜人族は世界最強の戦闘力を誇る種族である。その強さ故に恐れられてもいた。
(竜人族!? 珍しい! こんな簡単に会えるなんて!)
竜人族はゲームの中でもレアな種族で人数が少ないので、住民にするのは難しく、ほとんどのプレイヤーが彼らを獲得出来ていなかった。
セアラもさんざん苦労して、彼らが国の民となったのはゲームの終盤であった。
竜人族と出会えるかは運である。
普通に住民募集しても国に来ないので、国主自らが彼らを探しに行き、仲良くなってから、やっと民としてスカウト出来るというものだ。
まあ、仲良くなっても断られることもあるが……
そういう事情があるので、竜人族が目の前にいる状況に、セアラは驚いた。
「うーん、さっきの質問の答えだけど、アイテムは私が錬金術で創ったの。使ったアイテムは3つ。『栄養土』、『育成水』、『輝きの雫』よ。最後の質問は残念だけど、これらのアイテムだけでは世界樹のレベルは3にならないの。レベル3になるには、満たさないといけない条件が、世界樹を成長させる以外にもあるしね」
「すごい! すごいよ、国主様! 世界樹を成長させるようなアイテムを創れるなんて! それに国主様は世界樹を成長させる条件を知っているんだ! 世界樹のレベルを上げるのに必要な条件なんてどの国主も知らないのに、どうして知っているの?」
セアラの返答を聞いて竜人族の男は、子供みたいにはしゃいだ声を出していた。
しかし、セアラになぜ世界樹のレベルの上げ方を知っているのか理由を聞く時の彼の声には、無邪気さの中に含みを感じた。
「まあ、いろいろあってね。それで、あなた達もここにいるってことは住民希望でいいのよね?」
「へえ~、国主様。僕らの種族も受け入れてくれるんだ。やっさしい~、いてっ! アルダス、急に殴るな」
「すみません、国主様。バートが失礼な口を聞いて」
そう言って、アルダスと呼ばれた厳つい顔の竜人族の男がバートの頭に拳を落とした
セアラとしても、バートの口調にイラっとしたのでアルダスの行為にすっきりした。むしろもっとやれ、と思った。
「そのくらい大丈夫だよ。(本当はイラっとしたけど)他のみんなも私たちの話を聞いてたと思うけど、世界樹のレベルはさっきのようにすぐに上がらないから、次の住民募集までたぶん3週間くらいかかると思う。だから、この結界の近くでそれまで過ごしてもらうことになるわ。各種族の者の代表は前に出てきて。確認したいことがあるから」
セアラは集まった種族の代表1人1人に食料の有無を尋ね、ない者には提供できることを伝えた。また、犬耳族にも渡した簡易結界石の説明をし、後でそれを手渡すことを約束した。
セアラの提案にどの種族も驚き、特に簡易結界石についての反応は激しかった。
皆が瞳を輝かせ、大げさなほど感謝していた。
中でもバードの興奮具合は激しく、セアラにあれこれ質問して問い詰めてきた。
その度に、アルダスがバートに拳を振り落としていた。
結界に阻まれ、それ以上詰め寄られなかったが、それがなかったらと考えると頭が痛い。
しつこい上に、色々知りたがる研究者体質なようでめんどくさい性格だ。
セアラはバートを無視して結界内にいる住民に話しかける。
「今から、あなた達にはやってもらうことがあるの。まず、ドワーフ達は家を造ってほしいの。出来るだけたくさん。凝った造りにしなくていいから、スピードを優先して。そして、犬耳族の男たちはドワーフを手伝って上げて。女の人は今日のみんなの夕食の準備をして欲しいの。そして、エルフのみんなは世界樹に植物育成の魔力をかけて」
そう言って、万能カバンから今日森でとってきた木を次々と出していく。その様子に、セアラと一緒に森に行った犬耳族の5人以外の者は、目をギョッと見開き言葉が出ないようだった。
セアラは続けて、森で狩った魔物の死体も何体か取り出した。
「じゃあ、ドワーフのみんなはこの木を使ってね。足りなくなったら、また出すからいってね。夕食にはこの魔物の肉を今日は使って料理してね。あっ、解体したときに出る魔石と、角は錬金術に使うから取っておいてね。なにか質問はある?」
セアラは、みんなにセアラが出したものを使うように言った。
「国主様、そのカバンは一体なんですかい? そのような小さなカバンに木や魔物が入るなんて」
「何って言われてもなあ。錬金術で創ったこのカバンは大きさや重さに関係なく無制限に物を入れられるの。生きているものはダメだけどね」
ドワーフの男の問いにそうセアラは答えた。彼らの反応からもしかしてと思い、考えを口に出した。
「えーと、もしかしてこういう鞄って見たことないの? ここまでの容量はないにしても、カバンそのものより大きなものが入るやつとか」
「そのような便利な物は見たことがありませんよ」
ドワーフの言葉に周囲の者全てが首を縦に振り肯定する。
嫌な予感が当たっていた。まさか万能カバンを知らないとは。
セアラが持っているカバンのように最高級品は、確かに作り方も難しいし見たことないと言われても頷ける。
だが、万能カバンの劣化品は比較的簡単に作れるのでありふれており、序盤はほとんどのプレイヤーがこれを使う。
錬金術師から手に入れられるだけでなく、遺跡からも発見することが出来る。
なのに、見たことがないとはどういうことか?
「遺跡とか行かないの?」
「遺跡なんて魔物がうじゃうじゃいるところ誰も行きませんよ、国主様」
(えー!! そうなの?! もったいないなあ、お宝発見できるのに。弱い魔物しか出ない遺跡もいっぱいあるんだけどなあ。でも、誰も行かないならお宝がまだまだ残っているはず。楽しみだな)
「そうなんだ。今度機会があったら、ここまで容量が大きいのは無理だけど、倉庫ぐらいの容量のカバンでよかったら創ってあげるよ」
深く考えずに、何気なく言った言葉にドワーフの男は大喜びした。
男は家を造るのに全力を尽くと約束し、ドワーフ全員で家を造り始める。
体型はずんぐりむっくりで手足も短いが、その器用さは本物ですさまじいスピードで、どんどんと組み立てていく。
犬耳族の男達も負けじとドワーフの声に従い、大きな木を運んでいる。
(ここまで喜んでたら早めに創ってあげた方がいいよね。他にも創らないといけないものいっぱいあるんだけどなあ。私が口に出したことだし、仕方ないか)
エルフ、ドワーフ、犬耳族のそれぞれが、セアラの出した指示通りに動き始めたのを見て、セアラも錬金術でアイテムを創り始める。
(まずは、結界の外にいる人々の為に簡易結界石から創るとするか)