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始まりは強くてニューゲームから

『強くてニューゲーム』


「えっ、なにこれ? このゲームって2週目要素ってあったっけ?」


 古河美都はパソコン画面を見ながら呟いた。美都はお嬢様学校に通う女子高生である。美都の両親は、先祖代々の金持ちではなくいわゆる成金というヤツである。


 美都の友人たちの休日は、英会話や茶道、華道、ピアノなどというお嬢様に相応しい習い事でいっぱいだが、ゲームオタクな兄のおかげで美都も兄に負けないゲームオタクとなった。もはや『廃人』である。 休日はもっぱらゲーム漬けであった。

 もちろん、友達には必死で隠している。そんな美都が現在はまっているゲームが『大志を抱いて国主になろう』である。略して『コクナロ』である。


 その題名通り、国主となって国を発展させていくゲームである。選ぶ職業によって発展のさせ方が違う。美都は錬金術師を選んだので錬金アイテムを使いながら、国を豊かにしていく。戦士なら武力で、商人なら金で、といったように楽しみ方も多様だ。


 ニューゲーム

 ロード

 強くてニューゲーム


 パソコン画面に並んだ『強くてニューゲーム』にマウスでカーソルを合わせ、ドキドキしながらクリックする。

 兄も2週目があるなんて言ってなかったし、知らないんだ。ちょっとした優越感を胸に抱いた――その時。


 パソコンの画面から光が降り注ぐ。あまりにも眩い光に耐え切れず瞳を閉じる。


「え、なに地震? 揺れるー。痛いっ、とにかく頭だけは守らないと」


 光は依然と収まらないまま、美都は震度6はあるんじゃないかと思うくらいの大きな揺れを感じた。体のバランスが崩れる。早い感覚でのグラグラにとした揺れに襲われると、座っている椅子から転げ落ちた。痛みを感じたが、眩しくて目を開けられない。手さぐりで何とか机の下に潜り込む。頭を守るために両手を頭頂部の上に置き、体をミノムシのように丸めて伏せる。

 







「どこなの、ここは?」


 光と揺れが収まりまず目に入ったのは、知らない場所だった。ゴロゴロとした大小様々な大きさの石が転がっている。そして草木の全く生えていない乾いた土地。

 遥か先に見えるのは、どこまでも続いているような密林。


 赤い唇から零れた言葉は、動揺を隠せず震えていた。


 ふと目に入った水色の小石。頭の中に小石についての情報が駆け巡る。

 

「えええ! 水の魔石って!『コクナロ』に出てくる魔石じゃないの!」 


 よくよく見てみれば、画面越しに見ていたアイテムの色である。


「ということは、まさかここは『コクナロ』の世界なのー!!!」


 肩まであるつやのある黒髪を八つ当たりするかのようにかき回し、頭の隅であの『強くてニューゲーム』という普段は出ない文字をクリックしたことが原因ではないかと考えた。いや、それともあの突然襲ってきた大地震のが原因なのかと思い当たる節をあれこれ予想してみる。


「非現実すぎでしょー!! はっ、そうだ! 強くてニューゲームってことは、もしかしてゲームのステータスが引き継がれている? これは期待してもいいよね?! でもステータスってどうやって見るんだろう」


 そう考えたとたんに、ステータスが頭の中で展開される。どうやらステータスを見たいと念じると頭に浮かぶようになっているようだ。


 名前    セアラ・バークレイ


 攻撃力    2

 守備力    2

 素早さ    4

 賢さ     max

 魔力     max

 運      max

 採取     max

 錬金術    max

 鑑定     max


 称号    異界の錬金術師


「ちょっと待って! これってどういうこと! 軒並み戦闘能力が下がっているんだけど! 全てmaxまであげたのに。こんなステータスじゃあ、スライム一匹倒すのに苦労するじゃないのよ! 確かに戦闘能力以外はmaxだけど、強くてニューゲームって嘘じゃないのよー!!!」


「はっ、まさか。私が必死で作ったアイテムは? 素材は?」


 大急ぎで念じて確かめると、万能カバンの中身は見事に空っぽであった。いや、厳密には空っぽではない。初期装備として与えられる回復薬5個(劣化品)、毒消し5個(劣化品)、結界石5個(劣化品)、水10リットル、パン30個、干し肉3キロ、錬金窯に世界樹の苗である。


 頭の中ではベートーベンの曲である『運命』の有名な一節が流れる。今までのやりこんだ時間と苦労思い出すと涙が出そうだ。

 だが落ち込んでばかりはいられない。魔物がそこら中に生息し、戦闘力も低い美都には早く国を造らないと命に危険があることがよくわかっていた。


 万能カバン(最高級品)があるだけ幸運に思わなきゃ、と考え直す。万能カバンはアイテムや素材を入れることができる。美都が創った万能カバンは最高品質なので、カバンの中は時間が止まり熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま、容量は無制限で入れられる、という大変優れたものである。

 


 伊達に『コクナロ』では廃人の内の一人と言われてはいない。本物のキチガイ廃人である兄には叶わないが……。

 戦闘能力は心細いが、知識は十分にある。


「まずは、世界樹の苗を埋めないと。ここでいいかな。植える場所を吟味して探したいけど、この戦闘力じゃなあ。運が悪ければ一撃死だよ。まあ、各属性の石がここにはゴロゴロ転がっているし、とりあえずはラッキーかも。本当は森と海に近いところに国を造りたかったのになあ」


 ぶつぶつと小声で文句を垂れながら、落ちている赤い色をした石を使って地面を掘る。


「うー、結構力いるなあ。やっぱり攻撃力が2っていうのが痛いな。筋力もそりゃないよ、はあ」


 五センチほど掘った穴に万能カバンから取り出した世界樹の苗を入れ、掘った土を被せる。


 そしてゲームの世界でお馴染みだった言葉を紡ぐ。


「世界樹よ。我は国を欲する国主なり。我が国の守護樹となりたまえ」


 なんとなく、やり方がわかってきた。美都が次はこうしたいと思うと知識が勝手に流れてくるのだ。

 世界樹の苗は七色の光を発しながら、ぐんぐんと伸びていく。2メートルほどに達すると成長は止まるが、光は天を突き抜け光を放つままである。


 世界樹を中心に円を描くように1キロにわたっての結界が張られたのが感じられた。


「ふう、これで魔物も人も私が許可を出さないと、この結界に入って来られないから安心だ。それにしても、パソコンでもエフェクトがきれいだったけど実物は違うなあ。さすがは創世の神が創りしモノだ。まずは、住民開放しないと」


 国名      アクアポリス

 国主      セアラ・バークレイ(人族)    

 住民      誰でも可

 募集人数    15人

 特殊条件    特になし


 頭の中で設定する。ゲームで使っていた名前と都市にする。


「新しい国主が誕生しました」という言葉が頭に響くと共に、美都が設定していた条件も一緒に淡々とした声で、世界中の人に伝えられていく。

 男か女かわからない機械的な声である。

 ゲームでは、画面にメッセージが流れて世界中の人々に知らされるが、なるほど、ここではこんな風に伝えられるのか、と驚いた。


「でも、いきなり知らない声が頭に響くってびっくりだよ」


 美都としては、出来るだけ多くの住民を集めたいので条件を緩く設定している。とにかく人が集まらないことには発展もくそもない。


 本当は序盤にはドワーフがいいんだけどなあ。彼らがいたらいろんなモノが早く造れるし、発展度合も上がるんだけどなあ。

 でも、種族縛りなんかしたらなかなか人は集まらないしなあ。


「まずは、この国を発展させながら、私も戦闘力を上げる。元の世界に帰るのはそれから考えよう」


 美都はワクワクしていた。家に帰りたい気持ちも、もちろん強い。だが不思議なことに嵌っていたゲームが現実になったことに対して喜びもある。

 

 こんな状況なのに興奮している私ってやっぱりゲーム廃人だなあ、と思った。兄がいたらきっと狂喜するだろうなあ。


「とりあえず、1週間はこの食料があれば大丈夫。水場も水の魔石があるので創れる。服は今着ている初心者装備の服しかない。食料も早めに確保しないとヤバイなあ。今の私で創れるものは、片端から創っていくしかない」


 美都は水の魔石を1つ錬金釜に入れ魔力を放出しながらかき混ぜる。しばらくすると、湧き水の石(良品)ができた。拳大の大きさだ。使った水の魔石は品質的には良くないが、さすが錬金術maxだ。素晴らしい補正効果である。常にきれいな水を毎日50リットル出すことが可能である。


 美都は、結界が張られている範囲にある使えそうな素材を拾い、アイテムを創っていく。世界樹から葉と枝を拝借し、無属性魔石を使って簡易結界石(良品)を創る。これで、ある程度の強さの敵からの攻撃は防げる。水と世界樹の葉で魔除け液を。ほかにも攻撃アイテムをいくつか創る。


 夢中になっていると、いつの間にか日が暮れかかっているのに気付いた。


「やばい、もうこんなに時間が経っていたんだ。集中して気付かなかったよ。暗くなる前に光を用意しないと」


 美都は、光の魔石を使って慌てて灯り石(良品)を創る。このアイテムは、魔力を流すと暗い場所で光る。範囲は半径5メートルほどである。


「パンは固いなあ。干し肉も塩っ辛いし、はあ。早く食料事情を何とかしなきゃ。やることが多すぎるよ」


 しょんぼりした表情でため息を吐いた。


「アクアポリスに移住希望の住民がやってきました」


 頭の中で声が聞こえた。


「ええっ!もう来たの! 嬉しいけど、緊張するよぉ。どんな人が来たんだろう」


 美都は食べかけの食事を急いで万能袋にしまう。移住民はどこにいるのだろうと辺りを見渡すと、遠くにたくさんの人影が見えた。

 鑑定のスキルがmaxのおかげなのか、美都の目は良くなったようだ。待たせてはいけないと、彼らに向かって全速力で走る。

 履いていた靴と風の魔石を組み合わせてウィングブーツを作ったおかげか、走る速度も上がり数分で彼らの元についたが、


(ひいいぃ!なんで、この人たち土下座しているの!!」


 膝を折り頭を地に擦り付けるように下げた50人程の犬耳団体が、美都の目に入った。 




 


 




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